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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第十章 リベンジ・フロム・ヘブン ~恋愛監獄リべフロ学園~
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第93話 虚構デート

 文化祭の後半。俺はナルミさんと2人で行動を共にすることになった。


 腹を空かせた俺たちはどこかで食事をしようという話になった。何を食べるかとなったらそれは当然、ナルミさんの好物であるパンを食べることにした。以前にナルミさんがパンカス姉さんと自虐的な自称したように、彼女はパン屋の店員でパンが大好きで、よくパンをつまみ食いして口周りにパンの食べカスを残していることがある。それくらい彼女はパンが好物だ。


 今日は珍しくナルミさんの口元にはパンカスが付いていない。朝からパンを口にしていないから当然だけど。


 俺たちは近くにあった校内の出店のリべフロベーカリーというところでパンを買った。俺は程よく温まったホカホカのシーフードパンを買い、ナルミさんは、チョコクロワッサンとメロンパンと揚げパンとチーズマヨパンとカレーパンとサクサクパンダと蜂蜜パンとリンゴデニッシュパンとパンピアノと梅干パンを購入した。


 校舎を出て、人の少ない学校の裏庭に行き、ベンチに腰掛ける。俺のすぐ左隣にはナルミさんが座り、さらにナルミさんの左隣には肌の露出度が極めて高い巨乳の女性が座った。


 俺はシーフードパンを食べる。その間にナルミさんはカレーパンとメロンパンを食べ、さらに揚げパンと蜂蜜パンを同時に頬張った。


「本当にパンが好きなんだな」


 俺は自分のペースで食事をしながらそんなナルミさんを眺めた。その食い付きっぷりはもはやパンが好きとかそういう次元じゃない気がすると思いながら。


 俺がシーフードパンを食べ終えると、ナルミさんもまだ残っている他のパンに手を出すのをやめた。残りは持ち帰って家で食べると言う。ビニール袋に溢れそうなほど詰め込まれたパンたちを掲げて陽気に微笑むナルミさん。


 4個のパンを食べ尽くしたナルミさんの口元は当然、少量のパンカスにデコレーションされていた。愛嬌のある可愛らしい顔つきのナルミさんはちょっと残念なパンカス姉さんに変容してしまった。


 パンカスが付いていることはあえて教えずにそのままにしておくことにした。


「ナルミさん、次はどこ行く?」


 俺が尋ねるとナルミさんが文化祭のリーフレットを取り出す。


「そうだね………………」


 リーフレットの校内マップ上で目線を動かすナルミさん。そんなやり取りをしていると急に、低い男の声が俺たちの間に割って入った。


「失礼、ちょっといいかな?」


 その声に驚いて俺は、それにナルミさんも顔を上げた。


 目の前には黒いスーツに黒いサングラスをかけたガタイのいい男が立っていた。学園内を巡回して男子生徒の恋人係数を計測し、その数値次第で場合によっては生徒に処罰を与える存在。それが今、目の前にいる。


 俺は顔に出さないように努めたが、内心ゾッとした。俺たちが恋人同士じゃないとバレたか? もしそうなら恋人係数を測られて…………


「君たちは見たところ恋人同士のように見えるが、それでいいのかな?」


 少しホッとした。恋人じゃないと思われたわけではないらしい。


「はい! 俺たちカップルです!」


 俺は緊張して少し声の調子が外れたが、それでも自分たちが恋愛関係であることを強く主張した。


「うーん…………では、君は先程、彼女の名を呼ぶ際に『ナルミさん』、とさん付けで呼んでいたが。恋人同士なのに何故さん付けを?」


 まずい。さっきの会話を聞かれていたか。恋人じゃないと断定されたわけではないが、疑ってはいる。


「つ、付き合って間もないから。そう! 慣れてなくて! 呼び捨てとか! そうだよな? な、ナルミ?」

「ぅ、うん。そうだねイズミ」


 俺はこれ以上疑われぬよう、なるべくすぐに返答を捻り出した。ナルミさんもそれに応えて臨機応変な対応をとってくれる。


 多少荒い返答だったが、緊張しているという理由で誤魔化せる。何よりすぐに返事を返したという点の方が重要だ。


「…………そうか。疑って、いや、2人の時間を邪魔して悪かったね。私は失礼するよ」


 そう言うと黒スーツは踵を返し、スタスタとこの場を去ってしまった。案外呆気なく身を引いてくれた黒スーツ。俺たちは一度疑われはしたものの、すぐに信用してもらえたようだ。


 とりあえず一安心。一難去って緊張が解け、俺は安堵のため息を吐いた。


「はぁ、よかった。よし、それじゃあナルミさ――――」

「――ちょっと待って」


 ナルミさんに話しかけた俺を、彼女は制した。さっきまでとは全く違う張り詰めた表情で。


「ど、どうした?」

「……他の黒スーツが、また私たちを監視してる」


 ナルミさんは俺にだけ聞こえる小声で言った。


――監視? ナルミさんは周囲を見回す素振りなんてしていなかったはずなのに


「……何でそんなことがわかるんだ?」


 俺も声を細めて聞き返した。


「……気配で。私はそういう生まれだから」


 ナルミさんの生まれ。以前の戦国ゲームで知ったことだがナルミさんの姓でもある一ノ瀬家は忍びの家系だ。くノ一の第六感で察知したということだろう。


 ナルミさんのセンスが正しいならまだ黒スーツが俺たちを見張っている、疑いを解いていないということ。最初に俺たちに話しかけてきた黒スーツが立ち去ったのは俺たちから疑いの目を離したと思わせる演出で、その後に気を抜いた俺たちを別の黒スーツが監視し続けるつもりなのだろう。


