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僕と彼女の歪んだ『愛』とその日々  作者: センセイ
第二章
27/50

27.「みわく」

れいちゃんとたっぷり昼寝をして、その日のうちにれいちゃんと僕の必要な荷物を回収して帰ると、もう日が暮れそうになっていた。


「ただいま」

「うん」

「ほら、これで全部?」

「…うん」


れいちゃんは僕の手渡したブランケットと枕、それと大きめのデフォルメされた魚のぬいぐるみを受け取って、安心したように笑う。


れいちゃんの大切なものはふわふわしたものばかりで和む。


「しきは何持ってきたの」

「ん?…僕は必要そうなのだけだよ」


充電器とか、バッテリーだとかを見せると、れいちゃんは「ふーん」と言ってもこもこに包まれて床に寝っ転がってしまった。


「あっ、ダメだよ、これからご飯なんだから」

「ご飯?…お腹すいた」

「ほんと?今日は途中で買ってきたやつなんだけど、」


僕がそう言って、荷物の中から弁当を2つ取り出す。

色んな食材が入っているので、これなら食べれるものでお腹いっぱいになれるだろうと思ってスーパーに寄って買ってきたのだ。


「ジュースもあるよ。…お弁当どっちが良い?」

「どっちでも良い」

「そう?…じゃあこっちね」

「うん」


一度れいちゃんに選択を迫った事があるけど、凄く困った顔で「わかんない…」と言われてから、無理に決めさせるのは辞めていた。

でも、一応聞くようにはしている。れいちゃんは嫌なものは嫌と言える人だから。


「いただきます」

「…ます」


れいちゃんは黙々と食べるけれど、やっぱり食べるのが下手で、箸が上手く使えなくてせっかく掴んでも手前で落としてしまったりしている。

それがもどかしくてつい、


「れいちゃん、」


と言って、れいちゃんが食べようとしていた塊を自分の箸でとってれいちゃんの口元に運ぶ。


「?」

「あー」

「…あー…」


僕に続いて口を開けた所に、それをひょいっと入れると、れいちゃんは面白そうに笑って食べた。

でも、楽しかったからもう一回と言う訳でも無いらしく、もう僕にはやらせず半分犬食いのような感じで好きなように食べていた。


(まぁ、本人がしたいならいいや)


れいちゃんには、ここでできるだけ自由に暮らして欲しかったから、口出しはしなかったけれど、今度はスプーンとフォークを用意してあげようと思った。


「れいちゃんもうご馳走様?」

「うん」

「ん、じゃあ頂戴」


残りの弁当を食べていると、れいちゃんは自分のブランケットを持ってソファーに寝っ転がった。


(明日、色々買いに行こう)


貯金も有限だし、できるだけ自炊で済ませられるように調理器具なんかも揃えなくちゃいけない。

まだまだやらなきゃいけないこと、たくさんあって大変だけれど……れいちゃんの為だ、頑張らなきゃ。


「れいちゃん、そこで寝たら風邪ひくよ」

「んー…」

「…ベッド行こ?」

「うーん…」


れいちゃんはごろごろとソファーから降りて転がるだけで行こうとする。


「もー、無茶だよー」


僕はそんなれいちゃんを抱き抱えてベッドまで運んだ。

体格差的にやっぱり落としてしまわないか怖かったけれど、やっぱり不安になるくらい軽くて、普通に持ててしまった。


れいちゃんは運動はしないしちゃんとした量も食べないから不健康に痩せていて、でもギリギリ怖くない位の見た目だけれど、やっぱり僕にはそれだけでもう心配で心配で堪らなかった。


(子供だけで、病院も行けないし……)


大人が居ないとこういうところで不便だけれど、れいちゃんの周りにちゃんと病院に連れて行ってくれる大人なんて居ない。

だかられいちゃんは今こうなってるんだ。


「……」


僕は寝息を立てるれいちゃんを抱きしめながら、自分の携帯を出して調べてみることにした。


(…へぇ、食事の回数を増やす、か…なるほどね…)


見るに、食べる事に興味は無いものの食べようとするくらいの関心はあるのだから、カロリーの高いものとかを、何回かに分けて摂らせたりすれば良いのかもしれない。


(美味しいもの、作れるようになりたいなぁ…)


