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僕と彼女の歪んだ『愛』とその日々  作者: センセイ
第一章
14/50

14.「いいよ」

授業中。


僕はさっきのれいちゃんとの会話を思い出していた。


『いいよ』

『…!良かった、……約束だよ?』

『……でも、遠くには行かない。家の近くか、学校の近く』

『……分かった、』

『あと、お金持ってかないから、買うのは無し』

『……うん、』


考えていると顔がにやけそうになる。


……しかも、それだけじゃない。


『家の近くってどこら辺?』

『駅のとこ……電車で、』

『うーん…どの駅?』

『……じゃあ、1回来ていいよ』


…そう。


多分だけど、家に行く約束をしたんだ、…!


あぁ…あまりにも上手く行き過ぎて、授業に集中出来ない。


れいちゃんの方を見ると、珍しくノートを開いている。

でも、覗き込むと板書を写してる訳じゃなくて、前の席に掛かってるリュックを必死に模写してるようだった。


僕があまりにもガン見しているから、れいちゃんはさすがに気づいて僕の方を見る。


「何書いてるの?」


僕が尋ねると、れいちゃんは答えずに軽く手招きをした。


「……?」


僕が近づくと、れいちゃんはすかさず僕の掛けていたメガネを取っていってしまった。


「あっ……!」


手を近づけられた時、前みたいにまたたたかれるのかと思ったけど違ったみたいだ。


そして、僕がつい大きな声を出してしまったので、先生が振り返って「どうした?」と聞いてくる。


「すみません、なんでもないです…」


僕が謝ってる間、れいちゃんは何もやってないと言うような感じで、肘をつきながら僕の掛けていたメガネを片手でいじっていた。


僕は微妙に目が悪いけれど普段付けるほどじゃないから、授業を受けたり映画を見たりする時はメガネを付けている。


だから、取られると授業がかなりしづらくなる…。


「れいちゃん、メガネ…」


コソッと言いながら片手を出して返してとお願いすると、れいちゃんは「やだ」と言って、僕のメガネを掛けた。


「え…?」

「あっ、ちょっと見やすいね」

「ちょっと…!」


また大きな声を出しそうになって慌てて口を塞ぐと、幸い今度は先生には気づかれていないようでほっとする…のもつかの間、また見た時には僕のメガネを掛けながら、何かを写してるようだった。


黒板の方を見ながらやっているけど…多分黒板横のポスターだったとかのオチだろう。


…何せメガネを取られて、何を書いてるまでは見えないから……。


「……」


でも、楽しそうに描いているのを見てほっこりして、まぁ良いかななんて思ってしまう。


…そう言えばあれ以来、あんまり経っていないのもあるけど、たたかれたり殴られたりしなかったな。

一度されたから警戒してた事もあって、安心して…逆に何か拍子抜けしてしまった。


れいちゃんはもしかして結構普通の女の子で、…僕が彼女の事が好きだから、普通じゃなく見えたって事なんじゃないかと思ってしまうくらいだ。


(……まぁ、楽しいならそれでいいや…)


でも何か、あれだな。


……嵐の前の静けさみたいな…。



****



「れいちゃん!」

「ん?」


放課後、すっかり忘れて帰ろうとするれいちゃんを慌てて引き止める。


…やっぱり気まぐれでだったんだろうか。


僕が落ち込んでいると、れいちゃんはやっと思い出したのか、「あー…」と話し出した。


「行こ、直接で良い?」

「あっ…」


…今まで外出する時は何となく一回帰ってから報告して行ったり、前日までに言っておくんだったけど……まぁ決めた事じゃないし、僕も高校生、だし…多分……いや、大丈夫、大丈夫だ。


「……うん。そのまま行く、」


僕はまだ少し不安だったけれど、放課後もれいちゃんと過ごせるなら1秒だって長く居たくて、思い切ってそう言って荷物を持ってついて行く。


れいちゃんはそれを見ると歩き出して、僕が隣に並ぶと何となく歩幅を合わせてくれた。


「れいちゃんの家遠いの?」

「…そんなに」

「へぇ……お金入れてたかなぁ…」


僕はいつも通学はバス定期なので、パスケースに入っている交通系カードを見てお金が入っていたか考えていると、れいちゃんは「私もそれあるよ」と言って同じのを見せてきた。


