第159話 トウイ&シズカと公爵家の役割り
朝に剣術の鍛錬をしている。
あれから僕は火宮のダンジョンのボスイフリート戦みたいな感覚には全くなれなかった。
あれは集中力が極限まで高まったからなのだろうか?
あの剣術がいつでも使えれば無敵なのになぁ。
それでもミカとの模擬戦で5回に1回は勝てるようになってきている。
実は夢の中に蒼炎が人影になって現れる時がある。夢の中で蒼炎は剣術の相手をしてくれる。蒼炎の体捌きや剣の振りが素晴らしい。
夢なのに僕は全然敵わない。蒼炎の魂が剣術を覚えているのだろうか? 蒼炎の真似をするだけで剣術のレベルが上がっていく感じを受けている。
蒼炎の魔法のコントロールはだいぶできるようになっている。蒼炎の魔法を外で撃っても半径50セチル程度まで小さくできるようになった。
今度、王国魔法管理部部長のケーキ・ウォーターズさんが、実際に蒼炎の魔法がコントロールできているか確認にくる。
その結果によって僕の王国内でのダンジョン外での蒼炎の使用が解除される可能性がある。
解除されればクラスの皆んなと魔法実技の授業に参加できると喜んだ。
しかし王都魔法学校の二回生の魔法実技の授業は対人戦の授業になるため、やはり参加は不可能と言われた。
僕はボッチの星の元に生まれたのだろうか?
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学校が始まったある日、トウイとシズカが家に遊びに来た。
僕達のAランク冒険者昇格のお祝いでケーキを買ってきてくれた。
ケーキくれる人、良い人。間違いない。
トウイとシズカは正式に付き合う事になったそうだ。
2人は今、夫婦の冒険者と4人でパーティを組んでいる。
冒険者の間では、火属性の魔法を使う2人は【双槍の炎】と言われている。どちらもファイアーランス使うからね。
シズカは最近、本当に明るくなり、刺々しい感じが無くなった。他人の事を気にかけるようにもなり、嫌な思いをする事が少なくなった。
トウイとのダンジョン活動と弟のガンギとの婚約解消が良い影響を与えたのだろうと思っている。
小さい頃から結婚する人が自分だけ決まっている事に対して不満が溜まっていたのだろう。
今はトウイと恋愛中。見てるこちらが恥ずかしくなる。シズカが惚気る。
「あの時、トウイが私を庇ってくれて助かったわ。本当に危なかったから」
トウイが満更でもない顔で口を開く。
「いや、あの時は必死だったからね。シズカに怪我が無くてホッとしたよ」
「あれは勇気が無いとできない行動よ。トウイとダンジョン活動できて、私幸運だわ」
うーん。僕の家で惚気ないで欲しい。
でもケーキに罪は無い。美味しくいただくとしよう。
ケーキくれる人、良い人。だからトウイとシズカは良い人だ。
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10月と11月は朝の鍛錬、学校生活、蒼炎の魔法の実験、ミカとの王都探索、トウイやシズカとの交流。
毎日が充実していた。
12月に入り、王都はだいぶ寒くなってきた。
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【12月16日】
ボムズに向けて僕らの冒険者パーティは王都を出発した。
いつもと変わらないヴィア主任とサイドさんの掛け合いを楽しみながら馬車はボムズに向かう。
果たして封印のダンジョンでの神獣の試練とはどんなものなのか?
ワクワク感が9割、不安感が1割くらい。
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【12月22日】
ボムズの北門を通り冒険者ギルド前に到着した。ギルド長室でギルド長のインデルさんに挨拶をする。
「遂にAランク冒険者になったか。冒険者ギルドとしても本当に嬉しいぞ。ファイアール公爵家からも君たちが来たらすぐに知らせてくれと言われている。たぶん、明日には面会要請があると思う」
「皆んなに助けられてAランク冒険者になれました。封印のダンジョンの説明をファイアール公爵から受けてみようと思います」
「家と専属職員はいつも通りだ。まぁゆっくりしていってくれ」
その時、眼鏡をかけた細身のインテリ風の30歳くらいの女性がギルド長室に入ってきた。
リーザさんだ。彼女の料理は美味しいからな。仕事も有能だし安心だ。
「アキ様、この度はAランク冒険者に昇格おめでとうございます。ボムズの専属職員として誇らしいです」
「ありがとうございます。今回もお世話になります。よろしくお願いします」
「それでは早速、家に行きましょうか。ファイアール公爵家にはアキ様達がボムズに来た連絡をしておきました」
その後、いつもの一軒家に行き、リビングでゆっくりする。
夕方にファイアール公爵家から連絡があり、明日の午前中にファイアール公爵家の屋敷で面会の運びになった。
次の日の午前中にファイアール公爵家から迎えの馬車がきた。馬車に乗り込みファイアール公爵家に向かう。
ファイアール公爵家の屋敷の応接室に通される。既にファイアール公爵家宗主のシンギ・ファイアールが待っていた。
「よく来てくれたアキ殿。この度はAランク冒険者に昇格してくれて本当に嬉しい。まずは座ってお茶でも飲んでください」
そういってソファを勧められる。柔らかいソファだ。
お茶を一口飲むとシンギは話し出した。
「アキ殿はAランク冒険者になってから国王陛下に会ったそうですが、どの程度の事を聞いたのですか?」
「Aランク冒険者になると神獣の試練を受ける事になる事と、王都センタールに黄龍が封印されている事、あとは各公爵家が神獣に魔力を捧げていると言う事ですね」
「そうでしたか。それでは各公爵家が神獣にどのように魔力を捧げているかはお聞きしませんでしたか?」
魔力の捧げ方?
