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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第九章 サムライソウル ~AI戦国ファンタジー~
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第74話 花いちもんめ

pixivでキャラのイラストを投稿しています→ https://www.pixiv.net/users/73175331/illustrations/%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A033


 俺たちは涙華や奈魅月と会話を交え、そこで五つ子の過去の話を聞いたり、今後の自分たちの行動計画を立てた。


 いろいろな話をして、特に奈魅月の、黒い雨の襲撃の際に涙華たちの師匠が城内にいたという話には涙華も驚いていた。それが見間違いならいいが、事実なら師匠がその襲撃に関与している可能性がかなり高いと考えられる。


 多くのことを語り合って疲れた俺たちは、そのまま奈魅月の部屋である王の間に布団を敷いて床に就いた。この部屋にいるのは俺、エルハ、涙華、奈魅月、それと石油の毒にうなされたナルミの五人。みんな思い思いのところに布団を敷いた。涙華は奈魅月の真隣りに敷こうとしていたが、奈魅月はそれを拒否していた。


 俺は疲労が溜まっていてすぐに睡魔に誘われ、意識を失った……………………




――――真夜中、何かに触られる感覚で目を覚ました。


 寝ぼけ眼を開いて周囲を確認すると、暗闇の中で薄らと白い人影に囲まれているのに気付いた。目が少し暗闇に慣れるとその正体がわかる――――その人影は白い布を身に纏った忍者だった。


 俺は声を上げようとしたが、声が出ない。口を何か硬い縄のようなもので塞がれていて、声を出すどころか口で呼吸すらできない。近くで眠っているはずのエルハや涙華に現状を伝えることも出来ない。


 さらに、身動きも取れない。口と同様に体中も縄で縛られている。体を丸めた状態で縛られ、その体勢を変えることができない。いつの間に縛られたのか。寝ている間に縛られたのなら、それで気が付かない俺は間抜けすぎる。


 周囲の白装束の忍びが俺を取り囲む。そのうちの二人が俺の体を抱え上げた。


 俺は動揺して必死にもがいたが、強く体を縛り付ける縄が俺を逃がそうとしない。


 そのまま俺は、拉致された。


 白い忍びの集団は俺を運び、染野と炭原の兵も眠りについて静まり返った城内を我が物顔で進む。その間も俺は全く抵抗できず、為す術がない。


 結局誰にも気づいてもらえないまま忍びの集団は城門から外に出て、俺は運び出された。そうして城門の外に待ち構えていた、白い竹を編んで作られた竹籠に俺は詰められる。


 籠はちょうど人ひとりが入れるほどのサイズで、籠の上部には人が肩に担いで持ち運ぶ用の長い木の棒が括り付けられている。


 白い忍びに白い籠。白で統一された集団だ。


 俺は狭く暗い籠の中で、籠が持ち上げられるのを感じる。そして移動を始めた。ゆらゆらと水平間隔を乱す嫌な揺れに襲われる。もがいても逃げ出せない。俺は誘拐の完全犯罪の手中にまんまと嵌められた。


 今の俺にできることは何もなく、一旦、一切の抵抗を諦めて大人しくしていることにした。突然の出来事による動揺を抑えるためにも。


 だが、そうは言ってもやはり落ち着けるわけがない。どこに連れていかれるのかもわからず、不安ばかりが募っていく。



 しばらく竹籠の中で揺られていると、不意に、「何者だッ!?」と籠の外から声がした。直後、男の断末魔が上がる。続いて二人目、三人目と、複数人が絶叫を上げる始める。


 俺のすぐ近くからもその声が響く。おそらく、この竹籠を担いでいた二人の声だ。


 俺は宙に浮く感覚を覚え、そして、下からの強い衝撃に見舞われた。二人の手から籠が離れて地面に叩きつけられたらしい。


 これはおそらく――――――何者かによる白い忍び達への襲撃だ。


 その何者かが味方なのか敵なのか。籠の中で視界を閉ざされた俺には把握できない。


 外側から、籠の扉が開いた。目の前には――――――赤と黄色で彩られた甲冑を身に纏った兵士が、籠の中を覗き込んでいた。俺を睨みつけるようなその目は絶対に味方の目ではない。


 俺は兵士の奥の、外の景色に目をやった。


 月明かりに照らされた夜空の下、地面や周囲に点々と生えている針葉樹には薄らと雪が積もっている。地面が黒い石油ではないことから、ここはもう炭原の領土ではないことを理解した。そして、白い雪の上には、白に良く映える鮮やかな血を飛び散らせて倒れた白い忍びの姿が何人か目に留まった。


