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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第五章 Lonely wolves・ Nightmare ~真の人狼を炙り出せ~
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第25話 拍子抜け 



 城内に響く鐘の音と共に人狼ゲームが始まった。黒板に綴られたルールによると朝会議と夕会議の後に食事が提供されるらしい。


 俺は灰色の石レンガの壁に掛けられた時計に目をやった。今の時間帯はちょうど朝会議の後に当たる。


「――ッ! この匂いは……?」


 どこからか漂ってきた香ばしい匂いが俺の胃袋を揺らした。匂いの出所は十中八九この円卓の空間の奥、モダンなカウンターの向こう側に広がる厨房からだ。綺麗に磨かれた表面が光を反射する、新品同様のメタリックシルバーを基調とした厨房。


 その厨房から愉快な音楽を流した配膳ロボットが現れた。正面の液晶パネルにネコの顔が浮かび上がった配膳ロボットが俺たちのいる円卓にマイペースに近づいてくる。ロボに備え付けられた七段の棚にはそれぞれ同じ食器が乗っていた。


 配膳ネコロボは円卓の前に到着すると愉快な音楽を流すのをやめた。


「お待たせしましタ! あったかいうちに食べろニャ!」


 ロボのスピーカーから甲高い人工音声が響く。七段の棚には白い湯気の湧き立つ熱々のローマ風ドリアとコーンスープが乗っていた。


 ちょうど七人分。まずは腹ごしらえをしろということだろう。俺たちはロボから熱々の食器を受け取り、各々食事を始めた。


 俺はドリアを口に運びつつ、隙を突いてチラチラと初対面の五人を観察した。


ピンクのマスクをしたレイは鼻から下を見せないように、器用にマスクをずらして少しずつ食べている。


 猫舌なのか、赤髪ツインテールのリーナはスプーンに掬ったドリアを、餌をついばむ小鳥のように食べている。時折、「熱いのは嫌い!」と文句を垂れながら。


 その隣では金髪の中年男性ケルドが胃袋に流し込むように食事に食らいついている。熱々になった皿を素手で持ち、スプーンで口内に掻き込んでいる。隣に並んだリーナとあまりに対照的だ。


 食事一つでもその人の性格というか、個性が現れるな……。



 その後、俺を含む七人は食事を終えたものから順に円卓の部屋から出ていった。悠々と食事をしているが、既に人狼ゲームは始まっている。


 食事を終えた俺はエルハと二人で城内の探索に繰り出した。ルール説明の書かれた黒板、その隣に貼られた城内マップを軽く頭に入れて探索を進めた。


 城の中は中世ヨーロッパで裕福な貴族が暮らす城のような作りになっていたが、天井には蛍光灯や配管が巡っている。過去の遺産に現代的な要素がねじ込まれた、ある種のテーマパークめいた空間になっていた。いずれにしても城内は少し薄暗く、不気味な白い影が姿を覗かせても不思議ではない。


 先程俺たちが食事をとった円卓のある部屋は会議室兼食堂となっていて、処刑する人を投票で決める会議でも使われる、このゲームの起点となる部屋だ。


 その部屋を出て探索を始めた。


 城は地下1階から地上3階の計4階建ての建物。城の西側と東側に一つずつ、地下から3階まで昇り降りできる階段がある。城の中心には四方を囲まれた吹き抜け状の中庭があり、2、3階部分にはバルコニーが突き出している。


 1、2階にはいくつかの個室や作業室、檻や図書室などの部屋がある。3階は西棟と東棟に分離していて、同フロア上で両者を行き来することはできないようになっている。西棟から東棟に行きたければ一度2階フロアを経由しなければならない。



 探索を進めて、城の大体の構造は頭に入ってきていた。エルハとともに2階の廊下を歩いていると、廊下の隅に誰かが倒れているのを発見した。


「――ッ! アレは!」


 俺とエルハは足早に駆け寄った。そこに倒れていたのはピンクのマスクと黒髪の少年――――レイだ。額には「死亡」と書かれた張り紙が。


「おい! 大丈夫か!?」


 俺はレイの体を揺すった。悪霊退散のお札のように張り付けられた紙がひらめく。


 ひらめいてずれた張り紙の奥で、さも当然のように開かれていたレイの眼と視線が交わった。瞳には光が宿り、時折まばたきを挟む。明らかに意識があるし、至って平然としている。


「名前はレイ、だったよな?……………………あれ、違ったか……?」


 話しかけても声を発することはない。ただ、目元からだけでもわかる気怠そうな表情で、マスクの前に両手の人差し指でバツを作って見せる。


「なんだ? どういうことだ?」

「これは…………」


 エルハが口を開く。


「これって『人狼に殺害された』ということじゃないかな?」

「――――それだ」


 死亡と書かれた張り紙。何もないところでただ倒れていたのはそこで死亡したから。口元でバツを作ったのは喋れないという合図。喋れたら犯人の、人狼の名前を密告してゲームが破綻してしまう。


 人狼ゲームというその名の通り、これはただのゲームであり、本当に人が死ぬわけではない。このゲームでは死亡したらその場から動かず喋らず、死亡の張り紙を額に貼って待つのがルールらしい。


「なるほどな……と、いうことは」


 人狼は既に村人を一人、殺害しているということだ。人狼側は一日に一人しか殺害できないというルールがあった。これで今日だけは人狼に殺される恐れはなくなった。あとはレイを殺した人狼を特定するだけだが……


