第40話 水宮のダンジョンのボス戦
9月の下旬早朝、水宮のダンジョン攻略を開始した。
本番は道中のスピードはあまり考え無い事にした。今までやってきたことに矛盾するかもしれないが普通に進んでいけば問題無いと感じている。
それよりも体力と集中力の持続に注意して進んだ。
4階層の終わりまではいつも通り問題なかった。これから初めての5階層だ。
5階層は4階層と変わらなかった。普通の蛟より少し色の濃いタイプ。道中の距離も問題なし。道順も一本道だった。
6階層も変わらなかった。少し拍子抜け。それでも慎重に進んだ。そして7階層に降りる。
水宮のダンジョン7階層。本当にここが最終の階層なのか? 違っていたらどうする。進むべきなのか無理してでも帰るのか? 不安になってくる。「腹を括れ!」と心の中で鼓舞をする。
右手前方からモンスターが出現。蛟だ。ただ今まで見た蛟より青色が一番濃い。動きも滑らかだ。
それでも丁寧に蒼炎を当てていく。一発で済むから助かっている。これって蒼炎がなければ無理じゃないの?
1刻ほど7階層を進んだ先に高さが5メトルくらいある扉が見えてきた。「ボス部屋だぁ」と心の中で歓喜する。ホッともしていた。扉の前でマジックバックから水筒を出し喉を潤す。ミカと目線を合わせる。2人して頷いた。
予定はミカが先にボス部屋に入り動きがあったら障壁の魔法を唱える。そのまま僕の前方で盾を構え、僕を守るようにする。
僕はいつも通り、敵が見えたら蒼炎をぶち込むだけ。蒼炎の破壊力が凄いから、僕って単純な仕事しかないよね。
「準備問題無し! さぁ行こう!」
大きな声を出してボス部屋の扉を今開ける。
扉を開けて初めに目に入ってきたのは50メトル先の大きな蛟。
ここには水路が無いようだ。
床でとぐろを巻いている。とぐろを巻いているため何メトルあるのかは分からない。全身が深い深い青色だ。今までの蛟
の色とは違い過ぎる。
ボス蛟が動き出した。
【金剛の心、我らを守護する壁となれ、障壁!】
ミカの前方に3メトル四方の淡く光る障壁が出現した。金剛系の防御魔法の障壁だ。
【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】
僕も障壁の影から蒼炎の魔法を詠唱する。
50メトル先のボス蛟に向けて蒼炎が飛んでいく。
刹那、ボス蛟の身体が流れるように動いた。
蒼炎が躱された!? いや身体中央より下側が黒焦げになっている。少しは蒼炎の有効範囲内にいたようだ。
ここで僕は2つの選択から1つを選ばないとダメになった。有効範囲の大きい【鳳凰の杖】か魔法の射出速度UPの【昇龍の杖】か。
少しの逡巡で僕は射出速度UPの【昇龍の杖】を選んだ。蛟は青色が濃くなると動きが滑らかになる。このボスは飛び抜けて青色が濃い。それならば当てやすくなる【昇龍の杖】を選んだ。
【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】
【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】
【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】
3連続で蒼炎の魔法を詠唱する。魔法の射出速度UPのせいか完全に避け切れてはいない。このまま乱れ撃ちで決めてやりたい。
このボス蛟、30メトルはある。俊敏性も今までのどのモンスターよりある。間違いなく強敵だ。
僕はもう一度ボス蛟に向かって蒼炎3連発を唱える。
その内の一発が「頭に当たる!」と思った。
当たる瞬間にボス蛟は頭を後ろに引き、自分の尾っぽで頭を守った。蒼炎の有効範囲内に頭は入らなかった。当然尻尾は白い灰になったけど。
【ガァァーー!】
唸り声をあげるボス蛟。このまま押し込みたい。蒼炎を詠唱しようとした時、ボス蛟は僕に向かって突進してきた。
まずい当たる。そう確信した。
周りがスローモーションで流れる。あ、ヤバい。
右の視界の端から何かが飛び出した。それはミカだった。
ミカはボス蛟の頭を横からシールドを叩きつけた。ボス蛟の突進の軌道がズレる。ギリギリ僕には当たらなかった。
ボス蛟とのすれ違い様、蒼炎の詠唱を唱える。
【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】
僕の前方15メトル前で蒼炎は完全にボス蛟の頭に直撃した。
全体の半分は黒焦げか灰になっている。ボス蛟は動かなくなっている。やったのか?
いつでも蒼炎を詠唱できるように体勢を整えてボス蛟の身体が消滅するのを待つ。とても時間が過ぎるのが長く感じた。
たぶん10秒ほどだったんだろう。ボス蛟の身体はダンジョンに吸い込まれていった。
横にはいつのまにかミカが立っていた。
初めての強敵だった。一歩間違えてたら死んでいたかも知れない。
何かそれも現実的に考えられない。ミカに助けてもらった。
「ミカ、ありがとう。助かったよ」
ミカは笑顔で言った。
「アキくんがやられると私はどうしようもないでしょ。ボス蛟にも勝てないし、こっから帰ることもできないのよ」
あ、そうか。確かにミカだけだと攻撃力が足りないや。改めて思った。ミカはいつもそんな恐怖の中でダンジョン探索しているんだ。ミカが死んでも僕は助かる可能性がある。僕が死んだらミカも死ぬ。そんな関係だったか。