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僕と彼女の歪んだ『愛』とその日々  作者: センセイ
第一章
12/50

12.「かえせない」

「無い……」


僕の呟きが聞こえたのか、部屋を出ようとしていた友達が「どうした?」と戻ってくる。


「…何か無くした?」

「……うん…こんくらいの、プレゼントに付いてるような紐状のリボンなんだけど…」

「リボン?」

「……どうしよう、」


僕が明らかに動揺しているのを察してか、友達は聞いてくれる。


「大切なもの?…どこら辺に落としたとか分かる?」

「うん……大切……。多分部屋の中で無くなったから、ここにあるんだろうけど…」

「ん、分かった。…あいつらに言ってみんなで探せば見つかるよ」


友達はそう言って僕の背中をポンと叩く。


「…ごめん、」

「ん?良いって。あいつらおみやげんとこ居るだろうし、とりあえず行くか」

「うん…」


僕は気が気で無かったけれど、何とか落ち着こうと立ち上がって、友達と一緒に部屋を出る。


貰った時はそうでも無かったのに、気持ちを自覚して、しかもあんな事があった後だと…れいちゃんに貰ったただ一つの形のあるものに、どうしようもなく縋りたくなってしまったんだ。


「…あれ、あいつら居ないなぁ」


おみやげのコーナーに行くと、ここでしかおみやげは買えなそうな事もあり、人は結構いたけれど、同じ部屋の友達は居なかった。


「…じゃあすれ違わないように、どっちかがここに居て、どっちかがまた部屋戻って見てみようか、現にあいつらとすれ違ったかもしれないし…」

「うん、…ごめん、お願いしたい」

「いーっていーって、どっちする?」

「じゃあ、回る方…」


言いかけた時、コーナーの端の方にれいちゃんみたいな影が見えた気がした。


…れいちゃんも何か買いに来たんだろうか。


僕は気になってしまって、申し訳ないとは思いつつも、


「…ごめん、やっぱりここに居る方」


と訂正した。


「…おー、りょーかい。じゃー居たら一緒に部屋戻ってて!」

「…うん、ごめん…」

「…なぁ、」

「…?なに……?」

「お前、変わったな」


突然そんな事を言われて、びっくりしてしまう。


僕が「え?」と言うと、友達は苦笑いのような、心配するような複雑な顔をする。


「…お前、こういう時はさ、……いや、今気分下がってるからネガティブになってるだけか…?…まぁ良いよ、忘れて」

「……」


友達が何を言いたいのか分からなくて、何か嫌な事を言ったかと自分の発言を思い返そうとするけれど、ちゃんと考えての発言じゃなかったから思い出せない。


僕が考え込んだのを見て友達は「ほんとに良いから、あんま考えないで言っちゃっただけだから、気にしないで」と言って、他の奴を探しに行ってしまった。


「……」


…友達は、僕がネガティブになっているって言ってたな。

そうなんだろうか…まぁそうか、大切なもの無くして…。


大切なものって言っても、高いものとか、希少なものとかでもないのに、こんなに大切に感じるなんて…『誰』から貰ったかがこんなに影響してくるなんて、そんな気持ちもう覚えてないくらい昔にあったかで、懐かしいような不思議な気持ちに心が高鳴る。


…れいちゃんにも、こんな気持ちになって欲しいな。


僕はそう思って、せっかく来たんだしキーホルダーとか…友達から貰う様なものを、ずっとつけていられる様なものをれいちゃんにプレゼントしたいなと考えた。


幸いな事に財布も持ってきていたので、あとはれいちゃんが居るなら彼女の気に入るものにしようと、さっき見えた影が見間違えでないか確認するように探す。


「……あっ、」


見つけたれいちゃんは何かを手に持って、近づけて見ていた。


背後まで近づくと、それは雪だるまの小さなぬいぐるみのようなキーホルダーだった。


「それ欲しいの?」


僕が真後ろからわっ、と話しかけると、れいちゃんはかなりビクッと驚いたように跳ねる。


僕は「ごめん」と一言言いながら隣に並ぶ。


見ても、れいちゃんは別に怒ってはいないようで安心する。


こんなに人がいる所でれいちゃんに話しかけても平気なのはきっと、れいちゃんと一緒に居ようって自覚したのもあるけれど…何よりれいちゃんのお陰で、あの人達の平穏を崩すような、『期待外れ』になって良いって思えるくらい強い、『自分の気持ち』に出会えたからだろう。


