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第61話 私の

 大量のマネキンが現れた寝室から飛び出し、屋敷内の暗い廊下を走り続けた。


 必死に廊下を駆け抜け、体力の限界が来たところで次第に走るペースを落として徒歩に移行した。


 何故マネキンの数が増えたのかはわからないが、この屋敷内に得体の知れない何かがいるのは否定のしようがない事実だ。


 しばらく歩き続けると廊下の端に辿り着いた。両開きの扉で先を塞がれている。扉を開くと隙間から光が漏れる。眩しくて目を細めた。


 俺は扉を押し開けて先へと進んだ。


 扉の先は、広間になっていた。天井が高く、壁際にはレンガ造りの暖炉がある。暖炉の中で煌々と燃えている炎が広い空間を薄ぼんやりと照らしていた。二人掛けや三人掛けのソファーが点在し、床には厚みのある朱色のカーペットが敷かれている。客人を迎え入れる客間のような印象だった。


 そんな広間の中。暖炉の前に置かれた二人掛けのソファーに二つの人影が見えた。暖炉の炎が逆光になっていて見えづらいが、シルエットだけでその二人のおおよその見当がついた。


 俺は二人に近づいて確かめる。そして、俺の予想は半分当たっていた。


「やっと見つけた……………………」


 俺は二人に会えたことで体の力が抜けるような安堵に包まれた。魂が浄化されるようにすら感じた。それほどまでに一人孤独に屋敷内を探索して様々な異常に見舞われたことが精神的疲労になっていたらしい。


 そこにいた二人はネココと()()()だった。二人セットでいるならネココとイヌヌのペアだと予想したが片方はコドクだったから予想は半分正解だ。


 俺はソファーに座って目を閉じているネココとコドクに目を向けた。よく見るとコドクは完全に目を瞑って眠っているようだが、ネココは睡魔に抗うように薄らと目蓋を開いていた。そして俺は気付く。二人のゴスロリアニマルもウラギリと同じように――――――体が半透明になっていることに。


「い、イズミ…………」


 ネココが俺の存在に気づく。


「お前らも体が…………」

「うん……空気が淀んでて、僕たちにはちょっときつくてね…………」


 青ざめた顔に汗を垂らして答えるネココ。無理にでも笑顔を取り繕って心配させまいとしている。言わずともその表情だけで辛いのが伝わる。


 ネココが俺に聞き返した。


「お前ら()、っていうのは…………?」

「この屋敷の中でウラギリにもあったんだ。お前らと同じようにぐったりしてて体が透けてて、それで…………」


 ウラギリが半狂乱状態だったことは口に出せなかった。


「そうなんだ、ウラギリも帰れなかったんだね………………ちょっとまずいね…………」


 ネココの繕った笑顔が苦笑いに変わる。最悪、ウラギリに助けを呼びに行って欲しかったがそれも叶わなかった。


「イヌヌはどうしたんだ? それに何でコドクがここに?」

「えっと、あれからいろいろあってね………………イズミと別れたあの狭い穴の奥で、僕たちは黒い影に遭遇したんだ」

「黒い影?」

「そう、暗くて見づらかったけど、人の形をした黒いなにかが確実にいた。それで僕たちは逃げだしたんだ…………それで、屋敷の中を歩いているうちに僕の体が透けて体力が衰え始めて、道中僕よりも弱っていたコドクと会って…………もう歩くのも難しくなった僕とコドクはここに残って、イヌヌはイズミを探すために今も屋敷内を歩き回ってる…………」

「そうか、イヌヌは一応無事なんだな」


 さらに話を聞くと、コドクは茶色コートの大男が現れて俺たちに置き去りにされた後に、廃屋の中に隠れて大男をやり過ごしたらしい。そして、気づいたらいつの間にか屋敷の中にいたと。体が透明化しつつある状態で。


 ネココが口を開く。


「イヌヌはこの場所に心当たりがあるかもしれない、って言ってた」

「ネココ、イヌヌがどこに向かったか、大体でいいからわかるか?」

「たしか…………農園に行ってみるって言ってた…………」


 農園とはゴスロリアニマルたちの食料を栽培している場所で、屋敷の者が管理しているところだ。


 俺はネココに声を掛けた。


「ネココ、申し訳ないけど今の俺にはお前たちにしてやれることがない。この空気が淀んだエリアから抜け出す道もわからないしな。だから一旦、何か知ってそうなイヌヌと合流してどうすればいいか相談してくる。このエリアを出る以外の方法でお前たちを助ける方法があるかもしれない。それまで、待っててくれるか?」

