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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第五章 Lonely wolves・ Nightmare ~真の人狼を炙り出せ~
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第26話 チュートリアル



 暗闇に包まれた城内。天井で朧げに点滅を繰り返す蛍光灯や、壁に掛けられた仄かに灯ったランタンの明かりが周りを頼りなく照らしている。


 人狼ゲームのルールに則ると今は「夜時間」だ。本来なら獰猛な人狼の襲撃に怯えて過ごさなければならないが、今回は違う。人狼は一日に一人しか村人を殺せないというルールがあり、今日は既に村人が人狼の手によって殺されているからだ。朝までは人狼に襲撃される心配はない。


 現在の時刻は夜の11時。俺は、自分に与えられた「役職」の役目を果たすために行動を始めていた。俺の役職は占い師。占いをするために必要な「作業室」に足を進めた。占い師や霊媒師等の役職者は作業室の中でしかその能力を行使できない。


 作業室は城内に何か所かあるが、俺が足を運んだのは東の階段で2階へ上がってすぐのところにある部屋だった。


 戸を開くと中から埃くさい空気が漂ってくる。室内は壁際に木製の棚やチェストがあったが物はほとんど置いていない空虚な部屋だった。装飾は蜘蛛の巣と粉のような埃のみだ。


 部屋の中央に置かれた朽ちかけた簡素な机、その上には占いや霊視に使うであろう澄み切った水晶が鎮座していた。真球の水晶が転がらないように、下に分厚い布切れが敷かれている。


 俺は水晶の前で足を止めた。


「さて、誰を占うか」


 ゲッカが人狼なら「こんにゃくが欠けている」というケルドを追い詰めるような情報をわざわざ提示しないはずだ。


 先程の投票を見るとケルド4票、レルフェ2票となっている。レルフェに入った2票のうちの1票は確実にケルドが入れたものだ。あの時、誰もがケルドを疑っていた状況でケルドに票を入れないのは、ケルドが死ぬと都合が悪い人狼くらいだ。おそらく人狼2人が意思疎通してダメ元でレルフェに票を集めたのだろう。よってレルフェは人狼候補から外れる。


 昼時間はずっとエルハと行動を共にしたが、俺の見た限り怪しい動きはなかった。


 消去法で、残ったリーナを占うことにしよう。


 具体的な占いの手順なんか全くわからないが、とりあえずリーナの姿を思い浮かべて水晶に手を乗せてみる。すると、次第に水晶の中にリーナの顔が浮かび上がり、たちまち黒いオーラに染まっていった。


 視覚的にもわかるが、何より水晶が、かざした手の平を通じて脳髄に直接訴えかけてくる――――リーナは人狼だ。


 これさえわかれば俺たちの、村人の勝ちだ。あとは他のみんなに俺を信じてもらうだけだ。


 俺は夜の間にリーナ以外の生存者に、自分が占い師であることとその占い結果を伝えた。事前にできるだけの根回しはしておく。


 このゲームのルールによると、夜時間は最低4時間の睡眠をとらないと死んでしまうらしい。俺は城の中の一室の寝具に体を預けて、朝が来るのを待った。





§





 鐘の音で俺の意識は現実に引き戻された。朝会議の時間だ。寝ぼけ眼のまま、足早に1階の会議室へ向かった。


 俺が会議室についた頃には既に、他のみんなは指定の席に着いていた。


 残る生存者は5人。俺が席に着くと処刑者を決める会議が始まった。


 開始早々、腕を組んで背もたれに体を預けていたゲッカが、目だけ動かして俺に視線を送る。黒いキャップ帽と青い髪の下からピンクの瞳が覗いている。


「で、イズミ。なにか言いたいことがあるんじゃないか?」


 俺に話を振るゲッカ。


「ああ、昨日みんなに、リーナ以外のみんなに伝えたように、俺の役職は占い師だ。昨晩リーナを占って、結果は()だ」


 昨日みんなに伝えたことを改めて簡潔に話した。それを聞いた途端、リーナの体が跳ねる。


「なっ! あ、あたし人狼じゃないし! ……あ、あたしは占い師よ! ゲッカを占って人狼だった!!」


 苦しい言い逃れをするリーナ。ゲッカが口を開く。


「ケルドが人狼だったのなら残りの人狼は一人。だが、あんたが本当の占い師なら俺が人狼なのに加えて、村人であるはずのイズミが嘘をついていることになる。おかしくないか?」


