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僕と彼女の歪んだ『愛』とその日々  作者: センセイ
第二章
25/50

25.「モノ」

「一緒に暮らすなら…しき、私のモノね」


れいちゃんの人差し指が僕の首元をツンと付いて肌をなぞる。


「…うん」


僕は考えるより先に、そう答えてしまった。


れいちゃんのモノ…って、どういう事だろう。

奴隷になれって事?れいちゃんの言いなりってのならあんまり今と変わらない気がする。


「いいよ。僕、れいちゃんのモノで」


でも、明確にそう定義するなら、僕がれいちゃんにとってちゃんと必要な『モノ』になれるなら、案外悪くないなと思った。


ほら、れいちゃんみたいなタイプって……そう簡単にモノとか捨てられないでしょ?


「…じゃあ、いいよ」

「……うん」

「……」

「じゃ、行こっか」

「うん」


そして、また僕達は歩き出した。



***



れいちゃんと二人来たのは僕の家だった。


「れいちゃん、ちょっとそこで待ってて」


僕は玄関や窓から見渡しても見えないような位置にれいちゃんを座らせて、玄関の扉を開く。


「……」


母さんはどうか知らないけど、父さんは部屋で仕事中だろう。

僕は父さんの部屋まで駆け上がり、部屋をノックした。


「……何だ?」


その後、少し経ってから父さんの声が聞こえてくる。


「…父さん、お願いがあって」


学校に行っているハズの僕の声に、父さんはどう反応したのか分からないけれど、また少し経ってから扉がガチャリと開いた。


「……どうした?」

「ごめんなさい、今すぐ家の鍵が欲しくて」

「何か…父さんに言えない理由か?」

「…うん。言ってもいいけど、父さんは理解してくれないと思う」

「……」


僕の言葉に父さんは頭を抱えたけれど、しばらくして部屋に戻って何かを持ってきた。


「あ、ありが…」

「しき」


僕が鍵だと思って受け取ろうとすると、父さんは僕の名前を呼んで遮った。


「…なに…?」

「……それがお前を幸せに出来るなら…父さんは何も言わないよ。…ここでお前を幸せに出来なくてごめんな。……但し、人を悲しませるような事には使うなよ」

「……!うん…!」

「あと、これは鍵じゃない。…まだ貰って無いから、兄貴…叔父さんの所が書いてあるから、そこに貰いに行きなさい。」

「…分かった。」

「あと、これ」

「…?」


最後に渡されたのは…何かのカードみたいなものだった。


「これからのお前に使う為の貯金だよ。…これをお前にやる代わりに、これからはこの金で、大学行く行かないも…自分で決めなさい」

「……分かった…ありがとう」


バイトして食費とかは稼ごうと思ってたから、ここまでして貰えるとは思ってなかった。


…寡黙な父さんが、こんなに喋るのも…見た事が無かった。


「…ありがとう、僕行くね」

「あぁ…幸せに生きろよ」


僕がそう言うと…もう帰る気がないのを悟ったのだろうか、今生の別れのようにそう言われた。


…もっと早くに関わろうとしてれば、…なんて考えかけたけど、僕にはれいちゃんとの道があるからと振り返らず家を出た。


一瞬、僕の走り去る音に母さんが顔を出した気がしたけれど、さよならは言わなかった。


「れいちゃん、お待たせ」

「うん」

「…じゃあ、今度はちょっと遠く行くよ、大丈夫?」

「…うん」


れいちゃんと再会して、僕は父さんに貰った叔父さんのいる所のメモを開く。

…すると、少し遠いけど電車で行けば案外時間はかからない位の距離だった。


(…とりあえず、このまま使えるのかな…お金おろしておいた方が良いのかな…)


