表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第九章 サムライソウル ~AI戦国ファンタジー~
74/110

第73話 姉の威厳 

イズミ視点に戻ります

 涙華の長い過去の話を聞き終えた。


「そっか、そんなことがあったのか…………」


 俺は呟いた。隣に座っていたエルハも軽く頷く。


 ナルミさんの父親が亡くなった炭原の襲撃の際に涙華も近くにいたというのには驚いたが、結局涙華はナルミさんが知りたがっていた情報については何も知らなかった。


 話しが終わり、静まり返った部屋の中、眠っていた奈魅月が体をよじった。低い呻き声を出して体を起こす奈魅月。


 俺とエルハは先程戦った強敵の目覚めに身構えた。だが、涙華は身じろぎ一つせずに冷静沈着のまま奈魅月に声を掛けた。


「おはよう、ナミ」


 その声に、奈魅月の体がピクリと反応を示す。奈魅月は涙華の方を振り向いた。


「何してやがる…………」


 寝起きの低い声。涙華はそれに答える。


「ごめんね、手荒な真似はしたくなかったんだけど。怪我は治療しておいたから――――」

「そういうことじゃねぇよ! 何しにこの城に来た!?」


 奈魅月が怒鳴り声を上げた。涙華は、胸に詰まっていたあらゆる感情を押し殺して平静を繕うような声で、言葉を紡いだ。


「…………約束、覚えてる……?」


 約束と言うのは涙華の話で聞いた、兄弟たちと師匠でいつまでもずっと一緒にいるというものだ。


「私は奈魅月と、兄弟と、師匠とまた一緒に暮らしたいの。今になっても、あの頃の幸せだった、みんなと過ごした日々が忘れられないの。それは多分、みんなも同じ気持ちだと私は思ってる。だがら約束を守るために、まずは奈魅月と関係を修復しようと思って私はここに来たの。武力侵略という形をとってまで、ここに来たの。また、家族と一緒にいたいから」


 力強く涙華が訴える。


 奈魅月は動揺したのか、少しの間黙り込んだ。そして、表情に暗い影を落としたまま目を細めて、涙華に一つ問いかけた。さながら強面の尋問官のように。


「炭原が黒い雨に襲われたあの時に、何で涙華たちは城にいなかったんだ」


 奈魅月はさらに言葉を紡ぐ。


「俺はずっと疑ってるんだ。お前らが故意にあの襲撃を企てたって。城が襲われることを知っていたからお前らはあの城から離れていたんじゃないのか? もしそうなら、涙華はもう家族じゃない、敵だ。敵ならこの城から排除しないとならない。俺にはこの城の奴らを守る責任があるんだ」


 奈魅月の目はより一層鋭くなる。視線は涙華に向けているが、意識は自身の寝ていた寝具の隣に置いてある黒刀に向いているのが俺にもわかった。


 涙華の返答次第では奈魅月は刀に手を伸ばしかねない、そんな緊張感が走る。


 だが、涙華は至って冷静だった。そして涼しい顔で一言、


「本当は、そんなこと思ってないんでしょ?」

「あ?」


 奈魅月の額に青筋が立つ。


 涙華、それは返答を間違えたんじゃないか? 


 一触即発の空気に背筋を凍らす俺を他所に、涙華は続ける。


「本気で私たちを疑っているわけじゃない。それは自覚してるでしょ? 私たちがあなたを陥れる理由なんて無いし、あなただって私たち兄弟を心から信頼している。ただ、あなたは、兄弟の中で自分だけ理不尽な目に遭って、そんな姿になってしまったことに憤りを感じて怒っているだけ。それで私たち兄弟に、それと炭原以外の余所者にも八つ当たりしているだけ。いつも自分の怒りを受け止めてくれていた兄弟たちに、甘えているの。あなたは昔からそう。子供みたいに意地を張ってる。いい加減大人になって」


 淡々とした口調だが、話の内容は極めて厳しい指摘だった。


 奈魅月は爆発寸前の怒りを抑える猛獣めいた唸り声を発していた。だが突然、ガスが抜けたみたいにため息をこぼし、口を開いた。


「…………ああ、そうだよ。ガキの頃の俺はあの時、俺だけ酷い目に遭ったのが…………どうしようもなく許せなかったんだ。それを今でも引きずっている。ほんと、ガキみたいに………………」


