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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第十章 リベンジ・フロム・ヘブン ~恋愛監獄リべフロ学園~
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第88話 千年に一度の逸材 

 次の日、入学式の翌日。


 昨日の入学式が終わった後は俺たち新入生は自宅に帰り、翌日から始まる学校生活に備えた。俺はメイクサードシティに作った自分の家に帰り、早めに床に就いた。


 翌朝。新生活が始まる緊張感からか、いつもは寝起きの悪い俺もすんなりベッドを離れることができた。


 顔を洗い、軽食をとり、学校の制服に着替えて家を出る。


 学校までは徒歩で15分程だ。学校の朝礼が始まるのもあと15分。つまり、時間がない。朝は余裕を持って起きたはずなのにいつの間にか遅刻ギリギリの時間になっている。


 まあ、よくあることだ。走れば間に合う。


 俺は学校へと続く道を駆け足で走った。石の塀が多くて見通しの悪い住宅街の通学路を。そして――


――ドンッ!


 頭と腕に鈍痛が走る。俺は何かにぶつかった。その反動で後ろに尻餅をつく。鞄の中身が衝撃で飛び出した。


「イッテぇ…………」

「す、スミマセンッ!」


 俺が痛みに呻くと女の子の声がした。例えるなら人畜無害な小動物のような声だ。


 声がした前方を見ると、黒いボブカットの髪の女の子が地面に座り込んでいた。リべフロ学園の女子生徒の制服を着ている。俺と同じ学校の子だ。顔は髪に隠れてよく見えないが、口に食べかけの食パンを咥えているのはわかる。


 俺は脇道から走ってきたその女の子とぶつかった。


「し、失礼します…………」


 女の子はすぐに立ち上がると、俺に顔も見せないままあっという間に走り去ってしまった。


 俺は遠退いていく彼女の背中を眺める。


「恋愛ストーリーの導入でよくあるお馴染みのやつじゃん」


 誰に尋ねるわけでもない独り言をぼそりと吐いた。


 気を取り直して俺は学校への道を急ぐ。朝礼5分前に校門を抜け、正面玄関を通り、教室がある3階まで駆け上がった。


 階段を上がって廊下を少し進んだところにある教室。俺が目指していた教室。入り口の戸が開いていたからそのまま中に駆け込んだ。


「イズミ遅い! ギリギリだよっ!」


 入ってすぐにイヌヌの声に歓迎された。


 イヌヌの服装は昨日とは違い、制服のスカートを折って短くしている。ミニスカートスタイルだ。


「ふっ、待たせやがって。邪鬼の偏血の流れるこの右腕もお前の登場を心待ちにしていたぜ」

「おはよーイズミくん」


 テリヤとナルミさんだ。


 回りくどい言葉で俺に声をかけたテリヤは包帯の巻かれた右腕を見せびらかすように露出するため、制服の右腕部分を二の腕辺りで引き千切っていた。首周りはかなり開放的にしており、白いシャツはズボンから出ていて、学生に相応しくない装飾がごつごつしたベルトが隙間から見える。制服の丈は長くてロングコートのように見え、それが絶妙にダサい。


 普遍的で模範的な挨拶をしてきたナルミさんは学校の規定に沿った正しい制服の着方をしている。スカートの長さも胸元のリボンの位置も正常だ。何もかもが狂ったテリヤとは大違い。


 制服の着こなし方一つを見てもそれぞれの個性が如実に表れていた。


 俺が教室に飛び込んですぐに朝礼の始まりを告げるチャイムが鳴る。これもまた懐かしい響きだ。


 俺を含むその他多くの生徒が足早に自分の席に着く。俺の席は教室の真ん中の列の前から2番目だ。


 教室の前の入り口から担任の先生と思しきスーツ姿の女性が現れた。楕円形で薄いフレームの眼鏡を掛け、茶髪の髪は短く後ろに束ねている。


 教壇に上がり、教卓の後ろに立つ先生。


「皆さん、おはようございます」

『おはようございます』

「それでは朝礼を始めていきます」


 感情のない冷えた口調で淡々と話を進める先生。


「早速ですが、今日は転校生がいるので皆さんに紹介します」


 転校生? 今日は学校初日だぞ?


 昨日入学したばかりで初対面のクラスメイトの顔すら覚えていない。それなら転校ではなく同じ日に入学という扱いでいいだろう。


――――ッ!


 俺は転校生という言葉で閃いた。転校生って、今日の朝の通学中に街角でぶつかったアイツか?


