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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第九章 サムライソウル ~AI戦国ファンタジー~
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第75話 永遠のライバル


…………ぅ……う……………………


 俺は胸を刺す痛みで意識を取り戻した。


 周囲で騒々しい雄叫びや馬が地を駆ける音が響く。硝煙のような臭いが鼻腔を刺激する。


 俺はゆっくり、目を開いた。


 周りを見回す。わずかながら地面に雪が積もっていたが、イチョウやモミジなどの紅葉した木々も(まば)らに生えている。


 その空間を獰猛な叫びを上げながら忙しなく往来する兵士たちの姿があった。兵士にはピンクの甲冑の者や真っ黒の甲冑の者もいて、乗馬している者もいる。見たところ染野と炭原の兵士たちだ。


 そして、地面に敷かれた厚い布切れの上に横たわる俺の隣には、正座した桜髪の少女、涙華の姿が。一見無感情に見えるが若干憂いを帯びている真っ直ぐな瞳で目を覚ました俺を覗き込んでいる。


「俺は………………生きてるのか……?」


 俺の呟きに涙華が答えた。


「ええ、瀕死の状態だったけど救出が間に合って、ギリギリね」

「瀕死って…………俺は胸を貫かれたんだぞ。何で助かったんだ……」

「あなたがそうなってからすぐに駆けつけて、桜の花びらで治療したから」


 俺は自身の胸を見下ろすと、ピンクの花弁が胸の傷を塞いでいた。


 その左に目を向ける。切り落とされたはずの左腕が胴体にくっついていて、切断されたところに同じくピンクの花弁を押し当てられている。


 この桜の花びらは染野対炭原の戦いの負傷者の傷や、奈魅月が涙華にやられた傷を治療する際に用いられていたものだ。桜の花びらには高い治癒能力があるとは聞いていたが、まさか胸に空いた穴や切断された腕まで治してしまうとは思っていなかった。


「夜中、最初に奈魅月が、イズミがいなくなっていることに気づいて。部屋中にわずかだけど何者かが侵入した痕跡があったからイズミが攫われたと悟って。それで私たちは侵入者の痕跡を追って鳥隺(ルツ)が治める国、『落妖(らくよう)』まで追跡して何とかイズミを助けられたの」


 そうまでして俺のことを助けてくれたのか。持つべきものは仲間だな。


「ありがとう涙華…………。でも、それじゃあこの周りの慌ただしい雰囲気は何なんだ?」


 俺はもう一度、周囲を往来する兵士たちを見回した。


「イズミを助けた後、落妖の兵士に見つかって、私たち侵入者を追い出そうと攻撃してきた落妖の軍勢が進軍してきたの。それに対抗して私たち染野と炭原も軍を出して…………」

「それでこの現状か」

「いや、それだけじゃなくて…………」


 少し引きつった顔で涙華が続けた。


「私たちと落妖が衝突している間に白吐(ハクト)が治める国、百嘩(ひゃっか)の兵も進軍してきたの。それで、百嘩と落妖の軍勢に挟まれた私たちは兵を分散して、私率いる染野は百嘩と、奈魅月率いる炭原は落妖と現在戦闘中よ」

「なんか、カオスな状況になってんな」


 俺が気を失っている間にそんな混戦になっていたなんて。


 涙華は正座から立ち上がると、


「現在地は百嘩と落妖の国境地点。エルハは奈魅月と一緒に落妖で戦ってる。私は今から百嘩の武将、白吐に話をつけてくるからイズミはここで大人しくしてて。傷は塞いだけどまだ完治してないから、無理は禁物。安静にしててね」


 そう言うと涙華は俺の返答も待たず、白い馬に跨ってあっという間に去ってしまった。


 取り残された俺。この落妖と百嘩に挟まれた激戦の状況で一番安全なのがこの国境地点なのかもしれないけど…………


「安静にしてろと言われても…………」





§





 すぐに暇になったので俺は百嘩の方に行ってみることにした。


 体に負った重傷は桜の花びらによる驚異的な回復速度を見せていて、体を動かしたり捩じったりしてみても切り落とされた左腕の付け根や貫かれた胸にはほとんど痛みを感じなくなっていた。


