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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第十章 リベンジ・フロム・ヘブン ~恋愛監獄リべフロ学園~
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第90話 ババアのスウィートルーム

 俺とテリヤはクラスメイトが料理の練習をしている教室に戻った。そこでイヌヌとナルミさんに、黒スーツが近くにいて恋人係数を測られそうな時は恋人のフリをしてもらうというお願いを承知してもらえた。


 それから俺とテリヤも料理の練習に加わる。イヌヌとナルミさんに文化祭で出す料理の手順を教えてもらい、4人で一緒に練習に励んだ。メニューはアップルパイやパフェなど、スウィーツが主だった。


 俺はろくに自炊なんてしたことないし、練習を始める前は料理なんて面倒だと思っていた。だが、4人で協力して取り組んでいるうちに意外と面白いと感じるようになっていった。


 時が流れ、気づけば夜になっていた。窓の外は真っ暗で、天井の蛍光灯の光だけが教室を照らす。


 学校の校門が既に閉鎖されてしまっていることと、この日は文化祭の準備で学校に泊まり込むことが許されていたので、俺たちはクラスメイトと共に校内で一夜を明かすことになった。


 クラスメイトは各々、文化祭の出し物であるカフェと化した教室で自分の寝る場所を探したりしている。入学して2日目だから他のクラスメイトと談話している者は少ない。本当にこの学校の異質なスケジュールに振り回されて可哀想だ。


 そんな中、愚麗愛は相変わらずエルハに擦り寄っていた。料理の練習をしている時からずっとそうだ。愚麗愛のエルハへの接近は単に黒スーツを回避するためではなく、本当にエルハに気があるようだ。


 それも当然と言えば当然だ。エルハの髪は艶やかな長い金色で、顔立ちはかなり整っている。世の男が、特に愚麗愛のような自分に自信がある男が放っておくはずもない。


 何を話しているのか盗み聞きすると、愚麗愛は押し付けがましくもエルハに上品な女性の礼節や所作を教えたり、ブランド物の装飾品を身に着けるように強要している。愚麗愛は既にエルハのことを自分の女、自分の所有物だと思い込んでいるようで、完璧主義の気質のある愚麗愛はエルハにも完璧な女であることを望んでいるらしい。


 対するエルハは、ずっとそんな調子の愚麗愛に辟易しているようだった。愚麗愛のあらゆる要求を無愛想に跳ね除けている。


 愚麗愛の押し付けは次第にヒートアップする。


「ほら、このチャネルの高級指輪をはめるんだ。手を出して」

「…………いらない」

「ッ! いいからはめるんだ!」


 言うことを聞かないエルハに痺れを切らした愚麗愛が、エルハの手を掴む。


――まずい、エルハの体に触ったら…………


 愚麗愛に忠告する間もなく、彼の体が宙を舞う。愚麗愛がエルハに触れた瞬間、エルハが愚麗愛の手を掴み返し、愚麗愛をものすごい勢いで放り投げた。


 愚麗愛の体は遠くの黒板まで投げ飛ばされ、叩きつけられる。


 酷い衝撃音が教室中に響き、他のクラスメイトは何事かと愚麗愛やエルハに注目する。黒板付近は衝撃で飛び散った白いチョークの粉が舞い、それが粉雪のように愚麗愛に降りかかる。


 エルハの人に触れると無意識に怪力が発動してしまう能力が災いを招いた。


「なんて野蛮なんだ……品のあるレディ失格だ…………」


 黒板下の教壇にうずくまって文句をこぼす愚麗愛。エルハは自分の体質のせいでこうなったという若干の申し訳なさと周囲の目を集めた気まずさからか、バツが悪そうに俯いている。


「体質なんだからしょうがないだろ」


 俺はそんなエルハを擁護する言葉を愚麗愛に投げかけた。



 それからエルハと愚麗愛の騒動は自然飽和のような形で沈静化し、教室は本来あるべき静かな空間に戻った。夜も深まってきていよいよ就寝体勢に入る生徒も増えてくる。俺もその一人で、一日中文化祭の準備に奔走して疲れた体を休めようと、余ったダンボールを敷いただけの寝床に横になった。


――だが、奴らはそれを許さない。


「「イズミ!!」」


 イヌヌとテリヤが同時に俺を呼ぶ。


「せっかくの学校にお泊りなのにもう寝ちゃうなんてありえないよ!?」

「夜の学校と言ったら肝試しだろ!? 行こうぜ!!」

「レッツゴー!!」


 この時間でもテンションの高い2人。俺は有無を答える隙も与えられぬまま2人に廊下に引きずり出された。


 廊下は照明も消えていて真っ暗だ。イヌヌとテリヤが持つ小さい懐中電灯だけを頼りに真夜中の校内を進む。


 深夜の学校は不気味で恐ろしい…………というわけでもなかった。文化祭前夜のため、廊下や教室が学生たちが作った出し物の装飾や看板に彩られているせいだ。校舎以外の場所も、校庭や裏庭やプールさえも文化祭の催しの準備が施されていた。何もない通常日の深夜の学校なら恐怖を感じただろうが、今日だけは例外。


