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僕と彼女の歪んだ『愛』とその日々  作者: センセイ
第二章
22/50

22.「あつい」

「……」


気にされてないと気づいた最近は、ただいまさえも言わなくなった。


僕は家の扉を無言で通り、自分の部屋へ向かう。


「しき、ちょっと来なさい」


すると、途中で意外な人物……父さんに呼び止められた。


「…何?」


僕が聞いても父さんは答えずに、背を向けて先にリビングに向かった。


「……はぁ…」


僕はめんどくさかったけど、変な疑惑でも持たれたら動きにくいし、しょうがなくついていく事にした。


「…で、しき」

「……何?」

「何じゃないだろ、そのケガは?」

「……」

「今日保健医の先生から聞いたけど、格闘技してるって言ったって?」

「…そうだよ」


あー…めんどくさい…。


保健室の先生も、余計な事言わなければ父さんだってこう言いに来なかったでしょ。

…こんなまでになっても、母さんはこの場に居ないけど。


「…どこでやってるんだ?」

「は?」

「格闘技」

「あー…個人でやってる人に…。…だから、どこの教室ってのは無いよ」

「……」


咄嗟の嘘だから、どこか穴があれば言い訳出来ない。


けど、きっと父さんは僕の嘘を暴くのが目的では無いだろうし、大丈夫だろう。


「……しき」

「っ…!触るな…」


すると、急に父さんは僕の名前を呼んで怪我の所を触ろうとしたので、つい取り乱してしまう。


…だって、れいちゃんがつけた傷に触ろうとするんだもん…。


「……」


僕がそう拒否反応を見せると、父さんは席に戻ってもう触ろうとはして来ず、「すまないな」とだけ言った。


「僕も、…ごめんなさい」


僕が謝ると、そのまましばらくしんとした時間が続く。


…もう部屋に帰っても良いんだろうか。


父さんは口下手なのか知らないけど、ほとんど僕と話さないし顔を合わせることも無いから、どう話していいかいまいちよく分からない。


「…しき」

「……何…」

「……俺は、お前の味方でいてやりたいと思ってるよ」

「……。…ありがとう」


…また出た。

味方。


…あの友達も言ってたけど、味方ぶるだけで、核心までは干渉しようとしてこないじゃないか。


でもそんな事言ってもめんどくさくなるだけだから、僕は素直にお礼を言った。


…すると、父さんは険しいかおをする。


「…しき、この家が嫌いか?」

「……別に…」


…嫌いだよ。


でも、嫌いだって言ってやらないよ。

だって嫌いなんだから、喧嘩する時間だってすり減ってしまうじゃん。


「しき」

「……なに、」


毎回呼ばれて、もう嫌になってきた。


口下手なのは分かったから、言いたいことがあるなら一気に言って欲しい。


…と、僕の心の声がほんの少しだけ感情的に答えてしまった声に乗って伝わったのか、父さんは申し訳ない感じで、


「最後だから、少しだけ時間くれ」


と言った。


「いいよ。…何?」

「…お前、一人暮らししたいか?」


……意外な一言だった。


一人暮らし…って事は、れいちゃんを呼んだりできるって事…?


「ずっとって訳じゃない。…お前覚えてるか?父さんの兄貴…お前のおじさんだな。急に用事が出来て契約したばかりの部屋に住めなくなったんだと。」

「……それで、僕に…?」

「あぁ、1年ちょっと位の契約らしいから、ずっととは言わない。…ただ、お前はもしかしたらこの家に居ない方が幸せかもしれないって…最近思ってしまってな」


…驚いた。

こんなラッキーな事があって良いんだろうか。


僕はすぐさま二つ返事したいのを堪えて聞く。


「住むって…その家から登校して、その家に帰るって事?」

「あぁ…。勿論、そこまで遠くないから、メシの時だけ帰ってきても良い。…それは、しきに任せるよ」

「……じゃあ、住んでみる…」

「…分かったよ。伝えておく」


叔父さんと言えば、音楽家で…かなり忙しい、つまり金持ちな人だ。

だから借りた家を契約破棄せずにただの甥に住ませるなんて事出来るんだ…。


自分でお金を稼げないうちは無理かと思って、高校卒業してからはバイトして家賃を貯めながら…って考えていたのに。


期限付きだろうと、それはありがたすぎる。


「あ、勿論すぐには出来ないからな?」

「分かってるよ、ありがとう」

「…あぁ。……もう良い、呼び止めて悪かったな」

「ううん。…じゃあ」


僕はどきどきを抑えきれずすぐさま自分の部屋に飛び込む。


やった…やった……!


