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僕と彼女の歪んだ『愛』とその日々  作者: センセイ
第一章
11/50

11.「きれい」

頬は痛む。

辛うじて零れない涙はもういっぱいだし、心臓がバクバクいってる。


え?…これが恋?


こんな痛いの?こんなもので…

……?

いや、僕はさっき確かに……


「…あはっ、」


彼女は目の前で笑う。


その笑顔は僕の好きな、ただ純粋な、僕に向けられた笑顔。

嘲笑う様でも弄んでる様でも無い…どこまでも純粋で『子供のよう』な…


「しき?」

「あっ……な、なに…」


彼女は僕を心配するような顔で近づいて、真正面から見つめてくる。


僕は何が分かってて何が分からないのかも理解出来なくて、何も聞けなかった。


「……それ、痛い?」


抑えてる頬を指さして言われる。


「…痛いよ……」

「へー。…どう思った?」

「……何それ、」


1つ目の質問にはそのまま答えてしまったけれど、さすがにおかしいって思って、やっと一言言えたと思ったら、れいちゃんは気に入らなかったのかすっと真顔になって、途端に面白く無さそうにする。


「っ……れいちゃ……」

「もう行こうか」


弁解しようとすると、れいちゃんは僕がクラスメイトにやるような…そのくらいの淡白さでそう言った。


さっきまでは、僕との事で笑ってくれたのに。


…僕がちゃんと答えなかったから、彼女の笑顔が無くなってしまった?


そんな事を考えても、どうしたら良かったのか分からないで、もう一回痛い思いをしても良いからやり直したいとまで思ってしまう。

それくらい心が限界だった。


「……しき?」

「…!な、なに?」

「行こ。お腹空いた。」


れいちゃんはそう言って、手を差し出してくる。


…掴んで良いんだろうか…引っ張った反動で投げ飛ばされたり…。


そんな事を思ってしまうけれど、そうだとしても掴まない選択が出来る訳もなく、恐る恐る手を繋ぐと、れいちゃんは座っている僕を引っ張り上げて、そのまま何もしなかった。

手も繋いだままに立ちすくんでいると、れいちゃんはそのまま僕の手を引いて歩き出した。


長い通路を2人で繋がって歩くのは、まるであの時の…学校案内の時と逆だ。


「……」


れいちゃんはいつもと同じ様に何も話さない。

僕は、話そうとしても何も話せなかった。


…そして、歩いているうちに徘徊が終わった人達のいる場所まで来れたのか、そのままその人だかりの端で、2人壁に寄りかかった。



***



「え、しき…どうした?」


ずっと端でそのままにしていると、同じ班の友達が僕を見つけたのか声をかけてきた。


「……え、黒木さん?…って、しき、ここ…!」


れいちゃんの方を見て気にしつつも再度僕の方を向いて、僕の頬の…自分では見えないから分からないけど、腫れが何かになっているであろう所を指さして、声を荒らげる。


「……黒木さん、何か知ってる?」

「ん、バンって叩い…」

「転んだ!…転んだのを、連れて来てもらっただけ…」


れいちゃんは右手をジェスチャーするように軽く斜め上に上げながら、余りにも正直に言おうとするから、僕は慌てて厳しめの嘘をついてしまう。


「……は?転んだはさすがに無いだろ……どうやってそこ打つんだよ?」

「っ……階段で、転んだから…変な所なだけだよ…」

「……」


友達はこれ以上聞きはして来なかったものの、もうかなり疑いにかかるように僕とれいちゃんを見てから、


「……じゃあそれで良いから、こっち」


と、僕の左腕を引っ張る。


僕は連れられて動いて、れいちゃんと繋いでいた手が届かなくなって離れる。


(あ……っ)