 俺は腰を上げ、百嘩と落妖の国境地点を後にした。


 百嘩の方へ進めば進むほど、積もる雪は分厚くなっていく。全身の毛を逆立てる寒気が漂う。周囲を慌ただしく行き交っていた兵士たちの姿も見えなくなり、降る雪の量も増していく。


 周囲にある人の姿と言えば、地面に倒れ、無抵抗な体にしんしんと雪を積もらせていく兵士たちだけだった。ピンクの甲冑を纏った兵士と、白い甲冑の兵士がいる。生きているのか死んでいるのかは断定できないが動く様子は全くない。ピンクが染野兵で、白がおそらく百嘩兵だろう。百嘩兵の装備は全身真っ白で、刀身まで白い刀が一面真っ白の雪景色の中でもなぜか印象に残る。


 更に進み続けるとやがて、一歩進むたびに足首まで沈むほどの柔らかい積雪となり、視界を遮るほどの雪が降り始めた。


 静かな雪は激しい吹雪へと変わった。


 体を芯まで凍らせる極寒。外気に剥き出しになった全身の表皮が悲鳴を上げた。思い付きでここまで来てみたがさすがに引き返した方がいいと判断した。これ以上進んでも特にめぼしい発見はないと悟った。


 だが、俺が踵を返そうとしたその時、吹雪の奥に黒い人影が見える。


 20メートルほど遠くにいた人影は俺の方に歩いて来ていて、視界を遮る白いモザイクの中で徐々にその姿が鮮明になっていく。ただひとつわかることは、こんな吹雪の中を一人で歩いている人間はまともじゃないということだけだ。


 人影が接近し、その人相が露わになる。人影は黒いコートに身を包んだ――――テリヤだった。


 久しぶりに会った、常に最強を目指している厨二病少年テリヤ。俺が4つ目にクリアしたゲーム『サタデーポリスマン』で共闘して以来だ。長い前髪で隠れて目元は見えない。


 何で奴がこんなところを歩いているのか。それに、テリヤの様子が少しおかしい気がする。俺は違和感を覚えた。俺は声を掛けようとしたが、それを遮るかの如くテリヤは――――――腰に提げていた刀を抜いた。


 白い刀だった。その刀は、初めてテリヤにあった時にも奴は腰に提げていた。そして、その白い刀は百嘩の兵が持っているものとよく似ていた。


 刀を抜いたテリヤは、積もる雪の中を駆けて俺との距離を詰め――――俺に刀を振りかざした。

 

 振り下ろされる刃。俺は咄嗟にガルムを構えて受け止めた。金属がぶつかり合う振動が腕に響く。


「おい! 急に何するんだ!」


 敵意を宿して俺を睨みつけるテリヤの赤い瞳に向けて叫んだ。


 俺がガルムを振り払うと、その勢いに押されてテリヤは一歩引き下がる。


「イズミ、お前が、ゲームテスターだからだ」


 俺の目を、変わらず睨みつけたままそう言った。平常時よりも低く真剣な声で。


「は? 意味わかんねぇよ。俺がゲームテスターだから何なんだよ?」

「ゲームテスターはこの世界を、インターグラスを崩壊させる存在。だから、俺が始末してやる」


 依然として話が見えないが、俺に殺意を向けていることだけはわかる。テリヤの赤い瞳は氷刃のような冷ややかなものを感じさせる。


「一人で厨二病気取るのは勝手だが、俺を巻き込むな」

「お前、本当に何も知らないんだな。それなら教えてやるよ。ゲームテスターがどういう存在か」


 テリヤは再び刀を顔の正面で構える。戦意を俺に示した。


 この吹雪の中で背中を向けて逃げ出すのは得策ではない。雪に足を取られてまともに走れない。俺は戦うしかない状況に陥った。



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