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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第九章 サムライソウル ~AI戦国ファンタジー~
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第77話 冬の桜

!ここからまたしばらく涙華視点です!


pixivでキャラのイラストを投稿しています→ https://www.pixiv.net/users/73175331/illustrations/%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A033


 私は大怪我を負ったイズミの治療を済ませた後、彼と別れて激しい雪が降る北の国へ進んだ。


 北には雪の降り荒ぶ白銀の国、『百嘩(ひゃっか)』がある。そこには百嘩を統率する武将であり、私の妹でもある白吐(ハクト)がいる。


 百嘩や落妖との混戦となった現状、私は白吐と和解して百嘩の兵を引いてもらう交渉のために彼女の元へ向かっていた。


 白い馬に跨り積雪の中を進んでいると、次第に降っていた粉雪は激しい吹雪へと変わった。私の乗っていた馬は寒さに弱い子だったのでこれ以上極寒の中を歩かせるのは危険だと判断し、私は下馬して、馬には来た道を戻らせた。この子は賢いから雪に押された蹄のスタンプを辿って自力で元の場所まで帰れる。


 馬に別れを告げた後、私は一人になった。分厚い積雪に足を取られながら、激しさを増していく吹雪に全身を凍えさせながら歩んだ。体の骨の内から冷えるような寒さの中を、気を強く持って進んだ。


 感情と皮膚の感触を殺してしばらく歩み続けると、白い世界の中にぽつんと浮かぶ一つの灯りが目に留まった。歩を進めるたびにその暖色の灯りは増えていく。


 灯りの正体は石灯籠の灯火だった。さらに近づくと周囲に分厚い雪を被った平屋の建物が散見された。遠目からでは白い世界に隠されていてその集落を視認できなかった。また、周りには白い湯気が立ち上る水溜まりが、地に積もった雪をくり抜く穴のように点在し、集落の奥の遠方には天高くそびえる百嘩の城が見えた。


 話で聞いたことがある。ここは白銀の城を背に構える、百嘩城城下の温泉街だ。


 酷い吹雪のせいか、人の姿は全くない。だが、白い吹雪に包まれた温泉街の奥から、ただならぬ威圧感を放つ存在がこちらに近づいて来るのを感じた。


――白く閉ざされた視界の奥から、全身真っ白の女が現れた。


 ただ、本当に全身真っ白なわけではない。白い雪を被った髪の毛は、本当は淡い水色の髪だ。何故そんなことがわかるのか。それは――――彼女が私の妹、白吐だからだ。


 白吐の淡い瞳は確実に私の姿を捉え、歩み近づいてくる。


「久しぶりね、白吐」


 十年以上の年月を経て再び対面した彼女の姿は、随所に幼少期の面影を残しつつ、雪景色が良く映える綺麗な姿に成長していた。通常なら白と赤だが配色が異なり、白と青で統一された巫女装束のような衣装で、腰には白い刀を下げている。右頬には赤いフェイスペイントが、左目は黒い眼帯で隠している。前髪は横に切り揃えていて、後ろ髪はおさげになっていて後頭部左右に束ねられている。口から吐く息が白く宙を漂い消えた。