ちゃんとパスワードのメモもくっついていて、こうなる場合も予想してたのかと少し驚く。


「あっ、れいちゃん…家にあって持っていきたいものとかある?」

「…ある」

「なに?…大きいものだったら、後で僕が取ってくるけど」

「…お布団と、枕と、ぬいぐるみ…」

「うーん…かさばるけど、それくらいならギリギリ…かな。…そうだよね、いつもと変わるとストレスで寝れないよね」


意外と可愛いお願いにきゅんとして、絶対に叶えてあげようと思って取りに行く計画も立てなければ…なんて考えていると、駅に着いた。


「れいちゃんお金入って無いでしょ、チャージしとこう」

「チャー…うん」


バスはれいちゃんの定期で乗れたけれど、電車は区間内のやつだから乗れなさそうだし、れいちゃんはよく分かってないみたいだけど、カードを置かせてチャージする。


「はい」

「…うん」


僕が手渡すと、れいちゃんはパスケースの中に閉まった。


「じゃあこっちだよ」

「うん」


れいちゃんは言われるがまま僕といつもと違うホームへ行って、しばらくして来た電車に乗る。


「一緒にこっち方面乗るのはは初めてだね」

「うん」

「…食べたいものある?ついたらお昼とろうか」

「無い…」


れいちゃんはこういう時、意見を言わない。


選択する事が苦手なんだろう。

…でも、れいちゃんは少食で偏食疑いがあるから、僕一人で決めろというのも難しい。


(バイキングみたいに、好きなのを好きな分食べれるのが良いのかな…。…寿司屋とかも?…いや、れいちゃんが寿司食べてるイメージ無いなぁ…)


「……」


僕が唸っている間、れいちゃんは窓の外の変わっていく景色を眺めたり、目をつぶったりしていて、…そんな事をしているうちに、すぐに目的の駅に着いた。



***



「ここでいい?」

「うん」


結局、悩みに悩んだ末たどり着いたのは、高校生の王道とも言えるようなハンバーガー屋さんだった。


僕がメニューを渡すとれいちゃんはどれでもいいと言ったので、小さめサイズのハンバーガーとポテトやチキンを一つずつ頼んだ。

僕は…弟と来た時におすすめされたやつにした。


「ここでちょっと待つんだよ」

「うん」


れいちゃんと一緒に高校生のデートのような流れを今更やるのは新鮮で、少し面白い。


混んでいるかと思ったけれど、そういえば平日の昼前だったから、ちゃんと席も空いていていい所に座れた。


「いただきます」

「…ます」


僕に続いてれいちゃんもそう言って食べ始める。


れいちゃんとハンバーガーの組み合わせはまた浮いてて面白くて、いつものように普通のペースで半分くらい食べてから、明らかに食が細くなり、ハンバーガーに挟まってる葉っぱやポテトをちびちびと食べていた。


(可愛いなぁ…)


僕はそう思いながらハンバーガーを食べ終えると、れいちゃんももうお腹いっぱいなのかハンバーガーを置いてあくびをしていた。


「もう終わり?」

「うん」

「…じゃあ僕食べちゃうね」


意外とサイドメニューの種類を豊富にしていたからギリギリだったけれど、ちゃんと全部完食出来て、2人ともお腹いっぱいで店を出た。


「えーっと、叔父さんのとこは…」


僕がメモを取りだして調べていると、


「あっ、それ…」

「歩いていけそう。…あっ、何?」


と、言葉が被ってしまう。


聞き返してもれいちゃんは「なんでも」と言って教えてくれなかった。

…でも、言いたくないようでは無かったから、今の間に忘れてしまったとかそんな所だろう。


かなり気になったけれどしょうがない。


僕はれいちゃんを連れて歩くと、それらしい大きくて綺麗なビルのようなマンションが目に入った。


「よし…ここかな」


れいちゃんを連れていくとややこしいことになりそうなのは分かっていたけれど、僕の家の前とは違ってこんな所に置いていけないので、一緒に入っていった。


「えーっと、部屋番号…」


メモの通りに入力すると、幸いな事に居たようで、「はーい」と返事が来た。


「……あの、しきです。小野寺しき…」

「おー!しきくん、どうしたの?」

「えっと…鍵を貰いたくて」

「あぁ、それね。…とりあえずおいで」

「はい」


返事をすると、閉まっていたドアが空く。


僕はれいちゃんとはぐれないように手を引き、ドアをくぐってエレベーターに乗って、最上階まで昇る。


「あっ、来た来た。」


エレベーターから出ると、一つの扉から顔を出している叔父さんが居た。

叔父さんは不安になるほどの笑顔で楽しそうに笑っていた。

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