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蒼炎の魔術師 〜冒険への飛翔〜  作者: 葉暮銀
冒険への飛翔編
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第156話 風宮のダンジョン制覇

【8月24日】

 ボムズからカッターに向けて出発をする。馬車で10日間の道だ。

 宿場町ではシングルの部屋が4つ取れない時はヴィア主任とミカ、サイドさんと僕で部屋を取る時がある。

 サイドさんは話題が豊富でとても楽しめる時間だ。

 サイドさんはワインを飲みながら僕に話しかける。


「もうこれだけ長い間一緒にいるから気がつくと思うけど、僕はヴィア主任が好きなんだ」


 いきなり言われるとビックリするな。そんな僕の反応を気にせずサイドさんは言葉を続ける。


「ヴィア主任は理知的であり情熱家だ。これと決めた事には妥協せず成し遂げる。一つの事に集中すると周りが見えなくなったり、片付けが全くできない。ほっとくと研究室が汚くなる。朝が弱く風呂にも入らずボサボサの頭になっている時もある」


何か途中から悪口のような……。


「でもな、アキくん、その全てが愛おしいんだよ」


 サイドさんはワインを一口飲んで話を続ける。


「彼女はカッターで心に傷を負っている。貴族に裏切られ、平民にも裏切られ、多くの仲間を失っている。エルフ排斥運動のせいだ。彼女がカッターで古傷が開かない様にしたいんだ。でも僕は結局何もできない。そばにいて見守るだけさ」


 自嘲気味に笑うサイドさん。

 僕はそんな事はないと思い反論する。


「そんな事は無いと思います。ヴィア主任はサイドさんを頼りにしています」


「それなら嬉しいけどね。アキくん、エルフの人生は長い。僕は彼女と同じように歳を取り、そして一緒の人生を歩む事はできないんだ。せめてもの僕の想いは彼女の記憶に残る人になりたいんだ」


 人とエルフの恋愛は悲恋に終わる。一般的に言われている事だ。

 そんな事は無いと言葉にするのは簡単だけど、僕はサイドさんの横顔を見たら口が開かなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 次の日馬車の中でヴィア主任が古い【白狼伝説】について話し始めた。


「古い【白狼伝説】と今の【白狼伝説】の違いは、いろいろあるな。まずは戦闘の描写が細かい。黄龍は封印されて終わっている。ウルフは初めから白髪だ。だいたいこんなところだな」


 あれ? ウルフって赤髪で、始めは普通に火の属性魔法を使っていて、魔法の研究成果で髪色が白くなり強い白炎の魔法を操ることになるはず。


「ヴィア主任、ウルフって初めから白髪なんですか?」


「今の【白狼伝説】は最初は赤髪で普通の火の属性魔法で戦っているが、古い【白狼伝説】ではウルフは生まれた時から白髪で魔法が使えないな。白炎を開発するまでは剣を使って戦っているよ」


「どうして変わってしまったのですかね?」


「想像でしかないが白髪で生まれてくる人がいないため、物語を現実的にしようとしたのかな? あとは剣術を馬鹿にする風潮が貴族にあるため、剣で戦う主人公を否定するためかな。古い【白狼伝説】では魔法が使えないウルフが魔法の天才のカフェと白炎を開発している」


 ヴィア主任は付箋が貼られているページをめくりながら話を続ける。


「また戦闘のところでは当時の魔物はダンジョン外に普通に現れている。しゅう気が溜まったところでな。魔物はしゅう気を全身に纏いながら存在していたようだ。しゅう気を纏った魔物は魔法が効きにくい性質があるようで倒すのが大変そうだ」


 しゅう気を纏っているってどんな感じなんだろ?


「肝心の黄龍との戦いだが、やはり黄龍も全身に多量のしゅう気を纏っている。ウルフが白炎を喰らわせても黄龍はすぐに再生をしてしまう。黄龍は広範囲の稲妻の魔法を使い、体長が100メトルを超える巨体で暴れ回る。一瞬の隙をついて黄龍を動けなくした時に神獣によって封印している。これが本当のモンスターなら相当やばそうだ」


 そんな危ないモンスターなら倒さなくても良いんじゃないかな?

