第54話 罪名・失業罪
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気になる言葉「テリヤキ」の意味は一旦思考の片隅に除けて、俺たちはゴスロリアニマルの保護作業に取り掛かった。幸い、ゴスロリアニマルは魔王に鞭を打つのに夢中で俺たちの存在に気づいていない。
俺はカメラを構え、ナルミさんはネットランチャーを肩に担ぐ。
まずは俺の仕事、撮影。上半身裸で鞭を打たれる魔王の姿込みでゴスロリアニマルの姿をフレームに収める。唸りを上げる鞭が魔王の体に刻みつけられる最高の一瞬を切り取った。ゴスロリアニマルの恍惚とした表情と魔王の苦痛にもがく情けない顔がいい味を出している。
次に、ナルミさんの捕獲作業。ランチャーから放たれたネットがゴスロリアニマルを魔王ごと絡め取る。突然の出来事に悲鳴を上げるゴスロリアニマル、と魔王。ネットに動きを封じられた二人はそのまま引きずられ、車の上に引き上げられる。まるで大量の魚が網に捕らわれて一つの塊となり、塊ごと船上に引き上げられるように。
車上にて、最後にイヌヌの命名が下される。
「命名します! この子の名前は………………『孤毒』ですッ!」
「暗すぎんだろ!」
ご丁寧に漢字での表記を紙に書いて提示するイヌヌ。
孤独の「孤」に劇毒の「毒」。人の名前にしてはあまりにも暗すぎる。まあ、人ではなくヘビの名前と考えたら結構合っているような気もするけど。
ナルミさんがネットを解き、ゴスロリアニマルのコドクと魔王を解放する。
改めてコドクを見てみると髪色は真っ黒ではなく限りなく黒に近い、深い緑色だったことに気づく。陽の光の反射によって髪の緑の艶が強調される。また、髪の一部だけ紫に染まっている。
コドクの服装はゴスロリ風で丈の長いロングスカート。肩や鎖骨部分は露出している。全体的に黒で統一されているが部分的に紫と緑のアクセントカラーが加えられている。
瞳は白に若干薄く紫がかったような澄んだ色。口腔の奥に覗く舌は縦に裂けた二股のスプリットタンになっている。
イヌヌやネココより少し身長が高く、全体的に大人びた印象だけどまだあどけなさも残る、そんな少女だ。
一方、魔王の方に目を向けると――――魔王は気を失って倒れていた。
コドクによる鞭打ちの刑で体力を消耗してしまったのかもしれない。というかそもそも、何故魔王はこんな森の中で少女に鞭で打たれていたのか。
魔王に話を聞きたくても奴はまともに話せる状態ではないから、俺はその疑問をコドクに尋ねた。
「コドク、なんで魔王を…………このおじさんをいじめていたんだ?」
コドクが振り向く。そして、口を開く。
「えーっと、すべて話すと長くなるから手短に話すと――」
魔王をしばいていた時の妖艶な声から変わり、普通の女の子の声で言葉を紡ぐコドク。
「このおじさんは職を失ってしまったらしくて、それでも家族を養わなければならないからアルバイトでこのアニマルゴスロリランドに来たらしいの。そして、ここでのアルバイトの仕事内容は『ゴスロリ少女に鞭で打たれる』というもの」
「どんな仕事だよ」
「あなた達みたいな来訪者が来た際に立派な成人男性がゴスロリアニマルに可愛がられている様を見せつけることで、生きるのが難しいゴスロリアニマルの儚くもたくましい一面をアピールするための引き立て役の仕事。これも一種のエンターテイナー。意外と時給もいいのよ?」
「いや、それでももっとましな仕事あっただろ………………」
魔王が失った職というのはおそらく「魔王業」のことだろう。魔王と戦う前に見た魔王業の広告のことを思い出した。雇用形態はどうなっているんだろう。誰が雇い主なんだろう。
とにかく、俺たちのせいで職を失った魔王も家族のために体を削って頑張っているらしい。
コドクとの話を止め、俺たちはコドクと気絶している魔王も車に乗せて次のゴスロリアニマル探しに出発した。現在、乗員は6人。定員ギリギリの人数だ。もう空きの席はない。車のスピードもわずかに落ちた気がする。
そして5分ほど経った頃。また、動物を見つける。茂る樹木の枝に留まっていたのは――――
「あっ! あそこにカラスがいるよ!」
イヌヌが嬉々とした声を上げた。イヌヌが指差す方を見ると真っ黒なカラスが枝に留まっている。
「ホントですね! あれは珍しい鳥ですよ! よく見つけましたねイヌヌさん!」
ナルミさんも同じように歓喜の声を上げる。
