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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第九章 サムライソウル ~AI戦国ファンタジー~
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第79話 四人で

 私は白吐とイズミ、それからテリヤという青年を含めた四人で行動を共にすることとなった。


 白吐によるとテリヤは信用してもいい人らしい。ただ、


――ゲームテスターのイズミの方は信用していいのだろうか


 ゲームテスターの全員が悪というわけではないかもしれないが、やはり警戒してしまう。実際にテリヤもイズミのことを警戒しているようだった。イズミはそのことをあまり気に留めていない様子だが。


 それに警戒している反面、ナルミやエルハ、それにイズミが染野に来てくれたお陰で私は行動を起こす一歩を踏み出せたというのもあり、ある種の恩も感じている。


 一先ずイズミのことは警戒しながらも彼と行動を共にすることにした。


 私たちは朽ちた廃屋を出ると一旦、白吐の治める国の百嘩に向かい、そこで四人で乗れる白い馬車に乗車した。目指すは奈魅月やエルハ、そして鳥隺(ルツ)が今も戦っているであろう落妖(らくよう)だ。


 馬車に揺られて数時間。モミジとイチョウの舞う紅葉の国、落妖に到着した。


 馬車を降りると早速、目の前に生々しい凄惨な光景が広がった。


 赤や黄色に紅葉した森の中に転がった兵士たちの亡骸。黒い甲冑の炭原兵や、赤と黄色の甲冑の落妖兵が無残な姿で息絶えている。血液を飛び散らせた者や体の一部を欠損した者もいて、その誰もが事切れて静かに眠っている。


 空気に滲んだ血の臭いと命が果てた静けさが異様な雰囲気を醸し出していた。


 そして、その中に一人、この場には場違いと言える()()()()()が兵士たちに混ざって、木に寄りかかるようにして倒れていた。その少女は――――


「――エルハッ!!」


 その少女の存在に気づいたイズミ。彼は叫ぶと同時に彼女に駆け寄った。後にテリヤが続き、私と白吐も追う。


「エルハ! 大丈夫か!? エルハ!」


 イズミが肩を揺さぶり、何度も呼びかける。起きる気配はない。それでも呼吸はしているので気を失っているだけのようだ。目立った外傷は後頭部からの出血くらいだ。おそらく戦闘の最中に頭を打ち付けて気を失ったのだろう。


 それなら後頭部の傷に桜の花びらを押し当て、すり潰した桜の花びらを飲ませれば回復する。


 私はイズミとテリヤに桜の花びらの入った包みと、それと治療法を受け渡した。


 エルハの看護はイズミとテリヤに任せ、私と白吐は先へ進むことにした。イズミの本気でエルハを心配する表情を見るに、この件は彼に任せても大丈夫だろう。


 数多の兵士たちとエルハの惨状から、この場で相当苛烈な戦闘が繰り広げられたことが窺える。森の奥に目を向けると紅葉した木々が根元から切り倒されており、さらに酷い荒れ様になっている。森の木々が切り倒された惨状が連なり、それが何か巨大な獣でも通ったように一本の道となって奥まで続いている。


 私と白吐は荒んだ森の道の方へ歩を進めた。未だ姿の見えない奈魅月と鳥隺の行方を追うために。


 道中、白吐がおもむろに呟いた。


「お姉ちゃん。こんな時にする話じゃないのかもしれないけど………………鳥隺って昔から、よくわからないけど理由もなく急に機嫌がすごく悪くなったり、気性が荒くなったりすることが多かった気がする。普段は穏やかで優しいんだけど…………」


 控えめな口調で発された彼女の見解に私も同調した。


「うん。それは私も感じてた。本当に理由らしい理由もなく豹変したりするんだよね」


 一緒に暮らしていた当時は口に出して言えなかったことだが、時が経って冷静に自分たちのことを思い返せるようになった今、当時心の奥底にあった思いや考えも互いに打ち明けられるようになった。


 鳥隺に関する私たちの共通認識。


 私たちはそんな会話を交えながら進んだ。先に進むほど周囲の森の状態は悲惨なものになっていく。兵士の亡骸はこの辺りにはないが、木々や地面に刻まれた生々しい斬撃の痕が増えていく。


