第32話 長い立ち話
眩い光に目が眩む。
「お、二人来た。これで揃ったようだな」
ケルドが俺たちに声を掛けた。
また、戻ってきた。人狼ゲームが始まる前の時間に。
どうやら3周目で俺は処刑されてしまったらしい。俺の推測ではレルフェが処刑されるはずだった。エルハとゲッカはレルフェに投票したと思っていたけど…………ゲッカは俺に投票してしまったのか?
とにかく考えていてもしょうがない。俺とエルハは円卓についた。いつも通りにルールの確認等が進み、人狼ゲーム「俺にとっては4周目」が始まった。
会議室を出て、エルハと共に人目に付かなそうな小さい掃除用具室に入る。モップや青いプラスチックのバケツ、掃除機などの近代的な掃除道具が新品同様の綺麗な状態で壁際に並んでいた。
この誰も来なそうな城の端の方にある一室で俺たちはループを終わらせる方法を考え、このループに深く関与している「本当の人狼」を見つけるために話し合うことにした。2周目のように真人狼に見つかって殺されるのは御免だ。
俺はひとつ、気になっていたことをエルハに聞いた。
「エルハ、さっきの3周目は俺が処刑された後もゲームは続いたのか? もしそうならあの後の事を聞きたいんだけど」
こくりと頷くエルハ。
「うん、続いた。手短に話すわ」
エルハは目を閉じ、一呼吸置いてから話し始めた。
「まず、黒板に明示された投票結果はレルフェ2票、イズミ3票だった」
「……ッ! やっぱ俺に3票かよ。ゲッカも俺に投票したのか」
「…………いえ、おそらくゲッカはレルフェに投票してる」
「え? じゃあなんで俺に3票も……」
「私がイズミに入れたから」
「――――お前かいッ!!」
絶対に俺を裏切ることはないと思っていたが、まさかエルハが。
「大きい声出さないで。人狼に見つかる」
エルハが眉をひそめて俺を注意する
「――ッ!…………なんで俺に投票したんだよ?」
「投票前の会議でレルフェの話を聞いているうちに、だんだんイズミが人狼のような気がしてきて。だからイズミに入れた。ゲームのルールに従うのは当然でしょ?」
「無駄に律儀だな…………。俺たちはそのゲームから脱しようとしているのに」
「でも、イズミに投票した理由はそれだけじゃない」
「え?」
他にも何か理由があるのか。
「最初の昼時間に、ずっと帰ってこなかったから」
「またそれかよ!」
ケルドにも指摘された、しばらくしたら会議室に戻ると言っておきながら約束を忘れて次の会議の時間まで帰らなかった件。たしかにあれは俺の失態で、ずっと会議室の中で待ち続けた皆には負担をかけてしまったけど……
「あれは謝ったろ? もう許してくれよ……」
「……私は言うほど恨んでない。けど、あれのせいでイズミが思っている以上にみんなの反感を買ったのは事実。私はみんなとずっと一緒にいたからよくわかる。実際あの一件がなかったら最後の投票でリーナはレルフェに票を入れていたかもしれない。多分ゲッカだってほんとは…………。だから、人から恨まれるような行動はなるべく控えた方がいいと思う」
エルハはそう言って真っ直ぐ俺を見つめた。
「おう……わかった。肝に銘じておくよ」
俺の反省の意を聞き届けたエルハは再び3周目の話の続きを始めた。
「そう…………。それで、イズミの処刑が終わった後の事。残りの生存者は4人、時間は夜。ゲッカがレルフェに少しだけ図書室に待機してもらうように指示して、その間にゲッカは私とリーナを連れ出した。最初は私もリーナも、私たちを連れて行こうとするゲッカを怪しんで抵抗したんだけど、レルフェが人狼であることとイズミが人狼じゃないことを力説されて、しょうがなく折れて従うことにした。たしか、『人狼に襲撃された時、イズミが人狼に追われているのを見たからイズミは人狼じゃない』とか言ってたわ」
「ああ、その通りだ。そのことも処刑される前にアピールしとけばよかったなぁ」