「……」


れいちゃんは僕の言葉には答えず、少し困ったような顔をしてから、キーホルダーを置いて出て行こうとする。


「あっ、ちょっと待ってよ、」

「……何?」

「…ねぇ、これ可愛いね」

「……」


僕は、れいちゃんが他の商品の上に置いて行こうとしたキーホルダーを手に取って、そんな事を言う。


れいちゃんは面倒くさそうにするものの、やることも無いのか僕の所に戻って来てくれる。


「あっ、これマフラーの色違うね」

「…へぇ、」

「……ねぇ、お揃いで買っていい?」

「……無理」


僕がはしゃいで話すと、他の人だったら軽く喧嘩になりそうなくらいの強い言葉で返事をされる。


でも、僕は彼女が不器用で言葉足らずな事を知っているから…僕だけはこんな言葉で彼女を嫌いになったりなんてしない。


「どうして?」

「え…お金持ってきてないし」

「じゃあ、お金あったら買うの?」

「知らない…」


別に彼女がお金を持っているのかとか、使えるのかとかは関係無い。

だって僕はそもそもプレゼントするつもりだったから、その質問はある種の『選定』だった。


…どうせプレゼントするなら…れいちゃんの欲しいものをあげたいから。


「れいちゃん、何色がいい?」

「……買わないって、」

「いいから、じゃあ好きな色は?」

「……」


れいちゃんは僕がしようとしていることを察したのか、苦い顔をして後ずさりする。


やっぱり甘えるのが苦手なんだなと思いつつも、僕はもうその気になっていたので、「言うだけ言うだけ」と詰め寄る。


「……要らない…」

「何で?…好きじゃない?」

「うざい……」

「あっ、酷いなぁ…」


れいちゃんはどうしたらいいか分からないというような顔をする。

僕は何となくこの光景に既視感があって、それが何なのかやっと思い出す。


「……何か見返り求められると思ってる?」


なんたって気づけたのは、僕自身に見覚えのあることだったからだ。


れいちゃんはしばらく僕の方を黙って見てから、「うん」と答えた。


「……じゃあ、これあげる代わりに……僕とハイタッチしてよ。これでどう?」

「……はぁ、」

「はい、」

「……」


僕が自分の顔より少し上に両手を上げると、れいちゃんはゆっくりと僕の手に自分のを重ねた。


「あははっ!勢い無いなぁ…」

「……」

「じゃあ僕買ってくるけど、何色が…」

「しき?」


僕がれいちゃんと話していると、僕を呼ぶ声に遮られる。


楽しい時間を邪魔されて不満げになりながらも声のする方を見ると、そこには同じ部屋の友達が居た。


「……部屋戻ったらあいつら居て、ちょうどお前の探してたやつ見つけてたから、しきのだって言って、リュックの上置いといたんだけど」

「……良かった……ごめん、助かった」

「……で、何してるの?」

「何って?」


僕の言葉に、友達は明らかに顔を歪める。

そして一言、絞り出すように「周り見てみろ」と言った。


見回しても特に違和感も無いように感じたけれど、その度に目が合うとたちまち視線を逸らされて、やっと友達の言うことを理解する。


「……やっぱり、変わったな。……いや、変わらされた?」

「……は?」

「だってさ、お前……もっとちゃんと、周りが見えててさ……。俺はお前のそういうとこ、凄いなって思ってたし……いつも無理してないか心配してた」

「……え?だから……?」


いきなり語り出した友達に僕は困惑する。


一体何を言いたいんだか、分からなかったけれど、とにかく今の僕は歓迎されていないことだけは分かった。


僕がほぼ分からないで困惑しているのを読み取ったのか、友達は感情的になって声を荒らげる。


「辛いなら俺らに言えよ!……そんなに信用出来ないのか?ちょっとくらい気抜いたって俺は……俺らは簡単にお前のこと嫌いにならないから……!」

「……そうなんだ。…ありがとう?」

「っ……だから、それ、辞めろよ…」

「『それ』って?」


友達の目線を追うと、僕の方からは少しズレていて…


……れいちゃん?

れいちゃんのことを言ってる?


分からない。


『辞めろ』って何…?


僕がそろそろめんどくさくなっていると、友達は、今度はれいちゃんに向かって話し始めた。


「……黒木さん、悪いけど……これ以上しきをおかしくしないで欲しい…。……いや、お願いするから、しきにはもう…関わらないで欲しいんだ」

「……」


友達の言葉に、れいちゃんはゆっくりと僕の手から手を離した。

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