 登校中に出会った異性が実は転校生だった。恋愛ストーリーでよくあるお馴染みの展開だ。俺の中で点と点が一つの線で結ばれてベタな展開を形作った。


「それでは紹介します――――転校生、中に入りなさい」


 先生は教室の外、廊下の方に声を飛ばす。


 開けっ放しになっていた教室の入り口から、その『転校生』が現れる。


 ブレザーの制服を着た女子生徒。ハーフアップの金色の髪が風になびく、淡い黄金の瞳の少女。印象に強く残るその姿は間違いなく、俺がよく知るあの人物だった。


「エルハッ!?」


 思わず席を立ってその名を叫んだ。エルハが反応して俺と目を合わせる。


「転校生ってお前かよっ!!」

「………………不満?」


 ジト目で俺を見るエルハ。


「いや不満とかじゃないけど……、てか何でここにいるんだ? お前は怪我が治るまで落妖の城で休んでるはずだったろ?」

「もう治った」


 非常に簡潔に答えるエルハ。怪我から復帰して俺たちの元に馳せ参じたようだ。それにしても復帰が早い。人並外れた怪力を有するエルハは体の回復も常人より早いのかもしれない。


「今日から学校生活を共にするエルハさんです」

「よろしくおねがいします」


 先生が紹介し、エルハは挨拶と共にお辞儀をする。


 先生とエルハの淡々とした転校生紹介が終わり、エルハは先生に指定された席に移動する。


「転校生の件とは別にもう一つ、この朝礼でお知らせすることがあります」


 そう言うと先生は教卓の上の資料に目を移した。


「明日はこの学園の一大行事、文化祭です。今から文化祭の出し物の準備をしてください」

「――――文化祭!? 急すぎだろ! まだみんなクラスメイトと打ち解けてないし、顔と名前すら知らないぞ!?」


 またしても俺は席を立って声を荒らげることになった。


「明日の朝までに文化祭の準備を徹夜でしなさい」


 なぜか命令口調になる先生。


「…………つーか出し物やるのかよ。とんでもねぇブラック学校だな」


 俺は驚きを通り越して呆れ、静かに席に着いた。


 まだ仲良くなってない初対面のクラスメイトと徹夜で準備とか、身体的にも精神的にもきつい。


 先生は読み上げるでもなく生徒に配るわけでもない資料の束をまとめて脇に抱える。


「伝達は以上です。私は出し物の準備には一切手出ししないので皆さんだけで頑張ってください。では、終礼を終わります。さようなら」

「いつから終礼になってた!?」


 俺たちは朝礼を受けていたはずだったがいつのまにか終礼に変わっていた。8時半から始まって現在時刻は8時45分。


 終礼を終え、俺たちは長い長い放課後の時間に突入した。



 先生は教室を退場し、無慈悲に取り残された新入生徒たち。何人かのリーダーシップのある生徒たちが声をかけ合い、生徒たちだけで今後の方針、文化祭の準備について話し合いが始まった。


 驚いたことにこのクラスには入学式で異彩を放っていた首席入学の生徒、雨宮愚麗愛(グレア)がいた。彼は物事の最終判断を下す学級委員がこのクラスに必要という話に持っていき、いつの間にか彼が学級委員の座を言葉巧みに奪い取って話し合いを仕切り出していた。


 俺は文化祭の準備なんて面倒なことはやっていられないから隙を突いて教室を抜け出して帰ろうと試みたが、愚麗愛たちの話をぼーっと聞いているうちに逃げるタイミングを失った。終いには俺が逃げようとしていることに勘付いたイヌヌがさりげなく教室の出入り口に机を積み重ねてバリケードを作り、俺の腕を離れられないようにがっちりホールドした。これで俺はもう逃げられない。


 ちなみにテリヤはその間ずっと話し合いには参加せず、窓辺の壁に寄りかかって物憂げな表情で青い空を眺めていた。いつもの厨二病の発作だろう。


「………………」

「イズミ、何か異論があるのか?」


 俺に目をつける学級委員の愚麗愛。帰るタイミングを逃した俺の不機嫌な感情が顔に出ていたのかもしれない。


「異論なんかねぇよ。主席の愚麗愛」

「愚麗愛さんと呼べ。入学試験で今年度最高得点を叩き出した主席の愚麗愛さんだ。一年に一度の逸材さ」


 愚麗愛は声量はそれほどでもないが良く通る声だ。自分への自信が声色に滲み出ている。


「一年に一度って当たり前だろ。入試なんて毎年あるんだし」

「そう僻まないでくれ。君だって一秒に一度の逸材じゃないか」

「誰が凡人だ」


 本当に心からそう思っていそうな愚麗愛の口調と態度が逆に鼻につく。純粋に無意識に他人を見下している男だ。


「それより、文化祭の出し物はどうするのさ?」


 俺と愚麗愛の間にイヌヌが割って入った。愚麗愛は顎に手を当てて俯く。


「うーん…………そうだな。では、ダンゴムシを丸めてエアガンに詰めて、それで的当てゲームをやろう!」

「お前の倫理観は千年に一度だよ」


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