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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第五章 Lonely wolves・ Nightmare ~真の人狼を炙り出せ~
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第28話 フラストレーション 

 それから俺とレイは時折雑談を交わし、時折別行動をしながら夕会議の時間までを城内で過ごした。互いに一人の時間を大切にする性分で結構波長が合っていた。


 特に物騒なことが起きることもなく時が流れ、窓の外の景色は夕日のオレンジに染まっていた。それをレイと二人で眺めていると、城内に鐘の音が響き渡った。夕会議の時間だ。


 俺とレイは会議室へ歩を進めた。


 会議室に入ると残っていた5人が「無事でよかった」と俺たちを柔らかく出迎えてくれた。が、心なしか俺たちへ向けられた瞳は冷ややかなものに感じた。


 全員揃って会議を始める。だが、誰も殺されてなく人狼推理の手掛かりも何もないので今回の処刑は()()になった。全員が紙に「処刑なし」と書いて投票箱に入れた。


 投票とその後の食事が終わり、暗がりに包まれた夜時間に突入した。


 早々に食事を終えて席を立つレルフェ。


「2人だけ外に出ていいのなら私が出ます」


 感情の映らない表情をしたレルフェが会議室の出入り口に歩を進める。


「じゃあ俺も出る」


 次いで、間髪入れずに2人目の外出者に名乗り出たゲッカ。立ち上がったゲッカは同じくレルフェの後を追うように出入り口の扉へ向かった。


「また俺は留守番かよ!!」

「ズルい!!」

「…………」


 片腕を振り上げて不平不満の声を上げるケルドとリーナ。エルハは口を開かず静観している。


 そんなケルドとリーナには目もくれずにレルフェとゲッカは部屋を立ち去った。


「…………なんか、みんな機嫌悪くないか?」


 俺は頭に浮かんだことをそのまま口に零した。


「はぁ!? それあんたが言う!?」

「そりゃあ、君たちのせいだからなぁ」


 リーナとケルドが口を開く。二人は俺とレイの方に目を向けていた。ケルドが言う()()()というのは――


「俺とレイのせい?」

「当ったり前でしょ!?」


 眉間にしわを寄せて声を荒げるリーナ。ケルドが重いため息をついて口を開いた。


「イズミ、昼時間の始まった時、この部屋を出る前に自分で言ってただろう? 『自分ばっか外に出てるのはズルいから少ししたら帰って来る』って。みんなその言葉を信じて、イズミとレイが帰ってきたら時間を決めて交代で外に出れる人を決めようって話になったんだ。昼時間の間、ずっと会議室に籠っているのはさすがにきついからな。だが、結局君たち二人は帰ってこなかったわけだ。そして残された俺たち五人は10時間以上もの間、特に面白い物もないこの部屋で壁のしわを数えて時が流れるのを、死に物狂いで耐えてたんだ」

「あ、そういえば……」


 ケルドに言われて思い出した。少ししたら帰るってその場のノリでテキトーに言い捨てて、結局そのまま忘れていた。


 夕会議でここに帰って来た時から薄々感じていた穏やかじゃない空気の原因はそれだった。完全に俺のせいだ。みんなには悪いことをした………………と、思う反面。そんなに待っているのが苦行だったのなら二人以上は部屋から出ないなんて自分たちで作ったルールに固執せずに勝手に出ていけばよかったのに、なんて考えが脳裏をよぎった。だが、ひとまずここはその考えを奥底に封じ込めて…………