 再び全裸磔の刑に処される危機の緊張感が戻ってきた。


「……まだ見られているし、会話も聞かれるかもしれないから、さっきの呼び捨ても継続した方がいい」

「……そうだな。それに、もっと恋人っぽくしていた方がいいかもな」


 俺が咄嗟に出した呼び捨てが裏目に出た。これからしばらくはナルミさんを呼び捨てにしないといけないし、もっと互いに恋人らしく話さないといけない。雑談で英語を口にしてはいけないゲームみたいな難しさがある。話す言葉の一つ一つを慎重に、されど自然体を維持して会話をしないとならない。


 急に緊迫した文化祭に一転した。出来ればここから移動したくない。なるべく会話や行動を増やして下手を打つような機会を増やしたくない。


 だが、そういうわけにもいかない。黒スーツに声をかけられる直前に俺たちは次にどこに行くかという話をしていた。もしその話を聞かれていたのなら、俺たちがどこにもいかずにここでじっとしているのは不自然だ。


 しょうがないからてきとうに校内でも巡ろう。そう思って立ち上がったその瞬間、どこかから大勢の歓声が聞こえてきた。


 今は文化祭の最中。多種多様なイベントが開催されているからどこかから歓声が飛んでくることに違和感はないが、今の歓声は結構近場から飛んできた。現在地は閑散とした裏庭だというのに。


 声が聞こえてきた方、後ろを振り向くと、学校のプールがあった。学校の裏手の木々の中に隠れるように存在するプール。そこに大勢の人が集まっているようだった。


 同じく後ろを振り向いているナルミさんを誘い、プールの方へ足を運んだ。恋人らしく2人で手を繋いで。


 人で混み合って話し声という雑音が飛び交う中、階段を数段上ってプールサイドに着いた。人混みの中ではぐれないように手を繋いだまま。


 プールサイドに上がるとここで何が行われているのか、その全容が明らかとなった。


 水の張ったプールの上、浮き輪の上にバランスよく正座で座った女子生徒がいた。制服のブレザーを脱いで白いワイシャツ姿で水面に浮かんでいる。


 プールサイドには40歳後半か50を超えたくらいのおじさんが3人程立っている。手には拳銃型の安っぽい透明のプラスチックでできた低威力の水鉄砲を持ち、銃口を水面の女子生徒に向けていた。


 プールの端には3段の客席があり、多くの観客に埋め尽くされている。


 上の方にある電光掲示板には30:00と。その下にはこのイベントの司会と思しき女性が。そこそこ美人ではあるが、男にモテるボーナスタイムが終わった30代中盤くらいの女性だ。


「それでは、透け透け水浴びゲーム! スタート!!」


 マイクを握った司会の女性が声を上げる。その声を皮切りに電光掲示板の数値が動き出し、3人のおじさんは水面の女子生徒に水鉄砲を撃ち始める。


 質が悪く水の出が悪い水鉄砲でなるべく多く射水できるように必死に指を動かすおじさんたち。目にも留まらぬ小刻みな指の動きで引き金を連打する。必死なはずなのに、表情は気が抜けたように緩んだ笑みを浮かべている。その指の動きと表情が重なって、俺はなぜか嫌悪感を覚えた。


 水面の上、浮き輪に乗った女子生徒は結構可愛い顔で、そして何より胸が豊満。彼女は手に持った小さい板で水鉄砲の攻撃を必死にガードしていた。が、水は板のガードを掻い潜り、彼女の白いワイシャツを濡らしていく。


 徐々にワイシャツが濡れていき、その下にあるシャツでも肌でもないピンク色の何かが透け始める。女子生徒の顔が火照る。同時におじさんたちの顔も火照った笑みに変化していく。


 俺はその光景を茫然と眺めていると、電光掲示板のブザーが鳴った。


「はーい、そこまでです!!」


 司会の女性が水鉄砲のおじさんたちを制止する。電光掲示板の数字は00:00になっていた。30秒が経過したようだ。


 全身びしょ濡れになり恥じらいの表情を浮かべた女子生徒はピンクの下着が透け、それを両腕で隠している。


 客席で歓声が上がった。その声で俺は客席に目を向ける。


 よくよく見ると観客の客層はほとんどが、それに周りにいる人混みを見ても、9割がおじさんだった。


 全身を潜水用の黒いウェットスーツに包んだイベントスタッフがプールに飛び込み、浮き輪の上で自身の体を抱く女子生徒をプールサイドに移動させる。


 彼女が陸に上がると、水鉄砲を撃っていたおじさん3人がそれぞれ、メモ帳くらいの厚さの札束を彼女に差し出した。彼女はそれを伏し目がちに受け取ると、濡れたシャツも乾かさずにプールから走り去ってしまった。


「な、何をしているんだこれは…………?」


 俺は脳内の疑問がそのまま口からこぼれた。あまりに異様な光景に手を離すことも忘れていたナルミさんの手の平が、いつの間にか熱く汗ばんでいた。


「君たち」


 後ろから声をかけられる。突然のことに驚いて振り返ると――――背後に黒スーツが立っていた。


「君たちが本当に恋人同士だというのならそれを証明してもらうために、今から2人にもこのイベントに参加してもらおう」

「……………………は?」


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