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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第六章 メイクサードシティ ~脱・根無し草!~
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第50話 立地条件デスロード

 街をしばらく歩き続けていると次第に周りの建物の数が減っていき、広く真っ直ぐな一本道になる。均された土の道だ。


 今までの街の雰囲気とは変わり、直線の道に沿って建物が立ち並んでいて、人や建物の数も少なく閑散としている。街の外れの方に来た感じだった。


 前方を歩いていたイヌヌが振り返る。


「ここはメイクサードシティの中で今、都市開発が進んでいる大通り『ストラスロード』だよ!」

「都市開発中か。だから建物が疎らにしかないのか」


 言われてみれば周りの建物は比較的綺麗で新しいものが多い。道は舗装されていないが。


 イヌヌの説明が入る。


「この辺は僕たちが前に行ったレストラン・タシマとかがある街、クライムトレスシティの近くで、いずれ都市開発が進んだらこのメイクサードシティとクライムトレスシティは隣接することになるらしいよ」


 その後もイヌヌの説明が続く。


 イヌヌは何でも知っている、というわけではない。イヌヌがゲームの説明をするときによく開いている例の白い本を、今も開いている。今聞いた知識はイヌヌの頭に入っているものではなくその本に書かれたものだ。


 そんなイヌヌの説明、もとい白い本の朗読を聞きながら歩いていると、ふと、街の中にあるにしてはかなり異質な建物が俺たちの前に現れた。


――――それは、城だった。


 黒光りする金属と暗い石材で造られた城。頂上からは煌々とした溶岩の滝が流れている。赤い帽子の主人公が敵を踏みつけて倒す某ゲームの敵ボス総本部を彷彿とさせる荒々しい城が、整然とした町の辺境にずっしりと根を下ろしている。


「な、なんだこれは…………?」


 灼熱の溶岩が放つ光と熱気に俺は目を細めた。黒い金属部分が溶岩の光を反射して余計に眩しい。


「これは魔王の城だよッ!」


 イヌヌが答える。


「まおう………………魔王ってまさか、俺たちが倒したアイツのことだったりしないよな…………?」


 俺の頭に浮かんだ魔王とは、ラストファンタジーの最後に俺、エルハ、イヌヌ、テリヤの4人がかりで倒したあの魔王だ。


 城の前に堂々と構える巨大な門。訪れた者を威圧感だけで撃退してしまいそうな凄みのある門の端に小さく、黒い表札が取り付けられていた。よく見るとそこには「マ・オウ」と書かれている。


「うん、アイツみたいだね」


 イヌヌがさらっと答えた。


 俺たちは魔王の本名を知っている。魔王と戦う前、魔王は求人広告魔王業の紙を見せてきた。その紙に直筆署名で「マ・オウ」と書かれていたからだ。


「ホントにあの魔王の城なのか…………。あいつ、雪山の上にあった城以外にも、こんな平穏な街の中にも城建ててたのかよ………………。ここにゴミとか捨てていこうぜ」


 燃え盛る溶岩が可燃ゴミを焼却してくれそうだしちょうどいい。俺は道端に落ちていたペットボトルのゴミを城の中に投げ入れた。ここは今日から街の焼却場だ。


「じゃあ、こっちは何?」


 エルハが道の反対側を振り返って言った。俺もそれに倣って振り返ると、


「おぉ、でかっ」


 少し驚いて、わずかに声を漏らした。


 魔王城の向かい側にあったのは魔王城と同じく巨大な、塔だった。


 石造りで全体がペンキで塗ったような黒塗りの塔で、魔王城にはギリギリ届かないくらいの高さ。三角の屋根で華美な装飾はない。壁面には粗いスプレー塗料で、「打倒魔王」、「天上天下唯我独尊」、「最強の黒騎士」など、赤や黄色の文字で主張強めに描かれていた。


「な、なんだこの恥ずかしい建物は…………」


 イキった中学生が考えたみたいな外観の塔に、俺は言葉を失った。


 イヌヌが俺の、疑問とも嘆きとも捉えられる発言に返答する。


「ああ、これはテリヤの家だね」

「――ッ!? あいつの家かよ!!………………って、なんでテリヤの家が魔王城の前にあるんだよ…………」


 これが、末期の厨二病患者のテリヤの家であることはすぐに理解できた。考えてみれば自分の家に「最強の黒騎士」なんて書く奴は世界広しと言えどもアイツくらいしかいない。問題なのは、なぜ魔王城の前にテリヤの家があるのか、だ。


「テリヤが言ってたよ。魔王に対抗するために、魔王城の前に自分の家を建てたって」


 イヌヌがその理由を明かした。どうやら、元から魔王の城が建っていたところの目の前にテリヤは自宅を建てたらしい。魔王に抗うために。中学生っぽく言えば魔王にケンカを売るために。あいつ…………


「……バカだな。この塔、魔王にぶっ壊されないあたり、魔王に相手にもされてないし」

「でも、お隣さんは困ってるみたいなんだ」


 わずかに憂いを帯びた声でそう言うとイヌヌは、テリヤの塔の隣にある小さい家、小屋のような小さい家を指差した。


「あの家には一人暮らしのおばあちゃんがテリヤの塔が建つ前から住んでいるんだけど、『あの塔に陽の光が遮られて干した洗濯物が乾かない』って、前に会った時に嘆いてたよ」