「完全に忘れてました……すみませんでした」


 俺は席を立ち、ケルド、リーナ、エルハの三人に向けて頭を下げた。レイも真似して頭を下げる。


「ハッハッハッ! しょうがない、ミスは誰にでもある…………それじゃあみんな、『地獄の耐久レース』後半戦と行こうか」


 寛容にも俺たちを許してくれたケルドが、悪魔に憑かれたような引きつった笑みを浮かべた。


「あ~! もぉー退屈!!」


 声を上げて円卓に倒れ込むリーナ。そのうなだれた姿勢のまま、どこからか化粧ポーチを取り出した。ピンクでキラキラした可愛らしいポーチを円卓上に出して化粧を始める。


 暇になって化粧ポーチを漁り始める。リーナのイメージ通りの行動に少し笑いがこみ上げそうになるのを頑張って耐えた。


「化粧、か……」


 ケルドが一人、声を漏らす。


「どうかしましたか?」

「――ッ! あぁ…………俺、娘がいてな。最近色気づいてきて、『お化粧がしてみたい!』ってうるさくてしょうがないんだ」

「娘自慢ですか」


 ケルドに子供がいるなら息子だと勝手に思っていたが、逆だった。娘のことを楽しそうに話すケルド。それを聞いたリーナが円卓から身を乗り出した。


「じゃあ、いつか娘さんに会ったらメイク教えてあげる! あたしの数少ない得意分野だもん!」

「それはいいなぁ。是非とも会って相手してやってくれ」


 ケルドの娘の話で楽しく会話が弾む。会議室は親睦会のような穏やかな空気に満ちていた――――だが、その空気もレイの一言で崩壊する。


「まあ、それも生きて帰れればですけど……」


 レイがひっそりと呟いた――――談笑の声が途絶える。


「は? 生きて帰れれば……?」


 俺は反射的に聞き返した。


「…………そうね」

「ああ、そうだな」


 一瞬の間の後、リーナとケルドは深い声色で相槌を打った。


 空気が張り詰める。何気ない会話で暖まっていた室内の団欒とした空気は一瞬のうちに、鋭い氷刃ような冷酷なものに成り果てた。


 1周目の人狼ごっことは違う。今回は2周目と同じで本当に命を懸けて(せめ)ぎ合う人狼ゲームだと俺は気付かされた。


 生き残った者しか帰れない。自分が生きて帰るためには目の前にいる他の生存者を、時には殺さなければならない。また、その逆で殺されることもあるかもしれない。ここにいる誰もがそれを理解していた。


 会議室に凍てつくような不穏な空気が流れる。俺はその空気に堪らず、何か別の話題を振ろうとした。


「そういえばなんでみんなはこの城に来――――」


 俺が言い切るのを待たずして突然、円卓が宙に浮き上がった。リーナの化粧道具が飛び散る。急上昇した円卓に両肘をついていたリーナは後方に勢いよく吹き飛んだ。


 円卓が浮き上がったのは床から生え出した巨大な壁のせいだった。


 表面が滑らかな石の壁。部屋の端から端までを横断する巨壁が会議室を大きく二分する。音も立てずに天井まで伸び続ける。


 壁が円卓を突き上げる。天井に到達したのと同時に円卓は壁に潰されて中心部でへし折れた。


 壁の上辺が天井に届き、会議室は完全に分断された。俺の傍にはエルハとリーナが、壁を隔てた向こう側にはレイとケルドが。突如出現した壁によって俺たち5人は分断された。


 急に現れたこの壁が何なのか、俺にはおおよそ見当がついていた。


 この壁はおそらく、人狼が意図的に作り出したものだ。厳密に言えば、人狼が作動させたトラップだ。


 このゲームのルール、役職説明の人狼についての記載で「人狼は城内に仕組まれたトラップを発動して村人陣営をかき乱すことができる」とあった。この壁がまさに今、村人をかき乱していることから、目の前に現れた壁が人狼の作動させたトラップだと推察できる。


 部屋の主要な照明が壁の向こう側にあったせいで俺たちのいる方は薄暗くなっていた。


 リーナは動揺して口を開け、目をパチパチさせている。表情の変化が乏しいエルハもさすがに危機感がにじみ出た表情になっていた。


――ここに長居するのは得策じゃない


「エルハ、リーナ! 逃げるぞ!!」


 俺は二人の名を叫んだ。我に返った二人は部屋を飛び出した俺の後に続き、一緒にその部屋から逃げ出した。

 

 部屋を出て、とにかく会議室から遠ざかる。このフロアから離れるため、階段のある方へ向かった。3人で走り続け、最初に息を切らしてリーナが音を上げた。俺とエルハはリーナに合わせて廊下の途中で足を止めた。


「……も、もう…………限界…………」

「な、なんだよ……元引きこもりの俺より体力ねぇのかよ……」

「……ぅ…………」


 反論する余力もないほどリーナは消耗していた。かくいう俺もかなり肺と心臓の限界が近かった。


 エルハは整った呼吸でピンピンしている。


「あ、そういえば……」


 エルハの背後のガラス窓を見て思いついた。昼時間の時、非力な俺が窓を割ろうとしても全く歯が立たなかったが、怪力を有するエルハなら容易くあのガラス窓も粉々の粉塵にしてくれるかもしれない。もし窓が割れたら、俺たちは外に逃げ出せる。ループからも解放されるかもしれない。


「よし、エルハ。そこの窓をぶち割ってくれ!!」


 俺はエルハの真後ろの窓を指差した。


「うん、了解」


 エルハは了承の意を述べると握り拳を作り、それを窓に叩きつけた――――何度も、何度も。


 鈍い音が廊下に響く。打撃の振動が足元にまで伝わってくる。だが、ガラス面が割れる気配はない。


「ちょっとなにやってるの!? 窓が割れちゃうでしょ!!」


 憔悴状態から立ち直ったリーナが悲鳴に近い怒声を上げた。


「窓が割れちゃうって、割ろうとしてんだから」

「なんで割るのよ!! ていうかそんな音立てたら――」


「――何やってんだ。こんなところで」


 急に背後で男の声がした。全身に電撃が走ったように体が跳ねる。俺は恐る恐る、後ろを振り返った。


――――そこにいたのは青髪に黒いキャップ帽の青年、ゲッカだった。ゲッカは不審者でも見るような懐疑的な目で俺たちを見つめていた。




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