第142話 西の中心都市カッターと鎌鼬の庭ダンジョン
最近、僕は悩んでいる。
はっきり言って僕はお金をいっぱい持っている。高価で強い装備も余っている。
だけど友達に無制限にお金を奢ったり、高価な装備をあげる事は間違っているだろう。
そう、僕はダンジョン活動と【白狼伝説】によって急速に仲良くなったトウイとの付き合い方に悩んでいるのだ。
貴族の中で平民であるトウイはクラスの中で、そこそこにボッチである。
学費はどこからか出ているようであるが、普通の学生より持っていない。装備は安物だ。
僕が持っている装備を使えばオークなんて一撃だ。守備力だって大幅に上がる。
だけどそれをやってしまったらトウイと対等な関係は作れない。
ダンジョンに付き合っているが、これは貸しのつもりで僕はいる。
またトウイにもそう言っている。
トウイは同性の僕が見ても良い男だ。友達になれて本当に良かった。
だからこそ施しのような行為はトウイに対して失礼だ。
バランス良くやっていかないといけない。
初めての同性の同学年の友達。
大切にしていきたい。
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残りの11月と12月の前半の休みは全てトウイとダンジョンに行った。1回だけシズカも着いてきたけど。
トウイとダンジョンに行き、【白狼伝説】の話に盛り上がる。冒険者になってからやりたい事を聞いたり、一緒に勉強した。
トウイは夕ご飯を何回も僕の家で食べるようになり、朝の鍛錬にも参加するようになった。
僕は王都魔法学校に来てから一番充実した日々を送れた。
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【12月16日】になった。来月の【1月15日】までは、学校は休みになる。
この期間はカッターにミカと行くことにした。カッター周辺のダンジョンとエルフ排斥運動がどの程度か確認するためである。
ヴィア主任とサイドさんはボムズの焦土の渦ダンジョンに行った。日々の朝練とオウガ討伐の成果を確認する事が目的のようだ。
冒険にハマっているヴィア主任。研究所を辞める事も考えたようだが所長に辞めないようにと懇願されたらしい。好きにしてて良いからと言われてるそうだ。研究は元々好きなため現在は好き勝手にやっている。
12月16日の朝、馬車を借りてミカと2人でカッターを目指す。
ミカと2人で遠出するのは久しぶりだ。馬車に乗るとミカが話し出した。
「最近、アキくんはトウイくんと話してばかり。私の事も相手して」
「ミカを蔑ろにしているつもりは無いよ。でもトウイは大切な友達だからね」
「アキくんがトウイくんと仲良くして楽しそうなのは見ていて嬉しいから良いの。でも少し寂しいかな」
「それなら今回のカッターの遠出で2人きりで、いっぱい楽しもうよ! 宝箱を開ける踊りも考えたんだし」
「アキくん、あの踊り本当にやるの!?」
「何の為に練習したんだよ。当たり前だろ」
「あの踊りするなら宝箱開けなくて良いかな……」
寒くなった季節の中、2人を乗せた馬車はカッターを目指した。
【12月22日】
お昼頃にカッターに到着した。思っていたより少し気温が低いかな。内陸のせいもあるのかな?
カッターの東門を抜けて街に入る。カッターの冒険者ギルドは街の中心に近い位置にあった。
馬車を冒険者ギルドの前につけてもらい降りる。
煉瓦造りの建物の冒険者ギルドだ。ここに入るのは初めてだな。
受付でギルドカードを提示し、ギルド長への面会をお願いする。
ギルド長は不在だった。受付の責任者が僕たちの住む家と専属の職員の手配をしてくれる。
相変わらず楽チンだ。
専属職員はカルタさん。20歳くらいの女性の職員だ。明るい感じで第一印象は悪くなかった。
用意された家は二つあった。
一つは冒険者ギルドから近いが庭がない。
もう一つは冒険者ギルドからは遠くなるが鍛錬できる広さの庭がある。
どうせ2週間くらいの滞在のため冒険者ギルドから近い家に決めた。家にはカルタさんが案内してくれる。綺麗な家で問題なし。
カルタさんが尋ねてきた。
「アキさん達はどのくらいの滞在になるんですか?」
「だいたい2週間を予定してます」
「それなら年末年始はカッターに滞在ですね。楽しんでいってください。お昼ご飯はお作りしますか?」
「よろしくお願いします。特に嫌いなものは無いので」
「わかりました。Bランク冒険者さんに喜んでもらうご飯を作りますね。私は通いになりますので夕ご飯を作りましたら失礼させていただきます。朝ご飯はどうしますか?」
「ギルドに食堂が併設されていたので、そこで食べますよ。ゆっくり来てもらって大丈夫です」
「お気遣いありがとうございます。それでは早速お昼ご飯を作らせてもらいますね」
そう言ってカルタさんは料理を始める。
お昼ご飯を食べたらカッター周辺のダンジョンを調べてくるか。MAPも買わないとな。
カルタさんが作ってくれたお昼ご飯はカッター名物の乳製品をふんだんに使った料理だった。
チーズが絶品!
