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蒼炎の魔術師 〜冒険への飛翔〜  作者: 葉暮銀
冒険への飛翔編
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第134話 シズカの謝罪と弟子入り志願

 冒険者ギルドに魔石の納品をして、ダンジョン武器の鑑定を頼んだ。

 名称は【鳳凰の細剣】特殊効果は貫通力アップ。

 この武器の出現にヴィア主任が狂喜乱舞した。見ていたこちらが引くほどだった。


 エルフは風属性のエキスパートである。風属性は全属性の中で一番の速さを持つ。

 しかし金属性との相性は最悪。火属性とは相当力量の差が無いと逆に火属性が強化されてしまう。

 水属性とはまあまあの相性であり、風属性同士は互角となる。

 今回の焦土の渦ダンジョンでヴィア主任が魔法を使っていない理由は属性の相性を考えてだ。

 水属性の昇龍の剣で戦ったほうが安定感が出るためである。


 僕とミカがクリアしていないBランクダンジョンは金宮のダンジョンと風宮のダンジョン。

 金宮のダンジョンでは風属性は役に立たない。その為ヴィア主任は悩んでいたようだ。

 それが金属性に強い火属性の貫通力の強いレイピア。オマケに特殊効果も貫通力アップ。どれだけ貫通させれば気が済むのかという武器である。


 ヴィア主任はこれで金属性が強い土地である北のコンゴに行っても戦力になれると思って喜んだ次第だ。


 もう2〜3回焦土の渦ダンジョンに行けばヴィア主任がBランク冒険者になるだろう。

 日程にも余裕があるため、明日は休みにした。


 祝勝会をリビングで開催する。

 その夜は浴びるほどお酒を飲んでいたサイドさん。

 ヴィア主任も楽しそうに【鳳凰の細剣】を摩りながら笑っている。

 リーザさんは臨時ボーナスが出たため笑顔が絶えない。

 僕はミカと以前の焦土の渦ダンジョン制覇と今回の制覇の違いを話していた。

 やっぱり4人パーティだと安定感が段違いだ。

 興奮が冷めないまま夜遅くまで祝勝会は続いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 次の日の朝の鍛錬にサイドさんは現れなかった。まぁあれだけ飲めばね。

 朝食を食べ終わり、リビングでゆったりしていると来客のようだ。

 リーザさんが応対してくれている。


 来客はファイアール公爵家筆頭執事のベルク・ファイアード。

 リーザさんにリビングに通してもらう。

 ベルクがこちらが勧めた席に座った。ベルクは僕が苦手とする相手であり、シズカの父親でもある。


 40歳前後の細身の身体。今日は少しやつれて見える。憔悴していると言えば良いのだろうか?

 いつものように真紅の髪を清潔に整えて、眉間の皺が跡になるほどのしかめ面だ。相変わらず笑った顔を見た事がない。


 ベルクは開口一番謝罪を口にする。


「この度はアキ・ファイアール殿にとてもご迷惑をおかけして申し訳ございません。後日行われる予定のファイアール公爵家からアキ殿への謝罪内容の事前調整で来させていただきました」


 謝罪の事前調整!? なるほど、こんな事も必要なのね。


「まず、魔法の不適正使用をしたガンギ様は1年間の謹慎となります。また今後この様な事をしないように誓約書を書かせます。またガンギ様をそそのかしたカイ・ファイアージは王都魔法学校の自主退学とファイアージ家の廃嫡になります。その他にアキ殿に賠償金としてファイアール公爵家より3,000万バルをお支払いさせていただきます。以上です。この条件にてご検討のほど宜しくお願いします」


 カイ・ファイアージがガンギをそそのかした?

 新しい情報だな。ガンギがこの件で廃嫡にでもなればシズカへのアプローチがうまく行くと思ったのかな?

 へぇー! カイちゃんやるね。失敗してるけど。

 それにしても実行犯のガンギと唆したカイで随分と罰に差があるな。


「実際に魔法を撃ったガンギと唆しただけのカイさんで随分罰に差がありますね。実行犯は1年間の謹慎と誓約書、教唆犯はエリートコース剥奪に廃嫡。バランスが悪くないですか?」


 無言になるベルク。

 僕は言葉を続ける。


「まあ僕は狙われましたけど怪我もしてないですから良いんですけど、怪我をしたシズカさんの方はどうなりました? 婚約破棄しないと納得しないって言ってましたけど?」


 苦しそうに重い口を開くベルク。


「ガンギ様とシズカとの婚約は継続になります。賠償金の支払いはございますが……」


 ふーん。そうなんだ。またシズカが荒れるなぁ。面倒だな。

 でも僕には関係ない事か。


「謝罪の内容については了解致しました。僕からは特に何も無いです」


「それでは3日後にファイアール公爵家から謝罪をさせていただきます。場所はここから近い冒険者ギルドの部屋を借りました。ご足労ですがよろしくお願いします」


 ベルクはまだ何か言いたげだったが、結局何も言わずに挨拶をして帰って行った。


 午後にまた来客だ。

 今度はシズカ・ファイアード。

 これで担任のシベリーさんが来れば、ファイアード祭りだ!

