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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第十章 リベンジ・フロム・ヘブン ~恋愛監獄リべフロ学園~
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第97話 絶対に笑ってはいけない性加害学校24時

 掲示板を見る俺の後ろを通り過ぎた少女。近くの校長室の扉に手を掛けた。


 この少女には見覚えがある。一昨日、登校中に街角でぶつかった女の子だ。その時、顔は黒いボブカットの髪に隠れて見えなかったが、着ている制服から俺と同じ学校の生徒だと理解した。


 今も俯いており、髪に隠れて表情は見えない。校長室の扉を開けて、気怠そうな重い足取りで入室する。


 校長室に何の用だろう――――――何か、嫌な予感がする。


 俺は校長室の机の引き出しに入っていた不気味な髪の塊のことを思い出した。


 この学校には不可解な点がある。そんな不可解な点を上げ始めたらきりがないが、その中でも特に理不尽だと感じる点が一つある。それは、恋人がいないことで男子生徒は磔の刑に処されるが、女子生徒には処罰が下されないという点。


 女子を全裸磔にするのはさすがに倫理的にアウトだが、磔の代替案となる罰を女子生徒にも与えた方が男女平等になるのではないかと思っていた………………そう、それだ。俺の目に映らないところで、実は女子生徒も罰を受けていたのだとしたら?


 校長室にあった髪の塊。あと、文化祭の前日に感じた、この学校は心なしか坊主の生徒が多いという点。これは文化祭の最中もずっと感じていた。そして今、暗い雰囲気で校長室に入っていった少女。


 この3つの点が一つの線で繋がる。俺の脳内で一つ、確信めいた一つの推察が導き出された。


 それは、この学校で恋人がいないと判断された女子生徒はその場では罰を受けない。だがその代わり、後で罰を受ける。その罰は校長室にて、校長の手によって()()()()()()()()()というものだ。


 女性の魅力を引き出す存在である髪の毛をすべて失う罰というのは女子生徒にとって、見せしめ、恥晒しの刑となる。男子生徒の磔と同等の罰だと言えるだろう。


 ということは今、校長室に入っていった少女は丸刈りの罰を受ける直前ということだ。このままではあの子は…………


 俺はつま先を校長室に向けた。ゆっくりと校長室の扉の前に歩み、ドアノブに手を触れる。


 俺が助けないと。あの子は坊主にされる。


 扉の向こう側で今、どんな恐ろしいことが行われているかも入ってみなければわからない。俺が行くしかない。


 俺は彼女を助けるため、恐怖心を勇気で押し殺して重い扉を開いた。


 扉の先、温かい暖色の照明に包まれた空間が広がる。正面にはいかにも高級そうな革製の社長椅子に腰掛けた校長。右には本棚があるだけで誰もいない。左もキャビネットが置いてあるだけ――――少女の姿がどこにもない。


 何故だ? 確かにあの子はこの校長室に入ったはずだ。丸刈りの罰を受けるために…………


 違う。俺の認識が甘すぎたのかもしれない。恋人がいないという罪は頭を丸刈りにする程度では許されないのかもしれない。ならどうすれば許されるのか。あの少女は――――社会的に抹消されたんだ。


 恋人がいないという罪はどんな罰をもってしても(そそ)ぎ落すことなどできないということだ。贖罪の余地のない、重罪だ。


 社長椅子に座る老婆の校長、この学園の女帝が口を開く。


「私に何か用ですか?」


 敬語ではあるが、いくつもの修羅場を乗り越えてきた者の重く冷徹な声。この声を聞いただけで誰もがその場に凍り付くだろう。


 手遅れだった。俺はあの女の子を救えなかった。


「いやー、ちょっとこの部屋がどういう部屋なのか気になって入ってきてしまってー……………………すみませんでしたァー!」


 俺は誰一人救えなかったうえに、最強主人公に滑稽に負けるモブ敵の如く尻尾を巻いて逃げだした。校長室を飛び出して扉を叩き閉める。躓きながらも走り続け、校長室からなるべく距離をとる。