「ゲッカは『村人なのに処刑されてしまったイズミのためにも絶対に勝ちたい』とも訴えかけてきた」
「あいつ、意外と熱い男なのか? まあ、死んでもループするんだけど」
「私たちはゲッカについていってその道中、ゲッカは自分が占い師だとカミングアウトした」
占い師。俺が1周目でなった役職だ。占った人が人狼か否かを判断できる。占いは夜に一回だけしかできない。
「続けてゲッカは今からレルフェの占いをしに行くと言った。私とリーナはそれに同行させられたわ。昨晩の占いは私を占って人狼じゃないとわかったらしい。そしてその日の占い結果は、『レルフェが人狼』だった」
「おぉ、それで?」
「ゲッカは三人で個室に立て籠もろうと言ってきた。人狼は一日に一人村人を殺害しないとペナルティで死んでしまうとルールにあって、私たちが殺されなければ人狼のレルフェはゲームのルールによって殺されるということ。でも、リーナは三人で籠るのは反対した。まだゲッカを疑っていたから」
「ここにきて無駄な用心深さを発揮してるな、リーナ。ゲッカが占いをしてるとこを見てたんじゃないのか?」
「それが、ゲッカも自分が占い師であることを証明するために私たちに占いをする自分を見せようとしたらしいんだけど……。ゲッカの視点では水晶にレルフェの顔が浮かんでそれが黒く染まる占いの過程が見えていたらしいけど、私たちにはその水晶の変化が見えなかったからゲッカの証明は成立しなかったの」
「まあ、それで占い師を証明出来ちゃったらちょっとズルい気がするしな」
「それでリーナは『ゲッカをほんとに信用していいのか』とか『ゲッカは女の子2人を密室に連れ込みたいだけの変態だ』とか駄々をこねてた。でも最終的には『これ以上誰も死なずに、この3人が確実に生き残れるように勝つにはこの方法しかない』とか『籠城した部屋が突破されたら自分が身代わりになる』っていうゲッカの必死の説得でリーナはもう一度ゲッカに折れることになったの」
「リーナは押しに弱い説」
「ゲッカの指示通り、とある2階の寝室に入って、外から侵入されないようにドアの前に机やタンスを積み重ねてバリケードを作った。この絶対防壁の中で私たちは最低一人は見張りをつけた交替制で一人4時間以上の睡眠をとって朝まで過ごした。何事もなく朝を迎えて、バリケードを撤去してドアを開けた。そしたらドアの前に瘦せ細って力尽きたレルフェが倒れていた。村人を殺せなかった人狼のなれの果てだとすぐに気づいた」
「ということは?」
「そう、村人陣営の勝利。また1周目の時みたいに城中にうるさいクラシックの曲が流れて、辺りが白い煙に包まれて、そこで意識が途絶えた」
「で、ループしたわけか」
エルハが首を縦に振った。
「長かったけど聞けて良かったよ。ありがとう」
ここまで話を聞いて、ループに関わっている者が誰かは見当もつかない――ケルドはすぐに退場してしまうのであまり印象がない。レイもすぐ退場していて本当の人狼かはわからないが、悪い奴ではなさそう。リーナは生き残っているけど目立った要素はない。感情的で思ったことを口に出すタイプだから隠し事はなさそう。ゲッカは5人の中では少し信用できる気がする。強いて言うならレルフェが怪しいかもしれない。俺の直近の記憶でレルフェの悪い印象が先行してそう感じてしまうのかもしれないが。
ループを知っている者は俺とエルハがループに気付いていることもわかっているはずだから迂闊な行動はとれないが、こちらから探りを入れていくことも必要かもしれない。
そういえば、2周目でループを知る者がループに気づいた俺たちを殺してきたことを元に推察すると、3周目でも俺を襲ってきた人狼のレルフェかケルドが怪しいかも。
「とにかく、殺されるリスクはあるけど他の生存者ともう少し接触してみる必要がありそうだな…………」