 そしてついに、森の奥から激しく交わりあう剣撃の音が聞こえてきた。おそらく私たちが探し求めていた二人が対立している音だ。ぶつかり合う金属音の一つ一つが周囲に轟き耳を鋭く(つんざ)く。


 私と白吐は顔を見合わせた。わずかな不安と高揚が混じった白吐と目が合う。同じことを思ったであろう私たちは、足早に駆けて音のする方へ向かった。


 紅葉の森を抜けた。木々が切り倒されて開けた空間と化していた切り株だらけの広場に、奈魅月と鳥隺はいた。二人とも刀を手にした状態で対峙している。鳥隺は赤い刀と黄色い刀の二刀流だ。


 二人とも体中が斬られた痕や泥の汚れでボロボロになっていて、特に奈魅月の方が傷が多いように見える。全身真っ黒の姿の至る所から赤い鮮血を流している様が痛ましい。


 本当に久しぶりに目にした鳥隺の姿は、身長が伸びたことと体つきが良くなったこと以外、幼少期とほとんど変わりなかった。どちらかと言うと彼は童顔だから余計にそう感じるのかもしれない。だが唯一、彼の頭の頂点から伸びた一房の細く黄色い髪の毛束は幼少期にはなかったもので印象的に見えた。


 私たちの存在に気づいた奈魅月と鳥隺が振り返る。鳥隺が大きく口を開いた。


「お前らァ! 久しぶりだな!!」


 口角の歪んだ笑みを向ける鳥隺。息は荒く、赤と黄色の二つの瞳がギラギラしている。いつもの穏やかな鳥隺ではないことは明白だ。


 鳥隺の気性が荒くなる時は理由もなく唐突にそうなるパターンだけではなく、彼が刀を両手に二本持つ二刀流になった時もそうだった。それも昔から変わらない。


「鳥隺、懐かしいね。こうして私たち四人が集まるのも………………」


 大人になってから兄弟で集まったのはこれが初めてだ。みんな昔と変わらないところや変わってしまったところはあるけれど、また家族で一つの場所に集えただけで私の心は少し高揚した。


 私は鳥隺の目を見て言葉を紡いだ。


「私たちはあなたと仲直りしたいの。白吐と奈魅月とはもう和解した。あとは鳥隺だけ…………。鳥隺…………お願い――」

「断る。俺はお前らとは一緒にいたくない」


 私が話し終わる寸前に食い気味に拒絶を露わにした鳥隺。


 鳥隺は両手の刀に付いた赤い血液と黒い石油の汚れを振り払う。そして、より一層厳しい目つきで私を睨みつけた。


「今すぐ自分の国に変えれ、涙華。兵も撤退させろ。もしそれを拒否するなら………………お前らは惨めな肉塊になって国に返されることになる」


 鳥隺の重く冷酷な殺気が広がる。


 ここで私たちが引いたらもう二度と鳥隺と復縁する好機はやってこない。そんな気がした。だから、


 今は戦うしかない。彼の殺意と反発を全力で受け止めることが彼との関係を修復することに繋がると信じて。


 私は刀を引き抜いた。白吐も後に続く。


「おお、ヤル気か?」


 鳥隺は豪快に口角を吊り上げた。


 私は地を駆けて鳥隺との距離を一気に縮める。刀を右から左に、左から右に振り切る。素早い連撃を駆使して鳥隺に幾度も斬りかかるが、鳥隺は二振りの刀ですべての剣撃をいなしていく。


 私の連撃にも対応する二つの刃。されどその一刃一刃は非常に重く、まともに受け止めたら体が宙に浮いて突き飛ばされそうになる。象に突進でもされるほどの力が交えた刃から伝わってくる。この刃が周囲の木々を切り倒したのだろう。


 鳥隺は他を圧倒する筋力と両手を器用に使う二刀流を組み合わせることで、攻撃の手数と一撃ごとの強度の両方を備え持った隙のない厄介な強敵。戦いの才に恵まれた武人だ。


 鳥隺に圧倒されて半歩下がった私の背後から、白吐が忍び寄る。


 私は咄嗟に()け反って姿勢を低くし、その上を――――白吐の放つ鋭い一刃が飛ぶ。


 目にも留まらぬ白い斬撃。鳥隺は二振りの刀で受け止めた。衝撃で地面のモミジやイチョウが舞う。私の背後という死角から突然現れた白吐の居合切りに、鳥隺は文句の付けようがない的確な対応をした。


