第146話 開封できた封筒と託された呪文
封筒から便箋を取り出す。
少し古い文法ではあったが読めない事はない。僕の目はすっかり覚めていた。
差出人【ウルフ・リンカイ】。
何が書いてあるのだろう。自分の鼓動が耳に響く。
僕は手紙を読み出す。
【蒼炎が使える君はいつ頃の人かな? 祠にかけた結界は蒼炎の魔法が使える人が現れ、その人が15歳になる時に解かれるように設定しておいたよ。またこの封筒の結界は、蒼炎に込めた俺の魂と意思疎通ができるようになると解けるようにしておいた。蒼炎の魂は俺の魂の欠片だから、それと仲良くなっている君は、もう俺の友達だ】
蒼炎の魂がウルフ・リンカイ!?
【その俺の友達に頼みたい事がある。黄龍という化け物を倒して欲しい。俺たちのパーティでは封印しか出来なかった。その封印を守るためにこれから多大な犠牲を出してしまうだろう】
黄龍は【白狼伝説】で最後に討伐されたモンスターだ。
封印? 多大な犠牲?
【俺は白炎の魔法が使えていた。それで調子に乗っていたんだな。俺に敵はいないと思い上がっていた。それを黄龍に、痛い程理解させられたよ。白炎の魔法で黄龍に立ち向かったが、全く歯が立たなかった。何とか神獣達が黄龍を封印はしてくれた。再戦しようにも黄龍の封印を解かないといけないし、勝てる算段が無い】
ウルフ・リンカイのパーティが歯が立たない!?
【君は知っているか、今より遠い昔では空に輝く星の色が見れていたそうだ。なんとその星は燃えており、温度まである程度わかるって言うんだから凄いもんだ。火の色は赤い。しかし星の温度は白炎のほうが高温になるらしい。その上が蒼炎だ】
星って燃えているの!?
【俺は白炎で倒せなかった黄龍をより強い蒼炎で倒せるのではないかと考えた。希望の魔法である蒼炎の魔法の開発に晩年を費やした。黄龍の封印後、カフェとガラムと3人でダンジョンを作成したり、冒険者ギルドを設立したり、公爵家を作った。犠牲の上に成り立つ平和だが、黄龍が暴れるよりマシと思い納得はした。だが誰かに犠牲を伴うこの機構を止めて欲しい】
犠牲の上に成り立つ平和って?
【蒼炎がその希望になると確信している。そこで君の手助けになると思って、俺達の戦いの記録を残す事にした。歴史書だと読む人がいなくなる可能性があるからと思い小説風にした。遊び心は否定しない。【白狼伝説】という小説だ】
小説では黄龍は倒していたけど。
【その他にカフェとガラムが使っていたオリジナルの呪文を記す。適する属性であっても使えない人が多い魔法だ。使えない人が多いと魔法は失伝する可能性が高いため、この手紙に残す事にした。黄龍の戦いでは必ず役に立つ魔法だ。風の属性の魔法はソフィアの開発が間に合わなかった。エルフの里に行けば分かるかもしれない】
ソフィアさんが残した魔法は烈風の魔法か。
【あとはAランク冒険者になってから公爵家から詳細は聞いてくれ。そういう契約になっている】
ここでも古の契約か。
【最後に一つ、白炎も蒼炎もどちらも火属性の上位魔法だ。君は蒼炎以外の魔法を使えないと思う。俺もそうだったからな】
サラッと言われた……。
【いつでも君の側にいる蒼炎の魂、ウルフ・リンカイより】
最後の一枚には水属性魔法の呪文と金属性魔法の呪文が記載されていた。
僕は何度も手紙を読み返した。
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次の日の朝、ミカに開封できた封筒を見せて手紙を読ませる。
「なんか凄い内容ね。でも最後はAランク冒険者にならないと駄目なのね」
「ヴィア主任に見せて、何か分かれば良いんだけど」
「蒼炎の友達って凄いわね。やっぱり昨日の実験でその段階になったんでしょうね」
「僕もそう思うよ。でも【白狼伝説】では、簡単に黄龍を倒しているよね。何でだろ?」
「さぁどうしてなんでしょうね。私にはさっぱりわからないわ」
ヴィア主任とサイドさんとトウイが朝練のためにウチの庭にやってきた。
早速ヴィア主任に手紙を見てもらう。
「なるほど。封筒を開ける鍵は君と蒼炎の絆の醸成だったか。封印のダンジョンにいるのは黄龍? 神獣? それとも何かの封印の魔法陣? 何とも判断がつかないな。黄龍がどこに封印されているのかもわからないな。【白狼伝説】が戦いの記録か、小説風にするとは……。これでは正確に伝わらないぞ」
「そうなんですか?」
「小説は娯楽性の高いものだ。長い年月で大衆受けになるように話が変わって行ってしまうんだよ。古い【白狼伝説】があれば良いが……」
そんなもんなのか? そうかもしれない。
「あとはこの水属性の魔法と金属性の魔法だな。研究室に戻ってから調べてみよう」
そう言って朝練を開始するヴィア主任。
ヴィア主任は何かに気が付いたように、僕に振り返りトドメの言葉を口にする。
「蒼炎の魔法を作るレベルのウルフ・リンカイが白炎の魔法しか使えなかったのか。残念だが、これはアキくんも諦めたほうがよさそうだな」
やっぱりと僕は肩を落とした。
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午前中にヴィア研究室にて手紙に書かれていた呪文を調べていた。
【清らかな水、清浄なる御身をもって不浄を流せ、浄化水流!】
【金剛の底力、強固な絆は永遠なり、金剛防壁!】
サイドさんが呪文の文言を見て呟く。
「どちらも見た事がない呪文の文言ですね。またどの呪文とも似ていないです。類型の無い文言です」
ヴィア主任が指示を出す。
「まずは研究所の水属性と金属性の魔法が使える奴に魔法が発動するか調べよう。手紙には使い手を選ぶ魔法と書いてあったからな」
その指示を受け、サイドさんは研究室を出て行く。
「あとはなるべく古い【白狼伝説】を探す事だな。古い蔵書となると王家か公爵家だな」
ヴィア主任の言葉に僕は口を開く。
「でもファイアール公爵家の【白狼伝説】は今のと変わらなかったですよ」
「別に古い蔵書があるかもしれない。連絡はしないとな」
そう言ってヴィア主任は王家と各公爵家に手紙を書き始める。
僕は今月の末に後期試験があるため勉強を始めた。
結局、【浄化水流】と【金剛防壁】を発動できた人はいなかった。
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【2月19日】無の日
久しぶりに冒険者ギルドセンタール支部に来た。
シズカとトウイとミカの3人と一緒だ。
シズカとトウイは冒険者のパーティを組む事になった。力量的には同じくらいでちょうど良い。
僕らとダンジョンに行くとお膳立てが酷く、自らの成長に繋がりにくいと言っていた。
今日はシズカとトウイのパーティメンバーの募集に来たのだ。
シズカは火属性魔法が使える貴族。
トウイは火属性魔法が使えて、接近戦もこなせる平民。
2人とも相当珍しい冒険者になる。人気になるだろう。その為、変な輩に巻き込まれないように冒険者ギルドから推薦してもらおうと思った。
受付に行き、僕のギルドカードを見せて訪問の理由を告げる。
受付の責任者が現れ、品行方正で能力の高い人を責任を持って紹介してくれる事になった。
これで後期試験が終わった後の3月は、シズカとトウイと新しいメンバーでダンジョン活動ができるはずだ。
僕たちのパーティは3月に北の中心都市コンゴに行く予定である。