第87話 従者への道【ミカの視点】
【第81話〜第86話のミカの視点】
入学式の後、従者は従者待機室にて待つ事になる。学校職員から従者の注意点を説明された。
まずは【一人前の従者になる為に】という本をもらう。
その後、従者の心構えから従者の仕事内容、主人の日常生活の手助け等の注意点が話される。
一つ一つをしっかりと頭に叩き込んでいく。
特に印象に残った言葉は【従者の恥は主人の恥】だった。
アキくんに生かされている私が、アキくんの恥になるわけにはいかない。
私はアキくんに必要とされる立派な従者になりたい。
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従者の注意点の説明が終わり廊下に出る。ちょうどアキくんの自己紹介が聞こえてきた。
アキくんの自己紹介が終わると、軽い笑い声が上がる。なかなか良い雰囲気みたいだ。
ホームルームが終わったアキくんが教室から出てくる。左側のウデにある赤い3本線は主席の証。それを見ると従者として誇らしくなる。
私は急にアキくんを揶揄いたくなる衝動に襲われた。
そっとアキくんに耳打ちする。
「アキくんの自己紹介を聞いていましたよ。やや受けでしたね。すべるより良いですが爆笑が取れるように頑張ってくださいね」
「あんな場でやや受けするだけで大したもんだと思うんだけど」
軽く頬を膨れさせながら返事をするアキくん。あぁ何と愛おしいんだ。
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帰宅後、リビングでゆっくりするアキくんに早速従者の仕事をする。
「明日の時間割りに合わせて準備をしておきましょう」
少し面倒臭そうな顔をするアキくん。
「そんなのあとからやるよ」
「主人にしっかり注意する。帰宅後すぐに明日の用意をさせる。それが従者の役割りです」
私の注意に従って部屋に行くアキくん。私も部屋で【一人前の従者になる為に】の本を読む事にしよう。
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入学式の次の日の朝、また家の周りを冒険者ギルドのパメラがうろついていた。
やはり何か画策しているのだろうか?
私の警戒心は最大限にまで上がった。
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従者待機室で待っていると、ホームルームが終わったアキくんが迎えにきてくれた。
何か嬉しい。
2人で学校の隣りにある王都魔法研究所のヴィア研究室を訪ねる。
今日からアキくんの魔法実技の授業はヴィア主任が担当だ。
ヴィア主任から初日に覚えた劣等感はまだ少し残っているが、ヴィア主任とサイドさんとは仲良くなっている。
ヴィア主任は朝が弱いようだ。今日の講師はサイドさんに変わった。
お茶を淹れてアキくんの斜め後ろに立つ。従者の基本だ。
そんな私にサイドさんは椅子に座るように促す。私は断るのは失礼と思い椅子に腰掛けた。
私が座るのを待ってサイドさんが唐突に提案をする。
「ミカさんも折角だから一緒にやらないか?」
「私は従者ですから」
「何を言ってるんだい。ミカさん、僕たちは一緒にダンジョン潜った経験のある仲間じゃないか。アキくんもそう思うだろ」
優しい笑顔のサイドさん。
「折角だからミカも一緒にやろうよ」
アキくんの言葉がダメ押しだった。私は戸惑いながらも首を縦に振った。
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サイドさんの講義は素晴らしい。分かりやすいし、面白い。従者でありながら授業を受けられる幸せを感じていた。
また私は【硬化】と【障壁】の呪文しか使えないのだが、サイドさんから結界の魔法が使えるようになるかもしれないと言われる。
結界の魔法!?