「大きくなったね、白吐」

「………………こんな極寒の地に、何しに来たの?」


 白吐が口を開く。体温を感じない冷ややかな口調で、私が歓迎されていないのがよくわかる。


「白吐、あなたと話をしに来たの。私はまた、昔みたいに家族と一緒にいたいの、だから……………………」


 私が言葉選びに悩んでいると、


「それは無理」


 白吐は突き放すような口振りで拒絶の意を示した。


 私は大方その返答を予想出来ていたので、冷静にその理由を聞いた。


「どうして?」

「ッ………………理由なんてどうでもいい。私は、もう一緒にいたくないの」


 何か言い淀んだが、それでも拒絶を続ける白吐。


「そんなの、納得できないよ。ずっと一緒にいようって約束したのに…………」

「納得なんてしてもらう必要はない。力尽くで追い払ってあげる」


 白吐が両手を顔の前に持っていき、息で手の平を温めた。白い息が手の平の隙から漏れる。彼女がよくやる癖だ。


 白吐は温めた白い手で、腰に提げた白い刀をゆっくり引き抜く。金属の擦れる音と共に鋭い刀身が剥き出しになった。


 臨戦態勢に移った白吐。もう話し合いができる状態ではない。


 私は指で目元をなぞり、それから白吐同様に己の刀を引き抜いた。気を抜いたら、甘さを見せたら私が命を取られる。


 白吐が前に踏み出した。一瞬で間合いを詰めて、閃光の如く鋭い横振りの斬撃を放つ。


 咄嗟の反応で私はそれをいなした。もし今の一撃をまともにくらっていたら、体が上半身と下半身で綺麗に分断されていたはずだ。


 隙を見て、今度は私が一刹那のうちに三連撃をお見舞いした。一撃目は刀でガードされ、二撃目は身をよじって躱され、三撃目は刀の先端が白吐の白い腕を掠めた。


 白吐はわずかに顔をしかめたが、怯むことなく反撃に出る。再び、まともに受けたら致命傷は避けられない一撃。


 間一髪。あまりにも速い斬撃で視認できなかったが、本能に従って寸前のところで刀を這わせて受け流す。


 白吐の一撃は恐ろしいほど速いが、刀を交えた際に刀身から伝わる衝撃はそれほど重くない。力ではなく技術で、完全に目の前の者を切断することにのみ特化した斬撃。目や耳が追いつかない、まるで真空の中を走る刃だ。


 それから私と白吐は積もった白粉の上で刀を交えた。互いに地面に足を取られる。だが、白吐の方がこの環境に幾分か慣れているせいか、彼女の方が足の運びが安定しているように思えた。


 私が細かい連撃を繰り出す戦闘スタイルなのに対し、白吐は相手の隙を突いて確実に仕留める最速の一撃を放つことに比重を置いていた。私は常に寸前のところで白吐の一撃を躱していたが、白吐は私の連撃を捌き切れず、全身に切り傷が目立ち始めた。


 身体の傷だけ見れば私の方が優勢だが、積もった雪の上での戦闘への慣れという点では白吐が優位だった。故に、私は微塵も油断できる状況ではない。むしろ窮地に立たされているような威圧感に押されていた。


 状況を変えるべく、私は集落の方へ走った。その中の一軒に目をつけ、障子を蹴破り中に踏み入った。白吐も追従する。


 木を組んで建てられた平屋の中は、薪のくべられた囲炉裏に火が灯っていた。けれど人の姿はない。


 土足のまま畳に上がり、後ろから迫る白吐の一撃を前に転がって回避した。


 振り向きざまに、迫る白吐のもう一振りを弾き返した。


 積雪の上から畳に移り、足元が安定する。私と白吐は炎に淡く照らされた屋内で対面した。


「このままじゃ埒が明かない」


 私の刃で全身に薄い傷を負った白吐はそう言うと、白い刀を鞘に収めた。柄は右手に握ったまま、左手で鞘を押さえる。戦意はまだ収めていない様子だ。


 そのまま白吐は目を閉じて、わずかに腰をかがめる。彼女は全身の神経を研ぎ澄ませているようで、辺りは静まり返る。周囲が肌寒くなり、囲炉裏の火が弾ける音だけが鼓膜に届く。


 そして、白吐は目を見開いて――――――



 私は、腹部に違和感を覚えた。


 その違和感はすぐに激しい痛みへと変化し、腹部を右から左に走った。


 気が付けば私は口から血を吐き、畳の上に片膝をついた。口からこぼれた液体が自身の着物を汚していく。全身の血の気が引いていき、体に力が入らなくなる。視界と思考がぼやける。