新しい土地に来た時に楽しみなのは地元の名物料理だな。
よし、それではミカを連れて冒険者ギルドに行くとしよう。
冒険者ギルドの受付でカッター周辺のダンジョンの資料の閲覧を頼んだ。簡単に纏められたファイルを渡される。
ロビーに備え付けられているテーブルに広げ調べていく。
カッター周辺のCランクダンジョンは鎌鼬の庭ダンジョン。
出てくるモンスターは何とF級モンスターのカーサスである。ただし風属性を獲得しているようでスピードが相当早いらしい。
大きさは翼を広げると3メトルほどになる。羽根が刃のように鋭くなっており、冒険者を切り刻むため相当危険なモンスターと書いてある。
C級モンスターの緑風カーサスと呼ばれている。
風属性はスピードと切れ味が特徴である。緑風カーサスが速いとなると蒼炎の魔法を当てるのは厳しくなってくる。
スピード負けしないように【昇龍装備】で固めたほうが良いな。
【昇龍装備】は水属性の装備である。特殊効果は速さが上がる。
ただ水属性の速さアップは水のように流麗になる速さである。直線的な速さが上がる風属性とは違った良さがある。
だいたいの攻略の予定を頭に思い浮かべて鎌鼬の庭ダンジョンのMAPを買って帰宅した。
帰宅後すぐにミカと鎌鼬の庭ダンジョンについて話し合う。
「蒼炎の魔法は使いにくそうな相手だよな。【昇龍装備】で揃えて接近戦かなって思ってんだけど」
「実際にどの程度の速さで、どの程度の数が襲ってくるかわからないから見てからかなぁ」
「まぁそうだよね。早速、明日から行ってみようか」
明日から鎌鼬の庭ダンジョン攻略開始だ!
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鎌鼬の庭ダンジョンはカッターの北門から1.5キロル程度の距離である。歩いていける距離だ。
早朝に冒険者ギルドに行って朝ごはんを食べる。そのまま北門に向かって歩いていく。
気温はだいぶ寒い。早くダンジョン内に入りたい。
鎌鼬の庭ダンジョンの入り口は洞窟タイプだった。
入り口を通り抜けてビックリしたのがダンジョンなのに空がある事だった。沼の主人ダンジョンと同じタイプだ。
道は歩きやすい土。両脇には草原が広がっている。
遠くの方で鳥が飛んでいるのが見える。こちらにどんどん向かってくた。
近づくにつれ大きくなってくる。昇龍の剣を右手に持ち待ち構えた。羽根を広げると確かに大きい。緑色した大型カーサスだ。
すれ違い様に昇龍の剣を一閃! 緑風カーサスは真っ二つになった。
3体ほど倒して分かった。コイツ弱いって。
直線的に飛んでくるからタイミングを合わせて剣を置くだけで倒せる。
ミカも問題なく倒している。これ様子見する必要ないんじゃないか?
そう思いミカに聞く。
「ミカ、進めるだけ進んでみない? この程度なら問題無いとおもうんだけど」
「私もそれで良いと思う。たぶん楽勝よ」
話は決まりそのまま行けるとこまで行ってみることにした。
相変わらず緑風カーサスは襲ってくる。速いだけだ。落ち着いて処理すれば問題ない。
風属性は守備力に難があるからそのせいかと感じる。
1階層を鼻歌混じりで通過した。
2階層ではたまにふつうのカーサスが出てくる。ただそれだけだ。
やっぱり剣術レベルが上がっているのか。
ステータスカードで確かめたいなぁ。
3階層、4階層と進んでいく。ここも危険性は変わらない。
丁寧に緑風カーサスを倒していった。
5階層から緑風カーサスの大きさが一回り大きくなった印象。
それがどうした。一刀両断にする。
6階層。通常のCランクダンジョンは最終階層だ。
緑風カーサスがあからさまに大きくなっている。
羽根を広げると5メトルはあった。速さも少し速くなっている印象だ。
でもそれだけ。相変わらず直線的に突っ込んでくる。
作業のように倒していく。
6階層の奥に来た。高さが4メトルほどの扉がある。本当にボス部屋まで来ちゃった。
ミカは息すら乱していない。僕も同じだ。
ミカと目を合わせ、一つ頷いて扉を開ける。
ボス部屋は広かった。辺り一面草原だ。
遠くから鳥が飛んでくる。結構な速さだ。ミカと準備を整える。
どんどん大きくなるカーサス。羽根を広げると10メトルはあるだろう。
残念な事にやはり直線的にこちらを襲ってきた。
大きな緑風カーサス。タイミングを合わせ左右に移動する。
左の翼をミカが、右の翼を僕が、すれ違い様に剣で切り裂く。
羽根が無くなった大きな緑風カーサスは地面でもがいている。
首を刎ねて討伐終了した。
大きな緑風カーサスの死骸はダンジョンに吸収されB級魔石と宝箱に変わった。
B級魔石をマジックバックに入れ、宝箱の舞をしようと思っていたら、ミカが既に宝箱を開けていた……。
僕は呆然とした。
「ミカ、ひどいよ! どうしてもう宝箱を開けてるの! これからが冒険者の醍醐味なのに!」
「アキくん、ごめんね。あの踊りはやりたくなくって。また新しい事考えてくれたらやるから。ほら剣が出て来たわよ」
剣なんかで誤魔化されてやるもんか!
僕の楽しみを奪ったことを日記に書いてやる!
まぁ日記なんて書いたことないけど……。
しょうがないか。
宝箱から出てきた剣は緑色の鞘に入っている剣だった。曲刀? 鞘に入っている。
さっそく鞘から抜いてみた。刀だ。片刃で綺麗だ。
鞘も緑色だが、刃も緑色に光っている。
何かカッコいいね。
「ミカ、この刀を僕が使って良いなら宝箱を勝手に開けたことを許してあげる」
「良いわよ、アキくん。どうせこのダンジョンは何回も周回するつもりだからね」
宝箱には他にダンジョン制覇メダルが入っていた。何か有り難みが薄いな。
結局カーサスはカーサスって事か。
こうして僕達はいきなり鎌鼬の庭のダンジョンを制覇した。