 それが良いことなのか悪いことなのかはわからないが、少なくともスリルと刺激を求めるイヌヌとテリヤにとっては好ましいことではない。


 俺たちは肝試しと呼ぶにはあまりにも心臓が高鳴らない校内徘徊を続けた。


「つーか何でエルハを誘わずに俺だけ誘ったんだよ」


 盛り上がりに欠ける肝試しに飽きてきた俺は2人に不満をこぼした。俺の質問にイヌヌが答える。


「エルハは一日中愚麗愛の相手をして疲れてそうだったからね。ゆっくり休ませてあげたかったんだ」

「いや、俺も文化祭の準備で疲れてたんだけど?」

「うん…………………………それで?」


 俺の疲労など至極どうでもいいという返答が返ってきた。癇に障る返答で、俺は図らずも眉間にしわが寄ってしまう。


 そんな俺に、今度はテリヤが話しかけてきた。人を小馬鹿にしたような表情で。


「どうしたどうした、そんな怖い顔して。もしかして…………怖くてビビってるのか!?」

「間違いなくビビってるのはお前だよ」


 表情は煽っているが、下半身はガクガクと膝を震わせるテリヤに俺は憐みの目を向けた。


「違う! 俺のこの震えは武者震いだ! ………………フフッ、今から冒す禁忌のことを考えると、魂が震えて収まらねぇんだよッ!!」


 声優張りに感情を込めて叫ぶテリヤ。


「冒す禁忌ってなんだよ?」

「…………これだ」


――バンッ!


 テリヤは彼の背後にある茶色い木の扉を手の平で叩きつけた。学校の雰囲気に馴染んでいない高級感のある扉だ。


「ここは?」

「ここは『凶断(きょうだん)の荒れ魔女』の隠れ家だ」

「校長先生の部屋だね」


 厨二病的表現を用いたテリヤのわかりにくい紹介を、イヌヌが常識人にもわかるように簡潔に翻訳する。


 校長。あのババア校長の校長室か。たしかに荒れ魔女の名が相応しい血色の悪いババアだった。


「今から俺たちはこの荒れ魔女の隠れ家に潜入して、魔女が封印した秘具『老液の凶弾』の回収任務を遂行する。危険な任務になることが見込まれる故に、俺たちの度胸が試されるというわけだ」

「校長室を物色しよう! バレたら一大事だからスリル満点! ってことだね」


 またしてもイヌヌの翻訳が入る。


「物色じゃないイヌヌ。これは魔導師ギルドに依頼された高難易度の重要なクエストなんだ。気を引き締めろ」

「承知したぜリーダー!」

「よし、じゃあ先に行ってくれ。俺は後ろで援護に回る」


 自分から物色の提案をしておいて先にイヌヌに行かせようとするテリヤ。テリヤはイヌヌの背中を押し、イヌヌは校長室のドアノブに手を伸ばす。


「――ちょ、ちょっと待て。中に校長がいるかもしれないだろ!?」


 俺の制止の声に振り返るイヌヌ。


「…………イズミ、これは人類の存続がかかった重要なクエストなんだよ? もう引き返せないよ…………」

「テリヤに影響されるな!」


 真剣な表情で、されどわずかに微笑みを浮かべた儚げな表情でそう告げたイヌヌ。彼女は前を向き、俺の制止も空しくドアノブを捻った。


 扉を少しだけ開き、隙間から顔だけ入れて室内を覗き込むイヌヌ。少ししてイヌヌは手で()のサインを出すと静かに扉を押し開けた。幸いにも中には誰もいなかったようだ。


 俺たちは校長室に足を踏み入れ、入り口近くにあった照明のスイッチを入れる。室内が暖色の温かい光に包まれ、革製のソファやダークブラウンの木の机のような高級感のある内装が目の前に広がった。


「よーし、手分けしていろいろ漁ってみよー!」

「ああ、『老液の凶弾』を見つけたら俺に教えてくれ」


 そう言うとイヌヌとテリヤは各々部屋中を物色し始めた。本棚や机の引き出しを片っ端から開けていく。


…………物色するのはいいけど、これ元に戻せるんだろうな?