「カラスなんて日本に来ればいつでもどこでも見れるぞ」
てきとうにポテチの袋でも開いて放置しておけば物の数分で集まってくることだろう。そんな、俺にとっては慣れ親しんだ鳥類であるカラスの保護捕獲を始めることになった。
俺が写真を撮り、ナルミさんが木の上にいるカラスにネットランチャーを発射。捕らえたカラスを車に引き上げて、最後はイヌヌの命名。
俺たちは熟練のプロハンターの如き手捌きで一瞬で仕事を終わらせた。あとはイヌヌの命名のみ。
「命名しますッ!………………『裏切り』です!」
「なんでそんな酷い名前ばっか付けるんだよ…………元気だけが取り柄のお前に似合わないネガティブネーミングだな」
今回も漢字での表記を紙に書いて見せるイヌヌ。「裏切り」。知らない人が見たら名前とは認識されないだろう。
可哀想な名前を付けられたカラスのウラギリ。ネットの中からつぶらな瞳で俺を見つめている。そして――――
――――ネココの時と同じように黒いオーラに包まれ、やがて、人の姿に変化した。
黒い気流が晴れ、黒い服のゴスロリ少女が現れた。
例に漏れず黒いドレスで、身長はネココと同じくらいか少し高め。瞳は黄金にも見える綺麗なオレンジ色。髪はわずかに青みがかった黒で、ネココより少し長めで毛先が束になってツンツンしている。
ドレスは濃い青とオレンジがアクセントカラーになっているが、彼女の特筆すべき特徴はそこではない。その特徴とは、右足が細い棒状の義足になっていることと、頭には海賊が被るような羽根付きの三角帽子をかぶっていることだ。ネココより少し背が高めに見えるのはその帽子のせいかもしれない。
「…………………………」
人型になっても変わらず沈黙を貫くウラギリ。
「イズミさん! 珍しい動物3種の保護を達成しました! これでゲームクリアですよ! おめでとうございますッ!」
「おぉ……そうなんだ。今回もあっさり終わったな」
前回のメイクサードシティと同様、今回のゲームも流れに身を任せていたらいつの間にか終わった。人狼ゲームの苦労が嘘みたいだ。
ゲームをクリアして、これで家に帰れる。自分の造った家でやっと休める。俺は安堵と疲労から来るため息を一つこぼした。
――そんな中、何やら浮かない顔つきのウラギリ。元々表情があまり表に出ないクールな顔立ちをしているが、それでも何か気にかかることがある様子なのがわかる。
コドクがウラギリに話しかける。
「どうしたの暗い顔して。何かあったの?」
「…………実は……………………」
ウラギリが口を開く。初めて聞く、雰囲気通りの物静かな声で。
「実は…………森の奥の方で熊が倒れていて、病気で弱っているらしい。あのまま放っておいたら死んでしまう…………」
なるほど、瀕死の熊か。ウラギリが物憂げな表情だったのはそれのせいか。種族は違ったとしても同じ森で共存する仲間だ。弱っている他の動物を気にかけるのはこの森で生活する彼女たちにとって当然なのかもしれない。
熊が弱っている、それは大変な事態だ。でも……………………俺には関係ない。
俺はもう家に帰りたくてしょうがないんだ。ゆっくり休みたい。これ以上寄り道はしたくない。ゲームクリアの証のダイヤトロフィーだけもらってすぐに帰宅する心持ちだった俺には、これ以上何かに首を突っ込む余裕も体力もない。
ウラギリのその後の話、もとい要求が見えた。その熊を助けてほしいと言うんだろう。
申し訳ないとは思いつつも俺は、ウラギリの要求を断ち切るために口を開いた。
「そうか、それは大変だな。でも俺は――――――」
「――――それは大変だね! 助けに行かなきゃ!!」
イヌヌが勢いよく発した声が俺の言葉を遮った。ナルミさんがその後に続く。
「私ならその熊の病気を治せるかもしれません。みんなで行きましょう。全員で力を合わせればそれだけ助けられる可能性も高まります。ウラギリさん、その熊がいる場所に案内してください」
ナルミさんの言葉を聞いたネココ、コドク、ウラギリの三人の表情が晴れ、歓喜の声を上げる。
「よし! それじゃあ出発だー!!」
イヌヌが再び、全員を鼓舞するように声を張り上げた。みんなもそれに呼応する。
もう、「俺は行かない」なんて言えない空気が出来上がってしまった。完全に、全員で熊を助けに行くという共通の意思でみんなが一つになっていた。俺が口を挟む暇もなく。
集団の同調圧力に、俺の思いは抹殺された。