 鳥隺の背後に黒い影が顕在する。鳥隺の操る石油の黒だ。


 石油が自在に蠢いて、白吐を模した真っ黒の人影に姿を変える。


 奈魅月の石油はただ鞭のように伸ばすだけでなく、何か物の姿を(かたど)って変幻自在に操ることも出来るようだ。


 黒い白吐が刀の柄を握って居合切りの構えに入る。そして、ものすごい速さで刀が引き抜かれる――――それよりも先に鳥隺の赤い刃が黒い白吐を一刀両断した。黒い体は液状に戻って地面に崩れる。


 間髪入れずに奈魅月の黒刀が鳥隺に迫る。鳥隺は黒い白吐を裂いた後、流れるように動いて黄色い刃で迫る黒刀を退けた。


 次いで、地面から跳び上がった石油の黒い蛇が鳥隺を襲う。鳥隺を取り囲うように現れた八匹ほどの蛇に彼は対応する。だがすべてを捌き切れず、蛇の一匹が鳥隺の右肩に噛みついた。


 さらに、私も彼に刃を向ける。鳥隺は私が放った連撃のすべてに対抗することはできず、斬撃は彼の左腕と右脚に浅い裂傷を加えた。


 三対一の状況でも強い鳥隺。だけど、さすがに私たち三人を相手にするのは厳しいようだ。その後も鳥隺が押され気味の戦いが続く。刀の交わり合う音と荒い呼吸の音だけが紅葉した森の中で響いた。


 再び、白吐の鋭い一太刀を鳥隺は受け止める。後に奈魅月が続く。


 奈魅月が刀を振り下ろす前に、鳥隺は彼の腹部を蹴り飛ばした。後方に吹っ飛び、紅葉した葉の絨毯の上を転がる。


 奈魅月を一時戦線から離脱させることで鳥隺は退路を見出した。鳥隺を取り囲んでいた私たち三人のうちの奈魅月の方に鳥隺は走り、そのまま鳥隺は地を転がった奈魅月の横を通り過ぎた。


 鳥隺は森の中、近くにそびえ立っている見張り塔へ駆けた。戦況の不利を感じて私たちと距離を取るつもりだ。


 私と白吐は奈魅月に手を差し伸べ、彼を起き上がらせ三人で鳥隺の後を追った。


 塔に入り、逃げながら刀を振るう鳥隺との戦闘が始まる。木の階段を駆け上がり、時折振り返って刃を振りかざす鳥隺。三人で囲んでいた時と違い、幅の狭い階段で追いかけながらの戦闘では必然的に一対一の戦いになり、今度はこっちが不利になる。


 先頭を進んでいた私がすべての攻撃を受け止めていたが、鳥隺の重い一撃で突き飛ばされ、階下に落下した。私に構わず鳥隺を追う白吐と奈魅月も鳥隺の迎撃に苦戦し、体に傷を刻んでいく。


