ファイアール公爵家の要望
僕は言葉を続ける。
「それではこれで終了でよろしいですか?私には特にあなた方に用事はございませんので」
シンギが落ち着いた声質で話し出す。
「ちょっと待って欲しい。アキ・ファイアール殿はウチの屋敷から家出しておる。まだ12歳だ。親として監督責任がある。一度ファイアール公爵家に戻って欲しい」
僕は想定通りの要望だったためすぐに言葉を返す。
「貴方から親の監督責任なんて言葉が出るとは思いませんでした。役立たずの出来損ないとして育てられてきましたから。たとえファイアール公爵家に戻ったとしても15歳の成人になった時に私は家を出ますよ。意味が無いじゃないですか」
「今後のアキ・ファイアール殿については考えておる。ここにいるシズカ・ファイアードと婚約してもらいファイアール公爵家を継いで欲しいと思っている」
その言葉を聞いて弟のガンギ・ファイアールが怒りの表情を見せた。
僕は目線をシンギに向き直し言葉を発した。
「確かシズカ・ファイアード嬢はそこにいるガンギ・ファイアール殿の婚約者であると認識しておりましたが。この件についてご両人は納得されておられますか?失礼ですがそちらのガンギ・ファイアール殿は納得されていないように感じられますが」
我慢ができなくなったのかガンギが激昂して声を張り上げた。
「お父様!なんでこんなどうしようもない水色の髪の男がファイアール公爵家を継ぐんですか!また真紅の髪色であるシズカは僕のような高貴な髪色こそがふさわしい!先程の言葉を撤回してください!」
シンギがおもむろにガンギを殴りつけ怒鳴りつけた。
「お前はまだそんな事を言っているのか!早く現実を理解しろ!アキ・ファイアール殿はBランク冒険者になって優れた力量を証明した!そんな事もわからないのか!」
険悪な雰囲気になったが、気にせず僕は口を開く。
「誠に申し訳ございませんが、私はシズカ嬢とは結婚するつもりもありませんし、ファイアール公爵家を継ぐ意志もありません」
シンギが僕を見つめて説得するように話した。
「アキ・ファイアール殿は分かっておられないみたいですので説明いたします。ファイアール公爵家はリンカイ王国の南の封印守護者としての任を代々受け継いでいます。ファイアール公爵家に生を受けたならその任を受け継ぐ宿命です。また南の封印は火を司るものです。すぐれた火の魔法を使う人間の血を繋いでいく義務もあります」
「ファイアール公爵家の任は分かっております。ですがそちらに真紅の髪の後継者がいるじゃないですか?」
「確かにこちらのガンギは真紅の髪色をもっております。後継者として育ててきました。ですがより優れた火の魔法を使うものがファイアール公爵本家に現れたのならそちらの血を残すのが筋です」
「僕はわざわざお家騒動を起こしたいとは思っていません。今までどおりそちらのガンギ殿を後継としていただければと思います」
「アキ殿は封印守護者としての任が分かっておりません。これは大切なものなんです!」
「確かに私はいないものと扱われてきたため封印守護者の任の重要性は理解しておりません」
その時、ウォータール公爵家宗主の言葉を思い出した。
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