 目の前の兵士と同じ赤黄の甲冑の兵士の姿も何人か見えた。白い忍びはこいつらに襲われたのだろう。


 目の前の甲冑兵は俺の姿を上から下まで一通り眺めた後、籠の扉を閉めた。


 再び何者かに籠が持ち上げられ、また籠は移動を始めた。俺は縛られて身動きが取れないままだ。


 今度は赤黄の兵士に攫われる俺。どうやら奴らも味方ではなかったようだ。





§





 何時間経ったかわからない。夜中なのに、激しく揺れる籠の中で満足に仮眠を取ることも出来ないまま移動し続けた。籠の運び方は白い忍び達よりも乱雑で、より激しい揺れに苛まれ続けた。


 そしてついに、時間の間隔も麻痺したころにようやく籠の揺れが収まる。それと同時に、乱暴に籠が地面に下ろされる。俺は下からの強い衝撃に打たれる。これで二回目だ。


 目的地に着いたらしく、近くにいる兵士が他の何者かと会話をしているのが聞こえる。


 籠の扉が開く。俺は思わず目を細めた。外はもう明るくなっており、強い光が眼球を焼いて痛い。ずっと暗い籠の中にいたから気が付かなかったが、既に夜から朝になっていた。ちょうど俺の視線の先にある、山脈の稜線から顔を覗かせる朝日が眩しい。


 周囲の風景は先程見た雪景色とは打って変わって、赤や黄色に葉が染まった木々が生え連なる紅葉した森林の中だった。モミジやイチョウの葉が絨毯のように地面を埋め尽くしている。冬から秋に季節が巻き戻ったようだった。


「不審人物を連れて参りました」


 先程俺の顔を覗き込んだ甲冑の兵士が口を開き、俺を籠の中から引きずり出す。乱雑に籠から出された俺は顔面で地面を擦ることになった。


「おう、ありがとう」


 比較的若くて快活な男の声がした。


 正面を向くと、風呂椅子くらいの手頃な石の上に腰を下ろした、赤髪の男がいた。


 体と口を縛り付けていた縄は兵士に背後から切り落とされ、俺の体は解放された。ずっと同じ姿勢で狭い籠の中で運ばれていたから肉体的な疲労、それに加えて精神的な疲労の溜まり具合は尋常ではない。


 俺をここまで運んできた兵士たちはどこかへ去ってしまった。


「手荒な真似をして悪いね」


 赤髪の男が少し声のトーンを落として俺に話しかける。


 男は身に纏った黒い着物の袖の部分をたすき掛けで縛り上げていて、赤い刀と黄色い刀、二本の刀を腰に提げている。両目は左右がそれぞれ黄色と赤のオッドアイで、その柔らかい眼差しが俺を眺めている。着物もまた赤と黄色がアクセントカラーになっていて、そして、胴の部分には()の絵が描かれていた。


 俺はその外見から目の前の男が何者なのか、おおよその見当がついた。


「もしかして、『鳥隺(ルツ)』か?」

「お? 何で知ってるんだ??」


 目の前の男は涙華の過去の話で登場した五つ子の一人、鳥隺だった。


 鳥隺は首を傾げて頭上に疑問符を浮かべる。俺は鳥隺に聞かれたことに答えた。


「涙華から聞いたんだ。五つ子の名前と、それと過去に何があったか」

「へぇ、そうなんだ」


 微かに笑みを湛えた表情を変えずに相槌を打つ鳥隺。物腰柔らかい雰囲気を変わらず漂わせている。


「で、君は何者?」

「俺はゲームテスターのイズミだ………………。涙華は、離れ離れになった兄弟の絆を修復したがっているんだ。奈魅月と涙華は既に和解して、いずれここにも来ると思う。だから、その時は涙華の話を聞いてやってくれないか? それが…………涙華の望みなんだ」


 俺は自分を信頼してほしい一心で聞かれていないことまでベラベラと話した。涙華が円滑に家族たちと仲直りするための仲介人の役割を果たすため。そしてそれは結局、俺のゲームクリアという目標の達成に繋がる。


