第151話 春は恋と出会いの季節?
【4月2日】
今日から2回生になる。
来週には新1回生が入学してくる。暖かな風が吹いている。とても心地が良い。
朝のホームルームを終えてヴィア研究室に向かう。
研究所に入ると3名の女性に囲まれた。研究所で働く職員である。
サイドさんへのプレゼントを渡すように頼まれた。
サイドさんがBランク冒険者になって、逞しさが増しているからかな? やっぱりモテるんだなぁ。
ヴィア研究室に入り、預かったプレゼントをサイドさんに渡す。
プレゼントを受け取ったサイドさんは少し困った顔をした。
「サイドさん、随分人気がありますね。これからはサイドの兄貴と呼ばせてもらいます」
僕の軽口に苦笑をもらしてサイドさんが口を開く。
「なんだろうね。急にこんなのが増えてしまってね。あんまり女性に興味を持たれた事が無かったから戸惑ってしまうよね」
「そうなんですか? サイドの兄貴は女性にモテそうですけど」
「本当に兄貴呼びになるのかな? まぁ良いけどね。研究ばかりしてたから女性はあまり振り向いてくれなかったな」
「今なら兄貴はモテモテだから選り取り見取りじゃないですか」
「あははは、モテモテでも本当に好きな人に思われないなら何の意味もないだろ」
「誰か好きな人でもいるんですか?」
「いや一般論の話だよ。それより美味しいお菓子を研究所の取り引き先からもらったから食べなよ」
モテモテになった事が無いから良くわからないなぁ。
それより魔法実技の授業の僕が使える新しい呪文の作成は完全にストップしている。ウルフ・リンカイですら白炎の魔法しか使えなかった事実が大きく影響してしまった。
今は蒼炎の魔法の実験を魔法実技の授業としている。蒼炎の魔法の大きさを変えられるようになり、小さくもできるようになっている。
これなら蒼炎の魔法のダンジョン外使用も国が認めるかもしれない。
学生食堂でミカとお昼ご飯を食べていたらミカが口を開く。
「私の勘だけど、サイドさんってヴィア主任の事が好きなような気がするの」
サイドさんがヴィア主任!? そんな事あるの?
「そうなの? 僕には全然わからないよ」
「なんとなくだけどね。サイドさんのヴィア主任に対する気遣いとか、雰囲気というか、完全に勘だけどね」
ヴィア主任とサイドさんかぁ。エルフと人間は生きる時間が違うから大体悲恋になると言われている。
【白狼伝説】のウルフとソフィアもそうだった。
僕は悲恋の魔法の烈風を思い浮かべていた。
次の日の朝練の後にトウイが僕に近寄ってくる。
何か剣術のアドバイスでも欲しいのかなっと思った。
最近の剣術の強さの順位はミカ、ヴィア主任、僕、サイドさん、トウイである。
僕は既にヴィア主任に勝てなくなっている。トウイは僕に口を開いた。
「アキはシズカのこと、どう思う?」
「どうと言われても困るな」
「俺、シズカに惹かれている感じなんだ」
なんとトウイがシズカに!? トウイが照れながら話す。
「3月中にほとんどシズカとダンジョンに行っていたんだ。シズカって貴族とか平民とか全く差別しないんだよ」
「あぁ、シズカは完全に実力主義者だからね。貴族とか平民は気にしないほうだね」
「それがとても心地良くてね。俺を1人の人間とみてくれるから」
なるほど、シズカの完全実力主義もこうなると利点になる場合があるのか。
確かにシズカは力の無い人間にはキツいが、努力して実力を伸ばしていくタイプにはその努力を素直に認める。
「シズカは冒険者を目指していると言うし、一生懸命に努力している姿に惹かれてしまって。アキはどう思う」
「シズカはまだ子どもっぽい所があるけど、基本的には悪い奴ではないと思うよ。まぁ僕は小さい時、冷たくはされたけどね。それより僕に相談するのが間違っているぞ。トウイ、僕が恋愛経験があるわけないだろ」
「何、言ってるんだよ。アキにはミカさんがいるじゃないか」
僕とミカ!?
普通の関係とは違い過ぎて参考になんかならないよ……。
「僕とミカの関係は普通じゃないから、参考にしにくいよ」
「そうなのか? でも聞いてくれてありがとう。少し心が軽くなったよ」
そう言ってトウイは明るく笑った。
それにしてもシズカってモテるんだな。ガンギにカイにトウイかぁ。僕がわからない長所があるのかもしれないな。
春に暖かくなって心も浮き立っているのかな。そういえば、ちょこちょこクラスの中でも付き合い始めた男女を見かける。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【4月10日】
学校の食堂でミカとお昼ご飯を食べていたら、見かけた事のない女の子が近寄ってきた。赤髪のくりくりした目をした可愛らしい子だ。
「アキ先輩ですよね。私、マミ・ファイアードと言います。よろしくお願いします」
何度も言うが僕はこの王都魔法学校で目立つ。水色の髪色だから。
それより今の言葉で嬉しい情報と悲しい情報があったな。
「こんにちは。マミさんは一回生かな?」
「はい、今年の赤のAクラスです。アキ先輩は首席なんですね。尊敬します」
こ、これだ! 学園物の小説で出てくる【先輩】呼び! 僕はこれに憧れていた!
まさか現実になるとは……。
しかし悲しい情報を確認しないと。
「マミさんはファイアードの人みたいだけど、シベリー先生とかシズカさんとは関係あるのかな?」
「シベリー先生は叔母で、シズカさんは従姉妹になりますね」
やっぱり血縁か。ファイアード家の女性は関わりたくないなぁ。偏見だけどね。
ボムズで見た事なかったな?
「何か僕に用事かな?」
「私、アキ先輩の使う蒼炎に凄く興味があるんです。Bランク冒険者になるなんて凄いです。尊敬してます。機会があったら蒼炎の魔法を見せてください」
直球な子だな。まぁ別に機会があれは見せても問題は無いか。
「機会があれば良いよ」
「本当ですか! 約束ですよ! 約束しましたからね!」
喜んでお礼を言ってから、僕達から離れて行くマミ。
まぁ良いか。午後の授業のためクラスに行く。
シズカにマミについて聞いてみる。
「シズカさん、マミって子はどんな子なの? 従姉妹なんでしょ」
「あら、マミに会ったの? あの子は王都育ちの子ね。叔父さんが王都で働いているから」
「今度、蒼炎を見せてくれだって。君に似ているね」
「あら蒼炎を見せる約束しちゃったの? あの子は研究者志望だから興味を持つと大変よ」
「大変って?」
「データを取るんだって言われて、魔力切れまで魔法を撃たされることなんてザラね。魔力が切れた後は魔力回復力を確かめるために夜も寝かせてくれないの。一刻《2時間》置きに叩き起こされて魔法を撃たされるのよ。取り敢えず、何でもデータを取りたがるの。データが好きみたい。異常なくらいにね」
魔力切れまで魔法を撃たされて、その後は寝かせない!? 鬼畜やん!
さすがファイアード家の血を受け継いでいる子だ。地雷や。
先輩呼びに騙されるところだった……。
「まぁあの子に目を付けられたら逃げても無駄かもね。私も人の事言えないけど、あの子は別格、異常者よ」
シズカに別格と言わしめる!? 僕にシズカが最後に言葉をかける。
「ご愁傷様です。私も昔マミに興味を持たれて大変だったんだから」
呆然とする僕だった。