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蒼炎の魔術師 〜冒険への飛翔〜  作者: 葉暮銀
王都センタール編
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第92話 裸の言葉【ミカの視点】

【第89話〜第91話のミカの視点】


 今日はダンジョン外で蒼炎の魔法の実験をする日だ。

 朝からアキくんがステータスカードが壊れたと騒いでいる。

 確かに触っても反応がない。

 これはヴィア主任に任せるのが良いだろうな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 馬車は王都セントールの郊外まで向かう。南門を通り馬車は進んでいく。どんどん道が悪くなるし狭くなる。周りは木々が多くなってきた。

 これ以上は馬車で進めないため、そこから歩きになる。


 林の中の山道を歩くと捕虜になったときを思い出してしまう。嫌な思い出だ。私は頭を振って気を紛らわす。

 半刻《1時間》ほどでなだらかな丘の頂上に着いた。

 開けた場所で周りには燃えるような木はない。下は土だ。

 私が捕虜になった戦場によく似てる。胸がムカムカしてきた。


 実験の準備が着々と進む。私はそれを漠然と眺めていた。


 どうやら実験の準備が終わったようだ。アキくんとヴィア主任が打ち合わせをしている。

 アキくんが的に向かって詠唱をしているのが微かに聞こえた。


【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】


 直径20セチルほどの蒼い玉が的に向かっていく。蒼炎は的の中心に当たると、そこから光が広がって行く。ダンジョン内と同じだ。

 しかし半径3メトルを超えても拡大を続ける。


 唸りを上げる蒼炎の魔法。どこまで大きくなるんだ。

 蒼炎の大きさは半径8メトルくらいで止まり、その大きさで唸りを上げて燃え上がっている。蒼炎の魔法に私は慄いてしまった。


 音によって私の奥底にしまっていた記憶が呼び起こされる。

 孤立無縁の中、戦略級の魔法が飛び交う戦場。

 爆音と悲鳴が聞こえてくる。砂ぼこりが舞い、周囲の状況が確認できない。


 戦争とは人の命はこんなに軽いものと気がつかされる。いやこれは戦争とはいえない。相手との戦力差があり過ぎる。まさに蹂躙と呼ぶのにふさわしい。

 死を覚悟した。その瞬間から私の記憶は朧げだ。


 蹂躙される側の私は力を振り絞って抵抗したが結局は捕囚の身となった。

 そして私の精神は死んだ。アキくんによって生き返るまで。

 

 これは戦略級の魔法だ。戦争で数十名で使われる魔法規模。それを1人で発動しているアキくん。まさに規格外の魔導師だ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 アキくんは蒼炎の魔法が消えるのを予告した。そして実際その通りになる。

 ヴィア主任から質問攻めにあうアキくん。その話の中に看過できない内容があった。

 私はヴィア主任から解放されたアキくんに話しかける。


「ヴィア主任との会話を聞いていたけどアキくんは蒼炎の感情を感じるって事なの?」


「そうだね。入学試験の時も感じたけど、今日の蒼炎で確信したよ。間違いなく蒼炎は感情を持っているんだ」


 なんでそんな大事な事を話してくれなかったんだ!


「アキくんがそういうなら私は信じる事ができるわ。蒼炎に感情があるんでしょう。だけど許せない事もあるんだからね」


「な、なんでしょうか? 心当たりが無いのですが?」


 焦るアキくんは可愛いが、やはり許せない。


「先程のヴィア主任との話の中で、最近ダンジョンで蒼炎を使うたびに違和感が大きくなっていたって言っていたでしょ! 何かしらおかしいって感じたならば私にしっかり話してくれないと。私はアキくんの奴隷であり従者であり、そして冒険者パートナーでしょ!」


 アキくんは平謝りをしてくれた。でもやっぱり簡単には許したくないな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 帰りの馬車の中でヴィア主任がアキくんに話しかける。