 わけの分からない事を考えているとシズカがまくし立て始める。


「信じられる! 人に魔法を撃っといて何なの! ガンギはイカれているわ! 何故、あんなのと結婚しないといけないのよ! 何故、婚約破棄にならないの!」


 止まらないシズカ。

 適当な相槌をうっていたら、シズカは結構長い間同じ内容を話している。

 僕の精神が疲れる前にここは何とかしよう。


「シズカさん、君の言いたい事は良く分かる。だけどそれを僕に言ってどうなるのかな? ファイアール公爵家か君の父親に言って欲しいのだけど」


「もう何度も言っているわよ。埒があかないから困っているのよ」


「僕にできる事があれば助けてあげたいけど、この件は僕には関係ない事なんでね」


 僕はこの言葉を発したことを後悔する事になる。

 シズカの特徴は大きな目だ。その大きな目が光ったように感じる。

 僕は猟師の前にいる獲物の心境になった。

 悪巧みを考えている顔をしてシズカが喋り出す。


「アキさん、貴方にしかできない事があるの。だからこそ今日は訪ねさせてもらったわ。私、貴方のパーティのダンジョン活動を見て感動したの。貴族でもダンジョン活動をしていくべきだって。ダンジョン活動は素晴らしい行為よ。だって魔石が無いと皆んな困るでしょう。私決めたの。学校を卒業したら冒険者になるって。アキさんにはそれの手助けをして欲しくって」


「はっ?」


「だから結婚しなくても良いように、冒険者になるの。冒険者ならどこに行ってもダンジョンがあるから問題ないわ」


 冒険者になる貴族は奇特な人しかいない。危険を伴う肉体労働だからだ。

 僕が冒険者に憧れた理由の一因に冒険者は魔法が使えなくてもなれるからだ。

 シズカは火の属性魔法が高いレベルで使える。冒険者になればパーティへの勧誘で引っ張りだこになるだろう。

 それでも僕はすぐには頷けなかった。

 シズカの話が続く。


「貴方だって冒険者になるために家出したじゃない? 全く同じ事よ。ただ私は計画性を持ってやろうとしているの。学生の間に冒険者のスキルとギルドランクを上げて行こうと思っているのよ。王都でダンジョン活動すれば、ボムズにいるファイアール公爵家やお父様には気づかれないわ」


 僕の家出と同じ事なのか? そう言われればそのような気もする。


「僕はファイアール公爵家や君の父親と揉めたい訳ではないんだ。君がガンギと結婚しようが冒険者になろうがはっきり言えばどちらでも良いんだよ。冒険者になる手助けは通常のクラスメイトの関係の範囲を逸脱しているよ」


 シズカは真剣な顔になり、僕に頭を下げた。

 そしてゆっくりと喋りだす。


「まずは遅くなってしまったけれど、貴方の事をずっとバカにして来た事を謝ります。どれだけ貴方を傷つけてきたのか想像もつかないほどです。本当にすいませんでした。夢である冒険者になって立派になられた貴方は本当に凄いと思います。ただ私も冒険者になりたいと本当に思っているのです。貴方のパーティの戦いは本当に綺麗でした。見ていて心を奪われました。私もあのようになりたいと憧れました。貴方のパーティに入れてくれなんて言いません。貴方の弟子にしてくれませんか? 本当にお願いします」


 謝罪をするなら最初だろと少し思ったが、心の篭った声は人に伝わる。

 シズカの言葉にウソはなかった。その事が分かり、僕は言葉が出なかった。

 僕とシズカの話を聞いていたヴィア主任が僕の横にやってきた。

 僕の肩に手を置き、口を開く。


「アキくん、今日のところは結論を出さなくても良いんじゃないか。幸いまだ時間がある。王都で空いた時間にでもダンジョン活動に付き合ってあげれば良いさ。クラスメイトなんだろ?」


 そうかな? そういうものか? でもそうかもね。

 少しくらいならシズカに付き合ってあげても良いか。

 僕はシズカに言葉をかける。


「まずはシズカさんの謝罪は受け取った。だから頭は上げてもらえるかな」


 ゆっくりと顔を上げるシズカ。泣いていた。

 僕は言葉を続ける。


「僕の冒険者パーティの参加や弟子云々は置いといて、空いてる時間にダンジョン活動に付き合っても良いよ。それから少しずつ考えていこう」


 シズカは鼻を啜りながら「ありがとうございます」と言った。

僕はそんなシズカに向けて口を開く。


「まずは学校が始まるまで【白狼伝説】を読んでおいてね。絵本じゃなく小説だからね。それが僕からの条件だ」

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