第82話 機嫌の悪い担任のシベリーさん
昨日は入学式。今日から授業が始まる。気持ちを新たに玄関の扉を出たら家の敷地の門の前に女性がいた。
歩いて近寄って行くと、冒険者ギルド職員のパメラさんだった。
パメラさんはまだ僕に気が付いていない。
「おはようございます。パメラさん。朝早くからどうしました?」
ビクっとして僕に振り返るパメラさん、少し焦った状態で口を開いた。
「おはようございます。偶然ですね」
少し挙動不審だ。
「何か僕に用ですか?」
「いえ、特に無いですよ。偶然通りかかっただけですから」
やっぱり怪しい。もう少し聞いてみるか。
「冒険者ギルドはここから遠いですし、パメラさんの家がこの近くなんですか?」
「いえ、私の家は東地区になります。えぇ、そうです、お友達の家に用事があったのでこちらに来てました。それでは失礼いたします」
パメラさんはそう言って逃げるように去っていった。
会話の途中から僕の横に来ていたミカが眉を顰めながら僕に言った。
「こんな朝早くから友達の家に用事だって。怪しすぎるわよね」
「本当に嫌な感じだね。そろそろ学校に行こうかミカ」
少し嫌な気分だったが、気にせず登校する事にした。
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学校に着いて教室に入る。自分の席に座っているとシズカが現れた。
「おはようございます。アキさん。クラスメイトだから、さん付けで呼ばせてもらうわ」
シズカはトレードマークの大きな目をくりくりさせながら僕を見ている。
「おはよう、シズカさん。さん付けで構わないよ」
僕はシズカとの会話が弾まないように余計な事を言わないようにしていた。それは許さないとばかりにシズカが会話してくる。
「アキさん、休みの日に一緒にダンジョンに行ってくれないかしら。私ダンジョンに興味があってね」
「悪いけど僕は休みの日は結構忙しいんだ。それに一応僕はBランク冒険者だ。君はダンジョン経験がない初心者。その立場で言えば僕が引率する事になる。通常、Dランク冒険者に初心者が引率をお願いするのは大変お金がかかるよ。ましてやBランク冒険者だといくらに設定すれば良いのかわからないね」
負けずにシズカが発言する。
「そこはクラスメイトだと思って助けてくれると嬉しいんだけど」
「それなら僕が良い人を紹介させていただくよ。火の魔法属性の有望なこの学校の2回生だ。2回生ならダンジョン探索経験もあるし問題ないと思うよ。何より君に好意をいだいているのだから」
僕はシズカに惚れているカイ・ファイアージ(ファイアール公爵家の分家であるファイアージ家の嫡男。小太りで脂っぽい顔で細い目と丸い鼻のイヤミっぽい奴)の顔を思い浮かべながら話した。
シズカもピンときたようで、このダンジョンの話は終わった。シズカは大人しく自分の席に座る。
僕はシズカに気になっていた事を聞く。
「担任のシベリー・ファイアードってシズカさんと関係のある人? 家名が一緒だったから。」
シズカは座ったまま身体を捻りこちらを向いた。
「お父様の妹になるわ。私たちが生まれる前に15歳で王都魔法学校に入学して、そのままここの教員になったのよ。ボムズには全然帰ってこないから私も会うのは久しぶり。シベリーさんがボムズに帰ってこないと見合いもできないって、いつもお父様がこぼしてるの。もう行き遅れになってるんだけどね。お父様が昨日入学式に来てたんだけど、家族で夜に会食したの。昨晩、お父様とシベリーさんが言い合っていたわ」
いらない情報まで入れてくるシズカだった。僕が気のない返事を返したところで担任のシベリー・ファイアードが教室に入ってきた。
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朝のホームルームが始まった。シベリーさんが鋭い声で連絡を伝える。
「今日から授業が開始になる。昨日も言ったが怠けているとBクラスにすぐ落ちるからな。午前中の魔法実技の授業は真剣にやれ! ふざけていると怪我じゃ済まなくなるからな! 夏休み明けにはダンジョン探索の授業がある! それまでに最低限のレベルにならないとダメだからな! そのレベルに達してない奴は連れて行かないからな! 分かったら魔法射撃場に移動しろ! 遅刻は許さんからな!」
そう言って担任のシベリーさんは教室を後にした。シベリーさんの担当教科は火属性クラスの魔法実技だ。
この後、クラスの皆んなはシベリーさんの授業か。ご愁傷様です。
それにしてもシベリーさんは機嫌悪そうだったな。やっぱり昨晩のお見合い関係のベルクとの言い合いが原因かな。
それにしてもファイアード家の面々はクセが凄いな。
筆頭執事の嫌味っぽいベルク。周りを気にせず自らの信念と好奇心の塊のシズカ。
そして担任のシベリーさんは気が強そうだし、イライラを15歳の生徒にぶつけていたし……。
触らぬ神に祟り無しだな。
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僕は朝のホームルームが終わると、隣りの従者室で待機していたミカと一緒に、学校の隣りにある王都魔法研究所に向かった。
そのままヴィア研究室に行く。
ノックをしても返事が無い。前に来たときもそうだったな。
気にせずドアを開けて声を出す。
「おはようございます。アキ・ファイアールです」
少し待つとヴィア研究室の研究員であるサイドさんが研究室の奥から現れた。
「あ、今日からアキくんの魔法実技の授業だったね。まだヴィア主任は寝ているから起こしてみるよ。勝手にお茶をいれて待っててね」
サイドさんはそう言って研究室の奥に行ってしまった。
3月中に数回、僕とミカとヴィア主任とサイドさんの4人で、ダンジョンでの蒼炎の研究に行っているから距離感が近くなって気楽だ。
ミカがお茶をいれてくれた。
少し待つとサイドさんが戻ってきた。
「ごめんね。今日はヴィア主任が起きなくてね。僕に今日は任せるって言ってベットから出て来なくてね。悪いんだけど今日は僕が担当するね」
僕は相変わらず朝が弱いヴィア主任なんだなと呆れた。
 





