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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第七章 アニマルゴスロリランド ~アニマル×ゴスロリ少女~
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第55話 お前らが助けようって言い出したんじゃん! 

 病気で弱った熊を助けることになった俺たちは、車に乗り込んで熊の元に向かう。ナルミさんが運転して、ウラギリが助手席に座って道案内をした。


 車内は定員オーバーでもう席が空いていなかったので、気絶している魔王を車背部のトランクに無理矢理押し詰めて何とか席を確保した。


 俺はゲームをクリアしてすぐにでも帰りたかったからあまり乗り気ではなかった。


 車内で揺られて数分。車が停止する。目的地に着いたらしい。


 ナルミさんとウラギリが車を降りる。後部座席に座っていた俺やイヌヌも後に続いた。


 車を降りてすぐに、俺は例の病気の熊を目にした。


 ぐったりと地面に伏せている茶色い毛並みの熊。巨大な体躯で、森の王者と呼ぶに相応しい。そして、額には大きい亀裂のような傷跡が走っている。


――――――俺はその傷を見てすぐにわかった。その熊が、俺がこの世界に来て初めて体験したゲーム『サバイバルウォーカー』で俺を襲った熊だと。


 あの時は命からがら逃げられたけど、獣に襲われた恐怖体験は俺の記憶にはっきりと刻まれている。当然、俺を襲ったその獣の身体的特徴も明確に。


「……なんでこいつがここに…………」


 熊を助けるために来たわけだけど、その熊の正体を知ってしまった今、正直、気が進まない。


「では、治療を始めていきます」


 ナルミさんはそう言うと、小さい肩掛けバッグから冗談みたいなデカさの注射器を取り出した。本体は消火器くらいの太さで、針はボールペンの芯くらいの太さがある。


「これを打てば大抵の病気は治ります」


 冗談みたいな注射の効力を平然と言ってのけるナルミさん。そんな万能で都合のいい注射器ありかよ。


「ただ、少しずつゆっくり刺していかないと発作を起こしたりするリスクが高まるので、少々時間がかかります」


 言うが早いか、さっそくナルミさんは注射針の先端を熊の分厚い毛皮に押し当てる。わずかに呻いて体をよじる熊。


 熊はずっと息苦しそうな寝息を立てて体を丸くしている。


 俺は可哀想な熊を助けてやりたいと思う気持ちと、助けて元気になったらまた俺たちを襲ってくるかもしれないという恐怖でどっちつかずの不安定な心境になっていた。


 そんな中、イヌヌが俺に声を掛ける。


「イズミ、この熊と知り合いなの?」


 いつもより声のトーンは低く、柄にもなく人を心配するような瞳で見てくるイヌヌ。さっきの俺の呟きと俺の落ち着かない様子から勘付かれてしまったらしい。俺が抱いた不安感を。


 隠してもしょうがない。俺はそのことを、以前この熊に襲われたことを話すことにした。


「ああ、実はこの前俺は――――」


 俺が口を開いたその時だった。奥の茂みの中で()()()が動いた。茂みが動いた理由は風なんかじゃない。確実に何かがいる。


 直後、考える間もなく、俺たちの前にそれが飛び出してきた。


――――現れたのは巨大な虎だった。


 黒、茶色、白の三色で構成された毛並み。体は俺たちが乗ってきた迷彩柄の車くらい大きい。普通の虎よりも一回り大きい、常識外れのサイズ。


 もはや猛獣を超えて怪獣のような唸り声を轟かす。虎の瞳が、動く者すべてを喰らい尽くそうという闘争心で燃えている。


 俺たちは全員、その場で凍り付いた。時が止まったかのように。規格外の猛獣を前に動ける者はいない。


 虎の視線が衰弱した熊一点に集中する。虎は弱った熊に狙いを定めた。目的は喰らうためか、それとも縄張り争いか。理由はその虎しか知り得ない。


 虎が一歩、前進する。もう一歩前進する。倒れた熊と、怯え震えるナルミさんの元へ。


 ナルミさんはそれでも熊から離れない。恐怖で動けないのか。いや、そうじゃない。治療を途中でやめるわけにはいかないんだ。「絶対に熊の病気を治す」。体は震えているけれど、瞳からはそんな強い意志を感じ取った。