「取り敢えず、今日の実験結果をまとめる事にする。蒼炎はダンジョンで撃たれる事が嫌なのかな?」


「理由は良くわかりませんが入試の時は怒ってましたし、今日は喜んでいました。たぶんダンジョンで使用するとストレスになるんだと思います」


 ヴィア主任が耳を疑うことを言い出す。


「蒼炎には悪いんだが、少しダンジョンで蒼炎を撃ってみたいと思うんだ。ストレスを本当に与えられるのか見てみたい。その後、今日のようにストレスを発散させて蒼炎の威力の変化をみたいんだ。試して見てよいかな?」


 あの規格外の魔法にストレスを与える!? 何を考えているんだ! あれはそういう事をして良い存在ではない!

 私はすかさず反論を口にした。


「無理矢理蒼炎にストレスを与えてアキくんに何か問題が生じたらどうするんですか? 私は反対です!」


 私の言葉にアキくんは言葉を選びながら口にを開く。


「ミカ、君の懸念は良く分かるよ。ありがとう。でも今後一切ダンジョンで蒼炎を使わないって事は無いと思うんだ。Aランク冒険者を目指しているからね。それならばヴィア主任のサポートを受けながら蒼炎と向き合っていきたいと思うんだ。それが結局は1番安全だからね」


 Bランク冒険者でも名誉と有り余るお金が手に入る。何故Aランク冒険者にならないといけないのか!


「別にAランク冒険者にならなくとも、ダンジョンに潜らなくても良いじゃないですか! 充分なお金もありますし、ランクを下げれば蒼炎の魔法を使わないで済むダンジョンもあります!」


 アキくんはわたしの目を見て言葉を紡ぐ。


「確かにそのような人生もあるかもしれない。だけど僕は【白狼伝説】の主人公に憧れている冒険者なんだ。封印守護者の悲願とかにも興味があるけど、未知のダンジョンで未知のモンスターと戦って冒険したいんだ。その為には蒼炎を使いこなさないと駄目だよ。何度も助けられたんだから」


 アキくんの気持ちは理解した。しかしアキくんの危険性が上がってしまう。私はアキくんがいなければ生きる意味を失ってしまう。

 それでも私はアキくんの奴隷だ。ご主人様の意向に沿うべきなんだろう……。


「分かりました。アキくんがそれを選択するなら私は全力でサポートするだけです。ヴィア主任、すいませんでした。ダンジョン内での蒼炎の使用を私も賛成させていただきます。そのかわり何か問題が生じるようならすぐに中止してください」


 私達の話を聞いていたヴィア主任が頷く。


「もちろんだ。安全には極力考慮して行う。それでは日程はこちらで立ててみる。今週末にでも行ければ行きたいな」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 帰宅後、夕食の時間は何か居心地が悪かった。

 アキくんはすぐにお風呂に入り自室に篭ってしまった。

 このままではいけない。アキくんが遠くに行ってしまう感じがした。私は意を決してアキくんの部屋のドアをノックした。

 扉が開きアキくんが部屋に入れてくれる。私は椅子に座って俯く。アキくんがベッドに座り私を見つめているのを感じる。

 無言の時間が2人の空間を重くしていく。心が壊れそうだ。

 まずは一歩を踏み出そう。私は顔を上げてアキくんを見つめる。


「帰りの馬車の中ではごめんなさい。私が間違っていたわ」


「そんな事はないよ。ミカは僕の事を心配してくれたんじゃないか。僕は僕で自分の我儘を通しただけだよ」


「そういう事ではないの。なんて言えばいいんだろう」


 自分の想いが言葉にできない。思考がまとまらない。だけど何か話さないとアキくんが離れていってしまう。


「私ね、何か臆病になってたみたい。アキくんがいない生活ってもう考えられなくて。蒼炎の魔法に感情があると聞いて思ったの。蒼炎の魔法って使うと全部灰にしてしまって残らなくなるでしょ。考えられない威力なのよ。入試の時の蒼炎の威力が凄かったと皆んなが言っていたけど私は直接見てなかったから、そんなもんかって思っていたのね」


