第164話 炎狼との会話
まずは黄龍と戦う許可を神獣からいただけた。しかし黄龍を実際に討伐できるかはわからない。
トウイが供物になるまでまだ1年以上ある。
それまでに黄龍を倒せる可能性を上げていかないといけない。
炎狼の特訓の申し出を有り難く受ける事にした。
また黄龍の雷を避ける練習に一番早い攻撃のできる風狼に特訓をしてもらう事になった。
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【2月1日】
ボムズに移動してファイアール公爵家宗主のシンギ・ファイアールに相談した。
南の封印のダンジョンで剣術と体術の特訓を神獣である炎狼につけてもらう事になったと。
ボムズまでいちいち戻るのが手間のため僕が住んでいたファイアール公爵家の離れに泊まる事になった。すぐ近くに南の封印のダンジョンがあるからだ。
あんなに灰色に見えていた屋敷の離れが、ミカやヴィア主任、サイドさんがいるだけで華やかに見える。
たまに見かけるガンギはこちらを睨んでいた。
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火宮のダンジョンのボスイフリートは炎狼が作っていたそうで、何体でも用意してくれる。
僕は前回、火宮のダンジョンで戦ったような戦闘は全くできなくなっていた。
ただそれでもボスイフリートと一対一では負けなくなっている。今は二対一で勝てるように頑張っている。
ミカ、ヴィア主任、サイドさん、皆んな個人個人課題を持って特訓に取り組んでいる。
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毎日特訓していると炎狼とも話をするようになる。
いつのまにかアキと呼ばれるようになってた。
「供物を頭から丸齧りって聞いたんだけど、罪悪感とか感じないの?」
「何故感じるのだ? 黄龍の封印に必要だからな。ウルフにもよろしく頼むって言われたぞ」
炎狼は事の善悪について超然としている。話が噛み合わない事も多々ある。
きっとしょうがないのだろう。
「ウルフとはどういう出会いだったの?」
「我ら神狼族は東の島国からこちらの大陸に渡って来たのだがな。こちらの大陸で初めてあった人間がウルフだよ。白髪の人間が珍しくてな。ウルフは醜気を纏っていない我ら神狼族が珍しかったみたいだ。ウルフは仲間意識が強くてな。パーティメンバーを大切にしていた。そこが我ら神狼族と同じで意気投合したんだ」
「蒼炎にはウルフの魂の欠片が組み込まれているみたいなんだけど、ウルフってダンジョン嫌いなの? ダンジョンで蒼炎を撃つと機嫌が悪くなるんだ」
「ハハハハ、ウルフらしいわ。ウルフは外を自由に駆け回るのが好きだったからな。狭いダンジョンなんかは嫌いに決まってる」
「ウルフのパーティでも黄龍が倒せなかったんでしょ。僕たちでも厳しくない?」
「アキは蒼炎の呪文がわかっておらんのぉ。偶然、ウルフの想いとアキの感情が合致しているんだな」
「どういう事?」
「呪文の文言を見てみろ」
【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】
「黄龍の生態で問題なのが再生能力だ。ウルフの白炎を喰らっても再生してしまっていた。だからウルフは蒼炎に全てを燃やし尽くす想いを込めて呪文を開発した。言い換えれば全てを無にすることだな。たぶんアキの潜在意識に全てを無にしたい願望があるんだろうな」
そうなのかな?
そんな意識あるのか?
自分の事だけどわからないや。
「そういえば、もし黄龍を倒せた場合にはダンジョンはどうなるの?」
「これまでと変わらないな。ダンジョンは永久機関になっておる。ただBランクダンジョンは試練のダンジョンでは無くなるな。あれは黄龍を倒せる人材を探すための物だからな」
「もし、黄龍を倒せなかったら?」
「黄龍が弱っていて、封印が可能ならまた封印する。封印が出来なかったら、外に出てきて黄龍が暴れるから被害が大きくなりそうだな。ダンジョンも壊されるかもしれない。そうすると以前のようにモンスターが外にいっぱい出てくる可能性はある」
俺達がやろうとしていることって、責任重大なんだ……。