第150話 パーティ結成【シズカの視点】
【第142話〜第149話のシズカの視点】
最近、アキはクラスメイトのトウイと良く話している。
トウイは唯一の平民の生徒で、真紅の髪色から貴族の隠し子じゃないかと噂されている。意志の強そうな目が印象的だ。魔法実技の授業ではなかなかの成績を残している。
休みの日はアキとトウイは連れ立ってダンジョンに行くようになっていた。
「アキさん。私は貴方の弟子なのよ。それをほっといてトウイとばかりダンジョンに行くなんて酷くない?」
「そういえばシズカさんは僕の弟子になってたね。忘れていたよ。それならシズカさんも一緒に行こうか?」
「本当に良いの? 私は嬉しいけれど……」
私はトウイの様子をうかがう。
「別に一緒でも問題ないさ。皆んなで行こう!」
明るい声で言ってくれるトウイ。案外良い奴かもしれないわ。
諦めた恋だけど、アキと一緒にダンジョンに行けるとなると心が喜んでしまう。私はいつになったら新しい恋を始められるのだろうか。
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【火の変化、千変万化たる身を槍にして貫け、ファイアーランス!】
詠唱が終わった瞬間にトウイはオークに駆け出している。火の槍がオークの右肩を貫く。怯むオーク。その隙を見逃さずオークの首を刎ね飛ばすトウイ。
流れるような戦闘だ。つい見惚れてしまった。
トウイはオークが魔石になるまでしっかりと警戒している。
「凄いわね! 圧勝じゃない!」
「まぁオーク一体だったからね。複数出現するとまだまだだよ」
トウイは冒険者志望のようだ。同じ冒険者志望として私も負けていられないわ。
その日はMPが尽きるまで私はファイアーランスを撃ちまくった。
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年が明けてからアキとトウイと何回かダンジョンにオークを倒しに行った。
それにしてもアキとの能力差が激し過ぎる。どんな失敗をしようとも安全に私達を守ってくれる。こんなダンジョン活動に慣れてしまったらアキがいなくなったら大変だ。
トウイも私と同じ事を危惧していた。
私とトウイは急速に仲を深めている。どちらも得意な魔法はファイアーランス、どちらも冒険者志望、そして【白狼伝説】の信者でもある。
平民であるトウイはクラスでは貴族である他のクラスメイトに遠慮していたようだが、話すようになると気さくな人だった。
トウイの意志の強い目を見ているとアキを彷彿とさせる。その度に私はドキッとしていた。なんかアキとトウイって何処となく雰囲気が似ているのよね。だからアキとトウイは馬が合うのかしら。
「ねぇ、トウイ。私と冒険者パーティを組まない?」
「どういうことかな?」
「このままアキさんとダンジョン活動しても、アキさんに守られ過ぎていて自分達の成長に繋がらないと思うの。自分の力量に合致するのがトウイって事ね」
少し思案顔のトウイ。
「確かに自分と同程度の力量の人を探すのは大変かもね。シズカとなら良いパーティになりそうだね」
「それならパーティ結成ね。よろしくお願いします」
私は右手をトウイに差し出した。
トウイはニッコリと笑ってその手を握ってくれる。
私は楽しい事が始まる予感をビンビンに感じていた。
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アキにトウイと冒険者パーティを組むと話したら、賛成してくれた。
またアキは冒険者ギルドに掛け合って他のパーティメンバーを紹介してもらえるようにしてくれる。
確かに2人だけのパーティでは1人が倒れると危険だ。
アキはこんな私にも優しく接してくれる。感謝してもしきれない。
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2月の末に冒険者ギルドから紹介された冒険者と顔を合わせた。
待ち合わせの冒険者ギルドの食堂に行くと若い男性と女性が座っている。どちらも暗い灰色の髪色だ。男性がこちらに気づき手をあげた。私とトウイは真紅の髪色だからわかりやすいんだろうな。
「こっちだ! こっちだ!」
大声を上げる男性。それを横から窘める女性。
「もう、そんなに大声出さなくても気がついているわよ。学生さんを驚かせないでよ」
慌てておとなしくなる若い男性。私達はゆっくりと二人の席に向かった。
「初めましてトウイです。こちらがパーティメンバーのシズカです」
「私がリリー、こっちのうるさい男がコックス。よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
挨拶を終え、話し合いが始まった。
リリーさんとコックスさんは先月結婚したばかりの新婚さんとのこと。パーティを組んでいた仲間が冒険者を引退したために新しいパーティメンバーを探していたそうだ。二人共話しやすく、私達4人はすぐに意気投合した。早速、明日から一緒にダンジョンに行くことを約束して別れた。
私は夫婦で冒険者パーティを組んでいるのを見て、羨ましくなってしまった。





