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僕と彼女の歪んだ『愛』とその日々  作者: センセイ
第二章
23/50

23.「あまい」

「れいに何か用かな?」


ドッ、ドッ、ドッ…


緊張して心臓の音が大きくなる。

れいちゃんの事を『れい』と呼んで、この雰囲気…なら、多分…


「…あの、れいちゃんのお父さん…ですか…?」

「お、そうだよ。よく分かったね」


…当たった。


この雰囲気は中々出せるものじゃないし…れいちゃんの父親という事ならこの感覚も納得だ。


「…ちゃんと当てられたのは君が初めてかも。普段はお兄さんですか?って言われるんだよね」

「あっ…確かに…」


そっか、その場合もあるのか…。


確かに雰囲気も格好も『人の父親』とは思えない感じだ。

それはれいちゃんが一人っ子だと思っていたから消去法で父親と答えたに過ぎないし、考えてみれば僕はいつかられいちゃんを一人っ子だと思い込んでたんだろう。


こうしてみると、僕の中のれいちゃんは意外と思い込みで出来ているんじゃないかって思ってしまう。


そんな感じで少しへこんでいると、れいちゃんの父親は笑いながら言った。


「あはは、確かにれいは一人っ子って雰囲気あるし、親しいなら尚更無理ないね。…まぁ合ってるんだけど」

「……」


笑い声がれいちゃんの殴る時とかのそれとそのまんまで、思い出して言葉が詰まってドキッとしてしまう。


僕が返事をしないでいると、れいちゃんの父親は僕にまた話しかける。


「えーっと、やっぱりれいに用かな?」

「あっ、はい、…えっと、ここから道分からなくて…」

「あー!なるほどね。…ここ難しいもんね、案内するよ」

「っ…ありがとうございます…!」


僕はれいちゃんの父親の親切を受けてついていく。


…でも、この人があの家に住んでいるなんて想像がつかない。

3人で住むには手狭だし、……この人の服装、そんなに安物には見えないけど…


「えーっと、れいの友達くん?」

「え?…あっ、小野寺です…」

「あぁ、ごめんごめん。…小野寺くんはれいの彼氏かな?」

「えっ?!…ち、違います…!」

「あはは、違うかぁ」


喋り方の小さな癖とか、色々似ていて調子が狂う。


あの人…れいちゃんの母親の方は確かに見た目とか大ざっぱな性格は似ていたけれど、仕草とかの無意識下の行動みたいなのは父親に似ていて、それがどうにも僕をおかしくさせた。


…僕はれいちゃんのそういう所が好きなんだろうか。

それとも、あの時はれいちゃんも居たから…言い方悪いけど、霞んで見えただけ?


僕がそんな事をかんがえていると、れいちゃんの父親は続けて言う。


「じゃあ、友達?」

「…まぁ、そんな所…です」


…恋してるだとかもそうだけど、あなたの娘さんににいつも暴力振るわれて幸せですなんて、口が裂けても言える訳が無い。


でも言った場合、どうなるんだろうか。


普通なら、謝られる?…場合によっては殴らせてた変態みたいに扱われるんだろうか。


「……」


そっか…変態か…。


考えてもみなかったけど、殴られて嬉しいって、変態かもなぁ…。


変に客観的に考えてしまうと、恥ずかしくなってしまって慌てて首を振る。


「小野寺くん、ついたよ」

「あっ…良かったぁ…」


色々考えているうちに着いていたらしく、顔を上げると前来た通りの…ボロアパートがあった。


「おーい、お前居るー?」


れいちゃんの父親は扉を開けて大きな声を出す。


すると、奥からドタバタと音が聞こえて、「待って!」と声がした。


「んー、小野寺くん、ちょっと待ってね?」

「…はぁ……はい、」


前の時のように、母親が身支度をしてるんだろうか。


でも僕が居るとは分かっていないだろうし、父親に対しても《《そう》》なら大変だなぁと思ってしまう。


「りっくんお待たせぇー」


しばらくぼーっと立っていると、急に奥から声が聞こえて、髪のセットも化粧もされたあの人がやって来た。


「あれ?しきくんも?…えっ、りっくんどうしたの?」

「あー、花子さ、れいは?」

「えっ……れいがどうしたの?」

「学校から連絡あったんだけど。今日れい行ってないでしょ?」

「えーっ、知らないよぉー」


僕は呆然と2人の会話を聞く。


知らないって何だ?サボり?