 今もなお、ナルミさんは虎の体躯を凝視しながらも注射器をゆっくりと打ち込み続けている。


 しょうがない。治療には時間がかかる。それまで時間を稼ぐしかない。


 俺はズボンのポケットに手を押し込み、ハンマー『ガルム=パンク』を取り出した。


 ミニサイズになっていたガルムを肥大化させる。


 俺が先陣を切った。虎と熊の間に立ちはだかる。そして、虎の顔面目掛けてガルムを振り払った。


 後ろに飛び退いて躱す虎。俺と虎の視線が交わる。


「お前らァ! ナルミさんの治療が終わるまでみんなで守り切るぞ!」


 俺は全員で熊を守るため、仲間を鼓舞する声援を張り上げた。恐怖で固まった仲間を奮い立たせるために。しかし、


「えー。僕、猫だらか戦えないし」


 ネココが不満をこぼした。ていうか僕っ子だったのか。イヌヌと被ってる。


「男の子なんだからイズミだけで頑張ってよ」


 イヌヌも、ネココの後に続く。


「私は()()()()()()限定だから。攻防がある戦いはちょっとね」

「森に棲む動物はみんな仲間だから、この虎も傷つけるわけにはいかない」


 コドクとウラギリもその後に続いて口を開く。


 みんな、それぞれ理由を述べ連ねて戦いを回避しようとする。否、俺一人に戦いを押し付けようとする。


「何なんだよ! お前らが熊を助けようって言い出したんだろうが!!」


 俺は不満を爆発させて、その熱量に身を任せて虎にもう一振りを仕掛けた。


 虎は野太い腕で軽々と受け止める。


 俺はさらに連撃を重ねたが、それすらも難なく受け流してしまう。さながら猫じゃらしで戯れる猫だ。全力でガルムを振るう俺と相反して、まるで本気にしていない虎。


 いつの間にか、俺と虎の攻防が反転してしまう。攻め続けていた俺の勢いは衰え、いつしか虎の両手から繰り出される猛攻を受け切るだけで精一杯になっていた。


 すべての攻撃を躱しきる余裕はなくなってきた。そんな中、イヌヌとネココの声が聞こえてきた。


「ほら、そんなに言うなら犬の力とやらを解放して戦えばいいんじゃないの? ま、犬の力なんて精々鼻がちょっっっとだけ良くなるだけとかだろうけど」

「僕の力を使うまでもない局面だから戦わないだけだし。君なんて戦わないんじゃなくて戦う力すらないんでしょ? 同じネコ科の動物でも虎と猫、どうしてこんなに差があるんだろうね?」


 罵り合いを続ける二人。やはり犬と猫で仲が悪いらしい。ていうか…………


「ケンカしてないでお前らも戦えよ! 特にイヌヌ! 今はお前の力を使う局面だ!!」


 余裕ないんだ。犬の手も借りたいくらいに。


「――って、うわッ!!」


 イヌヌ達に気を取られて虎から目を離した、その一瞬を突かれた。虎の爪が俺の腕を掠める。皮膚を浅く裂き、避けようと体を反らした勢いで大きくバランスを崩した。


 そのまま、俺は不格好に地面に倒れた。


 虎は俺に追撃を加える、ことはせず、別の方に足を向ける。小走りで駆け出す。


 虎が進んだその先には――――――弱って倒れた熊と、熊を治療するナルミさんがいた。


 最初からそうだった。虎はずっと、衰弱した熊に狙いを定めていた。俺の方に注意が向いてると思い込んで完全に油断した。


 俺はもがくようにして立ち上がった。格好を気にしている場合じゃない。無防備な熊とナルミさんの元に容赦なく虎が迫る。


 地面を蹴って、俺も虎の目指す地点へ向かう。全力で駆ける。幸い、虎は本気で走っているわけではなさそうだった。


 俺は全速力で虎の後を追い、そして――――――――追いつく。


 虎がギラギラと光る牙を剥き、倒れた熊の首に飛びつく寸前、俺がガルムをその間に食い込ませた。


 鋼鉄のガルムに噛みついた虎――――――嚙み砕こうと力んでいるが、さすがに砕けそうもない。


 噛みついた虎を振り払おうとしても、虎がガルムの頭部をしっかりホールドしていて動かない。動けない。


 何もできなくなり、強いて言うならガルムを手放すことしかできなくなったこの俺を、虎の血走った両眼が睨む。今度こそ、標的が俺に変わった。


 俺はどうすることも出来なく、ガルムを手放して虎から距離を取ろうとしたその時――――


――――ガンッ!


 鈍い音がした。


 上から野球ボールくらいの石が降ってきて、虎の脳天に直撃した。


 虎はその衝撃に一瞬怯んで間抜けな呻き声を上げた後、上を見上げる。俺も虎に倣った。


 すると上空に、黒いカラスが飛んでいた。地上から数メートル上で滞空して俺たちを俯瞰している。そのカラスがおそらく、石を落としたのだろう。そして間違いなく、あのカラスは動物の姿に変化した()()()()だ。


 虎が怯んだお陰でガルムが虎の口腔から解放される。


――――ベシンッ!