それが使えればアキくんの安全度も上がるはず。私はこの授業を真剣に取り組もうと思った。
それにしてもヴィア主任が裏で長老と呼ばれているとは……。歳の事を聞くのは禁句らしい。私のヴィア主任の警戒心が凄く下がった。
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昼食の時にアキくんから結界の魔法をそんなに覚えたかったと聞かれる。
私が防犯のために覚えたいと言うとアキくんが真剣に考えてくれた。
魔道具での防犯の強化やマジックバッグに武器を入れて携帯する事になった。
正面から襲ってくるならば斬り伏せる事ができるが、搦手でこられたらアキくんや私の経験不足が露呈しそうだ。私が頑張らないと。
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【金剛の怒り、我が身を護り敵を粉砕せよ、反動!】
私の周りに半透明な円筒状の壁ができる。サイドさんの賞賛の拍手が聞こえた。
【反動】の魔法の成功だ。
サイトさんから【結界】の呪文はハードルが高いと言われて、比較的簡単な【反動】の魔法から練習をしていた。
このままいけば【結界】の魔法も使えるようになるかな?
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休みの【無の日】にアキくんと魔道具屋に出向いた。
購入を決めたどちらの結界も王都魔法研究所が監修していると言われる。やはり王都魔法研究所はエリート集団の集まりなんだ。凄い人達に魔法を教わっているのだと感じた。
家に帰ってアキくんと防犯の魔道具を取り付け終わると王国魔法管理部部長のケーキ・ウォーターズさんと王国外交部のピーター・ウォーターズが国王陛下の招待状を持って訪ねてきた。
なんとアキくんだけでなく私も招待されてしまった。奴隷の身分でそんな事があるのか。
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次の日、ヴィア主任が興奮している。蒼炎の魔法のダンジョン外の使用が解禁されたからだ。まだ準備が整っていないとサイドさんに窘められていた。
私はダンジョン外での蒼炎の魔法を見た事がない。興味が無いといえば嘘になる。
アキくんはいったいどんな魔法を放つのだろう。
そんな事を考えながら私は金属性魔法の資料を読んでいた。
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午前中の授業が終わり食堂でお昼ご飯を食べていたらアキくんの横にシズカさんが座ってきた。
「ねぇアキさん。お願いだから私とダンジョンに行ってくれないかな? 行ってくれたら何か1つアキさんの望みをきくから」
シズカさんは上目遣いでアキくんを見ている。女の武器を使ってきたか。無駄なのに。
「その件は以前断ったはずだよ。それにシズカさんにしてもらいたい事は僕にはないよ」
シズカさんのアキくんへの執着は常軌を逸している。
「それなら私と1日デートってどう? 今度の休みの日にしましょう。そうだ! 王城に行きましょうよ! 一般に解放されているところがあるし、美術館が併設されているわ」
「別に君とデートをしたいとは思わないよ。なにが楽しくて弟の婚約者とデートしなくちゃダメなんだ」
「私がアキさんをいっぱい楽しませるから。それにガンギくんとは婚約破棄をするようにお父様にずっと頼んでいるから問題ないわ。ね、行こうよ」
「悪いけどその日は既に先約が入っているんだ。人と会う用事がある。悪いけど諦めてくれるかな」
まったく引かないシズカさん。ある意味凄いわ。
「その用事を別の日にできないの? 私からその人に頼むから」
「それはやめておいたほうが良いと思うよ」
「誰と会う予定か教えなさいよ。私が頼んだら別の日に変えてくれるに決まっているんだから」
「国王陛下だ」
「へ?」
「だから僕が次の休みに会うのはリンカイ王国の国王陛下だよ。試しに君から別の日に変えてくれるように頼んだら」
シズカさんの顔が怒りで赤くなる。
「そんな話あるわけないでしょ! 私とそんなにデートしたくないからって、意味不明な作り話をしないでよ!」
シズカさんは席を荒々しく立って食堂を出て行った。
アキくんが私に問いかける。
「ダンジョンに一緒に行きたいと言っていたのに、最後はデートに行かないことを怒っていたよね? なんなんだろ?」
私は鈍感なご主人様に安心しながら口を開いた。
「自尊心が傷つけられたんじゃないですか? 多感なお年頃ですから」