我慢してきて良かった。

こんな機会が来るなんて…!


僕は寝るにも寝れず、早く明日にならないかと思いながら目を閉じた。



****



(あれ…)


次の日、ワクワクで学校に行ったけれど、昼前になってもれいちゃんは学校に来なかった。


「先生、れいちゃんは…?」


昼食の時間の後、もう待てなくて先生に聞くと、


「あぁ…ちょっと電話してみるか、…ここまで遅刻する事なかったもんな?」


と言われた。


…そういえば、れいちゃんの家は知ったけれど、連絡手段は何も無かった。

とは言ってもれいちゃんが携帯電話なんか持ってる所なんて見た事も無かったし、あの人…れいちゃんの母親を介してしか連絡出来ないんだろうか。


「……」

「…何だ、心配か?…電話出来そうだったら代わってやろうか?」

「えっ…良いんですか?」

「黒木が良いって言ったらだけどな、…よし、じゃあ着いてきな、」

「…はい、」


先生は僕とれいちゃんが仲良くしているのを知っているからか、そんな事を言って僕を職員室の中の、自分の机の前まで連れて来てくれた。


「よーし…ちょっと待ってろよー」

「はい」


先生は席に座ると、ファイルを出して調べて電話をかけ出す。


「……」


少し漏れて聞こえるコール音に、少し緊張してしまう。

あの家でも、ちゃんと電話とかあるんだな…とか思っていると、先生が話し出した。


「あっ、もしもしー、どうも、担任の…あっ、こちらこそー、」


しばらく話してから、その後先生は僕に代わらず電話を切った。


「えっ…先生、」


思わず言ってしまうと、先生は、


「あー…黒木は今電話出来ないみたいで、ごめんな」


と答える。


ちょっと歯切れが悪いのが気になったけれど、それじゃあ仕方が無かった。


(放課後あの家、行ってみようかな…)


あの人にまた会うのは少し気が引けたけど、この際それはしょうがない。


それよりも…あの家でれいちゃんが風邪をひいたとして、ちゃんと看病して貰えてるのかが一番の心配だったから。



****



「以上、起立!…」


やっと授業が終わった。


僕が急いでれいちゃん家に向かおうとすると、先生に呼び止められた。


「…何ですか?」

「あぁ、しき、悪いけど黒木のプリント…」

「分かりました、届けときます」

「えっ、家知って…っておい!」


僕はプリントを受け取って、先生の話も途中に早足で階段を駆け下りる。


…そうだ、一応頭痛薬とかも買って行こう。


「二番線、電車が…」


そんな事を考えていると、駅のホームからそんな音が聞こえてくる。


(わっ、間に合うかな…)


ギリギリ…普段はしないから結構ドキドキだったけど、駆け込み乗車して乗り込めた。

…そして、その段階でやっと気づく。


「僕、あの道分かったっけ…」


…バスを降りた所までは分かった。

けど…あんなに曲がり道登り道した所、一回じゃ分かる訳無い…。


(どうしよう…。先生に聞いとけば良かったな…)


僕がバス停の前で立ち止まっていると、後ろから、


「同じ制服?」


と、声がした。


バッと声の方を振り返ると、背の高くて金髪の…男の人が立っていた。


顔立ちは異様に整っていて、テレビを見ない人に「超人気俳優だ」と言えば信じてしまう程のオーラと言うか、存在感があった。

何だか、…こんな事を言うのも変だけれど、れいちゃんに似た感じ…この世のものでは無い、少しズレて存在しているような不思議な感じがこの人からもした。


「こんにちは。れいに用かな?」

「…!」


……れいちゃんの事を、『れい』と呼び捨てにする人。


この人は一体……。

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