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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第五章 Lonely wolves・ Nightmare ~真の人狼を炙り出せ~
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第48話 お別れ 



 気が付くと俺は広いベッドの上で横になっていた。


 俺は確か、レイカからこの城で起きた惨劇のすべてを聞き終え、窓の外で降る黒い雨を眺めていた。また知らない間に意識を失って別の場所で目覚めたようだ。


 ふかふかすぎるベッドの上で周囲を見回す。すると隣に、同じくベッドに横たわる女の子がいた。白いドレスに栗毛色のポニーテールの髪。生前のレイカの姿だった。


「レイカ…………?」


 俺が声を掛けるとレイカは静かに目を覚ます。


「………………ここは?」

「それはこっちが聞きてぇよ」


 まだ寝ぼけ眼で周囲を見回すレイカ。


「…………ここはリーナの部屋ね」


 リーナの部屋。人狼ゲーム中の時より少し寂れた感じがしたが、確かにリーナの部屋だった。そんなことは俺にもわかる。俺が知りたいのは…………


「俺たちは…………ループから解放されたのか?」


 レイカは起き上がって、自身の生前の体をおもむろに眺めながら答える。


「ええ、解放されたわ。すべて終わったのよ」


 その返答に俺は胸を撫で下ろした。俺たちの目的は達成された。


 だが、一つ気になることがある。


「レイカは、どうなったんだ…………?」


 既に亡くなっているはずのレイカだが、ループから解放されて現実に戻った今でもこうして生前の姿で目の前にいる。レイカは、生き返ったのか?


 俺の質問にレイカは笑顔を作り、自身の状態を語る。


「私の体は、見た目は生きている頃の姿に戻っているけれど…………生き返ったわけじゃない。今の体は霊体のようなもの。じきにこの世界から消滅してしまうわ」


 生き返ったわけではない。もうじき消えてしまう。なんとなく予想出来ていたけど…………。


 なんて言ったらいいのか。言葉が出なくなった俺に、レイカの方から声を掛けてきた。


「きっと、リーナは屋上にいる。一緒に行きましょう?」


 気丈に振る舞うレイカ。俺はそれに応えてレイカに同行することになった。


 以前と同じようにレイカとリーナの部屋を繋ぐ隠し通路を進み、梯子を上って屋上の展望台に上がる。


 城は邪神ヘルに襲撃された後の状態で半壊していた。そこら中に瓦礫が飛び散っている。


 時間は夜。いや、東の空が明るくなりつつあった。夜明けが近いが、まだ空には星々が輝いている。


 俺たちは展望台の端にリーナの後ろ姿を捉えた。レイカの言ったとおり、リーナがいた。一人で空を見上げている。レイカが近づき、声を掛けた。


「リーナ。星、綺麗だね」

「…………お姉ちゃん……」


 急に声を掛けられたのにもかかわらず、リーナは驚きもせずにゆっくり振り返った。まるでレイカがここに来ることを悟っていたように。


「お姉ちゃん…………あたし、これからどうしたらいいの…………?」


 細い声で呟くリーナ。


 生まれてからずっと城の中で育ってきたリーナはきっと、城の外での生き方を知らない。生まれた時から用意されていた環境に沿って生きて、ある日突然、悲劇に見舞われ自分を取り巻く環境すべてが壊れた。そんな少女がこれからどうやって生きていけばいいのか。リーナにわかるはずもない。


 難解なその問いに、レイカはゆっくり口を開いた。


「難しいかもしれないけど、あなたはもう自由なの…………。この城に囚われず、リーナの好きなように生きていいの。この城を出て外の世界で生きる方法を探してもいいし、もちろんこの城での生活を、できる限り今まで通りの生活を続けてもいい………………。でも、どんな選択をしても、どんな力を使っても、お父さんや城のみんなと暮らしたあの日々はもう帰ってこない…………。ただ一人生き残ったあなたは、一人で前に進むしかないの…………。私ももうすぐ、消えてしまうしね…………」


 ぽつぽつと言葉を紡いでいくレイカ。そんなレイカの一言一言に静かに耳を傾けていたリーナは、


「――――ッ! お姉ちゃんにもう会えないなんて…………しんじられない…………」


 顔を歪めて大粒の涙をこぼし始めるリーナ。つられてレイカの目からも涙が溢れる。それとほぼ同時に、レイカの手や足の先から白い光の粒が溢れ始めた。


「あなたは立派よ……。ループの力が弱まっていった時、やろうと思えばそれを食い止めることも出来たはずなのに、あなたはあえてそうしなかったんでしょう?このままじゃダメだって気づいていたから」

「――ッ! お姉ちゃん! 体がッ!?」


 レイカの体が、足の方から徐々に、細かい光の粒となって消滅し始める。光の粒はふわふわと上空に舞い上がっていく。もうレイカには時間がない。レイカの体がこの世界で形を留めていられなくなっている。下半身の方から体が消えていく。


「リーナ…………愛してるわ…………」


 慈しみのこもった、本当に穏やかな声でそう呟く。まだ残っている上半身でリーナの体を抱きしめながら。


「…………お姉ちゃん。あたし、ほんとはもう決めてたんだ。これから自分がどう生きていくか………………。あたしは、この城に残って、あの秘宝を守るこの城の仕事を務めたい。パパの使命とこの城の存在理由を、あたしが引き継ぎたい。それに、あの秘宝を放置して悪い人の手に渡すわけにもいかないし………………。あたし、否定されるのが怖かった。この城に残って生きていく生活を否定されそうな気がして怖かった…………。でも、お姉ちゃんはさっき、そういう選択もいいって言ってくれた。それで、自分の決断に自信がついたの…………。ありがとうお姉ちゃん」