「涙華、か…………。近頃、兄弟たちともう一度出会う瞬間が来るような、そんな予感がしていたんだ」


 鳥隺から好ましい返答が返ってきた。朝の澄んだ空を仰ぎ、懐かしい思い出に浸るように鳥隺は呟いた。


「じゃあ…………和解してくれるのか?」


 俺が期待を込めて尋ねると、


「そっか、なるほどな」


――――ズバッ


 突然、左腕の付け根に激痛が走る。


「――――ッ! あ゛ぁあ゛ッ!!」


 俺は痛みで思わず歪な呻きを上げた。


 目の前の男は変わらず座位のまま。だが、黄色い刀を抜いていて、刀身には赤黒い液体が滴っている。


 足元には――――地面に力なく転がった人間の腕。左腕だ。


 俺は自身の左腕を動かそうと思考しても、左半身にあるはずのものがない。地面に転がっているのは俺の腕だ。


 腕を………………切り落とされた。


 受け入れがたいその事実が、激しい激痛を加速させる。


 俺は絶命前の獣の如く咽び声を上げた。切断面が高熱に苛まれるような痛みに耐えられない。自分でも耳障りな酷い声だったが、人としての品格を気にしている余裕はない。涙も鼻水も溢れる。


――――痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


 なぜ急に腕を斬られたのか理解できない。


 叫び声を上げすぎて喉がガラガラになり、悶え苦しみ気絶する寸前の状態で地面にうずくまった。


 ぼやける視界の中で赤髪の男が口を開く。


「悪いけど、俺はもうあいつらと関わる気はない。次に会ったら敵と見做す。涙華に肩入れする得体の知れないお前もここで殺す」


 出会った時から何も変わらない穏やかな口調だったが、鳥隺が放つ威圧感は穏やかとは正反対の重い殺気だった。


 俺は左肩の断面をどうしようもないまま、気力を振り絞って立ち上がる。殺気から遠ざかるため、半歩後ろに足を下げる。そして、残った右の腕でズボンのポケットからハンマー『ガルム=パンク』を取り出した。


 下手に逃げてもこいつに背中を刺される。ならば、俺には戦うという選択肢しか残っていない。戦ってこいつを討つ。それが俺がこの最悪の状況で生き残るための最良の手段だ。


 失った左腕はもう戻ることはないと悟った。だが、その諦観ゆえに異様なほど冷静な思考ができているように感じる。


 正直、俺が腕を斬られた瞬間、鳥隺の抜刀を全く視認できなかった。その事実は鳥隺かなりの強者であることと、俺と鳥隺の戦闘能力の差を明確に表している。


 ならば、こっちは()()()を使うしかない。


 俺だって弱いままじゃない。俺は今まで数多くのゲームをクリアしてきて、そこで得たダイヤモンドトロフィーを体に取り入れることで経験値を稼いできた。その経験値が溜まったことで役職ハンマー使いの者が扱える新しい技を習得した。この技に賭けて、目の前の男を仕留めるしかない。


 ゲームの中の世界と言えど、死んだら俺の思考や肉体、存在そのものは世界から消え去る。つまり完全な死だ。だから、絶対に負けられない。こんなところで死にたくはない。


 俺は意を決して目の前の男を視界に定めた。


 ガルムの大きさはポケットサイズのまま、右手のみで、刀を抜刀する前のように腰の位置でガルムを構える。


 全神経、精神を集中する。周囲の時の流れが遅くなったスローモーションの空間にいるような感覚に陥る。


 俺は刀を抜くようなイメージで、ガルムを振る。


 振る過程で、ガルムのサイズを肥大化させる。ガルムを振る勢いに、肥大化によって生じた遠心力が上乗せされ、ガルムの速度が加速する。


 勢いに乗り、推進力が最大に達したところで、目の前にいる標的をガルムが打ち砕く。普通に肥大化させたガルムを振るだけでは放てない強烈な一撃をお見舞いする。居合切りならぬ、『居合撃ち』。


 俺が今出せる最大火力の一撃を赤髪の男に放った。何かにぶつかった手応えはあった。だが――――


――――受け止められた。立ち上がってもう一本の赤い刀を抜き、二刀流となった鳥隺が俺のガルムを両刃で受け止めていた。


 鳥隺は赤い方の刀をくるりと回すと――――――その刃が、俺の胸を貫いた。


「――グ八ッ」


 俺は口から反射的に、どろどろした液体を少量噴き出した。


「く…………そ…………」


 視界が暗くなる。


「危ねぇ、()()で撃たれてたら死んでたかもな」


 鳥隺の独り言に近い呟きが微かに聞こえた。


 そのまま俺の意識は、暗い闇の中に消えた………………



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