そんな事を考えながら、僕は眠りについた。



****



「帰ろっかな…」

「えっ、」


ここに来て少し…2、3日位経った頃、2人でテーブルに頭を預けて暇していると、れいちゃんは呟くようにそう言った。


「…何で?」

「……暇だから…」

「暇…」


突然の事に驚いて聞くと、れいちゃんは当たり前のように言ってきて、少し戸惑ってしまう。


「…あっ、殴る?良いよ…?」

「気分じゃない」

「そっか…」


正直、2人で暮らすとなった時は、毎日のように殴られ蹴られだと思っていたから、普通の日々が続いて少し…学校に通いながらたまにカラオケボックスで殴られるあの日々と比べて、物足りないとは思ったりしてしまったのは否定出来ないけど、でも…。


「……暇…」

「……」


僕がどうしたら良いのか悩んでいると、れいちゃんは小さくため息をついて立ち上がった。


「ど、どこ行くの…?」

「寝る」

「えっ…でも……今起きたばっかりなのに…」

「……やること無いし」


…どうしよう。

こんなんじゃ、本当に愛想を尽かされてしまう…。


学校は…さすがに行けないし…。


……。


「待って、れいちゃん」

「…何?」

「で…出かけよう…」


かなり危険な決断だった。


だってれいちゃんの携帯には位置情報アプリが入っていて、家の場所は知られているんだから……いつあの人から通報とかされるかわかんないし、部屋が分かる様な事とか、最悪鉢合わせることは避けたかった…けど、


(れいちゃんがその前に自分から居なくなっちゃったら、意味が無いから…)


僕の言葉にれいちゃんは少し考えてから、


「どこ行くの?」


と聞いてきた。


きっとここで間違えれば、れいちゃんは一緒に来てくれない。


……れいちゃんの望む事。

楽しめる事……。


きっと普通のデートみたいなのじゃ、楽しんでくれない…。


僕がしなきゃいけないのは……


「学校に行こう」


僕が言うと、れいちゃんは「?」という表情を浮かべてから、「何で?」と言った。


僕が考えてること、れいちゃんが気に入るか分からない…。


分からないけど、賭けなきゃいけなかった。


「普通に行くんじゃなくて、潜入して…誰も居ない教室で、僕を殴って」

「……」


緊張する怖い沈黙。


それに耐えられなくて、僕が顔をあげると、れいちゃんはニヤッと笑っていた。

思わずゾクッとしてしまうその笑みに見とれていると、


「良いよ。行こう」


と、れいちゃんは言った。



****



「れいちゃん、こっち…」

「ん」


早速僕達は電車に揺られて、まだ懐かしくも無い学校へやって来た。

制服じゃないから正面から堂々と入る訳にもいかなくて、もう学びに戻るつもりも無かったから、いっそ泥棒のように忍んで侵入した。


「あっ、こっち階段繋がってるよ」


僕は校舎の端の階段に繋がる非常口を見つけて開ける。

校舎の中からは声こそ聞こえるものの、授業中だから廊下には一人も居なくて、僕達に気づく人も居ない。


「……あっ、今丁度うちのクラス体育だよ」

「へぇ?」


案外覚えてるもので、僕がそんな事を思い出すと、れいちゃんは面白そうに声を出した。


体育と言えば、れいちゃんが体育の授業に参加しているのを見た事がない。

…普通の授業でも参加しているとは言えないけど、体操着にも着替えずにずっと朝礼台のへりに座っていたりしていたのしか記憶が無い位、参加して居なかった。


「あっ……よし、誰も居ない」


幸いなことにうちのクラスは端の方だったから、人の居る教室の前を通ることも無く懐かし…くない教室までたどり着けた。


……でも、私服でこっそり来た教室は見た事も無いくらい来てはいけない場所のような雰囲気が醸し出されていた。


「あっ…」


そんな風に見とれていると、いきなりれいちゃんに突き飛ばされて、ギリギリ机にぶつからないように倒れた。


「っ……あ、危な……音……」


僕が注意しようとすると、れいちゃんはまたニヤッと笑って、


「バレちゃうからしき、声我慢ね?」


と言って、足を思い切り振り上げた。

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