 今度は虎の背後で何かを叩くような鋭い音が響いた。と、同時に虎が唸りを上げて飛び跳ねた。


 虎の背後には、長い髪の束を手にしたコドクの姿が。髪の鞭で虎の尻に一撃を与えたらしい。


「私たちだって戦えるんだから。みんなで力を合わせれば()()()だしね」


 頬を赤く染めて、感情の昂った満足げな笑みを浮かべるコドク。


 虎が振り返ってコドクの方に体を向ける。コドクに注目し、俺の存在は意識の外に外れたようだった。


 すかさず、俺はガルムで虎の尻をぶん殴る。


 虎は、呻きを通り越して悲鳴を上げた。慌てて俺たちの元から距離を取る。姿勢を低くし、畏怖の対象を前にしたように震えながら俺たちを睨みつける。


「よしっ! じゃあこれで追い払うよ!」


 イヌヌはそう言うと一歩前に進み出て、手の平を天にかざすように振り上げた。


「閃け! ホーリーレグリア!!」


 イヌヌが叫ぶ。その瞬間、イヌヌの手の平から光が溢れ始めた。最初は弱かった白い光が急激に光度を増す。イヌヌの手の上に光の球体が形成され、周囲を焼き尽くさんばかりの光度となる。まるで小さい太陽だ。


「ぐっ、眩しい…………」


 俺は堪らず両手で目を覆った。視界の端でコドクも同じようにしているのが見えた。


 肝心の虎は、今までで最大声量の情けない鳴き声を上げて、その声は次第に遠退いていった。


 イヌヌの「光魔法」が次第に収束する。辺りが見回せる状態になる。そして気付く――――――――虎が完全に姿を消している、と。


 辺りに静寂が流れる。


「………………やった…………追い払ったぞ!!」


 俺は抑えきれない歓喜と戦闘の緊張感からの解放で自然と声を上げた。


「やったね!」


 イヌヌが俺に呼応する。


 みんなで協力した途端、あっという間に撃退することができた。


「全員で力を合わせたお陰だね!」


 ネココも後に続く。


 全員で力を合わせて………………いや、ネココ。お前は何もしていない。


「皆さん! 注射終わりました!」


 ナルミさんが声を上げる。熊の治療が終わったらしい。


 熊は相変わらず地面に伏せたままだが苦しげな様子はなくなり、静かに寝息を立てている。


 コドクもウラギリも、みんな熊の元に集まる。


「皆さんのおかげで治療の時間を稼げました。本当にありがとうございます!」


 全員集まったところでナルミさんはお礼の言葉を述べた。


「で、この後はどうするんだ? 熊はまだ寝てるけど辛そうな感じはなくなったな」

「そうですね。私はもう少しここに残ってこの子の看病を続けようと思います。あとは私だけで大丈夫ですので、皆さんは先に帰ってもいいですよ?」


 いつも通りの屈託のない笑顔でそう言うナルミさん。


「私だけで、って。こんな森の中に一人だけ残していけるわけないだろ」

「いえ、心配される気持ちもわかりますが本当に大丈夫ですので安心してください。それに、イズミさんは一刻も早く帰りたがっているでしょ?」

「――ッ!」


 俺の思いはあっさりと見抜かれていたようだ。


「それを言われちゃったらもう帰るしかないな…………」


 見透かされて、気を使われて帰るように促されて後ろめたさを感じる。


「ですが、帰るついでにもう一つ仕事をお願いしたいんです。今日保護した3人のゴスロリアニマルたちを田島さんのいる拠点まで無事に送り届けてほしいんです」

「ああ、それくらいの仕事なら任せとけ」

「あの車を使ってもらって構わないので」


 ナルミさんが、ここまで来るのに使った迷彩色の車を指差した。


「いや、それじゃあナルミさんはどうやって帰るんだよ」

「私は後で田島さんに迎えに来てもらいます。とりあえず今はゴスロリアニマルたちと、保護の仕事を手伝ってくれたイズミさんたちを帰すことが優先です」

「そっか、じゃあ帰ろー!! 運転は僕ができるから任せて!」


 イヌヌは言うが早いか、颯爽と車の方に駆けていく。ゴスロリアニマルたちも徒歩でその後に続く。


 イヌヌの運転。そこはかとない不安を感じる。


 それでも俺は帰りたい気持ちが先行した。


 ナルミさんは絶対に、さっきの虎が報復でここに戻ってくる可能性やそれ以外の脅威にさらされるリスクについて理解している。だが、ナルミさんは芯のある確かな声で「私は大丈夫」と言った。俺には何故大丈夫なのかわからないが、しっかり者の彼女がそういうのなら大丈夫なのだろう。


 俺は熊のことは全てナルミさんに任せることにして、車の方に歩を向けた。


「あ! イズミさん! 最後に――――」


 何か思い出したかのように声を上げて俺を呼び止めるナルミさん。俺はほぼ反射的に振り返った。


「これを受け取ってください! ゲームクリアの証です。お疲れさまでした!」


 ナルミさんの手に握られていたのは、煌びやかな紫色のダイヤモンドトロフィーだった。


 俺は踵を返してそれを受け取りに行く。


 ナルミさんからその紫の証を受け取った瞬間、地面に倒れていた熊が一瞬だけ、わずかに目蓋を開いてこちらを見たような気がした。



twitter→ https://mobile.twitter.com/bandesierra


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