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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第二章 ラストファンタジー ~打倒魔王~
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第12話 雪降る北の魔王城

pixivでキャラのイラストを投稿しています→ https://www.pixiv.net/users/73175331/illustrations/%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A033

 エルハ奪還のため、俺とイヌヌはテロチスの町を北に進む。目的地は魔王城だ。おそらくそこにエルハが捕らえられている。


 エルハのお母さんによると魔王の城は、テロチスの町からずっと北へ行ったところにあるらしい。


 町の住宅群を抜けると、目の前に広大な砂の平地が広がる。両脇には東西の壁が地平線の先まで果て無く伸びている。正面奥には連なる山々があり、目を凝らすと山の頂上に薄らと雄大な城がそびえ立っているのが確認できた。城も山頂も雪で白く染まっている。


 遠くに霞む城をぼんやりと眺める俺とイヌヌ。ふと、前方奥から()()()がこちらに迫ってくるのが見えた。


「イヌヌ、あれなんだろう…………」


 徐々に近づいてくるそれは猛スピードで接近してくる、あれは……巨大な…………


「――――建物だッ!!」


 イヌヌが声を上げる。


 横幅40メートルはある巨大な建物が暴走列車の如く風を切って俺たちに迫る。


 俺とイヌヌは真横に走って飛び込む。間一髪、俺の真横擦れ擦れのところを暴走ハウスが掠めていく。なんとか衝突を免れた。


 振り返ると今の建物が砂塵を上げて町の方へ猛突進していく後姿が見えた。


「ふぅ、危うくミンチになるところだったね」

「ああ…………あれがエルハの言ってた『新しい建物が北から送られてくる』っていうやつか」


 エルハにこの町を案内してもらった時に教わった特異な町の仕組み。その一片を垣間見ることになった。





§





 俺たちはひたすら北の魔王城目指して歩を進めた。時折正面から突進してくる建物の群れを避けながら進んだ。


 雪積もる山の麓に辿り着き、山を登った。


 朝日が東の空から覗き始めた頃、ようやく山の頂上に、魔王の城の前に到着した。城に積もった雪が朝日に照らされ、壮麗な城がより美しく異彩を放つ。


 石材を巧みに削って作られた荒々しくも豪勢なアーチを潜って城内に入る。


 城の中は吹き抜けのような広闊(こうかつ)な空間になっていた。薄暗い広間の奥に一本の太い柱が立っており、その上に鉄格子を組んだ堅牢な檻がある。


――檻の中にうつ伏せで眠っているエルハの姿が


「――エルハ!」


 俺はエルハの名を呼び、駆け寄ろうとしたその瞬間、


「ここに何か用か?」


 何者かの低く落ち着き払った声が広間に響く。俺は立ち止まり、周囲を見回して声の出所を探す。


 城内に入って左側の壁面、白い山脈を一望できる横長の大きい窓があった。その窓際に、腐食した小さい木のイスに腰掛ける大男がいた。身長2メートル程、イスが押し潰されてしまいそうな程の巨体。黒いスーツに身を包み、紫のオールバックの髪。頭部には無数の短い角が生えている、彫りが深い整った顔の男だ。


「雪と山しかないこんな場所に何の用だ? 少年」


 年季の入った黒い本を片手に足を組んだ大男が低く、だがはっきり聞こえる声で俺に尋ねる。男が口を開くたびに白い煙が喉の奥からこぼれる。


 この男、名乗らずとも醸し出す肌を凍らす抑圧的な空気感が知らしめる。奴は、俺の目の前にいるこの男は――――魔王だ。


「俺は…………魔王に用があって来た」


 少し間を置き、男が口を開く。


「そうかそうか、まいったなぁ。明日は娘の学校の参観日なんだ。ボロボロの体じゃあ親御さんに笑われちまうよ」


 男は、魔王は俺が語らずとも俺の目的を理解していた。そしてこう宣言した。当たり前のように俺に打ち勝って、生きて帰って娘の顔を見に行くと。


「あんた、魔王でお父さんなのか?」

「ああ、魔王業をやってる、どこにでもいるごく普通の父親だ。週休2日、残業なし、風通しの良いアットホームな職場です。まあ、俺しかいないんだけどな」


 魔王は本に挟んでいた黄色い紙切れを俺に見せる。求人広告「魔王業」とでかでかと印字され、その隣に「マ・オウ」とおそらく今、目の前にいる魔王の直筆署名が記されている。


