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自堕落ゲームテスターは33種のゲームをプレイする  作者: バンデシエラ
第二章 ラストファンタジー ~打倒魔王~
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第10話 4連鎖!じゃない方

pixivでキャラのイラストを投稿しています→ https://www.pixiv.net/users/73175331/illustrations/%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A033

 背後から俺に声を掛けてきたのは中年女性だった。包み込むような穏やかな微笑みを浮かべるその顔には、年の功の現れを感じさせる皺がわずかに刻まれていた。予測するに50代あたりだろうか。ブロンドの髪を後ろで束ねている。


 俺とイヌヌはおばさんに壁際のバーカウンターに案内される。暗い木目調の落ち着いたカウンターだ。壁棚には多種多様な瓶が陳列されている。


 俺は足長のカウンターチェアに腰掛け、子豚姿のイヌヌはカウンターの上に体を預けた。


「ここは不思議な町ですね!」


 イヌヌが声高らかにおばさんに話しかける。


「そうね、この町に初めて来た人はみんな驚いているわ。この町では建物の一階が通路やお店になっていて、二階は町民の居住スペースになっているのよ。町の人たちは建物の一階フロアを通って町の中を移動するわ」


 おばさんが耳障りのいい声で町の説明をしてくれる。


「ちなみに、ここの上に私の宿屋があるから、泊まる場所をお探しならどうぞうちに泊まっていってくださいね」


 今夜泊まる場所のことなど微塵も考えていなかったが、たった今、運良くそれが見つかった。


「ホントですか!? イヌヌ、今夜はここに泊まるか?」

「そうだね! でもその前に、今日のうちにクリア条件の一つ、人食い竜の討伐は終わらせたいね!」

「ああ、そういえばそいつらの居場所とかを聞くためにこの町に来たんだったな。――おばさん、その人食い竜ってやつがどこにいるか知ってますか?」


 朗らかに微笑んでいたおばさんの顔が曇る。――しまった。おばさんと呼んだのがよくなかったか?


「人食い竜の所へ行くなんておやめなさい。竜は危険な生物。食べられてしまうよ」


 おばさんが憂いのこもった声で俺たちに訴える。――よかった。おばさんと呼んだことは気にしてなかったようだ。ただ俺たちの身を案じているだけだ。


「そりゃ人食い竜って呼ばれてるんだから人くらい食いますよ」

「僕たちそれなりに強いんで竜くらい倒せますよ!」

「いや強くはないけど……」


 イヌヌに言われて気づく。俺たちに伝説の生物、竜なんて倒せるのか。いや、倒せるはずがない。狼の群れを追い払うのでさえ苦労した俺たちだ。竜の元へ着いたとして、どう太刀打ちすればいいのか。


「あの竜の元へ行った旅人は誰一人帰って………………、どうしても行くというのなら夜まで待つ必要があるわ。人食い竜はこの町の西側にある洞窟に住み着いていて、そこに行くには町の西門から出ないといけないの。だけどこの町の規則で、昼間は東門のみ開けて、夜は西門のみ開けることになっているの」

「なるほど。夜にならないと人食い竜の住処に行くための西門が開かないってことですね」

「ええ、そうよ」


 つまり夜になるまで待つしかないということだ。


 壁に掛けられた時計に目をやる。現在時刻は午後2時。夜までまだ時間がある。今までずっと歩き続けてきて、しばらくまともな寝具で眠ることも出来ない日々が続いていたので疲労が溜まっていた。人食い竜という強敵との戦闘前、少しでも体を休めて万全に近い状態で戦いに挑みたい。


「おばさん、夜になるまで宿で休ませてほしいんですけど――」


――イヌヌが振り返る。


「えぇ!? せっかく面白い町に来たんだからこの町を探索しようよ!」

「またそれか……」


 サバイバルの時も探索探索と宣っていたイヌヌ。イヌヌはまだ見ぬものへの好奇心や知的探求心が旺盛なようだ。


「お前だって休んどいたほうがいいだろ。竜を倒すための決定打になるような策もないんだ。厳しい戦いになるぞ」

「それとこれとは話が別だよ! それに町を見て回ってれば竜を倒すためのアイデアを思いつくきっかけになることもあるかもしれないよ? …………どうしてもイズミは休みたいっていうなら、僕ひとりで行くもん」


 顔を背けるイヌヌ。


「……………………………………しょうがねえな、俺も行くよ」

「ホント!? やったぁ!!」


 再び俺の方に振り返って、喜びを全身で表現するように飛び跳ねるイヌヌ。


「そんな嬉しいことか……?」


 飛び回って理解し難いほどに喜ぶイヌヌに俺は呆れ混じりのため息がこぼれる。


 おばさんが口を開く。


「それならうちの娘に案内させるよ。この町は複雑な構造で、初めて来た旅人は必ず迷うからね」


――ドタ、ドタ、ドタ


 直後、バーカウンターの奥まったところにある階段から足音が響く。


「お、ちょうど来たようだね。――エルハ! ちょっとこっちに来てちょうだい!」


 階段の上からゆらゆらとはためく膝丈の黒いスカート姿が降りてくるのが見える。次いで、腰から腹部にかけてを締める茶色い革製のコルセットと、袖口が広くゆとりがある純白のシャツが現れる。最後に、ハーフアップの金髪をたなびかせた、まだあどけなさの残る女の子の顔が見えた。


