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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第五章 Lonely wolves・ Nightmare ~真の人狼を炙り出せ~
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第37話 異物混入 

pixivでキャラのイラストを投稿しています→ https://www.pixiv.net/users/73175331/illustrations/%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A033


 眩い光に目が眩む。


「お、二人来た。これで揃ったようだな」


 ケルドの声で俺の意識は覚醒した。


――またループした。これで何周目だ?


 俺はまだ不明瞭な意識の中でループした数を数えた………………これで5周目だ。


 首の周りに熱がこもったような熱い感覚が残っている。俺はおそらくゲッカに首を切り落とされて死んだ。人狼の爪が首の後ろを切り裂いてきた瞬間までは覚えている。思い出しただけで背筋が凍りつきそうになったからそれ以上は考えることをやめた。


――5周目か、まだループを解くための鍵は見つけられていないな……そういえばエルハはどうなった?


 殺された時の記憶を遠ざけるように別の事を思考して、エルハの安否を確認しようと周囲を見回した。それとほぼ同時に、背後から聞き馴染みのない女性の声がした。


「それでは始めましょうか。人狼ゲームを」


 感情の読めない冷たい声。俺の背筋は凍りついた。


 振り返ると、エルハが立っているはずの位置に、エルハではない()()が立っていた――――そこにいたのは、肌が雪のように真っ白で髪の毛がない少女だった。白い手足は剥き出しで胴体には無造作に包帯が巻かれている。髪の毛、というより全身の体毛が存在しないスキンヘッドの風貌だが、声音と体格、胸の膨らみからまだ若い女性だと判別できた。全身真っ白の姿は清廉潔白で神聖、清浄すぎるがゆえに同じ空間で呼吸をすることすらためらわれる程の薄気味悪さを醸し出していた。


「エルハ……エルハはどこに…………」

「エルハぁ? 誰だそれは? そんなことより、イズミ、レイカ。席に着け。ゲームが始まるぞー」


 誰に向かって放ったわけでもない俺の一言は、能天気なケルドに掻き消された。


 本来エルハが座るはずの席。その席のネームプレートには『レイカ』と書かれている。彼女の名前だ。


 何度かループを繰り返し、その中で前回のループといくつか変化した事象はあったが、今回の変化はあまりに異質なものだ。エルハの姿が消え、代わりに得体の知れない清白の少女がゲームに参入してきた。


 俺は事態を吞み込めず、茫然とその場に立ち尽くした。一方清白の少女、レイカはスタスタと迷いなく自分の席へ足を運んだ。ケルドを始め、この場にいる俺以外の全員はレイカを異様な者ではなく、普通の存在として認識している様子だった。


……俺の感覚がおかしいのか?


 俺が間違っているのか。俺以外の奴の認識が歪んでいるのか。頭の中がぐちゃぐちゃになりそうになった俺は、一旦レイカの事は忘れて自分の席に腰を下ろす。


 黒板に書かれたルール説明に目を向けると、今までとは違うところがひとつだけあった。村人陣営の役職『霊媒師』がなくなった代わりに『暴君』という役職が追加されていた。説明を読むと暴君は一日に一人だけ生存者の誰かを独断で選んで殺害する『独裁』ができる村人側の役職らしい。人狼を殺す手段が処刑のみだったのが暴君による独裁も増えたので一見人狼が不利になったように見えるが、誤って村人を独裁で殺めてしまうと一気に村人が劣勢に陥るから能力を行使する判断が重要な役職だ。


 その後はいつも通りのルール説明、食事を迎えた。俺はネームプレート裏に記載された自分の役職を確認する。俺の役職は――――――人狼だ。


 最悪だ。新しい役職の暴君が追加されたこのタイミングで人狼になってしまった。しかも薄気味悪いレイカという少女もいる。


 俺はすぐにでもレイカのいる空間を離れたい一心で早々に食事を済ませて部屋を出た。俺が部屋を出たすぐ後に、同じく人狼に選ばれたリーナが会議室から出てきた。


 今回もリーナと協力関係になりそうだ。俺は何度もリーナと関わっているがリーナからしたら俺とは初対面なので、挨拶の意を込めてリーナに声を掛けた。


「リーナ、俺は人狼のイズミだ。一緒に頑張ろうな!」


 俺はエルハの事やレイカの事、様々な不安を振り払うようになるべく明るい声色でリーナに声を掛けた。俺に背を向けて歩いていたリーナはピタリと足を止める。振り返った彼女は鬼気迫る鋭い眼光で俺を睨みつけた。


「……………………」


 リーナは言葉を発することなく、ただ俺を睨み続けている。


 え? 俺、リーナに何か悪いことしたっけ……?


「ど、どうしたんだリーナ……………………ッ!」


 一瞬の沈黙の後、頭蓋の中に声が響いた。


『なにやってんのよ!? 誰か盗み聞きしてるかもしれないのに自分の正体を明かすような発言をして、しかもあたしを仲間扱いして。バカじゃないの!?』


 リーナの声だ。リーナは口を動かしていないのに、俺の頭の中にはリーナの機嫌の悪い声が響いた。


 リーナは俺たちが会話をすることで他の人から人狼だと疑われることを危惧していたようだ。


――ああ、それで俺を睨んでたのか。ていうかなんで喋ってないのに声が聞こえてくるんだ?

