第38話 本の虫
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眩い光に目が眩む。
「お、二人来た。これで揃ったようだな」
もう何度聞いたかわからないケルドの言葉。俺はまた死んで、そしてまたループした。
前回と同じで俺の背後にはエルハがいない代わりにまた不気味な少女の姿があった。前回と同じようなやり取りをし、同じように説明と食事の時間が過ぎる。今回は役職の『暴君』はいなくなり、その代わりに霊媒師が復活していた。
俺の役職は『村人』だ。
食事を終えた俺は一人、城の中を彷徨い歩いた。
地下の部屋のベッドの中にいた者がレイカだとわかってループを解くのにまた一歩前進した――――だが、俺の精神はもう限界を迎えていた。
何度も何度も死を味わい、共に戦う仲間もいなくなり、これ以上主体的に行動する気力は残っていない。頑張っても結局ループは解けずにこのまま一生城の中に囚われ続けることになるような気がするし、何よりもう動くのがめんどくさくなっていた。そもそも俺がここに来た理由はゲームをクリアしてダイヤモンドトロフィーを得るためであってループを解くためではない…………
そんな後ろ向きなことを考えて歩いていると図書室の前を通りかかり、そこで本を読むレルフェの姿が目に留まった。一人で木の机に座り、黙々と本のページを捲っている。
本、か…………。もしかしたらこの図書室の本を漁ればこの城について書かれた本があるかもしれない。この城のことがわかればループを解く糸口も見つかるかもしれない。
城を歩き回るのに疲れた俺は図書室に立ち寄った。
「レルフェ……さん? こんにちは」
静かに読書するレルフェに俺は声量を控えめに声を掛けた。レルフェは俺の存在に気づき、本から目を離す。
「あ、イズミさん、でしたよね? こんにちは。イズミさんも本を読みに来たんですか?」
レルフェは柔和な微笑みで返した。
「はい、そんな感じです。レルフェさんは確か本が好きなんですよね?」
「――ッ! …………確かに好きですけど……。私、そんなこと話しましたっけ?」
……しまった。レルフェは1周目の時は本が好きみたいなニュアンスの事を言っていたけど、今回のループではそんなこと一言も喋っていない。でも、今の反応からしてレルフェはループしているのを自覚してなさそう、つまりレルフェはループの秘密を知る真の人狼ではない可能性が高い。
「あぁ……すみません! 眼鏡してる見た目と雰囲気から勝手に読書好きっていうイメージを持ってしまって…………」
俺はてきとうな理由を繕ってやり過ごした。
「いいんですよ! 気にしないでください! 私、本大好きなんで!」
申し訳なさそうな表情を作る俺を見て、負い目を感じさせないためかレルフェは異様に明るく元気に答えた。
レルフェ……時には対立したこともあったけど悪い人ではなさそうだ。
「それにしても、人狼ゲームの最中にゆったりと読書なんて余裕ですね」
「いやぁ、大量の本があったので、つい」
己の欲に抗えなかったとはにかむレルフェ。本当に本が好きなことが窺える。
俺は周囲を見渡した。広い図書室には天井に届く高さの書棚にびっしりと本が並べられ、床や棚上を含むあらゆるスペースには本が山積みに重ねられていた。これだけの本があれば俺が欲している情報の載った書物が見つかるかもしれない。
「あ、あの……ちょっといいですか?」
「え? どうしたんです?」
改めてもう一度レルフェに声を掛けた。
「実は、とある情報を探していて、この城に関するものなんですけど…………この図書室に、この城について書かれた本とかあったりしませんかね…………?」
俺は知りたいことを直接、本のスペシャリストに尋ねた。レルフェが真の人狼だったら「この城について調べている」なんて打ち明けるのはあまりに危険だが、俺はレルフェを信じることにした。何より俺には今、仲間と呼べる存在がいないので、誰でもいいから信頼できる存在を欲していた。
レルフェは俯いて親指の爪を軽く噛んだ姿勢で固まった。なにか考え事をしているらしい。
数秒後、レルフェは本棚に歩み寄って一冊の本に手を掛けた。その本を表紙が見えるように俺に差し出すレルフェ。
年季の入った茶色い分厚い本。タイトルは『ルードラ城の戦禍』。
「ルードラ城?」
「ええ、この城の名前よ。この本にはルードラ城の歴史なんかが綴られている。」
まさに俺が求めていた内容だ。
「凄いな。よく一瞬で見つけたな」
レルフェがたった数秒で俺が探し求めていた情報をピンポイントで見つけたことに感心して声に出した。
「この本はこの城の図書室にしかない貴重なものですからね! 貴重な本の内容と位置は既に把握しているからこれくらい容易いですよ!」
自慢げに答えるレルフェ。俺は本を受け取ってレルフェの座っていた正面の席に腰を下ろした。
本を開きページを捲る。内容はレルフェが言っていた通り、今俺がいるこの城、ルードラ城の歴史や城建設の理由やその過程。城についての様々な情報が事細かに記載されている。
俺は集中して本に向き合った。
――――それから数時間。本を読み終えた。
1ページごとにびっしりと書かれた細かい文字と時々入る図やイラストを飛ばし飛ばし読んで、最後まで読み切った。内容を要約すると気になった点は3つだ。
1つ。城の歴史、その最後は戦禍によりルードラ城は崩壊したということ。
2つ。そして崩れた城で生き残ったのは一人の少女だけだったということ。
3つ。詳細は不明だがこのルードラ城に秘宝が隠されているということ。
1つ目の城が崩壊したというのは俺たちが今この瞬間城の中にいる時点で事実に反する。
2つ目の唯一生き残った少女。これは全身を包帯で巻かれた真っ白で不気味な少女の姿が思い浮かぶ。
3つ目の城に隠された秘宝は地下の部屋に心当たりがある。
といった感じでまだ不明な点は多いが、俺が今まで見てきたものと何らかの因果関係がありそうな情報を得ることができた。少しだがループを解くのに一歩前進した気がする。
本を読み終え、席を立つのとほぼ同時に夕会議の時間を告げる鐘が鳴った。自分で思っていたよりも時間の進みが早い。
「もう、そんな時間か」
俺の正面にいたレルフェも鐘の音に気づき、読み続けていた本から静かに目を離す。
レルフェ……レルフェが傍にいてくれたからこそ、俺は人狼やレイカの恐怖に押し潰されることなく読書に集中できた。レルフェがいなかったらこの広い図書室で、いつ襲われるかわからずに怯えて過ごすことになっていたはずだ。
俺はそのことでレルフェにお礼をしようと彼女に視線を移すと、ふと、レルフェの読んでいる本に目が留まった。
そういえば何の本を読んでいたんだろう。眼鏡を掛けた知的な出で立ちのレルフェのことだ。きっと文才溢れる純文学や考古学の研究論文みたいな高度なものを読んでいるに違いない。
俺はそっと、レルフェの手元にある本を覗き込んだ――――――そこには細かい白黒のタッチで、程よく筋肉質で顔の整った若い男二人が半裸になって淫らに肌を寄せ合う一コマが描かれていた。
「――漫画じゃねーか!! しかもBLッ!!」
俺の大声に驚いたレルフェの肩が跳ねた。