 顔立ちと背丈から推察するに18、19歳あたりだろう。


 俺たちに近づいてくる少女の手には真っ白の皿が、その上には真っ黒の何かが佇んでいた。熱のないじっとりとした黄金色の瞳がおばさんに向けられる。


「お母さん。アップルパイ焼いたから食べて」


 血圧低めの声で皿の上の黒を勧める少女。あの暗黒はアップルパイだったらしい。この世界の食べ物は見た目がグロテスクなのが基本なのだろうか。


 おばさんは切り分けられた黒い塊を一切れ手に取り、それを盛大に頬張る。おばさんの表情がたちまち満たされていくような柔らかいものになる。


「ありがとう。おいしいよ」


 少女に満面の笑みを向ける。それに呼応するかのように少女もわずかに目を細め、口角を上げる。


「紹介するよ旅人さん。この子はうちの娘のエルハ。――エルハ、この旅人さんたちにこの町を案内してやってくれないかい?」

「いいよ」


 間髪入れずに端的に即答するエルハ。あらかじめいくつかの回答パターンをインプットされた機械のように。


 ふと、少女が左腕に巻いていた腕時計に目が留まる。時計の針は12時ちょうどを示していた。





§





 俺とイヌヌは少女「エルハ」の案内の下、町を取り囲む巨壁の上を歩いていた。町の中から壁の内部に通じる扉に入り、仄暗い壁の中の階段を上がると壁上通路に出た。


 壁の上に来ると、狭く鬱屈とした町から出られた解放感に包まれる。程よい日差しが普段より幻想的に世界を照らしているように感じた。


 壁の上からこのテロチスの町を一望できる。今、俺たちは町の東側の壁の上にいる。この反対側の西側の壁、その壁の上に人がいても目視できないほどに遠く離れた壁。その壁の内側の広大な土地に建造物を詰め込んだ町が広がっている。


 南方に目を凝らすと東西と同じように()()()()によって囲われているが、北の方は東西の壁がどこまでも果て無く伸びているだけで()()()()の存在は確認できない。また、北の方は途中から建造物が一切なくなり砂の更地がどこまでも続いていた。これを見るまでこの町は四方を壁に守られた町だと思っていたが、実際はそういうわけではないらしい。


 上から町を見下ろしてみると密集した建築物と窮屈な路地だけではなく、家屋1、2軒分の控えめな広場が点在していることが分かる。


「エルハ―、どこに向かってるの?」


 人型の姿になったイヌヌが目の前を歩く金髪の少女に問う。俺たちは彼女の案内に従って東の壁の上を南方向に進んでいた。


「もう少しだよ」


 振り返って優しく微笑むエルハ。


 数分、歩みを進めると南の壁と交差する位置、南東の角に着いた。ここは東の端でもあり南の端でもある。


 エルハが口を開く。


「この辺り、南の方にはもう人が住んでいないの」


 俺は近くの住居群に目を移す。素人目で見た限り、どの建物も比較的新しいものに思える。「もう人が住んでいない」、ということは以前には人が住んでいたということだが、使用感をほとんど感じないほどにきれいな状態を保っている。


「そろそろ始まるかな」


 エルハが呟く。


「始まるって何が――――」


――――突如、地面が振動を始める。先程町の中で体験した揺れと同じものだ。辺り一帯が轟音と激しい揺れに襲われる。


 俺とイヌヌは咄嗟に壁上のせり上がった小壁につかまる。


 周囲の建物がミシミシと軋む音を奏でる。次第に大揺れに耐えられなくなったのか、南側の壁に面した建物がけたたましい音と共に一斉に崩壊し始めた。積み木で造った城のように呆気なく、粉々の瓦礫へと変貌していく。


 大量に積み上がった瓦礫はさらに細かく分解されるように崩れていく。最後には粒子状の砂となって空に巻き上がり、蒸発してその姿を消した。


 南壁面際には建物が崩れ消え去ったことにより、東西に一直線に伸びる広い砂上の道が出来上がっていた。


 跡形もなく消え去った町の一部を愕然として眺めていると、少しずつ弱まっていた地面の揺れが再びその猛威を増していく。


 次に起こった現象は町の一部だけのものに留まらなかった。


 激しい揺れを伴って町全体が南側に移動を始めた。ベルトコンベアに乗せられたミニチュアハウスの町のように一斉に規律正しく南壁面側に進行して、先程出来上がった砂上の道を埋めていく。


 砂埃を巻き上げた町の行進は壁際まで到達するとぴたりと一瞬で止まった。同時に地面の揺れも鎮まる。


 一連の現象が終わった後、町を見渡すと現象前と変わらない風景がそこに広がっていた。


 俺とイヌヌは言葉を失って町を眺めていた。


「エルハ……今のは……?」


 俺は意識を取り戻しつつエルハに尋ねる。彼女はおもむろに言葉を紡ぎ始めた。


「これがこの町の特質。この町は頻繁に建物が、あるいは町全体が南側に向かって移動するの。そして町を囲う南側の壁面横一列に隙間なく建物が連なると、建物が揃うと今みたいに消滅してしまう」

「揃うと消える……」

「それじゃあこのまま建物の進行と消滅を繰り返したら、いつか町の建物全部が消えちゃうってこと?」


 イヌヌの問いかけを聞いて首を横に振るエルハ。


「ここからずっと北の方に行くと魔王の住む城、『魔王城』があって、そこから定期的に新しい建物が送られてくるの。町の人たちはそっちの建物に移住していってこの町で暮らしてる」


 俺の脳裏に某有名パズルゲームのタイトルが浮かんだ。


「新しく送られてきた建物も約5年で南の端に到達してしまうから、ひとつの住居に住み続けることができないの」


 イヌヌが同情の色を帯びた瞳をエルハに向ける。


「大変だね……もっと暮らしやすい場所に移住したりしないの?」

「しないよ。大変だけど壁に守られた安全があるし…………。それに、みんな今の環境を受け入れてしまっているから」


 エルハの諦観した瞳にテロチスの町が虚ろに映った。




twitter→ https://mobile.twitter.com/bandesierra


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