 封印させておけば大丈夫なんだから。

 いくら冒険者といっても冒険と無謀な挑戦は違うもんな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


【9月3日】

 昼前にカッターに到着した。

 ヴィア主任は無用な騒動を起こさないように頭にスカーフを巻いて、緑色の髪と尖った耳を隠している。

 ヴィア主任は硬い表情をしている。

 カッターの南門を抜けて冒険者ギルドに向かう。


 冒険者ギルドの受付にカッター到着を話すとギルド長室に案内される。

 カッター支部のギルド長のハートさんが出迎えてくれる。30過ぎに見える女性で黒髪に近い茶色の髪色だ。


「ようこそ! カッターへ! 今回はBランクダンジョンの風宮のダンジョンを制覇しにきたのかな?」


「そのつもりで来ました。この風宮のダンジョンの制覇でBランクダンジョンの全制覇になりますから」


「君達には期待しているよ。是非頑張ってほしい。家と専属職員は前と同じで良いかな? 何か要望があれば言ってくれ」


「西の封印守護者のエアール公爵家の情報が欲しいのですが? ファイアール公爵家の宗主よりAランク冒険者になった時の説明はエアール公爵家を避けるように言われまして」


「なるほど、そんな事を言われてきたか。Aランク冒険者への説明する内容はこちらでは把握してない。ただエアール公爵家とは私はあまり付き合いたいと思わないのは確かだ。貴族第一主義が強くてな。貴族は選ばれた高貴な存在だって考えだから平民の私は見下されるからな」


 その後、雑談をしているところに専属職員のカルタさんが現れ、僕たちはギルド長室を辞した。


 前回、使った家に案内され、リビングでゆったりとした。ヴィア主任の顔は硬いままだ。

 早めに風宮のダンジョンを制覇してカッターから移動したほうが良さそうだ。

 早速、明日から風宮のダンジョンに向かう事にして早めに就寝した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


【9月4日】

 早朝、手配した馬車に乗り込んだ。

 前に行った時は歩いていったが今回は制覇も考え、馬車にした。

 Bランクダンジョンである風宮のダンジョンはカッター西門より3キロルほどの距離にある。

 カッター周辺の気候は乾いていて、砂埃が舞っていた。


 風宮のダンジョンに出現する台風馬に石の背中ダンジョンで揃えた金属性の【黒虹装備】が通用するのか。

 試してもダメなら曲がるようになった蒼炎の魔法に期待するしかない。


 風宮のダンジョン前に着く。装備を確認した後にダンジョン内に入っていく。

 入ってすぐ50メトル前方に2頭の台風馬がいた。こちらに気づき突進してくる。

 ミカとヴィア主任が飛び出した!


 ミカが装備しているのは【黒虹の剣】、ヴィア主任は【黒虹の細剣】だ。

 台風馬はミカに首を刎ねられ、ヴィア主任に顔を三連突きを決められて魔石に変わった。


「問題無く刃が通るわね。これなら大丈夫だわ」


「うむ、行けそうだな」


 心強い言葉を発する2人。このままダンジョンの先に進む事にした。

 途中、蒼炎の魔法を使ってみる。蒼炎の魔法を避ける台風馬に蒼炎の魔法は曲がって当たる。

 こういう時は曲がってくれる蒼炎だった。


 台風馬は多い時で6頭ほどで突っ込んでくる。結構な迫力がある。

 簡単に倒していてもなかなか慣れはしない。

 台風馬は風魔法を使ってくると聞いていたが、今のところ突進ばかりだ。念のため【昇龍の盾】は装備しているけど。


 一気呵成の勢いでダンジョンの奥に進んでいく。

 今のパーティメンバーではBランクダンジョンは楽勝なのだろう。

 階層が深くなると台風馬の身体は一回り大きくなり、身体の色も緑色が濃くなる。それでも【黒虹の剣】と【黒虹の細剣】は台風馬の身体を切り裂いていく。


 昼過ぎには7階層の奥のボス部屋の扉の前に着いた。

 ボス戦についてはミカとヴィア主任が気合いが入っている。

 作戦はミカとヴィア主任が前衛で、僕とサイドさんが後衛でサポートする事に決まった。


 ボス部屋の扉を開ける。

 ボス部屋は草原が広がり、開放的だった。

 50メトル先に普通の倍ほどの大きさの台風馬がいた。色は鮮やかな緑。頭に角が2本生えている。

 ミカとヴィア主任がボス台風馬に向かって駆け出した。

 ボス台風馬はいなないた。その嘶きと共に風の魔法が襲ってくる。ヴィア主任とミカは【昇龍の盾】で防御している。

 ミカがボス台風馬の左前脚を叩き切る。倒れ込むボス台風馬にヴィア主任が頭に三連突きをぶち込む。

 トドメとばかりにミカがボス台風馬の身体を両断する。

 圧倒的な戦いであった。


 一先ず落ち着いたところでゆっくりと宝箱開封の儀式をしてから宝箱を開ける。

 宝箱の中身は深緑の玉とダンジョン制覇メダルだった。

 これでAランク冒険者だ。思えば結構、長かったな。

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