第167話 金色の悪魔
勝ったのか? これでもう終わりか?
ここはダンジョンだから死体の吸収はされるのか?
皆んなは大丈夫だったのか?
確認するため周囲を見渡した。
皆んな無事………。
【バリバリバリバリバリ!】
黄龍の残った身体を破り、2メトルくらいの金色の身体が出てくる。
なんだ!?
人間の形をした金色の身体。
なんなんだ、あれは!?
金色のソイツは身体を慣らすように肩を回している。
「ふむふむ」
そう言ったかと思うと一瞬で消えた。
次に見えたのはサイドさんの腹に右拳をぶち込んだ姿。
速すぎて見えない。
サイドさんの腹はその拳に貫かれた。
「サイドー!!」
慌ててサイドさんに近寄るヴィア主任を横から顔に蹴りを入れる金色の身体。
ぶっ飛ぶヴィア主任。
な、なんだ、こいつは……。
こちらを振り返る金色の身体。良く見ると全身に鱗があり、目が赤く光っている。
金色の長い髪に両脇に角が生え、その角は途中で分かれている。
爪が発達しているようで鋭く硬そうだ。身体中から醜気が漏れ出ている。
ニヤリと笑うその口には牙が見える。
悪魔だ、金色の悪魔だ……。
身体が動かない。睨まれているだけで萎縮してしまう。
ゆっくりと歩いてくる金色の悪魔。
その歩みは僕の死ぬまでの秒読みだ。
観念しかかった僕の前に、震えながらミカが立ち塞がった。
ミカは剣を金色の悪魔に向けている。
その剣先は震えていた。
その瞬間、先程の夢で見た悲しみの顔のミカが浮かんだ。
僕は何をしているんだ!
またミカに護られるつもりか!
しっかりしろ!
僕は後ろからミカの肩に手を置く。僕を見るミカの目は揺れている。
「ミカ、早くサイドさんの治療とヴィア主任を見てきてくれ。コイツは僕がやる」
無理矢理ミカを押し除け、金色の悪魔の前に立つ。
剣は【昇龍の剣】。
使い慣れた剣だ。
僕は何度も剣を振ってきた。
きっとこの時のためだ。
上段から剣を振り下ろす。
金色の悪魔と交差する。
【昇龍の剣】はあっさりと粉砕された。
どんなに頑張っても届かないものがあるのか。
諦める心と諦めきれない心が綯い交ぜになる。
護るべきものも護れない力なんてクソくらえだ!
こんな事なら全部無くなってしまえ!!
その瞬間、蒼炎の魂を感じた。
僕は確信を持って蒼炎の魔法の詠唱をする。
金色の悪魔の速さだと当たるはずがない。
でもそれで良かった。それが蒼炎だ。
【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】
蒼炎の焔は折れた剣の代わりに焔の剣になった。
あ、これは以前の感覚だ。
感覚が鋭敏になる。
僕の右手には蒼炎の剣が握られている。
サイドさんはまだ生きている。
ヴィア主任は気絶しているな。
ミカは驚いて固まってる。
金色の悪魔はこちらの様子を窺っている。
僕は足を一歩、金色の悪魔に向ける。
【金色の悪魔はこちらに飛びかかってくる】
金色の悪魔が僕に向かって飛びかかってきた。
身体を右に動かし躱す。
【金色の悪魔はそのまま地面を蹴り、右拳を放ってくる】
金色の悪魔の右拳を蒼炎の剣で切り裂く。
【金色の悪魔は3歩後退する】
後ろに下がる金色の悪魔に僕は間合いを詰め、袈裟斬りにする。
【金色の悪魔は両膝をつく】
僕は膝をついた金色の悪魔のクビを蒼炎の剣で刎ねる。
金色の悪魔は魔石を残してダンジョンに吸収された。
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ミカは急いでサイドさんとヴィア主任の治療に行く。
僕はダンジョンになかなか吸収されない黄龍の身体に蒼炎の魔法を撃ちまくっていた。
神獣曰く、黄龍の身体は長い間、醜気が固まっていたため、金色の悪魔のような奴が発生する場合があるそうだ。
またダンジョンに吸収されるまで時間がかかると言う事だ。
だから僕は、また変なモンスターになる前に蒼炎の魔法で消滅させている。
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神獣達は各々の封印のダンジョンに帰っていった。これからは黄龍の封印をしなくて良くなったので供物はいらないそうだ。供物を取らなくなるため寿命もあるらしい。
ヴィア主任が気絶から立ち直り、サイドさんの治療も終わった。後遺症も残らなくて済みそうな雰囲気だ。
ミカが僕に近寄って口を開く。
「最後、蒼炎が剣状になっていたけど何だったの?」
「さぁ何だろうね。蒼炎は気まぐれなヤツだからよくわからないよ。ただあの時は剣になりたいって言うからさ」
「確かにウルフ・リンカイって気まぐれな性格してたわね」
「それより宝箱がでなかったよ。これじゃダンジョン制覇も喜び半減だ」
そう言って王城の地下ダンジョンを後にした。