 白吐の抜刀は目視できないほどの速さで私に牙を剥いた。私を見下ろす白吐が握る刀には、ついさっきまで私の体内を流れていたはずの赤い液体が滴っていた。


 目にも留まらぬ大技を決めた白吐は、硬直している。その隙を突く。


 私は自分に残された力を振り絞って、白吐の持つ刀を弾き飛ばした。酷い音を立てて白吐の刀は飛んでいき、天井の梁に突き刺さった。


「あ………………ぁ…………」


 青ざめた顔で私を見下ろす白吐は言葉にならない声を発し、目の前で両膝をつく。


 私はもう耐えられなくなり、畳に仰向けに倒れた。


 白吐が震える唇で言葉を紡ぐ。


「そんな…………そんな深く斬るつもりじゃなかったの………………。脅しのつもりでやって………………距離を見誤って………………」


 ぶつぶつと言葉を続ける白吐。声も、私を見下ろす瞳も震えている。


 本当は致命傷を負わせる気はなかったらしい。自分の真価を見せつけることで私を脅し、これ以上戦うことなく私を逃げ帰らせようとしたのだろう。


 私の血に塗れた体を抱きかかえる白吐。


「ッ!…………どうしよう…………お姉ちゃんッ………………」


 熱を湛えた瞳で私を見る白吐。先程までの冷たい殺気は完全に消え、白吐の憂いの感情が私に伝わってきた。


「…………強くなったね、白吐」


 私は白吐を心配させないためになるべく気丈に振る舞った。重傷を負ったが、桜の花びらですぐに応急処置すれば死には至らない程度の傷だ。


「こんなケガさせるつもりなかったの………………お姉ちゃん、ごめんなさい…………」


 私の顔にボロボロと涙を零す白吐。


――白吐の私に対する愛情はまだ消えていなかった


 その事実だけで、傷の痛みも忘れられた。


「私は大丈夫だよ白吐。すぐに治療できるから」


 私は白吐に抱えられた仰向けのまま、懐にしまっていた包みを開いて桜の花びらを取り出した。それを赤黒い腹部の裂傷に一枚ずつ重ねていく。


 白吐もすぐに手伝いに入る。それから、二人で応急処置を続けながら白吐と会話を重ねた。



 久しぶりの二人での会話で最初はぎこちなかったが、徐々に話が弾んだ。兄弟と別れた後の出来事やここ最近の近況報告なんかで話題には事欠かなかった。そうして処置が終わる頃には、昔みたいな何のわだかまりもないただの姉妹に戻っていた。私たちはいつの間にか完全に和解していた。


 少し話をするだけでもとの関係に戻れたのに、今まで躊躇して話す機会を全く設けようとしなかった自分の弱さに辟易した。だけど、それ以上に白吐とよりを戻せたことの喜びの方が大きかった。


「それにしても、初めて白吐に剣で負けちゃったよ。強くなるためにいっぱい頑張ったんだね」


 白吐の頭を優しく撫でると、


「そ、そんなことないよ………………」


 不愛想に顔を背けたが、頬を赤く染める白吐。いつもは強気なのに褒められたり優しくされたりすると照れるところは昔から変わっていない。今も変わらず私の可愛い妹だ。


「白吐、こうやってまた、家族みんなと一緒にいたいよ」


 私は久しぶりに触れた妹への愛おしさから、つい本心を漏らした。


「私も……………………でも、師匠は多分無理」


 間を開けて、声色を落として白吐はそう言った。


「どうして?」


 白吐に尋ねるとまた少し間を置いてから口を開いた。


「……………………お姉ちゃん…………。お姉ちゃんに見てもらいたいものがあるの」


 見てもらいたいもの。私は妹の要求を受け入れた。


 白吐は()()()()を見てもらうにはここから移動しないとならないと言う。私はまだ傷が治っていなくて立ち上がることすらままならない状態だから、白吐におんぶしてもらって移動することになった。

 


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