途端に不安になって振り向くと、れいちゃんはいつもの表情でこっちを見ていて、怒っている訳でもそっぽを向かれる訳でも無くて、それが酷く安心した。


「……」


…そんな事で頭がいっぱいだから、僕は気づかなかった。


何時でも誰かが見ている事。

一度持たれた不信感は、拭おうとしなければ消えなくて、簡単に大きくなる事。


社会はそんなに甘くなくて、僕が細かく観察して保っていた関係なんて、サボったらそんなもの、いつでも簡単に崩れてしまう…って、事。


そして結構、そのうんざりするような『普通』、当たり前に助けられてる場合だってあるんだ。



****



「えー、そろそろ出れそうなので、食べ終わった奴から、いつでも出られるように荷物を一つにまとめておく事!室長は各自に布団畳ませて廊下に出しておく事!以上!」


昼食の終わり頃、先生の言葉でぞろぞろと動き出す。

一応危ないので警報とか状況を見て、昼食も宿舎でとって少し待機ということになったけれど、予報的にはそこまで長引く事も無さそうなので、予定されていた外での昼食分の時間が短縮されたと考えればそこまで遅くはならなそうだ。


「俺ら先戻るけど、しきは?」

「…もうちょっとしたら行くよ」


話しかけてきた友達に返事をして、残りをゆっくりと口に運ぶ。


僕の頬の腫れは、冷ためのものを適当に当てていたらほぼ引いて、食事の時間には誰かが指摘しないと分からない程度になっていたので、聞かれることも大事になることも無かった。


「……」


僕はれいちゃんの方をチラッと見る。


3日間彼女の食べるのを同じ班員として見たけれど、食が細いのか全てちゃんとした量を食べているのを見た事が無い。

しかも、その少しをゆっくり食べる訳でもなく、一気に少量を食べてから、水分をとったり、デザートを小さくかじったり、粒状のものとかを一粒ずつ食べたりとして少しずつ胃に入れるような不思議な食べ方をする。


「お腹空いた」とは言うし、胃が小さいんだろうか。


食後は本当にもう食べられないと言う感じで食べ終わるし、ダイエットとかそういう理由でも無いんだろう。

でも、あの背の高さであの量じゃ体もかなり負担が大きそうだ。


…現に僕でも持ち上がりそうなくらい、同学年のそういう事にかなり気を使いそうな女子達と比べても、かなり華奢だ。


カチャッ…


れいちゃんはしばらくフォークを持って固まっていたけれど、さすがにもう食べられないと思ったのか、音を立てて食器を置いた後、イスを引いて立ち上がってこの場を後にした。

僕も慌てて最後の一口を口に入れると、コップの水を飲み干して少し遅れて後にした。


特に用事も無かったので話しかけられなかったけれど、彼女がちゃんと部屋に向かっていくのを見届けられて少し安心した。



***



「あ、しき遅いぞー!」

「やっぱ班長居ないと進まないわー」

「お前の班長じゃないだろ!」

「ちゃんとしろよ室長ー!」


部屋に戻ると、半分くらい部屋の片付けが進んでいだけれど、どこかで脱線したのかトランプを広げて七並べをしていた。


「…しき?」

「え?…あぁ、…トランプしてる場合じゃないだろ、布団畳むから端持って」


僕が話さないから、「どうしたの」と言うように声を掛けられて、僕が咄嗟にいつものようにそう言うと、友達は「はぁい」と返事して素直に従った。


人数も力もそこそこあったから、…たまにシーツを外し忘れてやり直しになるアホも居たけれど、意外と早めに終わって、端でずっと続いていた七並べも何故か大体終わっていて、トランプが片されると僕のまだ片付けていない荷物だけになる。


「俺らおみやげ見てくるー」


僕が服を畳んであるのを荷物に詰めていると、友達はそう言って外に出ていく。


「…お前も行ったら?」

「あー…そーだな、しきも後で来いよ?」

「うん」


1人だけ残っていた友達にそう声を掛けていると、何か違和感に気付く。


「……無い…」


初日、着ていた服を畳んでる時…ポケットに入れたままだったらそのまま洗濯に出したりしてしまいそうだからって、わざわざ取り出して、別にして置いておいたあれ…


…れいちゃんに貰ったリボンが…無い。

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