『はぁ? あんた、ルール読んでなかったの? 人狼は脳波を飛ばして離れていても意思疎通が可能って書いてあったでしょ? それよ』


 ぶっきらぼうに答えるリーナ。


 俺は何度もループをしているうちに周りに合わせてルールを読んでいるふりだけをするようになっていき、終いにはルールを全く読まずにループを解くことしか考えないようになっていた。そのせいで自分にあまり縁のないルールは記憶から消え去って、始めて人狼になった今、人狼にしか認知できない能力のことなどさっぱり忘れていた。


――それで怒ってたのか。たしかに、声に出すより離れた位置で脳波でやり取りした方がいいな…………。それじゃあリーナ、改めてよろしくな


 脳波は意外と簡単に使いこなせた。相手に伝えたいと思いながら脳内で言葉を連ねるだけで、普通に会話するのと大差なくコミュニケーションがとれる。俺は脳波を使って改めてリーナに共闘の挨拶をした。


『ウザイ……』

――えッ?

『鬱陶しいのよッ!! あんたと組む気はないから邪魔しないで…………。人間は……全部あたしが殺すからッ!! ………………あんたは何もしないでね……』


 ただならぬ殺気を放つリーナ。感情が昂ったり冷めたり情緒不安定な脳波を飛ばすリーナに俺は面食らってしまった。


 リーナは目を細め、唇が引き裂けそうなほどに口角を上げて歪んだ笑みを作る。可愛げがあったリーナはもうどこにもいない。ついさっきの人狼の殺戮衝動に駆られたレイとゲッカの事を思い出した。人狼になるとみんなこうなってしまうのか…………俺はなってないけど。


 リーナは狂ったような甲高い笑い声を上げながら立ち去ってしまった。そんな笑い声を響かせていた方がよっぽど人狼だと疑われそう、という指摘をしたくなる気持ちを抑えて、俺はリーナが廊下の奥へと消えていくのを見送った。


 俺は一人取り残される。共通の目的を持つエルハもいなくなり、信頼できる仲間もいない。さらには得体の知れないレイカという不気味な少女も城内を徘徊している。


 俺は猛烈な孤独感に襲われた。誰も頼れない。ループを解くには自分一人で戦うしかない…………。





§





 俺には一つ、気になることがあった。地下にあった青い宝石の部屋のさらに奥。宝石の台座の裏にあった暗闇の小部屋。その部屋にあった白いシーツのベッドの事だ。ベッドは中央部分が盛り上がっていて、シーツの裏に何かある、あるいは何者かがいることは確実だった。俺はそれを見つけた時、すぐに確認しようとしたが、次の会議が始まる時間となって断念せざるを得なかった。


 あの部屋にはループに関する重要な手掛かりがありそうだし、今回のループで現れたレイカとも関係がありそうな気がする。いずれにせよあの地下はもう一度調べなければならない。


 薄暗い空間で一人で行くには抵抗があったが、エルハもいない今、一人で行くしかない。


 俺は地下へと続く階段を降りた。今回は地下の道を塞いでいた本棚が横にずれていたのですんなり通ることができた。


 その先には地下空間特有のじめじめした空気と鼻を突くにおいのする廊下が俺を出迎えた。人の侵入を受け付けない雰囲気を醸し出している。


 今回はエルハもケルドもいない。あまり前向きに進みたいとは思えなかったが、一歩を踏み出した。前と同じルートを辿ると青い宝石に照らされた部屋に着き、さらに奥、宝石の台座の裏の薄汚い木製の扉の前に着いた。


「ここだ…………」


 俺は意を決して扉の取っ手を掴み、ゆっくり開いた。


 暗闇に包まれた蜘蛛の巣だらけの部屋。宝石の部屋の青い光が微かに差し込む。以前と同様に白いシーツのベッドが部屋の中央にある。肝心のベッドの膨らみはなくなっていて、皺一つ無く綺麗にシーツが敷かれていた。


 俺の中にあった憶測が確信に変わった。あのシーツの中の膨らみは、多分全身真っ白の――――


「ナニシテルノ?」


 背後から冬の隙間風のような細く冷たい声がした――――振り返るとちょうど今、俺が今思い浮かべた人物がそこにいた。レイカだ。


 こんな薄暗い空間で、一番会いたくないものに出くわしてしまった。狭い部屋で唯一の退路である扉を塞がれた俺はその場に立ち尽くすことしかできない。


「逃げるように会議室を立ち去ったあなた、怪しいわ。殺してしまいましょう」


 何のためらいもなくそう言い捨てたレイカ。髪のない真っ白な頭の上に、赤黒く輝く王冠のようなものが姿を現した。


 人狼でもないのに誰かを殺そうとする言動と頭上の王冠。間違いない。彼女は新役職の『暴君』だ。


 言うが早いか、レイカは白い掌を俺の方にかざす。


「……あ…………」


 何気ないその行動に、俺は自分の死を悟った。何も考える時間も与えられず、魂が吸い取られるように意識が、視界が彼女の掌に集約される…………








twitter→ https://mobile.twitter.com/bandesierra


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