「うん、僕はもう動けそうにないしね………………むしろこっちからお願いするよ。イヌヌを探して…………僕たちがこのまま消えてしまう前に…………」


 消えてしまう前に、か。ここに住んでいたゴスロリアニマルたちと同じように。


 俺はネココの言葉を受け取り、今やるべきことのために動き出そうとしたその時、


「――あ、最後に」


 ネココが呼び止める。


「これ、僕とイヌヌが探索してるときに拾ったメモ…………。イヌヌはこれを見てこの場所に心当たりがあるかもって言い出したから…………何か重要なことが書いてあるのかも。僕にはよくわからないけど。イズミ、受け取って…………」


 そう言ったネココは二枚の紙切れを俺に差し出した。


 俺は受け取ってさっそく、二枚の紙に目を通した。


 一枚目

――――――――――――――――――――

 問題解決!      8/13


 今年は原因がわからないが農園で実る野菜や果実などが減っていて、深刻な食料不足に頭を悩ませていた。村の人たちに供給できる食料の量が減り、彼らの不満を募らせていた。でも、この件は今日、無事に解決した。


 頭部に赤い布を巻いて顔を隠した茶色いコートの男性が屋敷に訪れた。彼はこの集落の抱えていた問題を察知して私たちの元を訪ねたらしく、栄養促進機なるものを紹介してきた。彼の話によると農園での収穫が減ってしまった原因は、農園の土に含まれる養分が少なくなっているかららしい。そこで、この栄養促進機を使えば土壌に養分が増えて、その土で育った野菜や果物はたくさん実って豊作になると。


 少し値が張ったが、私はその男性から栄養促進機を買い取った。親切なことに促進機を農園に設置する作業まで彼が行ってくれた。


 まだ結果は出ていないが、これで食料不足は解決できるはずだ。


 私の可愛い二人娘、ルンとリンにもお腹いっぱい食べさせてあげられる!


 余談だけど、最近ルンの体も大人に一歩近づいて動物の形態が皮膚に現れ始めた。私の見立てだとあの子はたぶん、爬虫種ね!

                           ロン


――――――――――――――――――――


 署名にロン、と書いてある。この日記を書いたのはルンとリンの母親であるロンという女性らしい。娘二人への愛情も伝わってくる。


 読み終えて改めて見返すと、まだ栄養促進機の効果が表れていないのにもかかわらず日記のタイトルで「問題解決!」と豪語してしまうあたり、あまりに楽観的というか、少し考えが甘い、どこか抜けている女性の印象も感じ取れる。


 そして、ここでもまた茶色コートの男が絡んできている。奴が何かを企てた結果が今のありさまなのか……?


 俺は二枚目の紙にも目を通した。

 

 二枚目

――――――――――――――――――――

 ごめんなさい      9/30


 私の体が一番最初に透明になり始めたけど、結局私は完全に透明になって消え去ることはなかった。でも、その後に体の透明化が始まったママとお姉ちゃんが   消えてしまった。


 きっと私が二人に、私たちは一生健康に暮らせるって、話してしまったから。あのアメの力のことを。だから、呪いが発動してしまったんだ。私のせいで。一生健康に生きられるという力と真逆の呪いが。


 私の家族だけじゃなくて、村の人にも消滅する人が現れた。それと農園での収穫が減っていて村の人たちへの食事の供給が滞っていたことが相まって、屋敷の人が意図的に村人を減らしている、という根も葉もないうわさが広まった。それで、屋敷の人を邪険にしたり恨む人も増えていった。もちろん、私も標的にされることもあった。みんなの人気者になって誰からも好かれるようになるという赤いアメの力と真逆の呪いだ。


 全部、私が喋ってしまったから


 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい

                          ルン


――――――――――――――――――――


 呪いのせい、か……。


 彼女たちが消滅する理由の根本に呪いの影響があるのかはわからない。だが、ネココたちゴスロリアニマルとここに住んでいたゴスロリアニマルは両者とも体が透けていき、最後には消えてしまうという点が共通している。そして、ネココたちの体が透ける理由が空気の淀みのせいだと知った今、ここに住んでいたゴスロリアニマルたちが消滅したのにも空気の淀みが直接的に影響していると考えるべきだろう。


 二枚の紙を読み終えて、一人掛けのソファーに腰掛けていた俺は立ち上がった。俺もイヌヌと同様、これを読んで思うところがある。イヌヌと合流して話をするべきだ。


 俺は広間の出口へ向かう。両開きの扉を開けて広間を出るその瞬間、背後から「ヒヒヒッ」と笑う声がした。


 振り返ると、歪んだ笑みを浮かべたネココが俺を見つめていた。



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