 この学校は今まで俺が思っていたよりもヤバい場所なのかもしれない。まず校則からしてもう異常だし、あの校長、裏で何をやっているのか。得体の知れないババアだ。


 とにかく一刻も早くこのゲームをクリアしてこの学校とおさらばした方が良さそうだ。失念していたがこのゲームのクリア条件は、ドラマチックなシチュエーションで告白して恋人を作ること。いろいろあって忘れていたがなかなか難易度の高い要求だ。


 俺は走りながら自分の身近にいる女子の顔を頭に浮かべた。誰とならドラマチックなシチュエーションで恋人になれるか。イヌヌ、ナルミ、エルハ………………ッ! 


 ふと、思い出した。昨日の文化祭でエルハは愚麗愛を拒絶し、愚麗愛はその場で恋人なしと判断されて磔の刑を受けた。愚麗愛が恋人なしと判断されたなら、同じくエルハもそう断定されるだろう。つまりエルハは処罰を受ける対象者だ。


 ということは、エルハはさっき校長室に入って姿を消したあの少女と同じように………………エルハが危ない!


 俺はすぐにエルハの安否を確認するべく、まだみんなが残っているであろう教室に進路を向けた――――と、その時。


『校内放送です。校内放送です』


 ババア校長の校内放送が響いた。このタイミングで。嫌な予感がする。俺は思わず足を止め、全身が悪寒に包まれる。


『恋愛イベントを発令します。恋愛イベントを発令します』

「――ッ!」


 最悪のタイミングだ。俺は全身の力が抜ける絶望感に苛まれた。


 恋愛イベントは文化祭の最中にも発令された、恋人がいない生徒を炙り出す鬼畜イベント。隣に恋人がいないと達成できないようなタスクを提示され、そのタスクを遂行できていないところを黒スーツに見つかると処罰を受ける。


 何故このタイミングなんだ。放課後で校内が閑散として生徒なんてほとんどいないこのタイミングに…………まさか、俺を狙って?


 校長室に入った俺は校長に目を付けられたのかもしれない。校長は今、俺が一人でいることを、恋人と一緒にいないことを知っているはずだ。

 

 完全に油断した。この時間なら恋人がいないことはバレないと高を括って、彼女のフリをしてもらう女子を連れてくるのを怠った。


『今日のイベントは――――密着インロッカー!! 今からあなた達カップルには校内に点在するロッカー、または掃除用具入れなど、どこでもいいから狭いところに恋人と一緒に入ってもらいます! 窮屈な閉鎖空間で密着し合う女と男の(なま)めかしい肉体。お互いの肌が擦れる度に緊張と恥じらいで反応して思わず跳ねる体、重なる甘い吐息…………堪んねぇなおいッ!!』


 最後の方は野太く低い、感情のこもったがなり声になるババアの放送。


 なかなか難易度が高いミッション。しかもちょっとエロい。もしかして恋愛イベントは毎日あって、日に日にイベント内容は過激になっていくのだろうか。だとしたらなおのこと早くこのゲーム、リベンジ・フロム・ヘブンをクリアしないといけない。


『ロッカーに籠ってもらう期間は未定。放送でいいというまで続けなさい。校内でロッカーに籠っていない生徒は見つけ次第処罰を執行します。明日の昼まで磔です』


 明日の昼まで……。磔になる期間が今日だけなら閑散とする校内で他生徒に見られる機会も少なく軽傷で済むが、明日の昼までとなるとまた多くの生徒が登校してきて…………。そういうところまでしっかり考えられている。


『さらに――――追加ミッション!! ロッカーに入って密着した2人は、男子の方からいきなり女子にキスして、その後に耳元でこう囁いてもらいます。「俺の子供、産めるの?」と!!』


 つ、追加ミッションだと!? しかも内容がエグすぎる…………これじゃあまるで女性に性加害をした疑いがあるとして有名なダウンタ○ン松本じゃないか!? 俺たち善良な男子生徒に松本○志の真似事をしろというのか!?


