第51話 ファイアール公爵家の大ホール
馬車に乗っても僕の胸のドキドキがおさまらない。改めてミカに対して恋している。
ファイアール公爵家に行くのが少しだけ憂鬱だったけど、そんな気持ちは吹っ飛んでしまった。
ミカは今日のパーティーが楽しみなのかニコニコしている。
馬車がファイアール公爵家の前に止まった。ミカをエスコートする。2人でパーティーの受付に向かう。周りがざわつく。これは僕が現れた事とミカの美しさの両方が原因だと思った。
周りを見ると殆どの髪色が赤色だ。髪色が水色の僕と黒髪のミカはそれだけで目立っている。
受付の担当者は知ってる顔だった。
確か分家の息子だったような。僕たちを見て顔を強張らせた。
「アキ・ファイアール様とBランク冒険者のミカ・エンジバーグ様ですね。本日はご出席いただきありがとうございます」
鷹揚に頷きパーティ会場に向かう。今日のパーティーは大規模なためホールだけでは入り切らない。庭も開放している。まずは屋敷の中のパーティーホールに入る。
ホールに入るとミカが「ハァー」っと声を上げる。ファイアール公爵家自慢のホールだ。
まず入ると頭の上にある大シャンデリア。キラキラしてまずは目を引く。全体的にシックにまとめているがアクセントとして美術品が飾られている。品がある。
悔しいことにこのホールの監修はファイアール公爵家筆頭執事のベルク・ファイアードである。芸術性のセンスと性格は一致しないのだろう。
ホールにいる多くの招待客のドレス姿も華やかさに一役かっている。
ミカはキラキラした目で周りを見ている。
パーティーはまだ始まっていないが待っている間のために軽いアルコールと飲み物が提供されている。
「ミカはアルコールとジュースのどちらを飲む?」
「まだジュースで良いわ」
「もらってくるよ」
僕は壁側に待機しているスタッフにジュースを2つもらってミカのところに帰った。
数人の男性がミカに声をかけようと狙っているようだが、ミカの水色のチョーカーを見て退散している。
僕がミカを簡単に1人にしたのには理由がある。
主人では無く奴隷に直接話しかけるのは大変失礼な行為なのだ。あくまでも奴隷は主人の物なのだから。僕を通さずに奴隷に直接話しかけるのは相当非常識な人だけだ。
まぁ僕にわざわざ話しかけてくる貴族も殆どいないだろう。
今まではいないものとして空気扱い。
今は面倒な奴という事で腫れ物扱い。
空気から腫れ物に変わって良かったのかな?
同年代の子どもからはたまに苦々しい視線を向けてくる奴もいる。
散々馬鹿にしていた僕がBランク冒険者になったことに戸惑いと妬みを感じているんだろうな。
もらったジュースで喉を潤しながらホールの反対側を見る。
シズカ・ファイアードがいた。
父親のベルク・ファイアードの姿は見えない。今日は筆頭執事として裏方で頑張っているのだろう。
カイ・ファイアージがシズカ・ファイアードに頑張って話しかけている。どうせ自分の自慢話でも話しているんだろ。報われない恋はつらいねぇ。
ホールに作られた壇上に主催のファイアール公爵家宗主であり父親のシンギ・ファイアール、そして母親のスミ・ファイアール、2歳年下の弟であるガンギ・ファイアールの3人が出てきた。
母親と弟は壇上の後ろのほうで待機している。
父親のシンギ・ファイアールが壇上の中央にきた。拡声の魔道具を使って挨拶する。
「皆さま、新年あけましておめでとう。今年も皆さまの活躍を期待しております。ファイアール公爵家としましても去年以上の飛躍の年にする覚悟でございます。皆様に知って欲しい事があります。未来の歴史家が去年は英雄が覚醒した年と、きっと言うでしょう。私たちは歴史の大転換をこの目でみれる誉れにあずかっております。未知の強力な魔法を操り、最速、最年少のBランク冒険者に昇格。そのままBランクダンジョンである水宮のダンジョン制覇。このボムズでも15年ぶりにCランクダンジョンの焦土の渦ダンジョンを複数回制覇しております。その少年はファイアール公爵家本家の長男であるアキ・ファイアール殿であります。不肖私の息子であります。現在アキ殿はファイアール公爵家からの干渉を嫌っております。それをしっかりと理解した上でアキ殿がAランク冒険者になれるようにファイアール公爵家は陰になり日向になり全力でサポートして行く所存であります。今日のパーティーにはそのアキ殿が出席していただいております。是非皆様方には自分達がサポートするべき人物との交流ができればと思います。それでは本日は楽しんで行ってください。乾杯!!」
僕はそのパーティー開始の挨拶を聞いて驚いた。あのシンギ・ファイアールの変わりよう。
【封印ダンジョンの制覇。封印守護者の悲願】か。Aランク冒険者になって知ることのできる秘密とはなんなのか?
考えごとをしていたらミカから声をかけられた。
「難しい考え事は帰ってからにしましょう。私はこのパーティーをアキくんと楽しみたいわ」
無理して声を明るくしてくれたミカの心情が有難かった。