 俺は話を本題に戻す。


「聞きたいことがある。何故エルハを攫った」

「そこにいる女か? その女は強大な力を持っている。それが必要。それだけだ」


 魔王は簡潔に答える。


「…………そうか。もう一つ聞く。南にあるテロチスの町のことだ。あの町の面倒な仕組みを作ったのは、お前か?」

「ああ、そうだ。定期的に送られてくる完成された家と、その中に用意された豊富な食料。壁に守られた不自由な平穏。町の民はそれらに依存している…………。なにかに依存した人間を扱うのは実に容易い。彼らにはいずれ魔王軍の手下として一生その身を捧げてもらうつもりだ」

「悪趣味だな」


 魔王は大袈裟にため息をつく。


「しょうがない。魔王業の仕事だ。こいつをしないと家族を養えない。嫁の笑顔と子供の幸せさえあれば世界を敵に回す価値はある。」

「…………じゃあ、今から俺がやることは、その家族を死なせることになるな」


 咽ぶような笑い声をあげる魔王。


「俺を倒すなら、そういうことになる。 それをやるのは民のためか? 世界のためか? それともそこに眠る女のためか? 貴様の戦う理由は何だ!?」


 怒気をはらんだ声と共に本を捨てて立ち上がる。眉間にしわを寄せて俺を見下ろす。


 俺はハンマー、ガルムを取り出して肥大化させる。


「勘違いすんな。ゲームクリアのためでしかない!!」

「それは素晴らしい! 今日は残業確定だ!!」


 魔王が首元のネクタイを緩める。


「行くぞイヌヌ!!」


 俺はガルムを握る手に力を込めて魔王に迫る。イヌヌは弓を構えて引き絞る。


 魔王の手前、俺は跳び上がり、ガルムを振り被って叩きつける。急降下する鉄槌の打撃を片腕で受け止める魔王。そのまま薙ぎ払うように弾き返す。


 放り投げられ、空中でバランスを崩した俺に魔王が反撃を仕掛ける。薙ぎ払った腕を再び振り払うと深紅の、フリー素材のエフェクトのような斬撃が飛ぶ。安っぽいスマホゲームのエフェクトみたいな斬撃だが、これを食らったら致命傷は避けられないことを直感する。


 俺は空中で身をよじって深紅の斬撃を躱す。同時に、イヌヌが放った矢が魔王の鼻先めがけて一直線に空を駆ける。


 首を傾げ、涼しい顔で矢を躱す魔王。


「この程度か?」


 今度は魔王が、着地寸前の俺の目の前に一瞬で飛び移る。握り拳を構える。俺は躱すことも出来ず、手前でガルムを構える。魔王の正拳突きを正面から受け止め、背後に突き飛ばされた。


 気づいた時には城の壁面に叩きつけられていた。衝撃で硝煙が舞う。額をドロドロした液体が伝った。




 その後も、魔王は強力な魔法や打撃で俺たちを圧倒した。斬撃だけは喰らわないように避けながら戦うも、魔王に傷一つ与えることができない。時間だけが過ぎ、俺とイヌヌは消耗して追い詰められていった。


 イヌヌは重力魔法で床に叩きつけられ、俺は魔王の大きい手に首を握り締められていた。最早、俺たちに抵抗の余地はない。


 こんなにも呆気なく敗北してしまうとは思っていなかった。人食い竜を倒したことで慢心していたのかもしれない。


 魔王が握力を強める。


――こんなところで、ゲームの中で俺の人生は終わるのか


 塞がる気道。酸素が枯渇して遠退く思考。もう終わりだ…………


グサッ!


 何かが貫かれる音がする。次いで、魔王が咽ぶ声がする。


「ガはっ! な、何者だッ!?」


 魔王の胸から血塗られた刃が突き出していた。


「ハハッ、楽しそうなことしてんじゃねえか!」


 魔王の背後から、愉快な男の声がした。



 

twitter→ https://mobile.twitter.com/bandesierra


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