第48話 憧れた水色の髪色【シズカの視点】
【37話〜46話のシズカ視点】
アキはファイアール公爵家の謝罪を受けると、すぐにボムズからアクロに帰っていった。
アキは一緒にいる女性の奴隷との距離が近くなっている。
確信してしまった。きっと二人は一線を越えたんだろう。
そう思うと少し寂しくなってしまう。
そして私はアキと全く話す事ができなくなってしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから直ぐにファイアール公爵家宗主のシンギ・ファイアールの名前で、各家に通達がされる。
Bランク冒険者のアキ・ファイアールには干渉しないようにと。
ただでさえアキから直接、「僕の人生に関わるな」と言われているのに、これでは蒼炎の魔法について確認する事ができないわ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
陰鬱とした日々を過ごしていた時に、さらに陰鬱になる人が家を訪ねてきた。
カイ・ファイアージだ。
特徴的な団子っ鼻に細い目。脂っぽい顔を見ると吐き気を催してしまう。
カイはファイアール公爵家の分家であるファイアージ家の嫡男。年齢は一つ上だ。家の関係で幼い時から交流はある。
カイはいつも細い目をギラつかせて、私の胸元やお尻を凝視しているのを感じる。
寒気がするわ。
「やぁ! 元気にしていたかな子猫ちゃん!」
カイの言葉に私は顔が凍りついてしまう。どうしても素っ気無い対応になるのはしょうがない。
「何か用かしら? これから魔法の鍛錬をしないといけないから時間がないのよ」
「おぉ! それならちょうど良いじゃないか。僕が魔法の深淵を教えてあげるよ。王都の魔法学校のエリートの僕がね」
「間に合っているわ。それじゃ用が無いなら帰ってもらえるかしら?」
「今日の子猫ちゃんはご機嫌斜めかな? そういえば先程会った役立たずも機嫌が悪かったな」
役立たず!? それってもしかして!
「役立たずってアキのこと! もしかしてボムズにいるの!」
「役立たずと言えばファイアール公爵家の水色の髪色に決まっているじゃないか。魔法が使えないくせに、魔術杖を見ていたな。魔法に対して憧れがあるんだろ。可哀想というより滑稽だな」
アキがボムズにいる! それならばアキと出会う機会があるかもしれない。
私は何としても蒼炎の魔法を見てみたい。あの憧れた水色の髪色の魔法なんだろうか。私が幼い時に憧れたのは間違っていなかったと証明したい。
その後、カイがいろいろ喋っていたが、私は上の空で言葉を返すだけだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アキがボムズにいる。それならばボムズの冒険者ギルドに情報が集まるだろう。
私はボムズの情報屋を雇い、アキの情報を集めることにした。
アキは最近ボムズに拠点を移したようだ。
住んでいるところは冒険者ギルドが用意した一軒家。専属のギルド職員が生活全般を手助けしているそうだ。Bランク冒険者ってそんなに冒険者ギルドから優遇されるのか!? 冒険者なんて馬鹿にしていたが、考えを変える必要があるかもしれないわ。
驚くべき報告はこの後だった。
アキはボムズに来て1週間も経たないうちに、15年も攻略されていない焦土の渦ダンジョンを攻略してしまった。
その後も1日おきに焦土の渦ダンジョンを攻略していく。
まぐれではない。アキには実力が確かにある。
ボムズの冒険者ギルドはアキの納める魔石で活況を呈していた。
それがそのままボムズの経済活動を上向きにしている。
たった2人だけの冒険者パーティ。それがボムズの経済に与える影響が凄まじい。
私はたぶんこの時に冒険者に対する偏見を捨てた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アキと会える機会を作れず、やきもきした思いでいた私に吉報が舞い込んできた。
例年開催されているファイアール公爵家主催の新年会にアキが参加するそうだ。
これならアキと話ができるかもしれない。
私はその日を指折り数えて待ち続けた。