こんな狭い家にいるのに体調不良を分からない訳無いだろうし…。

そんな事を考えていると、れいちゃんの父親は僕に話を振ってくる。


「小野寺くんとは途中で会ったんだよ、家に来たがってたから連れてきた」

「あっ、そーなの?…じゃあ3人でお話する?」

「お前なー、そーゆーの痛いから辞めろよ?…ごめんな小野寺くん、れい奥にいると思うから行ってきな」

「……はぁ…」

「あっ、りっくんまたれいにだけ優しくしてない?」

「…な訳ないだろ。俺たちは向こうで話すぞ、学校の電話こっちに来るのきちーんだわ」


分かるような分からないような会話をする二人を置いて言われた通りに奥へと行くと、…よく見ると部屋の端に布団の山みたいなのがあって、れいちゃんの長い髪がちらっとはみ出していた。


「…れいちゃん?」

「ん…、」


僕が近づいて名前を呼ぶと、れいちゃんは少しだけ反応して身じろぎした。


「れいちゃん、具合は?」

「…んー…」


反応はあるけどちゃんと起きていないのか、なかなかちゃんと返事をして貰えない。


…しょうがないので、布団を軽く剥ぐと、制服を着たれいちゃんが出てきた。

その顔は赤くて、よく見ると息も少し荒かった。


「熱?…体温計ある?れいちゃん」

「ん……」

「…れいちゃん?」

「……なに…しき…?」

「うん。…体温計は?」

「……知らない…」


仕方ないので片手でれいちゃんのおでこに手をやると、僕より少し熱いくらいだった。


…でも、れいちゃんはいつも僕より体温が低いから、


「微熱かな…」


と呟く。


れいちゃんはいつにも増してぼーっとしていて、少し息苦しそうだった。


「服それしか無いの?…着替えたら?」

「……学校行くから…」

「行こうとして着たの?…大丈夫だよ、もう今日終わったから…」


僕が言うと、れいちゃんは「んー…」と言いながらゆっくり起き上がって、…僕に言われた通り着替えようとしてるのか、窓際のハンガーに引っかかっている服を引っ張る。


「…じゃあ僕、少し出てようか」

「んー?…うっ…」


れいちゃんは服を掴んだまま布団の山に崩れ落ちて、ハンガーごと服が落ちる。


「わっ…れいちゃん、大丈夫…っ!?」

「大丈夫…今のは、転んだ…」

「えぇ…」


れいちゃんは、確かにそこまで具合は悪そうではなかったけれど、熱でぼーっとしてるのとふらついていて危なっかしい。


「頭痛とか吐き気とかは?無いの?」

「無い…」

「…そう?…一応これ、頭痛薬だけど、解熱も出来るから飲んじゃいな」

「解…うん…」


僕は途中で買ってきた頭痛薬とスポーツドリンクを蓋を開けて差し出す。

れいちゃんは少しこぼしたりしながらも、前のように何回か挑戦してちゃんと飲み込めたらしく、ひとまずほっとする。


「はい。…薬飲めたら、安静にしてるんだよ?」

「うん…」

「じゃあ僕今日は帰るから、ちゃんと着替えて寝てよ?」

「…うん」

「……じゃあ、また明日…?」

「…うん、バイバイ」

「はい。バイバイ。…またね」

「うん」


家の事…言おうと思ったけど、ちゃんと考えられる時に聞いて欲しくて、今日は何も言わずに帰ろうと立ち上がると、れいちゃんは手を振って見送ってくれた。


(……可愛い)


僕もそれに手を振り返して玄関に向かうと、


「あっ、しきくん?」


と、れいちゃんの父親に声をかけられた。


「れいとはもう大丈夫なの?」

「あっ…はい。…安静にさせてあげてください」

「あはは、だって、花子?」

「……」

「ごめんねー、花子ふてくされちゃって」

「はぁ…」


花子…さっきも言ってたけど、れいちゃんの母親の名前だろう。

れいちゃんに『はなちゃん』と呼ばせていたから、てっきりそれなんだと思ってたんだけれど。


「じゃあ帰る?送ろうか?」

「あっ…良いなら…」

「ん、行こうか」

「ちょ、ちょっとりっくん!」

「バイバイ?花子」


「あははっ」と笑いながら僕の腕を引いて、れいちゃんの父親は外に出る。


「あいつ、相変わらずヤバい奴だなぁ。…あの調子じゃ、れいが居なけりゃすぐ死ぬだろうなぁ」


かなり酷い言い様に「えぇ…」と思っていると、れいちゃんの父親は笑って僕の肩に手を置く。


「でも、れいに友達が居たんだなんてなぁ」


と、れいちゃんの母親とさほど変わらない事を言う。


…そうだ。

あの発言の後だと少し気が引けるけれど、れいちゃんの父親ならマトモそうだし、…言ってしまおうか。


れいちゃん本人がいいと言っても、親がダメと言ったらそれまでだし、…この人なら軽そうだから、意外と即決で許してくれるかも…


「あの…僕、この後一人暮らしするんですけど…。……れいちゃんと一緒に住めたらいいなって思ってて…」

「……」

「……あの、本人が良いって言ったら…良いですか……」


れいちゃんの父親は何も言わない。


僕はゆっくりと顔を上げて表情を伺うと…笑顔だった。


僕がほっとしていると、れいちゃんの父親は一言、


「ダメ」


とだけ言った。

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