 話しているうちに、また俯いていた。これではダメだ。私はまた顔を上げてアキくんを見つめる。


「今日の初めに撃った蒼炎を見て実感したのよ。あれは普通じゃないって。まぁ今までのダンジョンで使っていた蒼炎も普通じゃなかったけどね。今日の蒼炎は戦争を思い出しちゃったのよ。充分、戦略級の魔法だった。その後撃たれた蒼炎は普通だったけどね。ただイタズラに蒼炎の感情にストレスをかけては駄目かなって。蒼炎に感情があるって事は生きてるって事かなって。それが信じられない破壊力をもってる。その蒼炎のストレスがアキくんに向いたらどうしようと思って……」


 当面の危惧については取り敢えず話ができた。アキくんはゆっくりと話し出した。


「ミカが危惧しているのは蒼炎の怒りが僕に向く事なんだね」


 私は頷く。

 アキくんの声が優しくなる。


「きちんと説明してない僕が悪いね。僕は蒼炎の感情を感じている。これは僕の中では確信していることだ。同じように蒼炎も僕の感情を感じてくれてると思うんだ」


 魔法が感情を持つ。しかも魔法も術者の感情を感じているなんて荒唐無稽の話だ。

 しかしアキくんの表情からはアキくんが確信している事を感じる。


「入学試験の時、蒼炎はとても怒っていた。それを僕は強く感じた。ダンジョンでしか使わないせいでストレスが溜まっていたんだろうとは思う。でも僕の感情にも考慮していたような気がするんだ。僕たちは王都に来てから嫌なことばかりあったよね。冒険者ギルドの食堂で店員に嫌味を言われたり、冒険者に絡まれたり、念のためギルド長からも距離を置くようにしている。また僕は入学試験の時にダンジョン外で蒼炎を使うことを危惧していた。ギリギリまで交渉していたけど黒龍の杖も使わせてもらえなかった。あの時、試験官に揶揄やゆされて僕は少しキレていたんだ。あの入学試験の蒼炎の怒りはダンジョン内でしか使われない蒼炎のストレス以外に僕の怒りも代弁してくれてるように感じたんだ。蒼炎が消える前に蒼炎と会話ができたような気がするし」


 アキくんは一度言葉を止め私を見つめる。

 私はやはり確認したくなった。


「それなら蒼炎はアキくんとコミュニケーションをしているって事?」


「今日、最初の蒼炎からは楽しい感情が流れてきてね。僕も嬉しくなったんだ。なんだろう。自由を感じたのかな? 僕は心の中でもっと楽しんで良いよって言っていたよ。それで蒼炎からはもっと楽しい感情が流れてきてね」


 そんな事があるのか? 魔法が楽しむなんて……。アキくんの言葉じゃなければ一笑に付すだろう。


「僕とミカはずっと蒼炎に助けられてきた。蒼炎が無ければ今頃はどうなっていたかわからない。僕が今、本当の意味で信用して信頼しているのはミカ、君だけだ。だけど同じように蒼炎を信用して信頼している。それだけ助けてもらった。もし蒼炎が生きているのなら僕やミカを傷つけることなんか無いと思っている。理屈じゃないんだこれは。蒼炎の感情と会話して、心で感じたものだから。だから心配しなくて良いよ。確信している、蒼炎は僕たちを守る魔法なんだ。これからも僕とミカを守ってくれるよ」


 アキくんの考えはわかった。しかしあの戦略級の魔法である蒼炎の魔法。全てを無に帰す魔法だ。人がぎょせるものだろうか? それでも私はアキくんの奴隷だ。


「頭では理解したけど、残念だけど気持ちが納得していないところもあるかな。それでもアキくんが決めた事に反対するのはおかしいもんね。私はアキくんについて行くと決めたのだから。私からのお願いを聞いてくれる?」


「なにかな?」


「私を1人にしないでください。お願いします」


 これが私の裸の言葉だ。ただそれだけをアキくんに伝えたかった。

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