 ゲッカが正論で指摘する。ゲッカの言う通りで人狼が残り一人の状況で生存者の中に俺とゲッカ、嘘吐きが二人いるはずがない。


 それでも自分が占い師だと言い張るリーナ。それからリーナは会議の時間が終わるまで荒唐無稽な弁明を続けた。


 会議が終わり、投票をして、食事の時間になる。


 厨房からミートソーススパゲティが運ばれてきた。俺を含む5人はそれを口に入れた。


 しばらくすると一人の少女がフラフラとツインテールの髪を揺らして、終いに音を立てて円卓に倒れた。彼女を除く4人が彼女に投票したからだ。


 静かな寝息を立てるリーナ。これで城に潜む二人の人狼は眠りに落ちた。


 リーナが倒れて一時の沈黙の後、弦楽器や管楽器が奏でる壮大なクラシック音楽が城内に響き渡った。重奏の音圧が心の底から奮い立たせるような賞賛の曲だ。


 言葉で言い表されずとも、その音楽が村人陣営が勝利したことを確信させてきた。


「やった、勝ったぞエルハ!」

「ええ、そうね」


 俺は歓喜の声を上げたが、エルハはいつも通りの冷淡な装いを保っていた。


「私はほとんど何もしなかったけど、無事に終わってよかったわ」

「今回のゲームは簡単すぎたな」


 レルフェとゲッカも思い思いに口を開く。


 俺たちは人狼ゲームクリア後のアフタートークに花を咲かせた。――――だが、そんな風に駄弁っていられるのも一瞬だった。


 遺体安置用檻に囚われたままのレイとケルドを迎えに行こうと一歩踏み出したその時、


「――うっ! 何だッ!?」


 部屋の外の廊下から、室内の隙間から、床から、城内のあらゆる箇所から白い煙があふれ出した。ガス漏れを起こして破損した配管が悲鳴を上げるような音も聞こえる。


 煙はあっという間に周囲を白に染め上げた。何も見えない。息を吸うと重たい空気が肺を押し潰していく。


 たちまち睡魔のような倦怠感に襲われ、視界が狭く、暗くなっていく……





§





 突如、眩い光に目が眩んだ。


「お、二人来た。これで全員揃ったようだな」


 低めの男性の声がした。ケルドの声だ。


 視界が開け、柔らかい暖色の照明に包まれた空間が広がる。俺の隣にはエルハがいる。目の前の巨大な円卓をケルド、レルフェ、レイ、リーナ、ゲッカが囲んで座っていた。


 その光景に既視感を覚えた。


「…………なんでみんな座ってるんだ? もう一戦やるのか?」


 俺は5人に尋ねた。


「はぁ? もう一戦?」


 ツインテールをいじっていたリーナが眉をひそめて首を傾げた。


「ああ、もう一戦やるつもりなんじゃないのか? じゃなきゃ何で座って――」

「いいから早く座れ。ゲームが始まらない」


 俺の声を遮るゲッカ。相変わらずツンとした無表情を貫いている。その点は少しエルハに似ている。


「ゲッカ。さっきはお前がこんにゃくが欠けているのに気付いたから勝てたようなもんだ。ありがとな」

「……………………」


 ゲッカは返答せず、沈黙が流れる。


「えっ? 無視かよ!?」

「…………馴れ馴れしい人ですね。初対面なのに」


 レイが呟くような声で吐き捨てる。


「しょ、初対面!? …………エルハ?」

「私たちはさっきも一緒に戦った。村人が4人残って村人陣営の勝ちだったよ」


 俺はエルハに確認を取った。エルハは初戦のことを覚えているらしいが、他の5人は覚えていない、記憶が消えているらしい。いや、記憶が消えているというよりも――――


「俺たち、タイムリープしてるのか……?」


 エルハの方に目を向けた。視線が合う。エルハは小さく頷いた。俺とエルハは今、間違いなく同じことを考えている。確実に、俺たちがこの城に訪れた時まで時間が巻き戻っていると。先程の眩い光に視界を奪われた後の既視感と、他5人の反応がそれを裏付ける。


