シズカ・ファイアード2
シズカは大きな目をくりくりさせながら僕を見ている。背中に冷や汗が出る。
シズカが口を開く。
「先日は当家のものがアキ様に失礼な事をしてしまい申し訳ございません。またファイアール公爵家からも陳謝したい旨伝えるように言われてきました。アキ様にはご面倒ではありますが一度ファイアール公爵家まで出向いていただき改めてこちらの謝罪を受けて欲しいと思います。この度はファイアール公爵家専用の馬車も用意させていただきました」
僕は苦手意識を心の隅に追いやり歯を食いしばって話し出す。
「ファイアール公爵家は僕を舐めているのかな?こんな子供を使者にして。謝罪する意思は無いんじゃないの?」
「子供と申されても、私はアキ様と同じ年齢です」
「年齢なんかで話をしてないんだよ。僕は一人で生活できるだけのお金と権力を自らの力で得た。君はどうなんだい?親に養ってもらってるんじゃないか?自分で頑張って得た力は何かあるのか?親の金と家の権力がなければ無力な子供だろ?」
「アキ様も冒険者ギルドの権力でファイアール公爵家に圧力をかけているじゃないですか」
「僕は冒険者ギルドに多大な利益をもたらしているんだよ。言ってみれば冒険者ギルドとは持ちつ持たれつの関係だ。君みたいに血筋だけの権力とは違うよ」
「アキ様のお話は良くわかりました。しかしながらファイアール公爵家がアキ様に謝罪したいと言っているのは本当です」
「だから使者の人選を間違っているんだよ。今日、君は僕のことを【アキ様】って言っているけど2ヵ月前は【虫】とか【クズ】とか【欠陥品】って呼んでいたよね。和解を促す使者として適切ではないだろ」
「この度私が使者となったのは直接失礼をしてしまった父の代わりに娘の私が直接出向いて謝罪をしたいと望んだからです」
「そんな嘘話をされても困るんだよね。君が父親なんか歯牙にもかけないのは知っている」
「何を申しても信じてもらえませんか。それでもこちらとしては謝ることしかできません」
僕は次の言葉が効果的になるように数秒時間を取る。
「蒼炎」
シズカの身体がビクっとする。
「ほらやっぱりそうだ。君は自分の好奇心を満たすことだけでここまで出向いているよ。君の謝罪は口だけのパフォーマンスだ」
シズカは「ふっー」っと息を一つ吐く。
「でしたらどうします。何かそちらに不都合でもございますか?」
「だいぶ本性が出てきたね。別にファイアール公爵家に顔を出しに行くのはたいしたことじゃない。君を見ていると滑稽でね」
「それはどう言ったことでしょうか?」
「なんで君が使者になる事をファイアール公爵家が認めたと思うんだ」
「それは私が熱心に頼みこんだからです」
「だから君は子供なんだよ。そんなわけないでしょ。ファイアール公爵家としては僕を取り込みたいんだよ。蒼炎の魔法が優れた火の魔法ならば嫡男に復帰でもさせて血を取り込む。その為のキーは君だ。好奇心旺盛で実力主義者の君なら僕に熱烈アプローチする可能性が高い。顔も整っている君が狭い馬車の中で10日間熱心に僕と話をするんだ。君というエサで僕を釣り上げようとしているんだろ」
シズカは呆然とした顔をした。僕は話を続ける。
「だから僕はファイアール公爵家の思惑には乗らない」
「でしたらボムズまで来てくれないと言うことですか?」
「違うよ。もう面倒だからボムズまでは行っても良いよ。ただし、ファイアール公爵家の馬車には乗らない。僕はこう見えてお金持ちでね。自分で馬車をチャーターするよ。ファイアール公爵家の馬車についていけば良いだろ」
「了解致しました」
「もう一つ条件をつけさせてもらう。君と僕は今後一切関わらない。ボムズについてからもだ。僕の人生に君は顔を出さないでくれ。それでも良いなら今回は君の顔を立ててボムズに行かせてもらうよ」
「……。わかりました。それでお願いいたします」
「出発は明朝にする」
シズカは項垂れて家を出て行った。
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