第27話 鳳凰の杖の試し撃ちとファイアール公爵家筆頭執事
ウォータール公爵家の馬車で家まで送ってもらう。お昼はナギさんが作っていてくれた。
午後は昨日購入した【鳳凰の杖】の試し撃ちを沼の主人ダンジョンで行う予定。ワクワクが止まらない。
右手に【鳳凰の杖】を持って、鼻歌を歌いながら沼の主人ダンジョンに行く。【鳳凰の杖】は真紅の杖だ。気品と優雅さを感じさせる杖になっている。つい顔がにやけてしまう。
「アキくんって新しい武器とか好きだよね。顔がニマニマしてるよ」
「だって蒼炎がどうなるか気にならない?」
「確かにそれは気になるわね。相手との距離は長めに取ってね」
通い慣れた道を歩き沼の主人ダンジョンの入り口に着いた。
さぁ行こう!
ダンジョンに入ると右前方の25メトル先の沼が盛り上がってきた。今日は杖の性能を試すためだから泥のゴーレムが道の上に上がってくる前に魔法を撃つ。
【鳳凰の杖】を右手に構え、蒼炎の詠唱を始める。
【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】
詠唱の途中から鳳凰の杖の先から蒼い炎が回転しながら大きくなっていく。また音がゴォーってなってる。呪文を唱え終わる直前は通常より1.5倍ほどの直径30セチルくらいになっていた。
魔法の速度は特に変わらない。真っ直ぐ標的である泥のゴーレムに当たった。見た感じ有効範囲は半径5メトル、直径にして10メトルくらいだった。
素晴らしい威力だ。通常より有効距離が1.7倍くらいになっている。これで大型の魔物にも対抗できそうだ。
せっかくなので一回だけキャリーをして4体を密集させる。
【鳳凰の杖】から撃ち出された蒼炎1発で4体を討伐できた。実験は満足のいく結果となった。
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ここ2〜3日はゆっくりしている。朝に剣術の訓練と軽いジョギングくらいだ。
ウォータール公爵家からファイアール公爵家に連絡したと聞いたので、ほっとけばファイアール公爵家の家の者が来るだろうと思っている。
日向ぼっこをしていると来客があった。ついに来たかなと思いリビングに行く。
訪問者は良く知ってる人物だった。
細身の男性。確か40歳になったあたりかな。
真紅の髪を清潔に整えて厳しい目付きでこちらを睨んでいる。いつも眉間の皺が跡になるほどしかめ面だ。今まで笑った顔を見た事がない。
リンカイ王国のファイアール公爵家筆頭執事のベルク・ファイアードである。
ファイアード家はファイアール家の分家ではあるがベルクは火の適性が高く髪色は真紅である。
その高い能力を買われてファイアール公爵家筆頭執事を13年ほど続けている。
僕が物心ついた時には既に今の筆頭執事をしていた。
ベルクと云えば筆頭執事。
筆頭執事と云えばベルク。
それが僕の認識だ。
ベルクは侮蔑の視線をこちらに向けて口を開く。
「アキ様帰りますよ。役立たずがどれだけ面倒をかけるんです。あなたは本当にファイアール公爵家の恥さらしですね」
それを聞いていたミカとナギさんは呆然とベルクを見ていた。あまりの言い草に頭がついてきていないようだった。
僕はニヤリと口元を上げ、勝ち誇った声で返事をする。
「久しぶりですね。ベルクさん。しばらく会わない内に遂に頭の中にウジが湧いたようですね。そんな事だから見当外れの言葉を吐いてしまうんですよ」
ベルクの眉がピクリと動いた。
「アキ様はたかだか2ヶ月くらいの家出で大人になったと勘違いしてしまわれたようですね。クズでも思春期はあるんですね。子供の間違いを正すのが大人の役割です。言う事を聞いてください」
「やっぱりベルクさんは頭がイカれたようだ。あ、初めからイカれていたのかな。まずは目上の人に対する言葉を覚えたほうが良いですよ」
「あなたを目上だと思ったことは一度もありませんよ。あなたが私より上なのは本家の生まれという事だけです。そんなどうしようもない水色の髪で、良く私のような高貴な真紅の髪の人間を悪く言えるもんです。身の程を理解しなさい」
「ベルクさんがどう思おうと関係ありません。僕はあくまでも客観的な話をしているんですよ」
そう言うと僕は黄金製のギルドカードを取り出した。
「なっ!」
驚愕の顔したベルクの顔を見て僕はニヤリと笑みを浮かべた。
「頭にウジが湧いてるあなたでもこれが何かわかるでしょ。あなたはファイアール公爵家の代理としてここに来ている。その人が冒険者ギルドのBランク冒険者に暴言を吐いているんですよ。ファイアール公爵家は冒険者ギルドにケンカを売ってるんですか? 僕にファイアール公爵家まで来て欲しいなら、まずは今までの暴言を謝罪して、こちらの都合を斟酌して丁寧にお願いしないとね」
ベルクは驚愕の顔から怒りの表情に変わり、怒りのせいか握った拳が震えている。
「まぁあなた程度の力量じゃ土台無理な話なのは分かっています。僕は時間の無駄が嫌いでね。大人しく帰ってこう伝えなさい」
僕は高らかと勝利宣言を告げる。
「Bランク冒険者のアキ・ファイアールに対して失礼な発言をして怒りを買ってしまった。ファイアール家まで来ていただく事ができませんでした。すいませんでした。以上です。それをファイアール公爵家宗主に伝えなさい。わかりましたか?」
ベルクは俯いていた。まだ拳が震えている。
「それでは早くお帰りになってください。ウチはこれから昼食なんですよ。頭が悪い人の相手はもうたくさんです」
ベルクはこちらに目を合わせることもなく、荒々しく玄関の扉を開けて出ていった。
僕とベルクの会話を聞いていたミカとナギさんは固まっていた。驚いたのかな?
弾けるようにミカが喋りだした。
「あんなアキくん初めてみたわ」
「びっくりした? 少し感情的だったかもね」
「いやブラックなアキくんも素敵だったわ」
「Bランク冒険者になっていて本当に良かったよ。これもミカとナギさんのおかげだね。ありがとう」
「アキくんの力でしょ。私とナギはそれのお手伝いをさせてもらったくらいだよ」
ミカとナギさんが僕に笑顔を向けてくれる。本当に家族みたいだ。
嬉しくてちょっと涙ぐんだら2人が慰めてくれた。