「ん? これは?」


 レイの足元に棒状で艶々のこんにゃくが転がっていた。





§





 時が経ち、城内に鐘の音が鳴り響いた。その鐘は城の中で処刑する人を決める会議『夕会議』の始まりを告げるものだった。


 城を探索してレイ殺害の手掛かりを探し回っていた俺とエルハは1階の会議室へ向かった。道中、死亡の張り紙を額にひらめかせて歩くレイが、同じく1階にある『遺体安置用檻』に入っていったのが見えた。


 時間差で会議室に集まったレイ以外の6名。各々、円卓につき、全員揃ったところで処刑者を決める会議を始めた。


 会議室の黒板にはいつの間にか重要事項として「殺された者の名」と「死体が見つかった場所」が追記されている。


 初めにレイの死体を発見した俺とエルハはその後、場内を探索したが、これと言って殺害の手掛かりと思えるようなものは集まっていない。ただ一つを除いて。


 俺は殺されたレイの足元に転がっていた棒状のこんにゃくを円卓の中央に差し出した。


「これは、俺とエルハがレイを見つけた時に近くに落ちていたものです」

「ええ、おそらくこのこんにゃくでレイは撲殺されたものと思われます」

「いや、それはないと思うけど……」


 エルハの的外れの補足説明に俺は否定を挟む。


「もしかして……こんにゃくで体を撫で回されて、エクスタシーで快楽死したんじゃないかしら!!」


 声高らかに叫ぶ眼鏡のお姉さん、レルフェ。物静かな女性だと思っていたからこの反応は意外だった。


「バッカじゃないの!! そんなわけないでしょ!? そんなテキトーなこと言って、アンタがレイをやった人狼なんじゃないの?」


 赤髪ツインテールの女の子、リーナが顔をしかめてレルフェに噛みつく。リーナの言葉で場の空気が、少しだけレルフェに容疑が傾く。


「レルフェさん。俺たちがレイを見つけたのは午後3時頃なんですが、その時あなたはどこにいましたか?」


 俺はレルフェに尋ねる。


「私は2階の図書室にいました。この城は歴史的に価値のある書物がたくさん眠っているということで有名なんです。私はそれを拝見したくてここに来たんですよ! 皆さんもぜひ、一度図書室に足を運んでみてください!」


 あまり人狼とは関係ないようなことまで楽しそうに語り出すレルフェ。黙っているとクールなイメージだが喋り出すと意外と陽気、というか天然っぽい女性だ。


「あたしは確か、3階の部屋を探索してたわ」

「ほう、なるほど――ゲッカ君はどこにいたんだ?」


 レルフェの後に続けて答えたリーナ。顔にタトゥーの入った金髪のおじさん、ケルドがゲッカに話を振った。


 青髪で黒いキャップ帽をかぶった青年、ゲッカは沈黙を決め込み、円卓上のこんにゃくを凝視している。


「ゲッカ? どうかしたのか?」


 俺は声を掛けた。


「このこんにゃく、角のところが欠けている」

「え?」


 こんにゃくを見つけた俺は気づかなかったが、確かに一部、角が欠けている。


「――――カっ! ま、まさか! こんにゃくが欠けるわけないだろ! 見間違いだ!」


 何故か、急に声を上げてまくし立てるケルド。


「いや、本当に欠けてるぞ」


 ケルドは目が悪いのかもしれない。俺はこんにゃくを手に取ってケルドの目の前に持っていった。


「や、やめろ! 近づけるな!!」

「え、なんで?」

「ど、毒入りなんだろ。それ……?」


 ケルドの額に汗が伝う。


「え、毒入りなんて一言も言ってないが……そうなのか?」


――ピピッ、ピピッ、ピピッ


 会議の終わりを告げる電子アラームが響いた。黒板の隣に置いてある、処刑者を決めるための投票箱からのものだ。


 ここから投票時間に入る。この時、この場にいる誰もがこう思っただろう。――どこで仕入れたかは知らないが、ケルドがどこからか持ち出した毒入りこんにゃくをレイに食わせて殺したのだろう、と。



 投票は、紙に処刑したい人の名前を書き、投票箱に入れるという至ってシンプルなものだった。ちなみに、白紙で投票した場合は「処刑なしを希望」の意味になり、これば一番多ければその時は処刑は執行されない。また、一番多く票を集めたものが二人以上いる時も誰も処刑されない。


 俺たち6人は全員、紙を投票箱に入れた。投票が終わり、食事の時間に移った。この人狼のルールによると、投票数が一番多かった者の食事には『処刑用睡眠薬』が投与されるらしい。


 円卓を囲んだ俺たちの元に、厨房から配膳用ネコロボットが「大根おろしピザ」を運んできた。和風と洋風の殺し合いの一品だ。


 全員分が揃ったところでそれを口に運ぶ。


 俺たちがその微妙な味わいに顔をしかめる中、リーナだけは頬がこぼれ落ちそうなほど幸せな顔でそれを食していた。リーナの舌はいろいろと壊れているらしい。


 数分後、ケルドがバタリと円卓に突っ伏して大いびきをかき始めた。処刑用睡眠薬が効き始めたようだ。予想通りだ。


 処刑用睡眠薬と言ってもこれは人狼()()()なので、本当に殺すわけではない。ただ眠らせるだけだ。


――正直、ゲームと言えど余りの緊張感のなさに俺は拍子抜けしていた。


 処刑がなされた後、黒板に投票数が追記された。


ケルド:4票 レルフェ:2票


 生存者は残り5人。夕会議が終わり、夜時間へと移行した。


 


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