 そうしてボロボロになりながらも、私たちは鳥隺を塔の最上階まで追い詰めた。最上階は全方位が見渡せる屋根付きの見張り台となっていた。紅葉した森が上から見渡せる。


 追い詰められた鳥隺。壁から伸びた黒い石油が鳥隺の持つ黄色い刀に纏わり、奪い取った。


 白吐が抜刀による素早い一撃を放つ。鳥隺はそれを、刀を握る白吐の手首に手の平をぶつける掌打によって弾いた。


 もう余裕がない鳥隺の隙を突き、私は彼が握っていたもう一方の赤い刀も弾き飛ばした。飛んでいった赤い刀が音を立てて床の上を跳ねる。


 武器を失い、両手の空いた鳥隺はようやく大人しくなった。三対一の戦闘は唐突に終わりを迎え、辺りは静寂に包まれる。


「これでもう戦えないね」

「…………………………」


 私が声を掛けるも、鳥隺は無言を貫いた。鳥隺は背後の壁に寄りかかり、そのまま滑り落ちるように床に崩れる。


 戦闘の緊張感から解放された奈魅月と白吐はゆっくりと刀を鞘に収めて荒くなった呼吸を整えた。私も刀を収め、鳥隺も私たちに向けていた敵対心を静めていた。


 俯いていた鳥隺が顔を上げ、体中傷だらけになった私たち一人一人に目を向ける。


「みんな、ごめん…………たくさん傷つけて………………」


 弱々しい声が鳥隺の口から漏れた。


「平気よ。これくらいの傷」


 言い捨てるような冷たい口調で白吐は鳥隺から顔を背けた。けれどその声色は憂いや安堵を帯びているように聞こえた。


「まぁ、涙華にやられたデカい胸の傷よりはずっとマシだぜ!」


 奈魅月はいつもの人にちょっかいをかける時のニヤニヤした表情を私に向けた。炭原での奈魅月との戦いの際に彼を斬ったことで、私に後ろめたさを感じさせたいらしい。


 私は奈魅月を無視して鳥隺に手を差し伸べた。


「傷ついたことなんて私たち気にしないから。だから、仲直りしよ?」


 久しぶりに会した私たち兄弟の間にはいつの間にか穏やかな時が流れていた。それでも、


「本当にごめん、傷つけたことも………………それに、今までのことも……」


 鳥隺の表情は未だ晴れない。悲しみを孕んだ表情のまま、深い悔恨の念に陥っている。


「なぁ鳥隺、鳥隺は何で急にキレたり、逆に急にテンション下がったりするんだ?」


 奈魅月が鳥隺の核心を突く質問をした。鳥隺の言う「今までのこと」と言うのもそのことについてだろう。それは私も、そしておそらく白吐も察していた。鳥隺は気性が荒くなるだけでなく、逆に異様なほど落ち込むようなことも度々あった。


 突然の奈魅月の問いかけに意表を突かれて顔を強張らせていた鳥隺だったが、すぐに柔らかい表情に戻って口を開いた。鳥隺の口から、彼の()()について語られる。


「俺は昔から、感情のコントロールができなくなることがよくあったんだ。理由はわからないけど、急にイライラした気分が抑えられなくなるし、逆にある時は、自分ではどうしようもない鬱屈とした気分から抜け出せなくなるんだ。それに、刀を両手に持った時もやたらと気分が高揚する」


 鳥隺自身も突然感情が変化する理由がわかっていないらしい。


 それから鳥隺の懺悔が続く。


「こんな感情がでたらめな俺のせいでお前らとはよく喧嘩ばっかしてたし、それで結局兄ちゃんは、夕舞(ユウマ)は死んでしまった……………………俺のせいで夕舞は死んだんだ………………」

「鳥隺のせいじゃないよ。あれは誰のせいでもない」


 私は強い口調で鳥隺の発言を否定した。


「でも強いて言うなら、鳥隺のその心の性質のこと。私たちに相談してくれればよかったのに。そうしたら私たちはいろいろ対応したはずだよ?」


 私がそう告げると鳥隺は、


「………………怖かったんだ。このことを打ち明けてみんなに拒絶されるのが、怖くて言えなかったんだッ!」


 私たちを見上げる鳥隺の両目から涙がこぼれた。声は震え、表情は、


「拒絶なんてするわけない。全部受け止めるよ。鳥隺のこと」


 私は震える鳥隺の体を抱きしめた。鳥隺が感じている恐怖がただの思い込みだとわからせるために。白吐と奈魅月も傍に寄り添った。鳥隺の背中に手を回すと、鳥隺も私の背中に手を回した。


「俺のせいでみんなが喧嘩するから、俺はみんなと一緒にいられないと思ったんだ…………だから…………」


 鳥隺の感情が、心の奥に押し詰めていたあらゆる思いが彼の口から溢れ出てくる。


「一緒にいようよ。だって私たち、家族でしょ?」


 私はより一層強く抱きしめた。


 それからしばらくの間、四人でそのまま固まっていた。時の流れも忘れて。離れ離れだった今までの空虚な時を埋めるように。



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