 今は校長がいないからと言っても部屋の状態を物色する前の状態に完璧に戻せなければ、何者かが部屋を漁ったことに気づかれるかもしれない。


 一抹の不安を覚えつつ、俺だけは我関せずの態度で見守っていた。もし万が一物色がバレて犯罪沙汰になったとしても指紋さえ残さなければ、証拠さえなければ罪に問われることはないだろう。こいつら2人は前科者になっても俺だけは助かる。


「………………っていうか。老液の凶弾の『老液』ってなんなんだよ。何かキモイわ」


 俺はさっきから結構気になっていたことをテリヤに尋ねた。凶弾は何となく弾丸の類いだと想像できるが老液ってなんだ。


「老液は()()()()滲み出てくる少し塩味と酸味を帯びた液体のことだ」

「ほんとにキモイな」


 老婆から、を強調して説明するテリヤ。こんなこと聞かなくてもよかったと少し後悔した。


「あ! なんか見つけた! テリヤのお目当てのものかも!」


 机の引き出しを漁っていたイヌヌが突然声を上げた。引き出しで見つけたであろう何かを高らかに掲げている。


「見せてくれ」


 本棚の下段を見ていたテリヤが立ち上がってイヌヌの方に近寄る。俺もイヌヌが見つけたものを見に行った。


「これは…………」


 テリヤが訝しげに顔をしかめる。俺もテリヤが見ているそれを覗き見た。


 イヌヌが拾ったものは赤い縁の写真立てだった。明らかに『凶弾』ではない。中には古く色あせた写真が入っていて、1人の若い女性が写っている。


 その女性は黒いロングヘアで赤い着物を着ている、そこそこ美人だ。いや、ギリギリ美人だ。どれくらいの美人度かというと、街を歩いたらその美貌にすれ違った百人のうち一人が振り返るか振り返らないかくらいの絶妙に微妙な美人。ド田舎に住んでいたら農業か漁業に携わっていて、そこで働くお爺様方に少しだけちやほやされるかされないかくらいの絶妙に微妙な美人。


 この女性が何者なのかはわからないが、この写真からわかることはそれくらいだ。


「――ッ!?」


 ふと、イヌヌが写真を見つけた、机の一番下の大きい引き出しに目を向ける。すると、奥にまだ何かが入っていることに気づいた。それは真っ黒で、少し異質で、このまま見なかったことにする気にはなれない。


「なんかまだ入ってるぞ」


 俺は引き出しの取っ手に手を掛け、手前に引っ張った。引き出しの奥が手前に移動する。それによって奥にあった()()()が明るい照明の元に姿を現した――――――――



「――――ぇ?」


 俺は、言葉を失った。


 多分、イヌヌとテリヤも。時が止まったみたいに俺たちは呼吸も忘れた。


 最初はそれが何なのかわからなかった。黒や茶色の糸が絡まってできた、サイズで言うとサッカーボールより少し小さいくらいの球体が引き出しの奥に押し込まれていた。だが、その正体をすぐに理解した。これは――――――――人間の毛だ。


 多分髪の毛。それらが絡まり合って一つの塊と化している。毛の一本一本には艶があって、生命から抜け落ちてまだ間もないもののように見える。それがかえって薄気味悪さを助長する。


――――なにか、関わってはいけないものを見てしまったような気がした。


 それはイヌヌとテリヤも同じように思ったのだろう。俺たちは無言で引き出しを閉め、物色した箇所を元に戻し、部屋の照明を消す。すぐにその部屋を出た。


 夜も深まって真っ暗になった学校の廊下を足早に進んで俺たちのセーフゾーンへ急ぐ。その間、会話はない。全身から嫌な汗が滲み出るのは気温のせいでも、体を動かしているせいでもない。むしろ体の芯に氷のようなものを感じる。


 階段を上がり、俺たちの教室が見えたところで早足から全力ダッシュに切り替えた。教室に駆け込む。教室はクラスメイト達が寝静まっていて、起きる者はいない。


 静かに、されど慌てて教室の扉を閉めた。それから俺たちは3人で固まり、ダンボールを敷いただけの寝床に転がる。


 辺りは沈黙に包まれ、教室の外で小さい虫や夜の鳥が鳴くような声だけが微かに聞こえる。


「おい、お前ら物色がバレるような痕跡残してないだろうな?」


 俺は小声で2人に囁いた。


「――だ、だだだだだだ大丈夫だッ」


 顎を震わせたテリヤが口を開く。真っ青な顔で。


「と、とりあえず今日のことは忘れて、もう寝よう………………」


 いつも元気なイヌヌも珍しく消沈して、俺たちに背中を向けて就寝体勢に入る。テリヤもガクガクと震えたまま目蓋を閉じる。これは武者震いなんかじゃない。


 俺もぞわぞわと落ち着かない胸騒ぎを必死に意識の外に追い出そうとしながら、ひたすら眠りにつくことだけを考えて目を閉じた。


 ただの遊び半分のはずだった校内の肝試しは、洒落にならない恐怖という手土産を俺たちに託して幕を閉じた。


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