「本当に……立派ね…………。さすが…………私、の…………妹……」


 レイカの声が途切れて小さくなっていく。もうこの世界で言葉を発する力も残っていないようだ。既に上半身すらも消え、体は頭の方しか残っていない。今度はリーナがレイカの頭を胸元に抱きしめた。


「リー、ナ…………あなたの……幸せ……を…………願ってる」

「ありがとう……………………レイカお姉ちゃん」


 レイカの体の最後までが、リーナの胸の中で光の粒と化した。


 レイカを構成していた夥しい数の光の粒は明るくなりつつある夜空へ上がっていき、次第に光は星空の中に消えていった。





§





 取り残された俺とリーナ。リーナと少し言葉を交わして、俺たちは1階に降りることになった。おそらくみんながいるであろう会議室へ。


 会議室に入ると案の定、全員が俺たちを迎え入れた。


「お、二人も来た。これで全員揃ったな!」


 ケルドが、お馴染みの定型文から少しずれた言葉で出迎える。


 ケルド、レルフェ、レイ、ゲッカ、そしてエルハ。全員が揃っている。円卓を囲うように座って談笑していた。今はゲームが終わった後のアフタートークの時間という感じだ。


「二人ともどこに行ってたんですか?」


 レイが俺たちに尋ねる。


「あー、屋上に行ってたんだよ。ちょっと用があって――――」


 それから、俺はみんなと会話を交えた。話を聞いたところ、エルハ以外の4人の最後の記憶は1周目の人狼ゲームが終わったところだった。命を懸けたゲームではなく、ただの遊びの人狼()()()だった頃だ。みんなループしていたことなんか全く記憶にないらしい。


 人狼ゲーム参加者全員で会話に花を咲かせる中、俺は自分に向けられた視線に気づいた。エルハが俺を見ている。顔に感情は表れていないが、「聞きたいことがある」と訴えかけているのはわかる。


 俺はその場でみんなに了承を得て、エルハと共に席を外した。


 会議室を出て、扉を閉める。長い廊下でエルハと二人きりになる。


「エルハ、久しぶりに会った気がするなぁ」


 俺はエルハの顔を見て思ったことをそのまま口に出した。


 俺の発言が理解できなかったのか、キョトンとするエルハ。すぐに表情を真剣なものに戻して俺に尋ねる。


「ループの件は…………解決したの?」


 それだよな。エルハの聞きたかったことは。


 エルハは人狼ゲームがループしていたことは記憶にあるらしい。そうなるとエルハの最後の記憶はおそらく、バルコニーから突き落とされて死んだ瞬間だろう。


「私、バルコニーから突き飛ばされて、地面にぶつかって………………目を覚ましたら突然今の、みんなが集まってる会議室に自分がいて…………」


 現状に困惑するのも当然だ。城内で今、一番現状を呑み込めずに困惑しているのは間違いなくエルハだろう。


 俺はエルハに簡潔に答える。


「安心しろ。ループのことはもう解決した。俺たちはここを出られる」

「……………………そう…………」


 釈然としない様子で呟くエルハ。当然と言えば当然だろう。一緒にループを解くために奮闘してきたのに、最終的には俺だけがループを解くための重役を背負い、エルハは気付いたらすべて解決している状態だったとなれば。


「ま、いいだろ? 解決したんだから。エルハの協力も重要だったし――」


 腑に落ちない様子のエルハをなだめようと声を掛けたところ、会議室の扉が開く。


 会議室からリーナが出てきた。


 リーナは俺たち二人を見つけると、


「二人とも、今、ちょっといい?」


 声を掛けてきた。


「いいけど、なんだ?」


 俺が返答する。リーナは少し間を置き、そして言葉を紡ぎ始めた。


「二人には言っておかないとと思って…………謝罪とお礼を」


 リーナが俺たちと目を合わせる。


「まずは、ごめんなさい。あたしの幼稚で身勝手な感情のせいで二人や、他のみんなを巻き込んでしまったこと…………。そして、ありがとう。二人と、あとはお姉ちゃんがあたしの、この城のループという殻を打ち破ってくれたお陰であたしはこれから、前に進めそうな気がする」


 リーナは力強い芯のある口調と瞳で俺たちに己の意思を届ける。もうリーナは今までの幼い少女ではなかった。


「俺は何もしてないようなもんだよ」

「私はそれ以上に何もしてない」


 俺とエルハは答えた。


「ループを解いたのは、妹のことを思うレイカと、自分が変わらなきゃいけないと気づいたリーナの意志だよ」

「ええ、全くその通りよ」


 俺は事の成り行きに身を任せてリーナとレイカにほんの少しだけ後押ししただけ。この結末はリーナとレイカが掴み取ったものだ。そんな俺の意見に一切の否定を含まない同調をするエルハ。


 エルハ。お前はそもそもレイカのことを知らないだろ。


 リーナが口を開く。


「そう言ってもらえるとありがたいわ………………。最後にあたしから、謝罪とお礼の意を込めて。受け取って」


 そう言うと、リーナは後ろ手に隠し持っていたものを俺たちに差し出す。


「こ、これは…………」


 リーナが差し出したのは明るい褐色の――――ダイヤモンドのトロフィー。これはゲームクリアの証のトロフィーだ。


 俺はリーナからトロフィーを受け取る。手に取ると茶色のトロフィーは液状に溶けて、俺の体に染み渡っていく――――その際一瞬、本当に一瞬だけ、脳裏に栗毛色の髪の少女が、朗らかな表情で笑うリーナの姉の姿が浮かんだ。



最後まで読んでいただきありがとうございました。


twitter→ https://mobile.twitter.com/bandesierra


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