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蒼炎の魔術師 〜冒険への飛翔〜  作者: 葉暮銀
王都センタール編
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第91話 泣き崩れた女性の対処方法

 馬車の中でヴィア主任が僕に話しかける。


「取り敢えず、今日の実験結果をまとめる事にする。蒼炎はダンジョンで撃たれる事が嫌なのかな?」


 僕は答える。


「理由は良くわかりませんが入試の時は怒ってましたし、今日は喜んでいました。たぶんダンジョンで使用するとストレスになるんだと思います」


 ヴィア主任から提案があった。


「蒼炎には悪いんだが、少しダンジョンで蒼炎を撃ってみたいと思うんだ。ストレスを本当に与えられるのか見てみたい。その後、今日のようにストレスを発散させて蒼炎の威力の変化をみたいんだ。試して見てよいかな?」


 ミカがすかさず声を上げる。


「無理矢理蒼炎にストレスを与えてアキくんに何か問題が生じたらどうするんですか? 私は反対です!」


ミカはしっかりとした口調で反対を表明した。

僕は少し考えてから発言する。


「ミカ、君の懸念は良く分かるよ。ありがとう。でも今後一切ダンジョンで蒼炎を使わないって事は無いと思うんだ。Aランク冒険者を目指しているからね。それならばヴィア主任のサポートを受けながら蒼炎と向き合っていきたいと思うんだ。それが結局は1番安全だからね」


 ミカが声を上げる。


「別にAランク冒険者にならなくとも、ダンジョンに潜らなくても良いじゃないですか! 充分なお金もありますし、ランクを下げれば蒼炎の魔法を使わないで済むダンジョンもあります!」


僕はミカを諭すように話す


「確かにそのような人生もあるかもしれない。だけど僕は【白狼伝説】の主人公に憧れている冒険者なんだ。封印守護者の悲願とかにも興味があるけど、未知のダンジョンで未知のモンスターと戦って冒険したいんだ。その為には蒼炎を使いこなさないと駄目だよ。何度も助けられたんだから」


 理解はしたが納得はしてない顔でミカが話す。


「分かりました。アキくんがそれを選択するなら私は全力でサポートするだけです。ヴィア主任、すいませんでした。ダンジョン内での蒼炎の使用を私も賛成させていただきます。そのかわり何か問題が生じるようならすぐに中止してください」


 僕たちの話を聞いていたヴィア主任が口を開く。


「もちろんだ。安全には極力考慮して行う。それでは日程はこちらで立ててみる。今週末にでも行ければ行きたいな」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 帰宅後、ユリさんが作ってくれた夕食を食べたが会話が弾まなかった。

 僕とミカがいつもと違う雰囲気だからだろう。

 そのままお風呂に入り、リビングのミカとユリさんにおやすみなさいを言って自室に入る。


 ベットの上で考え事をする。

 今日、一番最初に撃った蒼炎はとても楽しそうだった。

 その感情を感じた僕が嬉しくなるくらい。

 初めて蒼炎の感情に気が付いた入試の時はどうだったかなと思い出す。

 凄い怒りだったなぁ。

 あんなに怒ってる蒼炎に僕も煽るような感情を持ってしまったくらいだった。


 今日、杖を使うと蒼炎の感情が感じにくくなっていた。

 そういえば【昇龍の杖】持ってから、杖無しで蒼炎を撃つ機会がほとんどなかった事に気がついた。

 もしかして結構前から蒼炎は僕に対して感情をぶつけていたのかな?


 考えてもわからない事をつらつら考えていたらノックの音がした。

 扉を開けるとミカがいた。

 部屋に入ってもらい、ミカを椅子に座らせる。僕はベットに座りミカを見つめていた。


 どちらも話さなかった。

 今年の1月1日に2人で食べた朝食は無言だった。その時は心地の良い静けさを2人を包んでいた。

 今の無言は心を重くさせるものだった。


 この重い空気を破ったのはミカだった。顔を上げて僕を見る。


「帰りの馬車の中ではごめんなさい。私が間違っていたわ」


「そんな事はないよ。ミカは僕の事を心配してくれたんじゃないか。僕は僕で自分の我儘を通しただけだよ」


「そういう事ではないの。なんて言えばいいんだろう」


 そう言ってミカは言葉を止め俯いた。

 また2人の間に沈黙が訪れた。

 少し経ってミカが俯いたまま話し始めた。


「私ね、何か臆病になってたみたい。アキくんがいない生活ってもう考えられなくて。蒼炎の魔法に感情があると聞いて思ったの。蒼炎の魔法って使うと全部灰にしてしまって残らなくなるでしょ。考えられない威力なのよ。入試の時の蒼炎の威力が凄かったと皆んなが言っていたけど私は直接見てなかったから、そんなもんかって思っていたのね」