『それと、イベント終了まで校門は閉鎖させていただきます。では、密着インロッカー、スタート!!』


 そこで放送は途切れた。


 前回の恋愛イベントと同様、今回もイベントが終わるまで学校に拘束される。これで俺はもう逃げられない。かと言って恋愛イベントをクリアするための()()もここにはいない。


 マズい…………大ピンチだ。


 俺は冷静を取り繕ってまずは周囲の状況を見回した。すると廊下の片隅に――――縦長でちょうど人2人が入れそうなロッカーを見つけた。都合よく見つかるロッカー。まるでこのイベントのためだけに用意されたように、不自然に1つだけそこに佇んでいる。


 俺はロッカーの前まで走った。扉を開け、中に人が入れるスペースがあるのを確認する。


 よし、場所は見つけた。あとは一緒に入る人がいれば。誰でもいいから通りかかった女を攫ってこの中に………………


 そんな少し危険な思想を巡らせていると、廊下の奥の曲がり角から黒い人間が姿を現した――――それは俺が今、最も出会ってはいけない存在だった。


「黒スーツだ…………」


 黒いサングラスが俺の姿を捕捉する。そして俺の方に歩みを進める。


 最悪一人でどこかに隠れてイベントをやり過ごすという手もあったがもう手遅れだ。一度見つかってしまったら黒スーツは地の底まで追ってくるだろう。だが、それでも今は逃げるしかない。その時――――


「あ、イズミ…………」


 今度は黒スーツの迫ってくる逆側、俺の背後で声がした。振り返ると――――長い金髪の女子生徒、エルハがいた。


「エルハッ!? ちょうどいいところに! 放送は聞いてただろ? 一緒に入ってくれ!!」


 彼女が何故ここにいるのかはわからないが、俺は焦りから必死に捲し立てた。


「……………………」


 黙っているエルハ。俺は先にロッカーの中に飛び込み、再度呼びかけた。


「来てくれエルハ! 俺の人としての尊厳が危機なんだッ!!」

「……そういうのは、ちょっと………………」


 顔を横に背けるエルハ。横顔が髪に隠れる。俺と狭いロッカーの中で体を寄せ合うのは抵抗があるのだろう。さらに追加ミッションまである。だが、そんなことを言っている場合ではない。黒スーツはこの瞬間も俺たちの元に迫ってきている。


 最悪、追加ミッションのキスはロッカーの中での事だからやらなくてもバレないはずだ。とにかく今は2人でロッカーに籠ることが最優先。


「すぐに終わるから! ちょっと誤って過敏なところを触ったり胸を揉んだり首筋を舐めたりしてしまう可能性もあるかもしれないけど、黒スーツが離れたらすぐに開放するから!! 頼むエルハ!!」

「そういう理由じゃなくて………………というかそんな説得で私が受け入れると思ってるの?」


 それでもまだ聞き入れてくれないエルハ。訝しげな顔で俺を睨む。もう黒スーツは目前まで迫っている。


――こうなったら強行手段だ


「悪いなエルハ」


 俺はエルハの腕を掴んだ。そのままロッカーの中に引きずり込もうと腕を引っ張る――――だが、気づいた時には逆に俺がエルハに引っ張られていた。


 思い出した。冷静さを欠いて忘れていた。エルハの体質について。人に触ると無意識に怪力が誤作動を起こすエルハの体質。


 エルハに引っ張られ、次の瞬間には腹に重い痛みが押し寄せた。エルハの足が俺の腹にめり込む。エルハに腹を蹴り上げられた。


「――グホァッ!!」


 堪らず俺は嘔吐みたいな咽び声を上げた。


 蹴られた衝撃に素直に従って俺の体は宙に浮いた。そのまま廊下の窓ガラスを背中で突き破り、校舎の外に飛び出した。


 俺が最後に見たのは黒スーツの驚く顔と、エルハの「またやっちまった……」という苦い表情。


 人並外れた桁違いの脚力、怪力により放たれるエルハの蹴り。外に飛び出した俺の体は勢い衰えず空高くまで飛び上がり、星の彼方まで飛ばされた。


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