 あの塔、ただ見た目が恥ずかしいだけではなく、隣人トラブルも引き起こしていたらしい。


 それを聞いたエルハが、どこからか真っ赤な灯油タンクと火の灯ったライターを取り出して、


「この塔、焼き払おう」


 タンクとライターを両手に持って真顔で言ってのけるエルハ。テリヤの家に放火するつもりだ。


「テリヤが借金までして建てたマイホームだからやめたげて!!」


 イヌヌが両腕を振って必死に止めに入る。


 この公害、借金をしてまで建てたのか。でも…………


「安心しろエルハ。お前が放火なんかしなくても魔王城の溶岩の火種が飛んできて勝手に焼失するって」

「…………それもそうね」


 そう言うとエルハは持っていた灯油タンクとライターを道端に捨てた。俺とイヌヌの説得が功を為し、エルハが放火の罪に問われるのを防いだ。



「コホンッ、ということで……」


 イヌヌが仕切り直すように咳払いを一つして言葉を続ける。


「じゃあ、ここに僕たちの家を建てよう!」

「ここって……魔王と厨二病の家の隣かよ! 立地最悪だろ! 場所変えようぜ」

「まずは敷地の前に立って――」

「話聞いてねえよ…………」


 俺の要望は無視という手段で却下された。


「ていうか俺、金なんて持ってねえぞ? テリヤが借金までして家を建てたってことは、俺たちもそれなりの額を払わないと建てられないんだろ?」


 イヌヌが振り向いて答える。


「イズミさぁ、これはゲームだよ? ただで建てられるにきまってるじゃん」


 何故か呆れた調子で、ため息交じりにそう言うイヌヌ。俺の質問、そんなに呆れられるような拙いものだったか?


「テリヤの場合は造る建物が大きかったからお金がかかったんだ。みんながただで大きいものを建てまくったらすぐに土地が埋まっちゃうしね。普通の民家程度ならお金はかからないよ」

「そういうことか」


 誰でも自由に自宅を建てられるなんて素晴らしいな。令和初期頃の日本じゃ考えられない。


 イヌヌが説明を再開する。


「このゲームの家の造り方は超簡単だよ! まず、家を建てたい敷地の前に立って、あとは造りたい家の形を想像するだけ!」

「…………………………えっ? それだけ?」


 もっと長い説明を聞かされると思って構えていたからあまりの説明の短さに不意を突かれ、一時の思考停止に陥った。俺は念のために聞き返した。


「うん、それだけだよ。ゲームだからね。あと、部屋の内装も同じようにできるから。簡単でいいでしょ?」


 本当にそれだけらしい。家を造ると言ったら炎天下の中で釘と金槌を持って木材を組んでいくようなものを想像していたから、頭に思い浮かべるだけで家を造れるとはかなり楽だ。正直、長い人狼ゲームの直後で疲れていたからこれはありがたい。


 俺はさっそく挑戦してみた。テリヤの家からちょっと離れたところに地点を定めて、そのエリアの前で三角屋根のごく普通の一軒家を頭の中に思い浮かべた。


 すると、突然目の前に家が現れた。俺が想像した通りの一軒家が。


 瞬きくらい一瞬で、微かに土煙を上げて、地面から生え出てくるような形で俺の家が姿を現した。


 本当に一瞬で家ができてしまった。一から材料を集めて自分で家を造るというのもめんどくさいが、これはこれでやりがいがない。


 俺は自分の建てた無難で小さくシンプルな一軒家を、全く達成感を感じない虚ろな心情で眺めた。どうせならもっと面白い見た目の家にしても良かったかもしれないと思いながら。


 エルハに目を向ける。彼女も、テリヤと魔王の家から少し離れた位置に自宅を建てようとしていた。やはりテリヤの家周辺には近寄りたくないのだろう。正常な思考の人間なら誰もがそう思う。あそこに自宅を建てるような奴は頭がイカれてる。


 俺はエルハの方に近寄った。


 エルハも俺と同じように一瞬で自宅を造り上げた。エルハの家は全体が銀一色で覆われた無機質な鉄の家だ。家の外壁を構成する鉄片の合わせ目のみが家の柄になっている。それに加えて一枚の窓が申し訳程度に取り付けられている、暴風を凌ぐシェルターのような殺風景な家。


「なんか……冷たいというか、寂しい家だな」


 俺は正直な感想をエルハに述べた。それにエルハが答える。


「私の怪力が、誤作動を起こしても壊れない丈夫な家を」


 ああ、そうだった。エルハは自分でもコントロールできないほどの怪力の持ち主で、時々その怪力で物を壊してしまったり、誰かに触れられれば確実に怪力が誤作動を起こしてその人に怪我をさせてしまう不便な体だ。


 今の発言は俺の配慮が足りなかったかもしれない…………。いや、それにしても…………


「もうちょっと女の子らしさというか、可愛さを出しても良かったんじゃないか?」

「イズミの家ももう少し個性を出しても良かったと思う。どこにでもいるモブの家って感じ。漢字一文字で表すなら『凡』ね」


 俺の家に目を向けて結構辛辣なことを言うエルハ。でも、全く以ってその通りだから…………


「くッ! 何も言い返せないッ!」


 このレスバトル、俺の即敗退となった。負けた俺は罰として額に「凡」の一文字を、一生消えない黒い墨で刻まなければならないだろう。


「イズミエルハーっ!! 僕も家造ったよー!!」


 遠くからイヌヌの声が聞こえた。声の方を見るとイヌヌが、テリヤの家の近くにいた。その近くにデフォルメされた柴犬の頭を模した建物が、テリヤの塔の()に建っていた。


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