第1話 はじまり
表紙絵:主人公 菜月
イラスト © 2022 Suico
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小説 © 2021 楠 冬野
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この世にファンタジーは実在する。
私の身の上に起きたその不思議を語るとき、まずは何から話をすればいいのだろうか……。
出会った彼女の名前を私は知らない。
彼女の存在を一言で言い表すならば……、
在り来たりではあるが、やはり彼女の言葉を借りてこう呼ぶのが相応しいだろう、「妖精」と。
奇麗にまとめ上げられた髪、頭の上にはお団子が一つ。薄い黄色のワンピースを着て、背中には美しく透明な翅を生やしていた。
見目可愛らしい少女の髪は金色、目は碧眼。身の丈十五センチくらいの彼女は例に漏れず宙を飛んでいた。
うーん。私なりにこれが精一杯の描写であろうか……。
ともかく、その妖精はいきなり私の目の前に現れた。
彼女は、幼い頃に絵本の中で見たものとは少し違って可愛げなどなかった。
彼女は自分のことを”神様の使い”などと称しながらもちょっぴり意地悪だった。
桜が散り始めた頃。
あの日、あの雨の中で妖精に出会った。
三十路を越えたいい大人がこのようなことを真顔で話せば、頭は大丈夫か、と誰もが訝しげに眼を向けるだろう。でも、それでも良い。私は断言できる。全てが事実であったと。
遭遇した出来事はファンタジーにして現実。
そして……、
彼女との出会いが、私の最後の恋の始まりとなるのである。