――ただ、円卓に座る5人が醸し出す重苦しい張り詰めたような空気だけは、時が巻き戻る前とは全く異なるものだった。皆、死神に魂を握られたような険しい表情をしている。


 俺は壁面の黒板を見た。前回と同様に、キリキリと嫌な音を立てて黒板に文字が浮かび始めた。ルール説明だ。だが、黒板に連なった細かい文字を辿っていると前回とは変わっている点があることに気づいた。


 それは役職説明の欄。前回は人狼が二人いたがそれが消えて、代わりに飢餓の人狼という役職が二人分追加されていた。普通の人狼で構成された人狼陣営は一日に一人だけ村人を殺さなければならないのに対して、飢餓の人狼で構成された人狼陣営は二人殺さなければならない。


 確かに時は巻き戻っているが、全く同じ過去へ戻っているわけではないらしい。


 俺たちはルール説明を読み終え、ネームプレート裏の自分の役職を確認した。今回の俺の役職は「村人」だ。特殊な能力を持つわけでもない平凡な人間だ。


 それからその会議室で食事をとり、7人は各々別行動を始めた。


 俺はエルハと共に少し城内を見て回った後、1階の「談話室」というこじんまりとした部屋で状況を整理することにした。


「――――エルハ。やっぱり俺たち、過去に戻ってるよな……?」

「ええ。正夢とか予知夢とかじゃなく、確実にこの城で一晩を過ごした記憶がある。……でも、前回とは違うことも結構ある」


 エルハの言う通りで、すべてが以前と同じというわけでもなかった。その()()はついさっき、城内を探索していた時にも垣間見えた。


「前は1階にあった部屋が2階にあったり、その逆もあったな」

「とにかく今一番知りたいのは、何で時間が巻き戻ったのか……」

「ああ、この人狼ゲームの仕様ならいいんだけど、なんかそういう感じでもない気がするし。原因が分からないとゲームクリアしてもまた巻き戻る可能性も高いし…………」


 俺は談話室の窓の外を眺めた。波打つ黒い大地と分厚い曇り空が広がる風景。その風景は高尚な芸術家が精神を病んで描いた絵画のような、どこか現実離れしたものだった。


「まあ今は、様子を見るしかないか……」


 俺が呟くと、後ろでエルハが重く咳き込んだ。


「おいおいどーしたんだよ。そんな牛丼屋でメシ食い終わった後のおっさんみたいな咳して――――ッ! エルハッ!!??」


 振り返ると、エルハの胸部のシャツが真っ赤に染まっていた。血の色だ。


 続けて、口から同じ赤色が溢れ出た。そのままエルハは操り糸が切れた人形のように地面に崩れ落ちた。


 エルハの背面にも胸部と同じような赤い染みが広がっている。


「これ、刺されて――ル゛ッ!?」


 腹部に激痛が走る。体の力が抜け、全身が悪寒に包まれた。


 尋常じゃない腹部の痛みで地面に崩れた。喉の奥から泡の混じったドロドロした液体が湧き上がって気道を塞いだ。


――いたい、いたい、ころされる、きっとエルハも


 遠退く意識の中で、俺の頭上に何者かの気配を感じた。


「このループは……この夢は終わらせない……」


 頭上で声がしたが、意識が混濁して声音までは認識できない。


 全身から噴き出す汗と一瞬で奪われていく体温の中で俺は意識を手放した………………




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