第145話 蒼炎のコントロール
【1月13日】に王都に到着する。ヴィア研究室に顔を出しに行ったが誰もいなかった。
学校の寮に顔を出し、トウイと新年の挨拶をしてカッターのお土産を渡す。トウイは実家のボムズに帰省して先日帰ってきていた。
ボムズの冒険者の中では、ヴィア主任とサイドさんが話題になっているそうだ。
ヴィア主任が【閃光の女王】、サイドさんは【青の貴公子】と呼ばれているとの事。二人は派手に焦土の渦ダンジョンを攻略しているみたい。
それにしてもヴィア主任って色々言われるなぁ。
学校が始まるまで自宅でゆっくりする予定。
あと1ヵ月半で後期試験があるため、勉強も少しずつやっている。
ミカはリビングのソファでゆったりとしていた。そんなミカを見ていると心がほっこりとしてくる。
ミカと目が合う。
優しく微笑んでくれる。
幸せってこういう事なのかな。
1月14日のお昼にヴィア主任とサイドさんがボムズから帰ってきた。夜に僕の家で新年のパーティをする事になった。
朝の鍛錬にも参加しているトウイも来る予定だ。
家に来たヴィア主任のテンションは異常に高かった。血が滾っている感じ。
サイドさんにどういう事か確認してみる。
「ヴィア主任はエンバラのエルフの里で冒険者に戻る事に決めただろ。蒼炎の魔法の秘密を探るためには古代からの謎を解かないとならない。研究の一環で始めた冒険者再開だったけど、以前の血が騒いでくるみたい。それに研究の情熱が混じり合って爆発しているんだな。君が勧めた【白狼伝説】も一役買っているよ」
そんなサイドさんに僕は気になっている事を聞いてみた。
「サイドさんは研究者です。ヴィア主任のダンジョン活動に付き合う必要はあるんですか?」
サイドさんは柔らかく笑った。
「今更だよ。古代の謎を解明する研究の一環だと思えばね。ヴィア主任に付き合わされるのは慣れているよ。それで悪いんだけど、それまでは君の冒険者パーティに入れて欲しいんだ。僕の実力も上がったから足は引っ張らないと思うよ」
サイドさんからの願ってもない言葉だった。僕はサイドさんに言葉を返す。
「もちろん歓迎いたします。ただヴィア主任の暴走だけはサイドさんが止めてくださいね」
こうして僕の冒険者パーティはミカとヴィア主任とサイドさんで4人になった。
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その晩、また蒼炎の夢を見た。蒼炎は以前の夢より人の形になっている。僕に向かって何かを伝えたいような感じだ。僕にははっきりとはわからなかった。
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【1月16日】学校が始まり日常の学生生活に戻った。
朝は剣術の鍛錬。ミカとヴィア主任、サイドさん、トウイが参加している。
また立てられたスケジュール通りに蒼炎の魔法をダンジョンに撃ちに行く。
蒼炎のストレスが溜まった時にダンジョン外で蒼炎を撃っている。
座学をクラスで受けて、トウイやシズカと雑談を交わす。
休みの日はミカと出かけたり、トウイとダンジョンに行ったりしている。
そんな生活を送っていた。
僕が使える新しい魔法の開発は完全に暗礁に乗り上げている。エンバラで蒼炎が火属性の上位魔法と言われた事も影響している。
火属性の魔法は長い歴史の中で洗練されている。新しい魔法を開発する余地がないほどに。
僕の発想では手に負えない。僕の詩的感覚の無さもそれに拍車をかけている。
焦りと言うより無力さを感じる。
【2月15日】
今日はダンジョン外での蒼炎の魔法実験だ。
いつものように初っ端にデカい蒼炎を撃ち、その後は普通の蒼炎を撃っていた。
5発目の蒼炎を撃った瞬間、僕の心の中で「カチッ」と音がした感じがした。
何かがハマった感覚だ。
なんだこの感覚!?
自分の手の平を見る。特に変わらない手の平だ。
でも何か皮膚の感覚が違う。鋭敏になっている感覚がある。
手を何回か握ったり開いたりする。
その時、サイドさんから声がかかる。
「的の準備できたよ!」
僕は慌てて蒼炎の魔法を撃つ準備をする。
いつもの呪文の詠唱を始める。
【焔の真理、】
いつもよりスムーズに蒼炎が立ち上がる
【全てを燃やし尽くす業火、】
集まって来た蒼い炎の回転がいつもより速い
【蒼炎!】
そのまま一直線に的に向かう
蒼炎の感情は落ち着いていた。
この場合は通常半径3メトルほどの大きさになる。
今回の蒼炎も半径が3メトルほどだ。
僕は何故か確信していた。
それができると…。
僕は蒼炎に対してもう少し大きくなれと願った。その願いに応えるように蒼炎の半径が5メトルほどになった。
それを見ていたヴィア主任が聞いてくる。
「今の蒼炎の感情は何か変化があったのか? 落ち着いている蒼炎より大きくなったのだが?」
「今の蒼炎の感情は落ち着いています。いつもと変わりません」
「そうなのか? 何か原因があるのかな? まだまだ研究しないといけないな」
「いや原因はわかっています。僕が蒼炎に願って大きくなってもらいました」
その後の現場は慌ただしくなった。
撃ったあとに魔法に介在するなんて考えられない事だった。
その後の実験では、僕が本当に蒼炎の魔法に介在できるのか多角的に試す。
大きさは半径6メトルほどまでなり、1.5メトル程度に小さくもできた。
持続時間は倍程度まで伸ばす事ができた。
蒼炎を僕が撃ってから、ヴィア主任の声が飛ぶ。
「今度は一番大きくして、持続時間を最大限にしてくれ」
僕はその通り蒼炎に願い、蒼炎はそれに応えてくれる。
それを見たヴィア主任が言葉をあげた。
「間違いなく、君の思いが蒼炎に伝わっているな。蒼炎の感情が君に伝わるだけじゃなく、君の思いも蒼炎に伝わっている。こんな魔法は前代未聞だ。これも古代の技術というのか」
愕然としていたヴィア主任の目が怪しく光り出す。
「やはりこれは古代の謎を解くしかないな! なるべく早くBランクダンジョンを全制覇してAランク冒険者になる。封印のダンジョンに隠されているものが何かを確認せねばならない!」
そう宣言をするヴィア主任。僕もミカもサイドさんも思いは同じだった。
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その夜の晩、蒼炎の夢を見た。
今度の蒼炎は完全に人の形で顔も分かる。
年配の男性のようだ。言葉は通じない。
人の形を取った蒼炎は指で四角を作る。
何度も何度も。
大きさは長辺が20セチルほどの長方形だ。
蒼炎は何かを訴えていた。
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そして僕は目を覚ました。
夜中だった。まだ夢の感覚が残る頭でマジックバックの中に手を入れる。
僕が取り出したのは開封できない封筒。引き出しからハサミを出し封筒の上部に刃を当てる。
ハサミはいとも簡単に封筒の上部を切った。