そういえば聞いていない。
シンギは暗い顔をした。
「魔力の捧げ方はその命を持って捧げます。魔力は髪に宿ります。神獣によって頭を丸齧りにされます」
ま、丸齧りって!?
「ここで公爵家の子供について話さなければなりません。公爵家で生まれた男子は最も高い魔力を持っている者が次の宗主となります。その他は神獣へ魔力を捧げる事になります。神獣へ魔力を捧げないで済むのは次期宗主と質の悪い魔力持ちだけです。公爵家とは神獣への供物を捧げるために存在しています」
シンギは淡々と話し続ける。
「公爵家の宗主の子供は1番良質な魔力を持つ1人を後継に残し、一定の魔力がある子供は神獣への供物の運命です。供物は成人になる前の15〜17歳が1番良質な魔力となります。公爵家の子供が対外的に存在すると発表されるのは満五歳になってからです。発表されるまでは子供の中で、壮絶な魔力の質の争いが行われます。供物として選ばれた子供は物心がつく前に外に出され、公爵家から雇われた人間が親となり、平民として育てます。供物になる人を預かり育て、実際に供物となると莫大なお金が公爵家から支払われます。平民となって育てられた子供は15〜17歳になると拉致をされて供物となる。今現在も続いている事です」
そういえばガンギが5歳になるまで、僕に弟がいる事を知らされてなかった。
いきなり5歳の弟が現れたのを覚えている。
「一定の魔力が無いと供物の価値がありません。アキ殿の場合は髪色が水色だったため火属性が無いと思いました。南の神獣は火の属性を捧げる必要がありますから。また外に出して育てたいという使用人もいませんでしたから」
僕は供物にもなれない役立たずという事だったわけだ。
待てよ。
供物になる人間が平民として育てられる?
平民だけど良質な魔力を持っている事になる。
そんな馬鹿な!? 僕は恐る恐るシンギに確認を取る。
「確認を取りたいのですが、僕の兄弟はガンギくんだけですよね?」
「アキ殿とガンギとの間に1人息子がいる。アキ殿の一歳下だが学校の学年は同じはずだ。名前はトウイだ」
その言葉を確認した時、思考が止まった。
そんな馬鹿な、そんなはずがないじゃ無いか!
「アキ殿が生まれた時、髪色が水色でな。それですぐに次の子の必要があった。その10ヵ月後に未熟児でトウイが生まれた。真紅の髪色だった。その1年後にガンギが生まれた。ガンギの方が魔力の質が高いため、ガンギが生まれてすぐにトウイは平民として育てられた。将来の供物になる為にな」
ヴィア主任がシンギに質問をする。
「先程、供物になるのは15歳から17歳と言うのは何か意味があるのか?」
「18歳になると魔力が落ち着いてしまい神獣が魔力を吸いにくいそうです。15歳未満ですと魔力が育っていないからですね」
僕は声を振り絞ってシンギに確認した。
「まさか、トウイは神獣の供物になるのですか?」
「当然だ」
有無を言わせないその言葉。
シンギの瞳の奥に公爵家の闇が潜んでいる。僕はその瞳にゾッとした。
しばし沈黙の後、シンギが口を開く。
「本当ならトウイは王都魔法学校に入学させずに15歳になったところで供物にする予定だった。アキ殿が現れたため、猶予を与えてみただけなんだ」
トウイの笑顔が頭に浮かぶ。
「なんでそんな大事な事を教えてくれなかったんです! それならもっと急いでAランク冒険者にだってなったのに!」
怒鳴る僕に冷静に答えるシンギ。
「古代の誓約なんだよ。これについてはAランク冒険者になったものしか話せないんだ。神獣との契約なんだ」
「トウイが供物になるのはいつなんです! ならないで済む方法はないんですか!」
「トウイは平民として育てる時に神獣と供物になる契約を終えておる。18歳になる前に供物になる運命だ」
シンギがゆっくりと言葉を口にする。
「ただ一つだけ方法がある。封印されている黄龍を倒して、この負の遺産を解消する事だ」
「トウイが供物になる猶予はあとどのくらいなんです」
「トウイは3月29日が誕生日だ。その前日までとなるな」
あと1年3ヶ月か。
【白狼伝説】に出てくる黄龍に勝てるのか?
やれるのか?
いややるしかないのか。
いややるんだ!