 ミカはそこで言葉を切り顔を上げて僕の目を見て話を続けた。


「今日の初めに撃った蒼炎を見て実感したのよ。あれは普通じゃないって。まぁ今までのダンジョンで使っていた蒼炎も普通じゃなかったけどね。今日の蒼炎は戦争を思い出しちゃったのよ。充分、戦略級の魔法だった。その後撃たれた蒼炎は普通だったけどね。ただイタズラに蒼炎の感情にストレスをかけては駄目かなって。蒼炎に感情があるって事は生きてるって事かなって。それが信じられない破壊力をもってる。その蒼炎のストレスがアキくんに向いたらどうしようと思って…」


 入試の時より小さかったとは云え、確かに今日の1発目の蒼炎は大きかった。ミカが危ない魔法と肌で実感したのも分かる。

 蒼炎に感情がある。だから蒼炎は生きている。良く分かった。

 僕の言葉が足りてなかったと気づかされた。


「ミカが危惧しているのは蒼炎の怒りが僕に向く事なんだね」


 ミカが頷く。

 僕は出来るだけ優しく声をかける。


「きちんと説明してない僕が悪いね。僕は蒼炎の感情を感じている。これは僕の中では確信していることだ。同じように蒼炎も僕の感情を感じてくれてると思うんだ」


 ミカは真剣に聞いている。

 僕は話を続ける。


「入学試験の時、蒼炎はとても怒っていた。それを僕は強く感じた。ダンジョンでしか使わないせいでストレスが溜まっていたんだろうとは思う。でも僕の感情にも考慮していたような気がするんだ。僕たちは王都に来てから嫌なことばかりあったよね。冒険者ギルドの食堂で店員に嫌味を言われたり、冒険者に絡まれたり、念のためギルド長からも距離を置くようにしている。また僕は入学試験の時にダンジョン外で蒼炎を使うことを危惧していた。ギリギリまで交渉していたけど黒龍の杖も使わせてもらえなかった。あの時、試験官に揶揄やゆされて僕は少しキレていたんだ。あの入学試験の蒼炎の怒りはダンジョン内でしか使われない蒼炎のストレス以外に僕の怒りも代弁してくれてるように感じたんだ。蒼炎が消える前に蒼炎と会話ができたような気がするし」


 一度言葉を止めミカを見る。

 ミカが口を開く。


「それなら蒼炎はアキくんとコミュニケーションをしているって事?」


「今日、最初の蒼炎からは楽しい感情が流れてきてね。僕も嬉しくなったんだ。なんだろう。自由を感じたのかな? 僕は心の中でもっと楽しんで良いよって言っていたよ。それで蒼炎からはもっと楽しい感情が流れてきてね」


 ミカは無言だ。

 僕はこのまま話す。


「僕とミカはずっと蒼炎に助けられてきた。蒼炎が無ければ今頃はどうなっていたかわからない。僕が今、本当の意味で信用して信頼しているのはミカ、君だけだ。だけど同じように蒼炎を信用して信頼している。それだけ助けてもらった。もし蒼炎が生きているのなら僕やミカを傷つけることなんか無いと思っている。理屈じゃないんだこれは。蒼炎の感情と会話して、心で感じたものだから。だから心配しなくて良いよ。確信している、蒼炎は僕たちを守る魔法なんだ。これからも僕とミカを守ってくれるよ」


 僕は話したい事は全部話した。蒼炎の感情を僕が信じられるのは蒼炎と感情を交わしたからだ。ミカには実感しにくいと思う。これはしょうがない。

 ミカが僕を見つめて言葉を紡ぐ。


「頭では理解したけど、残念だけど気持ちが納得していないところもあるかな。それでもアキくんが決めた事に反対するのはおかしいもんね。私はアキくんについて行くと決めたのだから。私からのお願いを聞いてくれる?」


「なにかな?」


「私を1人にしないでください。お願いします」


 そう言ってミカは泣き崩れた。

 僕は焦った。どうして良いか分からなかった。こういう経験は無いし、僕が今まで読んだ本にも書いていなかった。

 僕はミカが泣き止むまで、ミカの身体を抱きしめるだけだった。

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