「あはっ、お揃いだね」

「うん」


…なんか、野暮な事考える暇も無いくらいいっぱいいっぱいだった。

れいちゃんとこうやって友達みたいに帰れるんだって。


れいちゃんはいつも通りだけど、別に好きになって欲しい訳でも無い…気がするし、まぁ、好きになってくれるならそれに超したことは無いんだろうけど……。


…ごちゃごちゃになってきた。とにかく僕は無理やりだとか、嘘つかれたりとかで好きって言って欲しくないから、今はまだ…そう言うのは気にしないで良いんだ。


「……」


そのうち話す事も無くなって、無言の時間が続く。


今でも居心地は悪くないんだけど、前と違ってたくさん聞きたいこと、話したいことでいっぱいで、その沈黙を楽しんでる時間だって惜しい。


でも、タイミングを見計らってるうちに、あっという間に駅に着いてしまった。


「着いたね」

「うん」

「どっち?上り?下り?」

「?……こっち」


伝わらなかったのか、れいちゃんは言葉では答えずにホームの方を指さす。


僕は「へぇ」と言ってから、改札を通ろうとしているれいちゃんを追いかける。


(どうしよ、お金入ってたっけ…)


疑いながらも改札にかざすと、案の定残金不足で音と共に足止めされる。

音にびっくりして振り返るれいちゃんに、「ちょっと待って、」と言って急いでチャージして追いかける。


「何で入れなかったの?」

「お金、入ってなかったからだよ」

「……私の、入れてないよ」

「ん?…あぁ、れいちゃんのは定期だから…」

「?…何でだろう」

「……れいちゃんのカードは、貰った時から定期だったんじゃないの?誰かと作りに行ったでしょ?」

「あぁ……へぇ、」


理解してるのかしてないのかという感じでれいちゃんは答える。


今まで見てきて気づいたけど、れいちゃんがお金を持ってる所とか、使ってる所とか見た事無いんだよな…

定期も使ってるし、修学旅行にも普通に来てたし…何しろ勉強をほとんどしてないのに義務教育でもない高校に来ているんだし、貧乏って訳でも無いんだろうけど…。


…この違和感は、れいちゃんがこの時期引っ越してきたのと関係あるんだろうか。


『2番線、まもなく電車が参ります。黄色い線の内側に…』


そんな事を考えていたら、いつの間にか電車が来ていて、れいちゃんの後に続いて乗り込んだ。



***



れいちゃんの後に続いて降りた駅は、都会でも田舎でも無い様な、少し古びた街だった。


ここが、れいちゃんの暮らす町…。


電車の中ですぐ隣に座ったドキドキがまだ残っているからか、僕の気持ちは高鳴っていて、ついソワソワとしてしまう。


「こっち」


歩いて行くのかと思いきや、れいちゃんはバス停の列に並んだ。


列にはちゃんと並んでいてほっとしていると、バスは意外とすぐ来て、ラッキーだったなと思いつつ乗り込む。


「れいちゃんもバスなんだ」

「うん。バスも乗ってる」

「…じゃあ遠いし大変だね」

「いや…バスはそんなに乗らない」


れいちゃんの言った通り、バスは二、三駅分…それこそ普通に歩けそうな距離で降りた。


そこは住宅街に面した通りという感じだった。


「こっち」


れいちゃんは、今度はその住宅街を突っ切って奥に奥にと進んでいく。


だんだん建物も古くなって来て、それでも曲がったり登ったり進み続けるので嫌な予感がしていると、やっとれいちゃんは立ち止まって、僕の方を見てまっすぐ一点を指さした。


「これ」

「……これ…」


…こういうの思うの、良くないって分かってるけど…何か、苦学生の一人暮らしアパートみたいな…れいちゃんみたいな女子高生が住むのには少し危ないなって思ってしまうような、そんな見た目だった。


れいちゃんは、呆然とする僕を置いて、一人家の中に入っていってしまった。

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