 奈魅月は弱々しく、涙華の指摘を肯定し、懺悔の言葉を口にした。涙華は淀みない瞳で真っ直ぐ奈魅月を見つめると、


「じゃあ、私と仲直り、してくれる?」


 一拍置いて奈魅月は、


「…………ああ、そうだな………………悪かったな、ルイ姉」


 涙華は一発で奈魅月の本心を射抜く指摘をして、あっという間に仲直りまで導いた。兄弟のことをよく見てきた姉の涙華だからこそできたことだ。


 奈魅月の謝罪と仲直りの同意の言葉を聞いた涙華は、


「…………そう……」


 素っ気無い返事を一つ返した。だけど、その涙華の表情は、今までの涼しい表情ではなかった。顔を赤らめ、瞳は涙で潤んでいる。表情は崩れて今にも泣きだしそうだ。


 そうして涙華は感情が抑えきれなくなって、震えた声で言葉を紡いだ。


「よかった…………本当によかった…………ありがとう、奈魅月……」


 関係を修復できたことの喜びに、ついに涙華の目から涙が溢れた。


「な、泣くんじゃねぇ! お前もガキの頃と変わらず泣き虫じゃねぇか!!」


 奈魅月は動揺して語気を強め、眉間にしわを寄せた。だがそれでも、表情は春の日差しに己の罪を浄化されたような爽やかなものだった。



 それから、完全に蚊帳の外状態だった俺とエルハも会話に加わった。奈魅月は俺たちにも謝罪の言葉を述べ、俺たちは簡単な自己紹介を済ませる。会話が一段落ついたところで、涙華が本題を切り出した。


「それで、ナミ。私たちは鳥隺と白吐と師匠のところにもいこうと思っているんだけど、あなたもついて来てくれる?」


 俺とエルハは五つの国を統一する、ゲームクリアという目的があるから他の国に向かう理由があるが、奈魅月には他国に赴く明確な理由はない。あるとすれば、涙華と同じように家族の関係を修復したい、もしくは涙華の目的を達成する手助けをしたいという理由だが、


「当然ついて行くぜ。久しぶりに兄弟の顔も見てぇしな」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、あっさりと了承する奈魅月。このゲームのラスボスみたいな風格の男が仲間に加わったことの頼もしさは尋常ではない。


 ちなみに、五つの国を天下統一するというゲームのクリア条件は、今思い返すと兄弟たちと師匠の関係を修復するという意味だったようだ。


「ただ――――」


 奈魅月が真剣な表情になって口を開く。


「ルイ姉、わかっているとは思うが、あいつらとも俺と同じように仲を戻せるという保証はない。あいつらにはあいつらの都合がある。師匠に国と地位を与えられて、そこで考え方の変化があったり、俺たち兄弟以上に大切な存在がいるかもしれない。それに師匠は………………」


 柄にもなくまともなことを言い、言葉に詰まる奈魅月。対して涙華の意見や所作はブレる事なく、


「もちろんわかってるよ。私たちが離れていた空白の期間は、私が思っている以上に深い溝になっているだろうし、楽観視は出来ない」


 それを聞いて奈魅月は、


「そうか、それならいい……………………あと、一つ大事な話がある。これはイズミとエルハにとっても大事な話だ」


 奈魅月が俺とエルハにも目を向けた。俺は聞き返す。


「大事な話?」

「ああ。今も染野の兵士と、それとそこに寝ている女を蝕んでいる石油の毒についてだ。」


 奈魅月は、同じ空間で布団に入って息苦しそうに寝息を立てているナルミさんを見た。


「この毒は、普通の治療法じゃ治せない。桜の花びらでもな。あの黒い雨の襲撃で大勢の仲間が毒に侵されて、どんな治療を施してもすべて無駄だったし、それに、自分がこんな姿になったからわかるんだ」


 奈魅月は物憂げな瞳で、自身の真っ黒に染まった手の平を眺めながら続ける。


「この毒は呪いなんだ。治療じゃ治せない。この呪いを解くための手段でやらないと……………………師匠ならこの呪いを解く方法を知っていると思うんだ。だから、そのためにも俺は師匠に会いに行かないと…………」


 そこで、涙華が口を挟む。


「ちょっと待って。その毒が呪いだとして、何で師匠がその呪いを解く方法を知ってるって思うの?」


 俺が抱いた疑問と全く同じことを奈魅月に尋ねた。奈魅月はそれを聞き、少し間を開けてから、静かに口を開いた。


「…………それは…………見たからだ。黒い雨の襲撃の時、この城の中で、そこにいるはずのない()()()姿()を………………」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